第29話 学生らしい遊び
「楓、どうするって?」
「一緒に行くってさ」
「よし、じゃあ行こう」
声をかけると、悠と淳史はやおらソファーから腰をあげ、身支度を整える。
「でも、四人で出かけて大丈夫なんですか?目立ちません?」
心配する楓に返すように淳史は答える。
「それなりに目立つけど、ボーリング以外は一応個室で対応するから……いけるっしょ!」
悠はマネージャーにその場で連絡して、でかけるので夜には戻ると伝えた。
簡単な変装こそしているものの、みる人が見れば丸わかりだ。なにせ、漂う雰囲気というべきか、独特のオーラがある。それが全員揃っていれば、尚更だ。
こんな目立つ人たちと歩いて大丈夫だろうか、と思いつつも楓たちは街へと繰り出した。
「ひとまずはカラオケから?」
「俺は歌いたくない。昨日さんざん歌ったから、もういいや」
「よっし! とりあえずカラオケとボーリングしてから考えようぜ!」
「ぜんぜん話きいてないじゃん……」
「楓の歓迎会を兼ねてるんだから、仕方ないでしょ。ほら、ちょっと遅れてる」
蒼汰に腕を掴まれ、楓は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ鼓動が跳ねる。
その要因がわからず、誰にも気づかれぬよう首を振り、蒼汰の横に並んで歩いた。
カラオケも、ゲームセンターもはじめてだ。
ガチャガチャもためしたが、操作方法もなにもわからず、すべてが新鮮に思える。美味しいと聞き、レストランにも入った。手元の紙をみやると、ミニゲームがあった。
「ええ、この間違いさがし、最後の一個がみつからないんだけど……」
「それはまさに無理ゲーだから、やめとけ」
「そうなんですか? 悠さんが無理っていうほどに?」
楓の言葉に、「どういう意味だ?」と悠は返した。一同爆笑し、楓はアワアワと慌てた。
「そうそう、悠が諦めるほどね。楓っち、それでもガチで難しいから。もうネットで答えをみちゃおうぜ?」
「……待って。絶対、どこかにあるはずだから、最後まで諦めずに探そうよ」
諦めたくない蒼汰をなだめながら必死で探すこと三十分を費やす。
見つけた時の爽快感、いや達成感は半端なかった。
「これが青春なのかな?」とつぶやき尋ね、蒼汰は「あんまり考えたことはないけど、そうなのかもね」と小さく返す。
そして、はためくクレープののぼりに目をとられる。
「クレープ、いいね」
「食べる?」
「……うん、でも」
「でも?」
「さっきから食べたいものはあるんだけど、買い方が、わからなくて……」
「さすがはお嬢様」
仕方ないでしょう、といいながら不満をこぼすが、クレープを渡されて笑顔へ変わる。 恥ずかしながら、買い食いなどしたことはない。ながら食いというものは、かくもこんなに楽しいものであったのかと心が躍る。
慌ただしく過ぎる時間。
淳史にレモネードを渡され、今度は悠にアイスを渡される。
「嬉しいけど、こんなには……。ちょっと食べすぎじゃ?」
「いや、お前……痩せすぎじゃない? 前に背負った時軽かったぞ」
「あと筋肉ないし、鍛えろよ」
二人にそういわれ、心の中でだけ悲鳴を上げる。
「すいませんでした、どうか忘れてください」
土下座をしたいほど恥ずかしくなり、頬を冷ますようにアイスを頬張る。
そうこういっているうちに、悠たちはきゃあきゃあと騒がれながら周りにいる女子大生たちから声をかけられていた。こうしてみると、それぞれ三者三様の魅力を持っている。
そのままボーリングからのストライクハイタッチ、カフェで休憩……。
夢みたいな時間だ、と嬉しく感じる。
すると、とんとんと誰かに肩を叩かれた。
「あの、よかったら……」
そういわれ振り返り、一人の女性からこっそりと受け取ったのは一枚のメモだ。 メモはしっかりテープでとめられていたので、剥がす間に女性は去っていった。
なんだろう、と思い開いてみてみると。
『新メンバーなんていらなかったわ、やめてちょうだい』
書きなぐるような文字が現れた。
「――!」
困惑する楓の横から、淳史が後ろから肩を抱く。
そして一瞬で冷えた心を、見透かされたように顔をのぞかれる。
「アンチ?あるある。俺でもあるさ、いちいち気にすんなって」
「――でも」
気に入らない、というのは理解できる。後ろめたいことが多い中で、これに関しては本当に申し訳ない気持ちにもなる。黙って、楓はメモを見つめ、そっと畳んだ。
「そういうやつは何いったって、どうやったって、結局は気に食わないんだよ」
「ん……」
淳史のことも一理あるが、反応は薄い。
心の片隅でその日、心から離れることはなかった。




