第28話 父からの手紙と疲労感
コンサートが終わった翌日。
楓のもとに、上質な和紙で届いた手紙は、 ご丁寧にシーリングスタンプで封蠟されていた。見る人が見なければわからないが、西園寺家の独自家紋で楓は誰にも見られぬよう、封を切って中の手紙を読む。
『事情はわかった、願いはひとまず叶えよう。あれについては打ち切った。帰るのを信じて待つが時期がきたら迎えに行く。問題があっても連れ戻す。そちらで何か問題があったら即刻戻れ。いつでもかまわない。父』
念には念を、だろうか万が一誰かに読まれてもわからぬよう、手短に書かれた文章。蒼汰のいう通り、あの時気づいていたし、それでもなお見逃してくれたのだ。手紙を見つめ、ありがたさが身に染みる。
「なるほど」
「うわあ!」
突然の後ろからの声に驚き叫ぶと、いつの間にいたのだろうか――蒼汰はいぶかし気な表情をした。
「部屋のノックはしたし、何度も声もかけたよ? 読むのに夢中になってたよね。というか――」
頭を、髪を掴むように、わしゃわしゃとかき乱してくる。
「何度か警告してるけど、君……ちょっと不用心すぎない? ひとまずは安全そうだからって、君は女の子でしょ。部屋の鍵くらい、さすがにかけなよ」
「う、家に常にお手伝いさんがいたから……鍵をかける習慣がなくて……」
「へえ? じゃあ今度からノックもなしで勝手に入るね? その時君が何をしていようが――それこそ、着替えていようが文句をいわれる筋合いはないよね」
想像してしまい、楓はかあっと赤くなった。
「……ダメ。えっと、その……気を付ける」
「本当にシャレにならないからね? 本当に大丈夫かな、オートロックに変えとく……のもダメだろうね、部屋の鍵を忘れて騒ぎそうだ」
「……うう、確かに。でも蒼汰、いつも気にかけてくれるね、ほんとありがとう」
「どういたしまして、ってどうして突然」
「昨日の件も、お礼をいってなかったね。改めて助けてくれて本当に……ありがとう。おかげでお父様も説得もできたし」
「……いいよ、別に何度もいわなくても」
ふっと目を細めると、また楓の頭をわしゃわしゃと撫でた。その様子に、少しだけ胸が熱くなる。じっと見上げていると、どうしたのかと不思議そうに楓を見返してきたので、慌てて目線を逸らした。
「そ、それでどうして……ここに? 何か、用事があったんじゃないの?」
「そう、今から悠や淳史も誘って出かけるけど、一緒にいく?」
「え?どこに?」
「どこでもいいよ、カラオケ、ボーリング、ゲームセンター、カフェ……好きなとこ」
「……!」
「ずっと、そういうところに、行きたかったんだろ? 今日はその日」
颯汰は楓のいつかの話を覚えていた。
ずっと、学生らしい、子供らしい思い出が欲しかったということを。
「うん、行く! ボーリングとカラオケやってみたい!」
こぼれるような笑顔を向け、颯汰の手を取ると、楓はリビングへと向かった。
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