第22話 危険な賭け引き
「では、お父様。私と賭けをしませんか?」
『賭け?』
「私が勝ったら、私のお願いをきいてください。少しの時間を自由に。でもお父様が勝ったら――私はすぐにでも、家に帰りますから」
その提案に、目で確認できるほど顕著に楽しそうな表情を浮かべた。
『どんな賭けだ? いってみろ』
――予想通り、興味を示した。
楓は蒼汰との会話を思い返す。
――お父様は、商談で西園寺家を一代で大財閥に仕立て上げた人間です。
そう、商談ならぬ賭け事はとても好きなのです。ですから、私がそういった話を持ち出せば、食いついてくる可能性が高いと思います。
――つまり、”自分”を賭ければあっちは乗ってくるってこと?
楓は心の中で笑った。そう、そうなのだ。
これまでのように全否定ではなく、興味を示したことが何より大きい。そして楓はテレビ電話越しの父親の瞳をしっかりと見て、話し始める。
「今夜、ここでコンサートが行われます。そのコンサートが終わるまでに、この会場内に潜む私をさがしてください。捕まったら、私の負け。無事にコンサートが終わったら、私の勝ちです」
『――――』
「警備員を使っていただいても構いません。お父様本人が探しても、構いませんし」
挑発的に笑う。
こうすれば、負けじと乗ってくる可能性がさらに高まる。だが、父親は慎重にその提案に対してしばし考えているようだ。流石に二つ返事で賭けに乗るわけでないようだ。
――お願いだから早く、早く決断してほしい。時間がないのだ。楓は祈る様に画面を見つめる。やがて父親は目を開け、画面越しの楓を試すように問うた。
『お前がすぐに会場内をでない、という確約はないな? 探しても無駄なところを探させるといったことは、賭けとしてアンフェアだが』
「ありません。そんなことはいたしません。それに関しては信じてください、というしかありませんが」
『――では、次に。賭けが終了する条件は?』
「期限であるコンサートはすべての演奏が終わるまでと、します。そして、コンサートが終わらないよう演奏を延々続けさせたり、そもそも中止にした時点で、賭けは私の勝ち扱いにしてほしいです。お父様なら、そのくらいやりかねませんので」
『面白い、買い取ってコンサートを延々と、か。そんなアンフェアな真似はするわけが――……、とはいえんかったな。確かに、その条件なら、呑んでもいいだろう。条件と賭けに乗ってやろう』
「では、いますぐに――」
『こういったゲームを提案してくるとはな。成長したな、楓』
妙に嬉しそうな声に思える、互いに同時に通話を切り、楓は素早く辺りを見渡す。
――お父様は仕事が早い。
きっと今の通話をしている最中に、もうすでにコンサート会場に指示や連絡をいれているだろう。つまり、それは一刻の時間の猶予もないことを示している。
楓は、逃げるためにその場から走り出した。




