表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/52

第17話 VS淳史レッスン

 四人で音合わせした三日目の夜が終わろうとしている。

満身創痍かつ疲労困憊な表情を浮かべた楓は、シャワーを終えて鏡に映る自分を見た。少しだけ、以前とは異なる表情を浮かべている気がする。


(毎日毎日、ずっと練習ばかり……って仕方ないけど……)


 流れに身を任せることから選択する方向へ、努力することを優先に考えて――、逃げる前の自分とは少しだけ変化している気がする。体力的に疲れてはいるが心なしか、表情は前よりかは晴れている。なにより、周りに固められ縛り付けられている苦痛はない。

 

  時刻を見ると23時。

これからすぐに寝るにはちょうどいいころ合いだろうか。楓はそう考えると、パジャマに袖を通していると、コンコン、とドアのノックが響く。

 

 扉を開けた先には、淳史がいた。

  

「と、いうことでレッスンしない?」

「――と、いうことでって? 唐突になんですか」


 ドアを開けるやいなや、いわれた言葉に困惑する。


「まだ23時、ってことは寝るにはまだ早い! 楓っちはとにかく当日までにレッスンを積まなきゃダメだろ? つまり――」


「え、レッスン? って――ダンスはもうしませんよね? 淳史さん、話を強引に進めましたね……」

「そうそう」


 淳史は楓の肩をポン、と叩き軽く応える。


「こんな時間から?」

「いや、夜はまだ始まったばかりだし。ピアノのレッスンしたいだろ? 付き合ってやろうかと」


 時計を改めてみて、しばし考えた。

眠たくないか、寂しいのかはわかりかねた。

レッスンはした方がいいだろう、と思う。だがしかし――……

 

 「こんなやり取り、前もしませんでしたっけ?」

 「デジャヴだろ」


 折れそうにない。


 「……わかりましたよ。レッスンしましょうか、ええと、ピアノなんですよね?」

 

 こうなればヤケだ。

 やるところまでやってやると楓は意気込む。

 絶対に徹夜はするなと蒼汰のお小言が脳裏をよぎるが、記憶の奥底に沈めた。

 パジャマのままではと躊躇したが、そこは気にしないでと強引に連れ出される。


 サラシ無しの胸に気づかれぬよう、大ぶりのタオルケットをもう1枚羽織ることにした。


 楓は淳史とともに防音室へと入っていき、譜面を広げ、CDを使いベースを鳴らす淳史と共に曲を進めていく。連日のスパルタ練習により、だいぶ慣れてきたようで曲の滑り出しは順調だ。

 

 「いいねいいね」

 淳史は曲を流しながら笑顔でベースを奏でている。

 軽やかな曲と軽快な淳史のキャラクターにぴったりの曲だ。


 どうにか終えると、淳史は楓に向かって、片手を差し出した。

 「なんです?」

 「ハイタッチ」

 

 いわれ、なるほどと片手を前に突き出す。

 淳史が手を振り、楓の手に合わさるとパンッ、といい音が響き、腕に振動が伝わる。

 

 「……」

 

 その感触に、楓はじっと手を見つめて動かなかった。

 「どした?楓っち?」

 「これ……なんか、なんだか青春っぽいです!」

 楓は歓喜の声をあげ、淳史の方を向いた。

 

 「青春っぽい?あー、そういうこと?そういうのが凄く好きな感じ?それなら」

 

 淳史は笑顔を向け、こぶしを突き出してくる。

 楓も真似するように、こぶしを突き出した。

 

 「ほら、こうやって、小突きあうとさ」

 「相棒っぽくて、それはそれでいいだろう?」

 「……さ、最高じゃないですかー!?」

 「嘘!こんなんで!?なんかめちゃくちゃ喜んでくれた!?」


 頬を赤くしてニヤニヤと楽しそうに笑う楓を見て、淳史もつられて嬉しそうに笑う。

 「淳史さん!こういうのって他にも、他にもあるんですか!?」

 「あるある、肘タッチもある」

 「やりましょうよ!」

 「マジで!?そこ、乗り気なんだ!?」


 肘タッチをし、もう一回、こぶし合わせ(フィスト・バンプ)と――握手を続けざまにやってみる。


 「なんか可愛いな、楓って。ほんと弟みたいな」

 

 ふっと目を細め、淳史はいつになく優しく笑う。

 そして度々楽しくキーボードを弾き、会話しながら練習を進めていく。

 

ちらりと時計を確認すると、もう朝方となっていた。

  

 「……夢中になっちゃいましたね?なんだかとっても、楽しかったです。ありがとうございます」

「いいぜいいぜ、楓っち、俺も楽しかったし。明日? いや今日もあるからさ、もう寝ようぜ」


 そういって、淳史は再びこぶしを突き出した。

 コツン、と小さな音を鳴らし、互いに笑顔で各自の部屋へと戻っていく。

 

 淳史のおかげで、今日の練習は想像以上に楽しくなったと感じ、やがて楓はようやくベッドに入ると、一瞬で深い眠りへと入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ