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世界を渡る魔法 Re:REMAKE  作者: 夕凛
第一章  朱鷺が摘んだ花
9/10

月光と魔王

なんやゴチャゴチャしてしまって、よくわからない、分かりにくいかも知れないです。

その場合は、適宜ご質問をお願いします。

私としましても、皆様にこの小説を楽しく読んで欲しいので、どう考えても私(作者)の脳内で完結してるだろって事は、感想にでもなんでも書いていただけると、改善することが出来ます。(もちろん、定期的に読み返してはいます)

宜しくお願いします。


By 作者


 ガツン、と。顔に衝撃が走る。目の前に景色が広がるよりも先に顎に蹴りを受けていた。


「おい、どこから涌いて出やがった」


「・・・・・・」


 どうやら辺りは暗いようだが、まだ何の状況も把握出来ていない。思考が停止している間に質問をされ、答えられないままに胸ぐらを捕まれる。


「人間だな、お前は。その服装はなんだ。ローブか?お前ら人間が?」


「人なら、ローブくらい着るものでしょう。それよりも、いきなり人を蹴飛ばしておいて、挙げ句その態度とは、あなたの方が余程人らしくもない」


「それは誉め言葉だ。私は人ではない。あんな愚族と一緒にしないで頂きたい」


 動かなければ長い髪に隠れているが、先ほど胸ぐらを掴んだ時に目の前の高圧的な女の、人より長い耳が見えた。


「エルフか、魔族か」


「私か?後者だったらどうする」


「誤解を説くまでさ」


「・・・・・・・・・・」


 女は僕を見て一瞬眉をひそめてから僕を放り投げ、その場で長く考えて込み始めた。

 途端、こちらに見向きもしなくなった。凄い集中力だ。

 毎度、異世界に行く度にどこから来たのかと警戒される。ここから相手を説得するのが、いつもいつも骨が折れるのだ。

 「異世界へ渡る魔法(エイネ・ウェルト)」のお陰か、言語の壁はないからそれだけは助かっている。


「お前、魔法が使えるな。どこの出身だ」


「日本という極東の島国だ」


「聞いたことがない。人の世の事も、地理程度なら粗方把握していたつもりだったが」


「ここの世界には初めて来た。だから、こちらの世界に日本という地名は恐らくないだろうね」


「何やらややこしいな」


 こちらの素性を明かすと、一言ボソッと呟いて転がっている木の枝を持ってこちらの世界について説明をし始めた。


「私たちが今ここにいるのは、魔族の住む世界。そしてもう一つ、鏡写しの様に人間の住む世界が存在する。両者は地続きになってはいるが、太古の昔に神が施したとされる果ての大鏡(おおかがみ)によって、これら二つの世界は分け隔てられている」


 なるほど確かにややこしい。僕がやってきた世界には、その内に二つの世界を秘めていたという事になる。僕視点、異世界という名の卵を割ったらその中に二つの黄身があったという訳だ。


「もう一度聞くが、()()()()()()()()から此方に来たのではないのだな?」 


「あぁ、間違いない。僕の世界にも確かに魔族は存在したが、住んでいたのは切り離された陸の孤島だった」


「そいつは同族として聞き捨てならない話だが、弱い故に淘汰された結果なのだろう」


「というよりは、人間の方が賢しい生き物だったというだけの話なのだけどね」


 そう。人は賢しい生き物だ。他の種族に比べて弱く脆い身体。短い生。人が生き抜くには知恵が必要だ。

 僕の故郷ではその昔。まだ、魔法使いがその地に沢山の足跡をつけていた時代。そしてそれらが当たり前の時代、人は人と争うことはなかった。

 魔族という天敵がいたからだ。魔族は人の血肉を喰らう。そんな魔族から人々はどのようにして生き残ったのか。

 魔法使いハーデルトの手記によれば、魔族が人に負けるようになった、人類が魔族に抵抗できるようになったのは、「魔術」という人類が魔力を扱う術を新たに手に入れたからだと語られている。

 人間は魔族よりも脆弱な肉体で、その身に宿す魔力量も並外れて少ない。そんな人間が魔法というものを扱うには、魔族との戦闘に措いてあまりにも分が悪かった。

 そこで人類が開発したのが、魔術という物だ。平和になった今でこそ、魔術は魔法よりも扱いやすく威力も弱い、魔術師における言わば基礎的な立ち位置にいるのだが、こと魔族との争いが絶えなかった時には、人々を守り続けてきた存在である。

 魔法は、魔力という魔力を自分の想像のままに操るものだ。それは、物質的にも概念的にも作用する。

 対して魔術は自然にあるもの、火や水、氷、電気、大地の力、風。この世界に自然に作用するありとあらゆる力に魔力を通して(わざ)とする。

 人類の体系の中に魔術が組み込まれてから、彼らは失った土地を次々と取り戻していった。遂には魔族の王を滅ぼし、その城を人の住む陸地と隔絶した。


「そうか。そちらの世界がどうであったにしろ、此方には此方の成り立ちがある。お前が人の身であるが故に奴らと同じく我々魔族を憎み、滅ぼそうと言うのならそれも構わない。その時は向こうまで連れていってやろう」


「その心配はない。僕は基本的に、旅の中で最初に出会った物と行動を共にすると決めているからね。余程の悪人でもなければ、そのまま着いて行くよ」


「訳あって、今はこんなボロ小屋に住んでいるが、私は魔王だ。それでも着いてくるか?」


「構わない」

 

 このボロ小屋に来てから、なんとなく感じとって察してはいた。この建物の有り様と彼女の所作の相違には初めから違和感があったからだ。

 過程だけは分からなかったが、想像の余地はあった。ゆえに、特段驚きはしなかった。


「そうか。なら、一つ頼みがある」


 そういうと、彼女は禅を組んだ。


「私と、対話をしよう。お互いを知る為に」


 そう言われたなら、乗るしかない。

 僕は自分の世界の魔王を見たことがない。魔族でさえも。だから少し興味がある。「魔族」という生き物に。自分の世界の魔族と、こちらの世界の魔族。たとえ身体の造りの根本から違ったとしても、見たことのない生き物に興味を惹かれるのは当然だ。


「私の前に座れ、私と同じように。そして体内の魔力を全て出すんだ。お互いの有する魔力同士が有りのままの形でぶつかることで、その者の有り様が分かると言うものだ」


 言われた通り、黙ってその場に座って禅を組む。深呼吸。深く息を吸って、体内の魔力を全て外へ放出する。

 二人の魔力がお互いにぶつかり合い、ボロ小屋が悲鳴を上げた。互いの魔力は衝突し、その反動で互いの人と柄を推し量る。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ボロ小屋がさらにひびをつけ倒壊寸前になった頃、彼女はゆっくりと目を見開き魔力を鎮めた。

 と同時に、自分もそれを感じとってあとに続く。


「お前、いい性格しているじゃないか」


「それはどうも」


「お前は素直すぎて寧ろ気持ちのいい奴だ」


「人からはよく、ひねくれていると言われるけどね」


 彼女はふっと笑って返した。


「自己紹介がまだだったな。私はレイシア・アレイネス。当代の魔王だ」


「僕は雪月(ゆづき)ユリ。自分の世界にいる時はこう名乗っているけど、これだと勝手が悪い事が多くてね。世界を渡ったらユーリと名乗るようにしている。だから、僕の事はユーリと読んでくれ」


 今回みたくどうしようも無い時以外は、異世界人という事を最後まで隠し通す事もある。

 それくらい、このステータスは面倒なものだ。此方に敵意はなくとも、相手は勝手に敵意を想像してしまうからね。


「わかった。だが、お前の本名で気になったのはユリではなく雪月の方なんだが、それは大丈夫なのか?」


「ああ、名字かい?それなら、アンブローズとつけている。ユーリ・アンブローズ。それがこっちでの僕の名前になるかな」


「わかった。いつまでこっちにいるのかは知らないが、よろしく頼むよユーリ」


 そう言うと、小屋の端に置かれた椅子に腰を掛けて、改めてようこそと僕を歓迎した。


「お前は旅をするのが好きなようだから、こっちの世界を旅から旅へ歩くのだろう。良ければ私も同行させて欲しい」


「構わないよ。なんなら、そっちに何か目的があるなら手伝いたいくらいだ」


「それは・・・。私はいいが、お前にとってあまり気持ちのいいものじゃないと思うぞ」


「人殺しか」


「そうだ」


 断言した。


「お前からしたら同族殺しになる行為だ。私は奴らを心底憎んでいるが、お前は違うだろう。私に付き合うと、その憎しみを共有することになってしまう。それは私にとっても気持ちの良いものじゃないからな。それでも付き合うと言うのなら、私は構わない」


 どのみち、日本に帰れば魔術師は皆軍人になる。

 軍人になれば、人を殺める事を躊躇うことは許されない。

 しかし、その過程で我々は人を殺すことに慣れるなと教わる。

 この矛盾したような事柄が、時折軍人を乱心させる。だから生徒たちは皆、一貫性のない主張をする教師を「戦場から逃げた孤独なゴブリン(臆病者)」と揶揄した。


「あなたは、魔族を殺した事があるかい」


「ある意味では、ある。だが、お前の質問の真意とは違う事柄だろうからな。それを汲み取って言うのなら無い事になる」


「そうか」


 少し間を置いた。


「僕は、人を殺すことに慣れるなと教わった事がある」


「ということは、お前は元の世界では処刑人か何かなのか」


「いや、軍人見習いといった所だろうね」


「ほう。お前にその言葉を説いたものは、私よりも冷酷なのだな」


「冷酷?」


「ふむ。冷酷というのがしっくり来ないのなら、臆病者か、偽善者か。またはその両方か、というのはどうだろう」


 彼女は、その者が人に人殺しをさせる事に対して少なからずの罪悪感があるのだろうと言った。

 臆病者というのは人を戦地に送り込む事が怖かったという事から。

 偽善者というのも、一見は生徒に人を殺すことに慣れて欲しくないという意図に感じ取れるが、それなら軍人になどなるなと言ってしまう方が早い。本当の善人ならばそうするだろうと。それが出来ないのは立場ゆえか、上からの圧力かは知らないが何があるにせよそうするべきなのにしないという言うのなら偽善者になるのではないか、と言った。


「あくまでも、私ならこうしたという話に過ぎない。私にとって人間とは、想像にあまる生き物らしいからな」


「こちらの人間は、あなたが解するに苦しむような存在なのか」


「そうだな。あの鋼鉄で出来た心とそれが折り成す身体は、私の理解する事の出来ない神の創造物(人の子)だ」


「是非、この目で見てみたいものだ」


「ふふ。お前の興味心がうずくのは、魔術師という者ゆえか。はたまた人間という種族ゆえか。面白いな」


 そう言うと、迷いは晴れたと言わんばかりに手を差し出した。


「当然、取るのだろう?この手を」


「もちろんだ。少し話を脱線させたが、もとより意思は固まっているさ」


「なら行こうか。お前の趣味に付き合う事と、私の凱旋への旅路を」


 再び玉座にもどる。彼女はそう言った。今がその時だと。その前に、アレイネスの今を知る旅をするのだそうだ。


「私がお前と旅をする目的は、そこだ」


「わかった。お互いに、実りある旅路にしよう」


 互いの手を汲み取り、目を見つめる。

 アレイネスの夜は短い。

 僕らはボロ小屋に持ち主への書き置きを残して、その長いようで短い旅の一歩を踏み出したのであった。

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