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sideマリア2

なんだか、夢を見ているような1日だった。

あたしは、物語の主人公のようだった。

両親とは血の繋がりがない可哀想な身の上。

ショックを受けて泣いていると、魔女みたいな人に出会い、王子様の相手にしてあげると夢のようなことを言われる。

だけど、意地悪フレッドに手を引かれて、夢から覚めて、現実のおうちに帰ってきた。


ふふ。

いろんなことがありすぎて、目がさえて眠れない。

笑えるくらい、非日常だわ。



王子様っていえば、そういえば、呪われてるって言われてなかったっけ?

結婚できない呪いだっけ?


え?そんな人の相手ってなんなのよ。


いっくら、キラキラした髪のキリリとした青い目の格好いい高貴な人だって、そんなの嫌よね。


それなら、絶対イヤだけど、意地悪フレッドの方がマシ。


絶対イヤだけど。


でも、どうしてもって、お願いしてきたら考えてあげてもいいかもね。


あたしが困っている時、必ず迎えに来てくれるって、言うのなら。


フレッドのがいいかもね。


そんな結論に満足して、だんだん眠気がおりてくる。


あの夜は、なんて、幸せな夜だったのだろう。



翌日、うちのパン屋は閑古鳥が鳴いていた。

なんでも、一本通りの違うところにパン屋がオープンしたらしい。


近くにオープンしたし、オープン記念で安いらしく、それは仕方が無いと、両親も言っていた。


けれども、数日しても、うちのパン屋は閑古鳥が鳴いていた。


「なんでも、隣国にパンの修行をしてきたらしい」

「値段も手頃で種類も豊富」

「毎日でも食べたいパン」


新しいパン屋は、大繁盛していた。


両親は来る日も来る日もパンを焼いた。


けれども客は戻って来なかった。


日に日にやつれる親を見て心が苦しくなる。


「パン屋をたたまないといけないかもな」

お父さんがぽつりと言った。

「お金が、限界ね」

お母さんもため息を吐いた。


お金。

それが無いと困るんだ。

この大事なパン屋が無くなってしまうんだ。


その時、ふっと、魔女の顔が浮かんだ。


最近王子様は婚約者を決めたらしい。

もちろん、あたしでは無いけれど。


それでも、あの女の人は、あたしが王子の相手だと告げた。


あたしが、王子の相手ならば、お金なんて気にしなくていいんじゃないの?


このパン屋だって、手放さなくてもいいんじゃないの?


血の繋がらないあたしを愛情もって育ててくれた両親に恩返しが出来るんじゃないの?


「お願い。焼き立てのパンがいるの。パン屋をたたむ前に、とびっきり美味しいコーンパンを作って!」


あたしは、熱々の焼き立てパンを紙袋に詰めてもらい、それを抱えて、丘の上の大きな木のところへと走った。


「ねぇ!とってもとっても美味しいパンよ!約束通り持ってきたわよ!」


あれから、何日も何日も経ってしまっていた。


居る訳無いと思いながらも、希望を捨てられなかった。


「遅くなってごめんなさい!早く来てくれないと熱々焼き立てじゃなくなっちゃうわ!」


紙袋を開いて、湯気と共に香ばしい小麦の香りが漂う。


「あぁ、確かにおいしそうだね。1つもらうよ」

唐突に耳元で声がした。


「1つじゃなくて、全部あげる!だから、今すぐあたしを王子様の相手にして!」


「今すぐは難しいね」

薄笑いを浮かべて、彼女は言う。


「でも、今すぐじゃないと、うちのパン屋がっ」

あたしが泣きながら事情を話すと、「なんだ、そんなことで泣いてるのかい。これからお前に教える魔法の呪文で、解決さ」と嗤う。


「月の明かり間に間に眠る夜の貝、揺れて波打つ花盛りシュシュ・ミラン・リクラスル」


持っていたコーンパンにそう囁いて、あたしに返してくる。


「食べてごらん」

呪文を唱えた時、彼女の瞳が淡く光って見えた。


震える手で差し出されたパンを掴む。


「食べてごらん」


言われるままに口にする。


何故だろう。一口食べた途端に、彼女に対する嫌悪が消えた。


震えていた手が、とまる。


嫌悪どころか、今のあたしは得体の知れない彼女に好意すら抱いているのだ。


「あたしが好きかい?」


こくん、と頷く。


「これが魔法の呪文。魅了だよ」


しゃがれた声が魅力的に思えた。


逃げ出したいとは思わなかった。


「さぁ、お前は帰って、パンに魅了をかけて、小さくカットして近所に試食だと、配って回りな。皆、お前を好きになる。お前のために、お前のパン屋に通うようになるだろう」

「ありがとう。あの、あなたのお名前は?」

「なまえ?忘れちまったよ。あたしのことは魔女様とお呼び」

「えぇ、わかったわ」

やっぱり魔女だったのだ、と思ったけれども、やはり、嫌悪感は沸かなかった。


「すぐには、あたしみたいに強い魅了は使えない。お前は16になったら、王立学園に通うんだ。それまでに、たくさん練習して、魅了を磨くんだよ」


あたしは、家にとって返すと、魔女様に言われた通り、こっそり魅了の呪文を唱えたパンを小さくカットして、近所に配った。


確かに、魔女様の言う通り、あたしの魅了はまだまだ弱く、あたしが魔女様に受けた様な劇的な変化は見受けられなかった。


それでも、一人、また一人と客が戻っていく。


来てくれた客には、魅了をかけたパンを試食だと、再び食べてもらう。


そうやって、一月もすると、いつもと同じに。

半年もすると、町で有名な繁盛店になって行った。


周りの友達にもパンを配る。


知らぬ間に、誰もがあたしを好きになっていった。


誰もが、は間違い。


何故か意地悪フレッドだけは、あたしの魅了にかからなかったのだ。


店は年々繁盛して、町の片隅から、大通りへと移り、大きな店を構え、従業員もたくさん雇うようになり、あたしは、そこそこの家の子として、王立学園の一般人枠へと、顧客を通じて推薦してもらったのだった。

















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