sideリリベル3
ルイス王子の婚約者となった私の状況は最初は何も変わらなかった。
けれども、頻繁にルイス様が我が家に訪れるので、私の部屋は本邸の一番日当たりの良い部屋に移されたし、家具も可愛くて高価な物を与えられた。
家では、いつもみすぼらしい格好をしていたのに、最新の素敵なドレスを与えられた。
「また来てしまったよ。リリベル、会いたかったよ」
陽に透ける金髪をキラキラ軽やかに弾ませて、天使みたいなルイス様が訪れる。
(あー、僕の天使。今日もめちゃくちゃかわいいなぁ)
天使はあなた様ですよ、と内心で答えて微笑む。
(やばっ。神様、今日もリリベルが可愛すぎます!ありがとうございます!)
今日もルイス様は絶好調のようだ。
「今日はね、王室特製のとろけるプリンを持参したんだ。君と食べたくて」
ルイス王子が私を大事に扱えば扱う程、周りは私を粗末に扱えなくなっていっていた。
ルイス王子が我が家に初めて訪れた際、お父様の手を取り「あなたがこの世に生まれてくれて良かった」と涙目で感謝を伝えた。
呆気に取られたお父様に「リリベルが産まれてきたのは、あなたと亡くなったリリベルの母上のお陰です。心より感謝します」と。
お父様は純粋なルイス王子の瞳に見つめられ、何も答えられずにひきつった笑みを浮かべた。
お父様の手を離し、今度はお義母様の手を取り「リリベルを血が繋がらない娘なのに。こんなに優しく慈しんで育てて下さったのは、あなたですね。心より感謝します」と告げた。
これが嫌味なのではなく心からの声だと言うことを私は知っていた。
何しろイヤリングを通して筒抜けで聴こえているから。
お義母様は、気まずそうに目をそらそうとされたけれども、王子が回り込んで必死に見つめてくるので「え、ええ」と焦ったように答えていた。
「ユリリ、君の大事な姉上を僕に任せてもらえるかな」
ユリリは作り笑いをしようとしても出来ないようで真顔で「は、はい」と答えていた。
幸せに愛されて育った王子には我が家の環境はその様に見えているのだ、とおかしく思う。
「使用人の皆も、いつもリリベルを支えてくれてありがとう。感謝の意を込めて焼き菓子を皆に」
使用人達も、おどおどと「ありがとうございます」と頭を下げた。
何にも知らない、ただ幸せに育った王子様。
私がどんなに虐げられ育ってきたのかなんて、想像もできないのだろう。
「あぁ、この子がダークだね。なんて美しいネコなんだろう。」
ダークは私以外には触らせやしないのに、王子の心からの称賛の声に満更でも無いのか、大人しく撫でさせられていた。
自分は魔女に呪いをかけられたのに、魔女の色味の私やダークを可愛がるなんて本当に変な王子だ。
けれども、この日から皆の態度が変わっていったのだ。
王子に言われた姿が真の姿だと書き換えるように。
ずっと私に無関心だったお父様は、少しづつ歩み寄るように会話をするようになった。
蔑みの目で私を見ていたお義母様は、それを恥じるように「今までのことは忘れてほしいの」と訴えて来た。
そうして、ぎこちなく、ユリリと同じように私を扱うようになった。
ユリリは「お姉様、教えてほしいのだけれど」と、甘えるように本を片手に私の部屋に訪れ、それからは毎晩のように本を一緒に読むようになった。
専属侍女も付けられ使用人にも大切にされていく。
「あのお前大好き王子。呪われてるけど、オレは嫌いじゃないな」
ダークまでも王子にやられているようだ。
「そうね。私も嫌いでは無いわ」
ねぇ、ルイス様。
私には、あなたは眩しすぎるわ。
誰もくれなかった素敵な言葉。私を美化しすぎるところが難点だけれども。
それでも。あなたはマリアさんと恋をする。
私と婚約破棄をして。
大丈夫。あなたとの未来を夢見たりなんかしないから。
キラキラ眩しいあなた。
私は、あなたを嫌いではないわ。