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sideリリベル2

「リリベル、お帰り。お茶会は楽しかったかい?」

私にすり寄るダークを、少し黙って見下ろす。

「あのね。私は、隣国の王子と幸せに暮らすのよね?」

「もちろん!魔女様がそう決めてるからね」

「そうよね、、、」

「なんだい、へんな顔してさ」

「私ね、王子の婚約者に指名されたの」

「へ?!どういうこと?!あの、呪われた王子の?」

「そうよ、あの、婚約破棄を決定付けられている、呪われた王子のよ」

「なんだって?!大変だ!大変だ!大変だ!魔女様に連絡を取らなくちゃ」

ダークは私の足元をぐるぐる回って、騒ぎ出した。

「魔女様~!」

大きな声を出したあと、前方にぐるんと回転すると、ダークは丸くなり、コロコロと転がった。

ぐんぐん勢いがつき、ダークの姿がボールのように見える。

毬のようになったダークは何故か輝き出す。

「ダーク?」

思わず呼び掛ければ、輝き出したダークは丸い手鏡になってしまった。


「何事だい?」

鏡から、女性の声がした。


恐る恐る、ダークだった鏡に手を伸ばし拾い上げる。


「おやおや。リリベルじゃないか。何があったのかい?」


鏡の中には、黒い髪、金色の瞳、白い肌の美しい女性が写っていた。

思わず、食い入るように中を覗き込んでしまう。


まだ年若い二十歳前後の人だった。


「も、もしかして、魔女ねえ様?」

「ふふ。嬉しいねぇ。そんな風に呼ばれたのは何百年ぶりだろうね」


その言葉で、この人は人に見えるけれども、人と違う理で生きている魔女なのだ、と鏡をぎゅっと握りしめる。


「ダークが連絡をしてくるとは、何か余程の事が起きたんだろ?」

「は、はい。あの、私隣国の王子の元で幸せに暮らすんですよね?」

「そうだとも。妹と良く似た色味を持つ、かわいいリリベルよ。お前の母親が最期に願ったのは、お前の幸せだよ。私はお前の瞳を見えるようにしてやり、将来隣国の王子と幸せに暮らせるように祝福をかけた」

「我が国の王子の婚約者になったんですけど」

「我が国の?あの、私が呪いをかけた?」

「えぇ。その王子です」

魔女ねえ様は、口をポカーンと開け、しばらく静止すると「うそだろ!」と吠えるように言った。


両手で顔を覆って3分。


不意に高い笑い声をあげて、魔女ねえ様が顔をあげた。


「最高じゃないか。あの、憎き王家の者が、妹と良く似たお前を選んだ。散々惚れさせてやれ。お前自身は惚れるなよ。王子は16で王立学園に入学すると、平民のマリアと言う女と真実の愛という物に出会うんだ。あの血族が、平民との子供を成すのさ。あー愉快だろ。お前は婚約破棄された可哀想な女とレッテルを貼られるかもしれないが、隣国の王子の呪いを解いてやって、幸せに暮らせる。だから。数年我慢しろ」

「わかりました」


「リリベルは幸せに。ルイス王子には呪いを。あーはは」


魔女ねえ様は、笑いすぎて涙ぐんだ目元を手で払った。


「楽しみだな」

その声はふしぎとしゃがれて聴こえ、私はぶるりと身体を震わせた。


「未来がわかっていれば何も不安はないだろう?なにかあれば、またダークに伝えろ。いつでも力になる」


「ありがとうございます」


魔女ねえ様が満足そうに笑うと、鏡がぶるぶる震え出し、くるくる回転して黒猫のダークの姿に戻った。


「可哀想なリリベル。オレから魔女様に言ってやろうか。いますぐ、王子と婚約破棄させてくれって」


「ありがとう、ダーク。私のために怒ってくれて。でも大丈夫よ。期間限定の婚約者。好きにならなきゃいいだけだもの。私には隣国の王子様がいるのだしね。最初から婚約破棄されるってわかっていれば辛くもないわ。我が家には王家から慰謝料がたっぷり入るしね」

割り切って入れば、何も大変なことはないのだ。


それに。


あんな風に見つめられたのは初めてだった。


誰かに好意を持たれることが、身体をじんわり温めてくれるのだと知った。


婚約破棄をするまでの数年間、じんわりと温かい心地で過ごせるなんて得ではないか。


王子とマリアさんが結ばれたら、私が隣国の王子と幸せになる番だ。


隣国の王子はどんな人だろうか。


私を幸せにしてくれる素敵な人にちがいない。


「ねぇ、ダーク。隣国の王子の呪いをどうやって解いたらいいのかしらね」


「そんなの。古今東西、決まってるさ。リリベルの好きな絵本にも載っているだろ」


「え。あの、まさか、姫を目覚めさすキスとかのことじゃないわよね?」

「他にどんな方法があるっていうのさ」

「えっ?!無理、無理。私に見ず知らずの隣国の王子にそれをしろと?むりよー」

「将来の話だから。その時までに心の準備しておけよ」

ダークはからかうように言って飛び跳ねた。



そのあと、トントン拍子で婚約式まで進んだ。

王子は相変わらず顔を真っ赤にさせて、私を見ていた。

嬉しくて仕方ないと言う顔で。

婚約破棄の、その時までは仲良く過ごしましょうね、と微笑みかける。


王子が私にくれた婚約の品物は、王子の瞳の色のイヤリングだった。

ダークから、王家からの婚約の品は呪物だと聞いていた。魔女ねえ様が、お金を稼ぎたい時、身形を変えて魔道具を売り付けてるそうなのだが、ロクでもない呪具ばかりしか買わないそうだ。十中八九、変な呪具を与えられると思うけれど、と。

確かに変な呪具だった。

(可愛すぎるー)

囁くような小さなそれは、王子の声。

(ヤバイ。リリベルの可愛さが、更にアップしてる)

(そうか。心漏れとか言ってたけど、機能は解除されたのか)

(僕のこころの声をリリベルに聞いてもらいたかったような。それは恥ずかしい様な)

(あぁ。それにしても、なんて、可愛らしく微笑むんだろう)

(僕にリリベルと出会わせてくださった神様に感謝します)

(僕の瞳の色が、なんて君に似合うんだろう)

あまりの恥ずかしさに外そうとすると止められた。


今さら実は聴こえてしまって恥ずかしすぎるから外したいのだとも言い出せなかった。


王子は、純粋だった。

呪われた王子と言われながらも皆に愛されながら育ってきたのだろう。

表情そのままの心の声。


泣きながら婚約破棄なんてしないよ、と告げる声。


それでもね、するんですって。

あなたは平民のマリアさんと幸せになるために。

私は隣国の王子と。


私は見た目が呪われている様だと言われているのだ、と告げればバカみたいに驚いて(こんなに光輝くように可愛らしいのに)と泣いて憤った。


ねぇ、幸せに育ったあなた。

知らないでしょう。

私はそんな風にあなたの為に怒れないし、婚約破棄をしないなんて信じない。


けれども誰もが嫌う私を、あなただけは心から賛美してくれるから。

微笑んで、微笑んで、婚約者の役割をしてあげる。


だから婚約破棄のその時まで、仲良くしましょうね。





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