物語の終わりに
「魔女様、魔女様!起きてくださいよ!」
黒猫のダークが魔女の枕元で跳び跳ねる。
「なんだい、うるさいねぇ。あたしは何十年だろうと、100年だろうと好きなだけ寝かせて欲しいのだけど」
魔女は眠そうに布団を頭まで引き寄せ、再び眠りにつこうとする。
布団をはがして、ダークが騒ぎ立てる。
「王家から招待状が届いたんですよ!」
「ふぁぁー。そんなことで、あたしを起こしたのかい」
魔女はかったるそうに上半身を起こし、ボサボサの長い黒髪をかきあげる。
「いったい、何十年あたしは寝てたのかい?」
「12年ですよ」
「たったの?!おいおい、冗談はやめておくれよ」
再びベッドに倒れ込みそうになった魔女を、ダークが必死で引き止める。
「リリベルからですよ」
「え?あの可愛い?」
「そうです。魔女様の大好きな黒い髪金の瞳の。リリベルとルイスの子供の百日祝いに呼ばれたんです」
「ほぉ。あれから十二年となれば、何人目の子供かい?末っ子になるんだろうね」
「それが初めてのお子様で」
「ほぉ。それなら、とびっきりの呪いをかけてやらなければね」
魔女は跳び跳ねるように鏡の前に移動する。
「どんな呪いがいいだろうね。ルイスの時には何代も政略結婚だった王室に、自由恋愛をもたらしてやろうと、婚約破棄する呪いをかけてその後庶民のマリアと真実の愛に落としてやろうと思ったのに。それなのに、あの子は、婚約者のリリベルと真実の愛で結ばれた」
魔女は話ながら鏡の前で手を振る。
するとボサボサの頭が、何度も丁寧に櫛でとかした様に艶々と輝き、真っ直ぐサラサラとなった。
「あの泣き虫のパン屋のマリアも王子の運命の相手にして幸せにしてあげようとしたのに、幼馴染みとの恋を選んだ」
次に手を叩いてとんがり帽子を頭の上に出現させる。
「あの可愛いリリベルには、隣国の王子の呪いを解かせてむこうで幸せに暮らせるようにしてあげようと思っていたのに。ルイス王子を選び、あたしに与えられる幸せじゃなく、自分で自分を幸せにすることを選んだ」
魔女が指を鳴らす度に魔女の服が色を変える。
「あぁ、前回は本当に素敵だった。全然あたしが思った通りにならないのに、皆が幸せになって。なんて楽しかっただろう。呪いは大成功だった」
赤・黄・黒・紫・金・茶と色を変えて、少し思案して白に変える。
「うん。今回はこれで行こう。それで、とびっきりの幸せになる呪いをかけてやらなければ。あぁ、どんな呪いがいいだろうね」
魔女はうっとりと嬉しそうに鏡に笑いかける。
「魔女様」
「なんだい、ダーク。良い案があるのかい?」
「それが、3人分いります」
「なんだって?!」
「リリベルが産んだのは三つ子です」
「素晴らしい!!」
魔女は白いローブを被ると、魔法のホウキを片手に取る。
「姫達かい?」
「いえ。全て王子だと」
それまで上機嫌だった魔女が、すとん、と木の椅子に腰をかけた。
「また、王家の子か。全然ちっともあの子に似てない王家の子らに、あたしは早起きさせられて、呪いをかけに行かなきゃならないのか」
魔女は肩を丸めるとつまらなそうに呟いた。
「リリベルに良く似たお子様だそうですよ。黒い髪。瞳はルイス王子と同じ青に銀が煌めくとっても可愛らしい御子達だと、手紙に書かれています」
「なんと!リリベルよでかした。王家に魔女族と同じ黒髪の王子が産まれたなんて!それも、三人も!」
魔女はホウキを片手に外に飛び出す。
ダークも遅れないようについていく。
空に舞い上がる魔女のホウキの先にダークもしっかりと乗り込んだ。
上機嫌にくるくる回る魔女。
「あぁ、これから大変だね。三人も王子がいるなんて、王権争いが起きないように三人の心がお互いにわかってしまう呪いをかけよう。最初にあたしを見て泣いた王子には、動物の言葉がわかる呪いをかけてあげよう。次にあたしを見て泣いた王子には、植物の言葉がわかる呪いをかけてあげよう。そうして、最後まであたしを見て泣かなかった王子には、精霊の言葉がわかる呪いをかけてあげよう」
魔女は楽しそうに歌いながら、花を空から気まぐれに落としながら、空を駆ける。
時にはくるくるとまわりながら。
時にはホウキから両手を離して。
水を弾いて虹を作り、王城を目指す。
「とびっきりの、すっごい幸せになれる呪いをかけてあげよう!」
魔女の呪いはまだまだ、これからも王家に続いていくようだった。
これが最終話となります。拙い文章ですが、読んでくださった方々ありがとうございました。




