sideリリベル10
王都が花の嵐に包まれた日、私はアドナルド王子に全てを話し頭を垂れた。
「本当は、あなたの呪いを解くのは私だったのです。ごめんなさい」
横でルイス王子が共に頭を下げる。
「本当にすまない。リリベルが悪いわけじゃないんだ」
「よしてくれよ。あんな奇跡を目の前でおこされて、誰が文句を言えると言うんだい?君たち二人の想いが呪いに打ち勝ったのさ」
そう笑っていたアドナルド王子だったのだが、その三日後。
「すまないがリリベル、一緒に精霊神社に行ってくれないだろうか?」
「ちょっと待った。どういうことかな?リリベルを君の国に連れて行くと言うのか?」
「ルイス、この国にも精霊神を祭る社があるだろう。一番近いところで言うとこの学園内にもある」
「え?」
ルイス様と私は驚きの声をあげる。
「君たちは一神教だからな。他教のこと等あまり興味もないだろうが。我々の精霊神様はそこかしろの自然に宿られる。この学園の森の奥にも古の社があった。ついてきてくれ」
森の方へ初めて出向く私とルイス様と違って、アドナルド王子は通い慣れているようだった。
「リリベル、大丈夫かい?」
ルイス様の手を借りながら、森の中を進んでいくと、大きな木が現れた。
「ここが社だ」
そう言って、大木に深々と頭を下げ、懐から蝋燭を取り出し、大木の洞の中にそっと掲げた。
暗い森の中で、昼間なのに蝋燭の灯りが明るく見える。
「ジューノ、聞こえるか?」
その明かりにアドナルド王子が問いかけると、洞の中から柔らかな女性の声がした。
「アドナルド王子、聞こえています。私の頼み通り連れてきて下さりましたか?」
「あぁ、ここに」
アドナルド王子は、こちらを振り返り、洞の前を譲る。
ルイス様と洞の前に立つと、蝋燭の明かりの奥に女性が佇んでいるのが見えた。
「これは?!」
驚く私達にアドナルド王子は、なんということもないように「精霊神社から、精霊神殿に繋げただけだが?」と首を傾げる。
「え?どういうことだ?彼女は精霊神様なのか?」
「いや、彼女は巫女だ。以前話した、僕の乳兄弟の」
「え?あの、君のために神殿に身を捧げたという?彼女は隣国の神殿にいるというのに、この洞で繋がって姿まで見えるなんて!すごいな。こんなことができるのか」
ルイス様はしきりに感心していたが、私は彼女の思い詰めて泣き出しそうな顔に気を取られていた。
「あぁ。あなたが、リリベル様ですね。闇の色の髪の毛。金色の光を放つ瞳。何度神託を得ても変わらないのですわ。アドナルド王子の呪いを解く方は貴国で見つかると。闇から金の光を放つ人だと」
ジューノ様はポタポタと涙を溢し、こちらを見つめてくる。
「アドナルド王子が呪いに落ちたのは私のせいなのです。王子は自分が神殿のリンゴを食べたかったからだとおっしゃいますが、私はあの時不治の病でした。死の縁にいたのです。ご神木のリンゴを食べたら奇跡はおこるだろうか、と殿下の乳母である母が呟いたばかりに殿下は実行し呪われてしまったのですわ」
「それは違うと言ってるだろう」
「いいえ。あなたは、優しい方。私はあなたの手に握りしめられていたリンゴで命を救われたのです。私はあなたの呪いを解きたくて神殿で毎日毎日祈っているのに」
ジューノ様は涙を払いもせずに、話し続ける。
「それでも、私にはできないのです。リリベル様、お願いです。どうかアドナルド殿下の呪いを解いてください」
地に頭を擦り付けるように頼み込まれ、私まで涙が浮かんでしまう。
「ジューノ、その事は話したではないか。ただ、一度リリベルと話がしたいからと。一生の頼みだからと言うから連れてきたのに」
「えぇ、一生の頼みです。私、アドナルド殿下の為に全てを捧げるつもりで毎日過ごしておりますから」
ジューノ様の心か切なくて、申し訳なくなるけれど。
「ごめんなさい。私には無理ですわ」
「だって、唇を重ねるだけで解呪できるんでしょう?お願いですから、やってくださいませんか?」
私は言葉を出せず首を振る。
「ジューノ、あきらめてくれ。君の献身に答えたかったけれども。不甲斐ない僕を許してくれ」
「アドナルド王子」
ジューノ様が諦めきれないと首を振る。
「私の愛はルイス様に全て捧げました。愛の無い口付けで呪いが解けるとは思えません。だから、解呪はできないんです。ごめんなさい」
辛いけれども、強く言い切る。
(可哀想だけれど)
(リリベルの考えはきっと正しい。呪いは気持ちのこもらないキスでは、解呪できないだろう)
ルイス様もやっぱり、同じ考えなのだわ。
(でも、どうしてリリベルなんだろう。僕は暗い洞の中から、蝋燭の光でぼんやりと現れた君が闇の中から金の光を放って、現れたように見えたんだけどな)
えっ。
「ルイス様!それですわ!」
突然見上げられ、ルイス様が、あたふたとする。
「え?それ?」
「ルイス様が先程思い浮かべた事をアドナルド王子に告げて下さい!」
ルイス様は、戸惑いながらも告げる。
「いや、あのさ。僕は暗い洞の中、蝋燭の光で現れたジューノさんがさ、闇の中から金の光を放つ人に見えたってだけなんだけど」
アドナルド王子は一瞬ぽかんと口を開けてから、はっと我に帰り洞の中を覗き込む。
「ジューノ。君だったのか」
アドナルド王子の瞳に熱がこもる。
「え?は?王子?」
戸惑うジューノ様に私はそっと告げる。
「呪いを解くには、愛のこもった口づけですわ。あなたはアドナルド王子に愛を捧げてきた方だから、きっと解呪できますわ」
私とルイス様は頷きあって、その場を後にした。
「あぁ、良かったね。アドナルドも国に帰って解呪できるだろ」
「ええ、本当に」
笑って答えたのに、ルイス様が心配そうに私を見る。
「これで君の憂いを取り払えたと思ったのに。何が君の笑顔をそんなに曇らせるんだい?」
「・・・。ダークが帰って来ないんですわ」
私はポツリと呟く。
あの、私の背中を押してくれた「リリベルの思う通りに生きていいんだよ」の言葉を残してベランダの先へ消えてから。
ダークは姿を消した。
「ふふ。魔女ねえ様の使い魔だったのですもの。魔女ねえ様の元に帰ったのでしょうね」
「あぁ、リリベル泣かないで。僕がいるよ」
「ふふ。私泣いてなどいませんわ」
(それでも、僕には君が泣いているように見えるんだよ)
ルイス様の言葉が私を温める。
「ありがとう、ルイス様」
それでも部屋で一人きりになると、ダークを思い出して寂しくなってしまう。
こんな月夜の晩は特に。
カーテンを開け、月の光を浴びながらダークを待ってしまうのだ。
ありがとうとさようならを言いたくて。
誰もいない月夜に。
寂しくて眠れない月夜に。
魔女ねえ様が、誰かを幸せにしたい時、その子が孤独なら、ダークをその子の元に行かせるのだろう。
今度はその誰かの元に。
そうやって、ダークはたくさんの子を幸せにしていくんだわ。
そう思ったら、自然に笑えて、涙がポロリと零れた。
「ダーク、ありがとう。・・・さようなら」




