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呪われた王子は婚約破棄をしたくない!  作者: 万月月子


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sideマリア7

家に帰ると、お父さんとお母さんが泣きじゃくりながら飛びついて来た。

「様子がおかしいって思ってたら」

「こんな置き手紙残して!」

抱きつかれて、後ろに転がりそうになるあたしをフレッドが支える。

「1つだけ言いたいことがある!」

「ここに書いてある魅了の件だけど、どう逆立ちしてもマリアには使えないのよ」

「あ、うん。神父様にも言われたわ」

なんだか、居たたまれなくなって俯く。

「それから、王子さまに見初められたって、あんたが王子さまを好きになれないならしょうがないじゃないの。あんた、フレッドが昔から好きなんだもの」

「ちょっ。1つって言ったよね、いくつ言うの?」

フレッドが聞いてるんですけどー!

ホントに恥ずかしすぎる、やめて。


「思春期の子供は時間を親に割いてくれないから、話の前にこれ言うといいって子育てマニュアルに書いてあったんだけどな」

お父さんが鼻をすすって照れ笑いをする。

「マリア、おまえがいたから、今まで頑張ってこれたんだ」

「王子を振って、国外に逃亡になっても構わないのよ」

「よその国でもこの腕でパン屋を繁盛させてやるぜ」

「このパン屋も惜しくないの。マリアと一緒に行くから。一人でなんて、出ていかないで」

二人の言葉に胸がつまる。


「愛されてんな」


フレッドが耳元で囁いたりするから。

涙が堪えられなくなるじゃない。


「とりあえず今日は体調不良で欠席にしよう」

ということになり、フレッドは帰宅し、あたしもベッドに潜った。



朝、王子が訪れるとも知らずに。



「マリア、体調不良だと?王家の専属医師を呼ぼう」

「いや、待って。そんなことされなくても。あ、あれ?治ったかも」


それ以外に何を言えただろうか。


お父さんもお母さんも顔が真っ青で固まってる。


とりあえず、大丈夫だから!と二人にウインクを送る。


あれ?なんか、ウインクする時真っ暗になるな。


あれ?両目でやってる?それって、目を閉じてるだけじゃんっ。


自分で自分に突っ込みをいれる程パニックになっていたけれど。


王子直々のお迎えを、どの庶民が断れようか。


フレッド助けて。

神父様ー。


心で二人に思念を送りながら、あっ、あたし魔力0じゃんって、王家の馬車に乗りながら、頭を抱える。


「あぁ、愛しいマリア。やっとリリベルと婚約破棄をして、君を迎えることが出来る」

王子さまスマイルで、キラキラなこと言われてもな。


そんなにあたしを好きになってくれてごめん、だけど。


「王子さま。本当にあたしのこと好きなら、こんなのやめてくれませんか?」


思いきって勇気を出して直球で言ってみる。


「リリベル様は何にも悪くないし、婚約破棄なんてして欲しくないです。あたし」


「おぉ、慎ましやかなレディ。僕には全部わかってるよ。任せておいて」


「え?それって、どういうこと?わかってくれたってことですか?」


「君のことならなんでもわかるよ」

優しく微笑まれて、ホッとする。

なんだ。初めからそう言ってれば良かったのか。



・・・なんて、王子を信じてしまったあたしはバカだった。


王子が婚約者のリリベル様に婚約破棄を告げるために整えた学園の広間へあたしをエスコートして連れて行く。

大丈夫だよね?あたしのこと、わかってるって言ってたもんね?

こんな馬鹿げた婚約破棄の会場なんてすぐにおひらきにするよね?

念には念を、と王子の腕をそっと引いてわかってますよね?と上目遣いで見上げれば。


まさかのリリベル様断罪が始まってしまい、どうして良いかわからなくなってしまう。


リリベル様が婚約の証のイヤリングを取った瞬間から、更に意味がわからなくなる。


王子が喋る。

その声に被せる様に、全く違うことを王子の声が言うのだ。

言う、は間違いかもしれない。

だって口は開いていないから。


これが思念を飛ばすと言うことなのかしら?

周りもざわついているから、これが聴こえているのだろう。


もしかして、これが王子の心の声?


あろうことか、あれだけしつこいくらい愛を囁いて来ていた王子は、あたしを滅びの魔女と呼んでいた。


「ルイス王子?どういうこと?」


これが怒らないでいられるだろうか。


何よそれ。


けれどもリリベル様が王子さまの呪いを解いた姿に胸が熱くなる。


薄いヴェールの中。


はっきりとは見えない口づけが神聖な儀式の様に見えた。


なんて綺麗で尊いの。


あたしはこの光景を一生忘れないだろう。


高鳴る胸を抑え目の前に舞う花びら達を見つめる。


皆が外に出るので、つられるように行こうとして。


「痛いっ」

腕を捻られ拘束された。


「王子を誑かした魔女め」

あぁ、だめだったんだ。

あたしは逃げられないんだ。

罪から。


王子の元に乱暴に引っ張られていく。


「王子、こやつはどうしますか?」


王子の前に跪かされ顔をあげさせられる。


王子はさっきまでの甘い視線はどこに捨て去ったのか、戸惑い気味にあたしを見た。


「えっと?」


「先ほど殿下がおっしゃられたではないですか!破滅の魔女マリアと!」


あぁ、もう終わり。

断罪されるのはあたし。

お父さん、お母さんごめんなさい。

フレッド。さよなら。


綺麗な花びらが飛び交う空の下。


断罪を待つ。


「えっと。ごめん。魔女はあそこ」

王子は照れ隠しの様に笑って空を指差した。


そこでは魔女様がホウキに跨がりクルクル空中で回転しながら歓喜の声を上げていた。


「ごめんね。手を離してあげて。僕はてっきり君が魔女だと思っていたけれど、魔女はあの人だね」


「え」


殿下が空を指差すと、それを眺めた衛兵が呆気に取られて、あたしの拘束を外した。

「はっ、失礼しました」


「やぁ、すまなかったね。君も魔女の呪いの被害者だったのだろうね」

王子さまは爽やかに微笑んで、あたしに手を差し出し立つのを助けてくれた。


あたしのせいで酷い目にあったというのに。


リリベル様は、しゃがんであたしの膝の汚れをハンカチで拭いて下さった。


あたしのせいで悲しい想いをしたというのに。


「弓はまだか?あの魔女を射よ!」


後ろで衛兵の声が上がる。


「えっ?」


王子、リリベル様、あたしの三人が声をあげる。


「王家に仇なす魔女を撃ち取るのだ!」


「それはダメ!」


三人揃って声をあげる。


あの人は。魔女様は。泣いている子供のあたしのために魅了を教えてくれた。


全然望んでない幸せを押し付けられそうになったけれど、魔女様を嫌いにはなれないのだ。


「魔女を撃つこと許さん!」


「はっ!しかしながら、王家に仇なす者!にっくき宿敵ではありませんか!例え我が身が呪われようとも魔女を撃ちましょう!」


「あー恐ろしいことを」


激昂する兵士の横で、飄々と現れたのは神父様だった。


「魔女様は長寿な一族で有名だった魔女族最後のお方。不老不死の薬をなめてしまわれ、神や精霊に近い尊いお方ですぞ」


神父様は恍惚とした瞳で、空を飛び回る魔女様をみつめた。


「長年古文書を読み漁り、ついに王家が何故呪われたのか読み解きました」


「本当か?教えてくれ!」


王子が食い気味で神父様に寄る。


「初代王妃ダンヌ様が原因でした」


「建国の祖、アーリー王の唯一の妃の?」


「その通りです。彼女は魔女様の愛し子だった。アーリー王に盗られたと怒り心頭で、王の一族を呪ってやると」


「なんと!」


「しかしですな、愛し子であるダンヌ様が我が子孫に祝福をと願った。だから呪いをかけて祝福するのです。60年前フィリップ王子は髪の毛が常にふさふさの呪いをかけられてましたね。坊主に刈っても五分でこんもり生えてくると。剛毛王子と言われていますが。あれは、父王が頭髪が薄かったため、魔女様が祝福をかけたのでしょうね。戦の時、頭に矢を受けても髪で防げたと聞きます。その前の130年前はシャルル王でしたね。幽霊王と呼ばれた方ですね。存在感が薄すぎる呪いでしたか。そのお陰であの熾烈な王位争いの時代にも、暗殺もされず、城下をお一人で歩いても誰にも気づかれず楽しんでいたという伝記を読みました。180年前はシャーロット王女、ずぶ濡れ王女と呼ばれた方です。外に出たら雨が降る呪いです。王女が野外に出るとどんなに晴れていても雨雲がいつの間にか頭上に現れ、ずぶ濡れになっていたと。シャーロット王女は聖女に認定され教会に奉られていますが、干ばつに苦しむ民が喜んでくれることが何よりの幸せだと日記に残されております。一度も干ばつによる飢饉がなかった時代を作り上げた方です。まだまだ、あげようと思えばいくらでもあげられますが。魔女の呪いによって不幸になった方はおられないのです。これって(のろ)いではなく、幸福を願う(まじな)いなんじゃないでしょうか?」


淀みなく話す神父は、得意気にあたしにウインクをしてきた。


それは、ちゃんと片目だけを閉じるやつで。


神父様は堂々と自信満々に何の躊躇もなく、彼の研究結果をあの捲し立てるように語る早口で述べたのだった。


「あぁ、だからなのか。王家にはどんな呪いをかけられたとしても、決して魔女を虐げてはならぬと言う不文律があるのだ」


王子さまが、そう言って魔女様を見上げる。


「王家に幸福の呪いをかける彼女に敬意を示そう。魔女様、ばんざーい」


王子さまにつられたように周囲が「魔女様、ばんざーい!」と声をあげる。


空からは、たくさんの花びらが吹雪のように舞っていた。


祝福の鐘の音が鳴り響く中。


いつまでも、いつまでも舞っていた。











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