sideルイス4
リリベルは、姿形だけではなく、心根も素晴らしい女の子だった。
僕の呪いを知っているのに、母上がお妃教育を打診すると、快く受けてくれることになったのだと言う。
その姿勢は真摯で、母上も父上もリリベルを大変気に入った様だった。
僕はそれに感銘を受けて、僕もリリベルの家族に気に入られたいという思いが募った。
もちろん、リリベルに会いたいという気持ちが強いのだけれど、それ以外にも、僕もリリベルの家族と真摯に向き合って良い関係を築いていきたいという思いもあり、頻繁に彼女の家を訪れた。
リリベルは複雑な家庭の様だった。
家族の中にリリベルと同じ色味の人はいなかった。
幼い頃母上を亡くされたらしい。
今日、僕はリリベルに会う前に、侯爵と二人きりで話す時間をとってもらった。
「侯爵、今日は時間を取ってくれてありがとうございます。1つ頼みがあるのだけれど」
「改まって、何を言われるのか、少々怖いですな」
「実はね、リリベルの母上の肖像画を見せてほしくて」
僕の言葉に侯爵は固まる。
「あのリリベルの母上なのだから、美しい方だったんでしょうね」
「・・・あれの肖像画など当家には残ってませんな。全て燃やしてしまったので」
つまらなそうに話を打ち切ろうとした彼に慌てて言い募る。
「あり得ない。侯爵があんなに可愛いリリベルを不自然な程見ようとしないのは、リリベルの母上を思い出して辛いからですよね。勿体ない。そんなに好きだった人の肖像画を1枚も残さず処分するなんて考えられませんよ。僕は見せてもらえるまで城には帰りませんからね」
僕と侯爵が睨み合うこと五分。
侯爵は溜め息を吐くと立ち上がり、右の壁の下を靴で三回コツコツコツと蹴ると、壁に隙間が空き、そこに手を入れ隠れ扉を開いた。
「こ、これは」
その部屋は決して広くはなかった。
中央に椅子が1つ。
壁には大きな肖像画から、ポートレートの物まで、所狭しと飾られていた。
「リリベルに似てお美しい」
「リリベルが、ベルルに似たのです」
一枚の絵を侯爵が愛おしそうに撫でる。
「髪色は、焦げ茶ですが、瞳はリリベルと同じ金色ですね」
「・・・リリベルは幼少の頃盲目でした。妻はそんな娘を、遺していくのが心配なようで、自分の瞳をあげられたらいいのに、と。死の間際までリリベルのことばかり、私に託して。けれどね、殿下。私はリリベルを愛せやしなかった。ベルルの死後、リリベルの瞳は白から金色へと変わり、視力を取り戻したんですよ。ベルルの瞳をリリベルが奪ったかの様に。まるで魔女のようではないか。呪われた容姿をどうして好き好んで見ようか」
呻くように言う侯爵の横で、僕は不甲斐なくも涙を溢してしまった。
「あぁ。リリベルの母上は、愛で貴殿とリリベルに奇跡をもたらしたんですね」
「は?」
「神様はいるんだなぁ。リリベルは黄金の瞳を得て、貴方は亡き妻の瞳を未だにリリベルを見つめることで見ることが出きるんですね」
侯爵は口をぽかんと空けて僕を見つめた。
「侯爵、前にも言いましたが、あなたとリリベルの母上のお陰でリリベルが生まれてきました。心より感謝してます」
僕は肖像画のリリベルの母上にも感謝の意を込めて胸に手を当て目を閉じ頭を垂れた。
「侯爵、大丈夫ですよ。リリベルの黒髪はさらさらと絹糸の様で春風になびき、黄金の瞳は亡くなった母上の面影を遺して光輝いている。リリベルの瞳を見てじっくり話し合って下さい。貴殿の愛した瞳を。どこが呪われているって言うんです?ただ愛しいだけの存在ではないですか。呪われているのは、僕です」
呪われた王子としての渾身の自虐を披露したが、侯爵はクスリとも笑わずに、茫然と、僕を見ていた。
それから、肖像画へ目をうつす。
「愛しいだけの・・・」
「おっとぉ!いけない、リリベルとの約束の時間ですので、僕はここで失礼します。それでは、また」
ぼんやりと肖像画を見る侯爵をそこに残して、慌ててリリベルの元に向かうのだった。
そして、別の日は、侯爵夫人と二人きりで対話をした。
「あたくしね、懺悔しますわ。嫉妬してたんですの。旦那様が、隠し部屋に何を隠しているのか知っていて?えぇ、亡くなった奥さまの肖像画。まぁ、あの人殿下にはお見せになったの。あたくしは、はしたなく盗み見をしたのですわ。あたくしに対する気遣いで、この邸宅には前婦人の肖像画が1つも見当たらないと思っていたのだけれど。観賞用の椅子を見て、底から怒りが沸いてきたのですわ。色味は少し違うけれども、リリベルは前婦人にそっくりな美しい子。あたくしは、リリベルの母親になりに来たのに、嫉妬を押さえられなかった。冷たくあたってしまっていたのです。殿下が仰られたように、優しく慈しんで育てていきたいと思っていたのに」
涙ながらに話す夫人の肩に手を置く。
「僕がリリベルを婚約者に選んだ時、あなたはとても喜んでくれた」
「そ、それは」
「いいんですよ、どんな思惑でも。それでも、喜んでくれて僕は嬉しかった。呪われた僕ですが、これからも、僕とリリベルの味方でいて下さい。こんな風に過去を悔やんで涙を流せる貴方は、きっとリリベルのことを優しく慈しんで育てていける方ですよ。僕は信じています」
「殿下」
「さぁ、泣き止んでください。おっと、すみません、リリベルとの約束の時間ですので、失礼します!」
そして、別の日にはユリリと対話をした。
「あたしね、お姉様が欲しかったの。だから、最初は嬉しかったの。お姉様は、びっくりするぐらいキレイでまるでお人形の様でしょ。けどね、みんながお姉様の容姿が魔女のようで呪われた容姿だって。お父様もお母様もそれを否定しないし、なんだか、そっちに加わらないと今度はわたしが苛められるんじゃないかって、不安で。でも、殿下がわたしの大事な姉上って仰ったでしょ。それで、目が覚めたの。お姉様はわたしの大事な姉上だわ。他の人がどうでも、わたしはお姉様を大事にしようって。最近ね毎晩のように夜一緒にご本を読むのよ。いいでしょ」
「それは羨ましい限りだなぁ。仲間に入れて欲しいところだが、さすがに夜は・・・」
「うふふふ」
「おっと、ごめんよ。リリベルとの約束の時間だから」
慌てて部屋を飛び出す僕をユリリは笑いながら見送ったのだった。




