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あたたかい目で見ていただきたいです

 焔人 生まれた時から罪を背負った人間。

彼らはその身に地獄の炎を宿し、同時に人外の力を持つ。

そしてその罪とは…



 エルドラ帝国第八代皇帝アレイトス崩御より二年前の夜、この時まだ齢十三歳のヨハンは王城の裏庭にあるひっそりとしたベンチに一人座っていた。


母上…。


ヨハンは右手首に巻いた黒い宝石をあしらったブレスレットを見つめていた。

時たま月の光に照らされると青く光る。


これは母の唯一の形見。

いや、形見かもしれないが正しいか…。

母は自分が生まれた時に焼き殺してしまったから、本人と喋ったわけではない。

焔人として生まれた人間は産んだ母親をその瞬間地獄の炎で焼き尽くす。

だから、閻魔の子とも呼ばれたりする。

正直、その時の事はよく覚えてない。

赤ん坊の頃の記憶なんだから誰でもそうだろうが、長い間恐ろしい夢を見てたような気もする。

戦争 死 血 そして炎、これらが頭に残ってる。

いや…気のせいかもしれない、なにせ記憶は曖昧だ。

とにかく焔人は忌み嫌われている、まぁ火が歩いているようなものだから当たり前だとも思う。

しかし迫害はされても殺されはしない、焔人の炎は特別だから…。


「若…。」


濃い青髪の男がヨハンに声を掛ける。

年齢の割には若く見える顔立ちだが顔の右半分に火傷の跡がある。彼が着ている黒い執事服には軽い違和感を感じる。品はあるが誰かの身の回りの世話をするような男には見えない。

ヨハンは咄嗟に自分の体の傷を隠す。


「ミツキか、何の用だ?」


俺はこいつが苦手だ。

あからさまな態度が顔に出るヨハン。

元々母上の従者だったらしい、母上がエルドラ帝国に嫁いだ時、護衛としてこの国について来たとそこらのメイドが言っていた。

こいつは何も話さない。

過去に何度か母について尋ねたことがある。

そしたら、(若を助けるようにと亡き母上殿から仰せ使っています。)

これしか言わん、質問の返しになっていないし貴様の事など聞いていない。

こいつに関しては諦めている。

まぁ俺も、今更死人のことなどどうでもいいがな。


「こんな夜更けに外は危ないですよ。」


ヨハンは鼻で笑った。


「危ない?ここは城の庭だ。何が危ないんだ?」


わかってる。

皇帝の息子だろうと所詮王位継承権第五位の子供。

兄や姉との歳もかなり開いてる。

いてもいなくても変わらないのだ。

あるのは焔人に対する恐怖の目と歪んだ家族からの遊びというなの虐め。

ミツキは黙って突っ立ったまま喋らない。

チッ、こういうところが苦手なんだ。

俺に選択肢がない事をわかってる。


「わかった、もう寝る。ついてくるなよ」


「……」


また無視、気に食わん。





 朝早く起きて、俺はいつもの日課に行く。

城を出て、近くの山の麓にある洞窟。

少し狭いが、子供の俺からしたらどうってことはない。

城でもどうせ空気か腫れ物扱いだ、いなくなっても誰も気にするものなどいやしない。

俺はここで自分の炎についてに調べ続けてきた。

わかったこと

炎は敵意がなければ他者が触っても熱くない。

ある程度のコントロールが出来ればというのが前提だが、ミツキに試しに触れさせたことがある。本当は頼りたくなかったが、どうしても客観的な目が必要だと思い自分の中で妥協した。

頑なに渋っていたが、命令だと無理やり触れさせたら、その時は暖かいという程度ですんだ。


炎の出力や温度は感情に左右される。

上記に繋がっていることだが、炎のコントロールは感情のコントロールに近いことがわかった。


炎にそれぞれ種類がある。

これは焔人について書かれてある書物にも書いてあったが、炎には四つの種類があるという。


一つ目は 紅炎 

赤い炎を焔人が纏う。

単純に身体能力が上がる=超筋力

炎同士が触れ合うと爆発する=爆炎  

 

二つ目 蒼炎 

青い炎を焔人が纏う

超速で飛翔できる=超速飛翔

炎を弓のように放てる=弦炎


三つ目 白炎

白い炎を焔人が纏う なかなかいない

自己再生ができる=超再生

傷を治せる=癒炎


四つ目 黒炎

黒い炎の焔人が纏う

全てを焼き尽くす


 四つ目の黒炎については実はよくわかっていない。

三百年前、ある国が一人の焔人を殺そうとしたら黒炎に包まれ、残ったのは焼け野原だけだったという記述が一つあっただけだ。

そう、だから殺されはしない。

リスクが計り知れないし、上手く利用すれば有用な兵器にもなり得る。

俺の紅炎も鍛えればこんな帝国…、敵ではなくなる。





 そして数日後、王城にて事件が起こる。


「返せ、それは母上のだ。殺されたいのか?」


ヨハンが目の前の異母姉を睨む。

第四王女スカーレットが黒のブレスレットを持っている。

第二王妃の一人娘で歳は十九、赤髪で美しい容姿だが、内面の強欲さが滲み出ていてどうもいけすかない。

ヨハンの事など見えていないかのように、ブレスレットを撫でるスカーレット。


「殺すですって?ガキのくせに物騒な言葉使うのね、程度が知れるわ…。」


クソっ!

無防備に部屋に置いといたのがまずかった!

よりよってこんな醜悪女に…。


「いいじゃない別に、あんたが持ってたって仕方ないわ、ほら…」


スカーレットがブレスレットを手首に巻き付ける。


「やめろ!」


スカーレットの手首を掴むヨハン。

反射的に手を払うスカーレット。


「ちょっと、触らないでよ汚らわしい!」


手は離したがヨハンの目が引き下がるつもりのない事を訴える。

鼻で笑うスカーレット。

めずらしい…いつもの遊びは黙って受け入れるのに、これに関しては諦めないのね。


「ふん、じゃあ交換条件でいいわ…。これをくれたらもうあなたと遊ばなくたっていいわ。」


ちくりと頬の傷がむず痒くなるヨハン。

だが、彼にとってブレスレットを取られる方が何倍も嫌だった。

問答無用で再び腕を掴み言い放つ。


「返せ!」


スカーレットが振り払おうとするも今度は離れない。

ガキのくせに何て力なの?化け物め!

ペッと唾を吐くスカーレット。


「何あんた?まだあの女に愛されてた思ってんの?笑えるww」


ヨハンの何かが音を立てて狂う。


「あの売女が望んであんたを生むわけ…」


プツンと何かが切れた


スカーレットの嘲笑いは、尋常じゃない手の熱さによって一瞬で叫びに変わった。


「ぎゃああああああつぅぅぅあああ!」


「貴様ぁぁぁぁぁぁああ!」


ヨハンは明らかにスカーレットを殺す気だ。

火柱が天井に刺さる。


「若!!」


騒ぎを聞き付けたミツキが止めに走る。

ヨハンは炎のコントロールが出来ていないようだ。

証拠にミツキがなかなか近寄れずに苦戦している。


「若!気をしっかり!これ以上は!」


ミツキ…?

何を叫んでいるんだ…?

いや…そんなことどうでもいい…。

一瞬のようでとても長くも感じる。

今まで溜め込んでたものがとめどなく流れ出ているようで、とても気分がいい。

もうあの女の手を掴んでる感触はない。

俺はこの時こう思った。


 


 全部燃えてしまえ





 後はよく覚えてない。

あの女がどうなったかも、ブレスレットごどうなったとかもわからない。

俺は気を失って気付いた時にはもう、辺境の帝国領スタスにいた。



 






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