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第一話:蘭くんとの出会い

大学生男子×男型アンドロイドのBL作品です。


アンドロイドが身の回りのお世話をしてくれることが当たり前の世の中になった。幼稚園のころには洗濯や食事は家にいたアンドロイドがしてくれていたし、勉強も教えてもらっていた。家にいたのは、綺麗な女の人の型のアンドロイドで、本当に生きていないのがいつも不思議だった。俺が母親に怒られて部屋のすみでいじけていれば探し出して慰めてくれたし、ダンスの大会で優勝したときは誰よりも喜んでいてくれていた、と思う。家にいつもいてくれるような、そばにいるような、でも、どこにもいないような、そんな存在だった。


 祖父の家には、男の人の型のアンドロイドがいた。祖父からは「らん」と呼ばれていた。男型にしては物腰が柔らかで、あったかい笑顔が綺麗だなと子供心に思っていた。祖父の家に遊びに行くと、「らん」くんはよく俺と遊んでくれた。簡単なマジックを見せてくれたり、庭に咲いている花の名前を教えてくれた。帰るとき、俺はいつも寂しくなるのに「らん」くんはただニコニコと手を振るだけなのが、物悲しかった。 


 『桃李さま、僕の名前も、花の名前なんですよ』


 家に帰って、昼に「らん」君が教えてくれた、「蘭」の花を図鑑で調べた。白やピンク、綺麗にならんだその花が綺麗だと思った。その日も俺は、ふかふかの布団に包まれて眠った。


**


 18歳になったとき、長いこと病を患っていた祖父が亡くなった。各所から信頼を得ていた祖父のお葬式は立派だった。葬儀で、来賓者の上着を預かるらんくんが目に入った。蘭くんは多分、祖父が死ぬ3年の間、ずっと一番そばにいた。一番お世話をしていた。なのに、最後に一緒にいられないなんて、アンドロイドってなんなんだろう。哀しいという感情も無いんだろうか。俺はアンドロイドじゃないから、よくわからないや。

 出棺の時が来る。じっと、ずっと、少し離れたところ、誰よりも綺麗な姿勢で、蘭くんは凛とそこに立っていた。


 ほどなくして、祖父の遺品整理が始まった。きっちりしていた祖父は、遺書も抜け目なく親族がもめることはない。ただ一つの“アンドロイド”をだけ、残して。


『どうしようか。うちにはもう1体いるし、2体も管理できないんだよなー』

『型も古いしね~。少しお金かかるけど、センターに引き取ってもらうしかないか』

『本当によく働いてくれたけどねぇ…』


 蘭くんは、じっと、その場で話を聞きながら立っていた。何故だろう、感情なんかないはずの彼の表情がどこか哀しそうに見えてしまうのは。次の瞬間、俺の口は想像もしてなかったことを言い出していた。


「お母さん、おれ、来月から東京いくから、蘭くんくれない?家の事とかしてもらいたいし。ね、蘭くん、いいよね?」

「……はい。よろこんで」



***

  

 そこからの日々はあっという間だった。蘭くんに引っ越しの手配を頼めばすぐに業者を斡旋してくれたし、テキパキと部屋の物もしまってくれた。何にもすること無くて部屋でゲームしてた俺を見た母親が、蘭くんの家事手伝いモードを「最小」にしていると知ったのはだいぶ後のことだったけれど。


「桃李さま、よろしくお願いします」

「なんかその、桃李さま、ってのやだなぁ……」


 都内の1Kの部屋について荷ほどきがある程度終わったときに、蘭くんといくつか決めごとを作った。


ーーOK、蘭くん。お願いを聞いて!


・桃李“さま”はやめて、友達にも呼ばれてるから「とーり」って呼んで

・敬語もやめて

・なるべく自然にして


 「はいわかりました」蘭くんはそう言ったものの……だいぶおれのお世話をしてくれた。


「とーり!忘れ物や!」

「ちゃんと朝ごはん食べんと元気でんよ!」

「ゲームやりすぎて夜更かしすると、起きられへんよ?」


 色々いじくってたら大阪弁モードになってしまったのはまぁ、いっか。新しく「ダンス」もインストールしてみた。一緒に踊る時間は凄く楽しい。息が切れない蘭くんがたまに羨ましくはなるけれど。1人と1機の新生活は、問題もなく過ぎていった。


 “アンドロイドに人間と同じ感情があるのではないか”昔から言われている。テレビの討論番組ではしょっちゅう“ある派”と、“ない派”の論争がされていて、俺はどちらかと言うとずっと“感情はない”派だった。しかし、実際に蘭くんと毎日一緒に過ごしていると、明らかに感情が見えることがある。一緒にゲームをすれば嬉しそうにし、帰りが遅い日が続くと寂しそうにする。一緒に散歩をすればいつもより笑顔が増えて、俺がからかえば照れる。それこそが、プログラミングされた行動なのかもしれないけれど。


 スリープモードの蘭くんの顔を見ながら考える。蘭くんには本当に、心がないんだろうか。心臓のある場所に手を当てても、何も音はしなかった。




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