内部情勢の転換期(2)
「おーい、そろそろキサラディに到着だぞー――って、どうしたんだ全員!?」
「あー、なんでもないよスマルトー。エクルのせいだけど」
「ん? エクルのせいなのにエクルがなんでもないと言うのは、理解に苦しむのだが」
「悪いスマルト、俺とシャルは乗り物酔いしたみたいでな。本当にそれだけなんだ」
「そういうことか。なら少し馬車を停めよう」
リーヴァルの周囲を迂回して、もうキサラディの街が見え始めているというのに、エクルの爆弾の破壊力があまりに大きかった。
どういう訳か俺以上にシャルが深手を負ってるらしく、未だに硬直したままピクリとも動かない。
さすがに不安になり、軽く肩を叩きながら声を掛けた。
「シャル、一旦休憩を入れるぞ」
「……はっ! しょ、ショーマ様!?」
「やっと意識がハッキリしたか。なんでシャルがそんなにショックを受けてるんだ?」
「もっ、申し訳ありません! お仕えする立場でありながら、この様な私情に飲まれてしまい……」
「なんのことだか分からんが、もういい。少しここで落ち着こう」
もちろん実際には酔ってなどいないが、草原の上で風に当たるとこれはこれで気分が一新される。
エクルに関しては後程考えるとして、今はギルドへの報告と、冒険者達を北へ踏み込ませない釘の刺し方を思案せねば。
だが背後から聞こえてくる女子二人の会話が、忘れようとする気持ちをわざとらしく邪魔してくる。
「シャルさん、困らせてごめんね。でも嘘は言ってないし、エクルもずっと一緒にいたいって思ってる」
「いえ、私はショーマ様のお傍にいられるだけで、十二分に幸せですので……。それ以上を望むなんてバチが当たります」
背を向けて聞き耳を立てていると、前からスマルトが近付いてきた。
どうやら話しのやり取りが腑に落ちず、首を傾げているらしい。
「彼女達はなにに悩んでるんだ? 仲良くショーマを分け合えばそれで解決なのに」
「お前こそなにを言っている? 俺は一人しかいないし、シャルは恩人として慕ってくれてるだけだぞ?」
「俺の目にはそうは映らないが。ともあれクリミナでは一夫多妻が認められてるから、奪い合う必要性は皆無なのだがな」
「はぁ!? ハーレム推奨国かよこの国は!」
思わず声を上げた俺に、全員の注目が集まる。
一途に想い合う連中ばかりを見ていたから、まるで気が付かなかった。
だからどうしたいというわけでもないけど。
再び馬車に乗り込み、十五分ほどでギルドに到着した。
ラフィルの墓場での出来事を五割くらい作り話で語ってみたが、それでも持ち込んだ素材と合わせて、職員は明らかに驚嘆している。
「バ、バジリスクを複数討伐した上に、あのヒュドラまで一頭撃破したんですか!? 更にもう二頭出てきたなんて……よく生きて帰られましたね」
「さすがに二頭まとめてはキツかったから、逃げるだけで精一杯だったけどな。あの場所は確かに一等級でも手出しすべきじゃない」
「このバジリスクの素材を回収しただけでも、充分な成果ですよ。それで以前お話した、山脈地のワーム討伐はお願いできますか?」
「実は今朝もシアンのパーティと合同で見てきてな。ワームは見つからなかったが、強力な魔獣が複数いた。しばらくはシアン達だけに調査を任せてはどうだろうか」
「それですと冒険者達の狩場が……」
「南のサバンナ地帯をなんとかする。あの未開拓地から強い魔獣が減れば、初心者でも多少は実戦に赴けるだろう。あと近日中にカンナディアにも行きたい。ミモザには世話になったのでな」
「かしこまりました。その辺りも含め、全てこちらで手配しておきます」
ここ最近実績を積み重ねたおかげか、ギルド職員は素直に提案を飲んでくれた。
それから一週間、俺のパーティは足繁くべレンズに通って、街と砂漠地帯との区間から脅威となる魔獣を排除していく。
セピアからこっちにも仲間の魔人がいて、バーゲストを街の方に追い立てていたと聞いてるけど、それが無ければ決して厳しい環境ではない。
スマルトとエクルが日増しに強くなっていく気がして、なんだか俺まで誇らしかった。
初期メンバーのシャルに至っては、もう背中を預けられる相棒と呼ぶに相応しい実力だし。
「シャルはまた腕を上げたな。複数の魔法の同時使用も、以前よりこなせてるじゃないか」
「はい! ショーマ様に魔力を回復して頂くようになってから、徐々にMPや魔力操作が向上していく実感があるんです♪」
「あー! ショーマちん、またシャルさんとキスするつもり!? エクルにもしてって言ってるじゃん!」
「しようとしてないし、最近はそこまで消耗させてないだろ。寝て回復する程度なら、いちいち俺に頼るな」
「うぅ……やっぱりショーマちんはシャルさんばっかり。エクルのことなんて嫌いなんだ……」
「そんなことは言ってねぇ。嫌いな奴とパーティ組むわけないだろ」
「やっぱショーマちん好き♪」
こんな調子で時間は経過し、遂にカンナディアギルドへと向かう日が訪れた。
次の交渉さえ上手くいけば、当面は亜人国と魔人族の領土争いを止められるかもしれない。




