表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/79

発現する新魔法

 バーガンディの攻撃を受けた獣人達は、力無く土壌の上に横たわりながらも、まだ僅かに息がある。


 しかし一番奥に投げ出されたシャルの体だけが、ピクリとも動かない。


 目を凝らすと、服も地面もおびただしい量の血液に染まっている。


 むくりと全身を起こして眺めた光景は、俺にとってまさに地獄そのものだった。



 なんとか意識を残していたスマルトが、消えそうな声で俺に状況を説明し始める。


 

「シャル……さんは、奴の手刀で……。す、すまない、ショーマ……」


「嘘だろ? おい、シャル。シャル!!」


 

 彼女の上半身と下半身は繋がっていない。


 溢れる鮮血の中に背骨や内臓らしき物も剥き出しになっていて、思わず目を覆いたくなった。




 ――またなのか。


 俺はまた大切な人の最期を見届けられず、失った後悔を抱き続けなきゃならないのか。


 父さんも母さんも、婆ちゃんまで、みんな俺の見てない所で勝手に死んだ。


 最後にどんな言葉を交わしたかも思い出せないくらい、突然遠くに行ってしまった。



 もう嫌だ。


 どうせ死ぬなら、せめて言いたい事を全部言い合って、そんで俺に看取られながら死んでくれ。


 勝手に俺の前から居なくなるな。




 俺はシャルの隣に膝を付き、地べたから綺麗な髪をすくい上げ、ゆっくり頭を抱きかかえた。

 


「シャル、ごめん! ホントにごめん!!」


「……ショ………マ……さ、ま」

 


 ほとんど閉じてる口から漏れるように俺の名前が呟かれ、心臓が飛び出しそうになった。


 そこで終わってしまわぬよう、俺は必死に呼び掛ける。

 


「シャル、待ってろ! すぐに治すから!」


「あー、人間、勝手なことしてんなよ。そもそも自分の傷も治してねぇのに、なんでてめぇはさっきから普通に動いてんだ?」


「今すぐ殺されたくなかったら、お前はそこで黙ってろ!」


「はー? ふざけ――」

 


 怒りを(あらわ)にして本気で睨み付けると、口を挟んできたバーガンディは目を見開いたまま黙り込んだ。



 俺はすぐにグローヒール(上級回復魔法)をシャルに使うが、切り離された肉体までは元に戻せないらしい。


 祈る思いで試したキュアー(修復魔法)も、まるで効き目がない。


 魔力の量でどうにかなる状態ではない。



 辛そうに呼吸をしている姿が見ていられないし、このままでは苦しめるだけかもしれないと諦めそうになったその時、脳裏を(よぎ)ったのは突拍子もない閃きだった。

 


「そうか、無いなら作ればいいのか。シャルの身体を再生させる、新たな魔法を……」

 


 ここへ来る道中に倒したヒュドラ(九頭龍)達の、頭部が復活していた仕組みは全く分からない。


 けれどあんな生物がこの世界には実在していて、魔力に肉体を作り直すほどの力があるのなら、その力を鮮明に思い浮かべて魔法で再現するのも可能なはず。



 ――再生……元に戻す……




リバースヒール(再生魔法)



 ふと思い浮かんだ言葉を魔力と共に発した途端、シャルの全身が(まばゆ)く輝き出した。


 真っ二つだった胴体が魔法の光に包み込まれ、骨や血管が繋がりながら、まっさらな皮膚で覆われていく。



 自分でも信じ難い現象を目の当たりにしているが、その間にも減り続ける自身のMP(マジックポイント)が、これを現実だと実感させた。


 

「………え? あれっ? ショーマ様??」

 


 つい今し方まで、俺の腕の中で瞼を塞いでいたシャルが、驚いた様子で起き上がって声を出す。


 その姿に心の底からホッとした。



 感じた事の無い充足感に、これまでの後悔すら薄れていく気がする。


 彼女を助けられて本当に良かった……

 


「ショーマ様、どうされましたか!?」


「ん? なにがだ?」


「いえ、頬に涙が……」


「あ、あぁ、さっきあいつに顔面を蹴られて、目の付近に当たったんだよ」


「だ、大丈夫ですか!? すぐに回復魔法をかけて下さい!」


「それより元気そうだな」


「あ……申し訳ありません、取り乱しました。死にかけだった私の命を、救って下さったのですね。本当にありがとうございます。ショーマ様にはどれだけ感謝してもし切れません」


「思いつきの魔法でシャルを助けられたなら、俺は運が良い」


「ショーマ様……私はショーマ様を心よりお慕いしております。そして、ショーマ様のことを誰よりも深く――」

 


 シャルが俺の頬に手を添えて、何か言いかけていると、一部始終眺めていたバーガンディがボソッと呟いた。

 


「んー……お前、一体何者なんだ?」


「それはどういう意味だ?」


「さっきの蹴りをまともに喰らって平然としてるのもそうだし、今の魔法だって人間離れし過ぎている。伝説に聞く(ドラゴン)の長や悪魔と同格かと疑うぜ」


「悪魔を知ってるのか?」

 


 口ごもったバーガンディはバツが悪そうにしながら、俺とシャルを交互に見回す。


 そして大きく溜め息を吐くと、片腕で戦闘の構えを取り始めた。

 


「まーなんだっていいや、まだ決着はついてねぇ。(セピア)を解放して欲しくば、ここで俺を倒してみせろ」


「言われずともそのつもりだ。俺の仲間達を傷付け、あまつさえシャルを殺しかけたお前を、俺は絶対に許さない。徹底的に痛め付けた後で、生き埋めか火炙りにしてやる」


「へっ、弱い者から死んでいくのが戦争だ。戦場での生き死にでブレる、てめぇみてーな甘い野郎は、ここでさっさとくたばっとけ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ