魔王軍四天王との対峙(2)
ミモザに誤爆しないよう、エミッションを小さく凝縮した弾丸にしたのが仇となった。
一撃で致命傷を与えるはずが、バーガンディの脇腹に当たった魔力の方が、あっさり弾かれてしまったのだ。
まさか二種類の強化魔法を、前もって重ね掛けしていたとは。
攻撃を喰らって機嫌を損ねた男は、ミモザから距離を取っている。
「あー、こうも外野が多いとダルいな。動ける奴だけ相手にすることにしたわ」
「は? なにを言ってんだお前――」
俺が訊いた直後、敵は突如腰を落として正拳突きの構えをしたかと思えば、広範囲に渡って拳を無数に繰り出す。
どこに障壁を張るべきか悩んで間に合わなかった俺は、シャルの風の加護に包まれて事なきを得た。
しかしミモザ以外の三人は後方に撥ね飛ばされ、地面に横たわったまま動かない。
「おい、シャル! スマルト、エクル! しっかりしろ!!」
「あー、まともに躱したのは剣持ったうさぎだけか。こりゃ拍子抜けだな」
先程奴が放ったのはただの拳圧。
命に別状はないと思うが、念の為早めに回復させておきたい。
だが魔人はそれを阻止しようと、こちらに睨みを利かせている。
この位置からなら移動もしないで、何をしているか悟られない内に届くだろうか。
地べたに手のひらを密着し、そこから魔力が広がるイメージを乗せた。
【サラウンド】
「あー? なんだそれ?」
首を傾げる魔人をよそに、自分の足下から後方の仲間までを囲ったタイミングで、俺は残りの全魔力を回復へと回す。
【グローヒール】
三人に魔法が届いたと感じた瞬間、バーガンディは俺に向けて拳を放った。
咄嗟に目を閉じて身体を強張らせるも、またもや風圧の中に守られている。
左後方に首を向けると、起き上がったばかりのシャルが腕を伸ばし、俺に向けて防御魔法を行使していた。
「ショーマ様、ご無事ですか!?」
「ありがとうシャル。この短時間に二度も助けられたな」
俺が感謝を述べたのとほぼ同時に、あとの二人もブツブツ言いながら体を起こす。
「いったたたぁ……なんなのもう? いきなりお腹をぶん殴られた感じがしたんだけど!」
「恐らくバーガンディの素振りよる衝撃波だろう。たまらず気絶していたが、ショーマに回復されてなんとか目が覚めた」
「スマルトもだったんだ……エクルも痛過ぎて意識飛んだし。四天王の力ヤバいねこれ」
「お前ら、意識が戻って早速で悪いが、ここから少し離れていてくれ。あいつの相手をするには、限界以上の集中力が必要になる」
人質にされかねない三人には下がってもらい、唯一対抗出来るミモザと二人で戦いに望む事にした。
シャルは迷わず俺を防御してくれたけど、またもたついてしまうのもごめんだし、怪我を負わせたくない。
バーガンディは納得してなさそうな顔をしたが、ミモザから仕掛けた途端に活き活きと動き始めた。
相当な戦闘狂だなあいつは……
「仲間をいたぶってくれた礼は、きっちり返させてもらうぞ」
「あー、その仲間に守られる程度の奴には興味ねぇよ」
戦いながらよそ見をして返答するとは、まだ余裕があるって事か。
俺は魔術剣を取り出し、高速移動で一気に距離を詰めた。
この刃が掠りでもすればダメージになるだろうに、何回振っても全く当たらない。
高速移動の連続使用で背後に回っても、無駄の無い動きで避けられてしまう。
俺は冷静さを欠き、だいぶムキになっていた。
「ショーマ殿、その愚直な動きではいくら疾くてもダメだ! 流れを捉えろ!」
「おい、強いお仲間がアドバイスくれてんぞ?」
「あぁ、しっかり聞いてるさ」
顔面を狙って斬り付けると同時に、魔術グローブの左拳で奴の腹部を打ち抜く。
ずっと剣の攻撃に意識を向けていた分、さすがの四天王でも反応出来ず、モロに拳骨がみぞおちにめり込んだ。
「くはぁっ!! てめぇ、やるじゃねーか!」
「ついでに腕は貰っておくぞ」
腹を抑えて疎かになった敵の左腕を、魔術剣で肩の下から一刀両断にする。
この並外れた斬れ味の前では、肉体強化されていようと無意味らしい。
大量の血が吹く痛々しい傷口を、バーガンディは躊躇無く握り潰して、強引に止血した。
「戦い方めちゃくちゃのクセに、やることえげつないな人間」
「能力強化はお前の専売特許じゃない。ただ武器振り回すばかりの、めちゃくちゃで予想も出来ない素人の動き、あんま舐めんじゃねぇぞ」
「意表を突かれたのは認めるさ。だがてめぇも俺を舐め過ぎだ」
頭から突っ込んできたかと思えば、躱した先に奴の蹴りが待っていた。
眉間にとてつもない衝撃が走り、体ごと宙に放り出されると、微かにミモザの呻きも耳に届く。
完全に油断した。
腕まで落として戦意を削げたと思ったのに、まるで逆効果だった。
背中から地面に叩き付けられ、立ち上がれずにいる所へ、追い討ちに来たバーガンディが右腕を振りかざしてくる。
【風の加護】
「ちぃっ、まーたてめぇかエルフ!」
風が攻撃を弾いた後、辺りからいくつもの悲鳴が聞こえてきた。
飛びかけた意識を戻して見回すと、その場には魔人しか立っていない。




