ラフィルの墓場(4)
「ショーマ殿、気をつけろ! 奴の頭は――」
「あぁ、知ってる。今も再生中だよ」
「まったく、計り知れないな君は。この道中の魔獣の数だけでも、初見の冒険者は大抵腰が引けてしまう。しかし君はヒュドラを前にしてもなお、未だにその落ち着きようとは……」
後を追って来たミモザは、見上げた先の巨大な怪物に鋭い眼差しを送っている。
何度もこの未開拓地に挑戦し、ようやく対面したボスクラスの相手だからだろう。
打倒したいという強い意志を感じられた。
だが時間を食って復活されても面倒なので、俺はサラウンドでヒュドラの周囲を取り囲み、地面に手を着いて全魔力のエミッションを発動させた。
囲いの内部が放出された魔力で埋め尽くされ、上方へと噴き上げながら、ヒュドラを削り散らしていく――
「な、なんだこれは……!? ショーマ殿、一体何をしたんだ?」
「さっき霧を吹き飛ばした魔術と同じだ。今のがこの技の最高火力だけどな」
「こんな魔術は見たことが……。すまない、私は君を侮っていたようだ」
「今はそれで構わないさ」
この力がもし、与えられただけのモノでなければ、ミモザの前でもっと胸を張れたのだろう。
シャル達が追い付いたのでさっきの出来事を説明し、いよいよ本来の目的に迫る。
「シャル、魔力は感知出来そうか?」
「いえ、まだ瘴気の量に変化は無く、それに隠されている状態です」
「やっぱりか。つまりこの一帯の空気感は、ヒュドラが原因ではなかったってことだ」
「でもショーマちん、四天王の城をヒュドラが守ってたなら、この近くなんじゃない?」
「そう思って周辺を見ているのだが、一向にそれらしい建造物が見当たらない。もっと北、もしくは東方面かもしれん」
地図で見た限りでは、この未開拓地は北東に進むにつれて膨らむ地形だった。
東に真っ直ぐ行けば、最終的にブラウニー達の山にぶつかるが、それより北側は相当広いはず。
俺達は北東方面に歩き出し、四天王を探した。
草木を掻き分けながら警戒心を解かないスマルトも、見回す事に疲れたような声を出す。
「かれこれ三十分以上経つが、まだそれらしい物は見えないのかショーマ?」
「あぁ、城っぽいのはないな。白っぽいのは見えてきてしまったが」
「しろっぽい?? 分かりにくいからハッキリ言ってくれ」
「また霧だよ。どうやらヒュドラは一頭ではなかったらしい」
「なんだと!? あんな化け物が複数いるのか!?」
二キロくらい先に映る、先程と同じ白い霧。
しかし今回はまだ距離がある。
これなら事前に対処出来るかもしれない。
「シャル、強力な風魔法を右前方に頼む。俺は左側にエミッションをぶっ放す」
「はい、わかりました――」
【ハリケーン】
シャルはすでに肉眼で捉えているのだろう。
正確無比な風魔法と、馬鹿でかいだけの魔力放射が、遥か前方の濃霧を吹き飛ばしていく。
その奥には二頭のヒュドラが待ち構えていた。
「これは悪い夢か……? 私の目が節穴でなければ、大きな影が二つ見えるのだが……」
「見えてるまんまだよミモザ。――シャル、俺は奴らの足下に潜り込むから、魔法で援護してくれ」
「わかりました! お任せ下さい!」
俺はその場でハーミットで気配を消し、クイックムーブを連発する。
八回使ったところで、目と鼻の先にいるヒュドラ達を見上げると、複数の頭を別々に動かして獲物を探していた。
向かって右側は無傷だが、左側の奴は首が三つ機能していない。
俺のエミッションが掠って抉れたのだろう。
背後からサラウンドを発動し、二体を同時に射程内へと取り込んだ。
「図体がデカくて、これだけでも結構魔力を持っていかれるな。だが幸運なことに、俺には有り余っている!」
半径百メートル程の大きな円の中に、再度ありったけの魔力を放出。
直前にヒュドラがブレスを吐いていたけど、シャルがしっかり対処してくれた。
焼けるでもなく、ただ地面から迫り上がってくる魔力に抗えないまま、怪物達は無惨にも圧力に押し潰されていく。
光とも物体とも違うこの変換前の魔力とは、本当になんなのだろうか。
改めてこの魔術のすごさと、得体の知れなさを実感してる頃、エクルの高い声が耳に届いた。
スマルトとミモザも騒いでいるらしい。
「ショーマちん! 今の攻撃、地震かと思ってびっくりしたよ! めっちゃ揺れたんだよ!?」
「俺はもう、ヒュドラよりも君の方が恐ろしい」
「スマルトの言う通りだ。ショーマ殿には何度驚かされても慣れる気がしないよ」
「あのさ、どうでもいいけどお前ら、三人揃ってシャルを置いてくるなよ……」
元々の身体能力が高い獣人達の上、何故かスピードに特化した連中ばかりだから、さすがにシャルが気の毒になる。
心配して、来た道の方を眺めていると、エクルが俺の後方を指差して、耳をパタパタさせ始めた。
「ちょっとみんな、あれなんだろう……? 家にしては小さ過ぎるし、変な形してる」




