ラフィルの墓場(3)
林の深部でミモザに出会し、彼女の素性について訊いてみた。
スマルトがまだ駆け出しだった頃、ミモザはすでに剣士としての頭角を現していて、エクルが合流する以前のパーティと共闘した事があるとか。
それからカンナディアギルドで成果を出し続け、一年程前に一等級へと昇級する。
一等級になる条件として、単独で龍を撃破した実績が必要になるが、彼女もまた剣の腕でそれを成し得たのだ。
しかも俺の実績となったワームより強そうな獲物を討伐して。
「私が倒したジルニトラは、魔法を得意とする龍でな。鱗の強度が低めで、貫通し易かったのが幸いしたよ」
「魔法を使うのか。俺が討伐したワームなんて、ただ単に図体がデカいだけだった」
「いや、ワームこそ大人数で挑むべき相手だろう。ショーマ殿の破壊力は桁違いなのだな」
「魔術に関してだけはな。――それよりミモザ、あんたはこの後仲間の下に帰るのか?」
「そのつもりだったが、ここで君達と出会ったのもなにかの縁。ジェード殿の無念を晴らす為にも、私を同行させて欲しい」
シャルとスマルトはその頼みを快諾したけど、エクルだけは不服らしい。
口をムッと噤んで、ジトーっとした目でミモザを睨んでいる。
「エクル、言いたいことがあるなら口に出せ」
「だってぇ……なんかエクルとキャラ被ってるじゃん。うさ耳で近接戦闘派で、外見が良いとこまで」
「お前の上位互換が加わるみたいで嫌なのか?」
「上位互換ってなにさ! エクルの方が耳も胸も大きいし、顔だって可愛いもんねー!」
「全て戦闘には関係無いな。第一ミモザはキリッとしたキレイめなタイプだし、お子ちゃまなエクルより男ウケするんじゃないか?」
「ショーマちん、キライ!!」
「ショーマ様……その言い方だと、さすがにエクルさんが可哀想ですよ」
エクルはあからさまに拗ねてしまい、シャルが姉のように宥めていた。
もちろん一人の嫉妬とわがままで、美味しい話を棒に振ったりはしない。
そのまま未開拓地の奥へと潜り込み、ミモザを加えたありがたみが身に染みていた。
彼女は紋章の身体強化だけで、俺でさえ捉えるのが難しい速度で移動し、魔獣を即座に撃破してくれる。
深くなるほど敵の数が増えているものの、移動効率は格段に上がった。
仲間も守り易くなるし、この戦力は本当に頼もしい。
「なるほど。ヒュドラの幻惑ブレスか」
「えぇ。ジェード殿はそれで恐怖を植え付けられ、ここに踏み入れなくなったと聞く。そうでなければ、あの方が臆するなんてとても考えられない」
「ジェードとはそれほどの男なのか?」
「当然だ。彼の槍は天空の雲さえ貫き、上級魔法をもひと振りで薙ぎ払う。人類種であの方に並ぶ強者など、私の知る限りでは一人もいないよ」
ミモザから最強の冒険者と謳われるジェードの話を聞いていた時、急に千里眼で前方が認識出来なくなる。
こちらに流れてくる濃い霧が視界を遮るという事は、あれは恐らく魔力攻撃だ。
自然発生する霧であれば、その内部が見えないはずがない。
すかさずエミッションで振り払おうとすると、霧が渦巻いて逆に範囲が広がってしまった。
その途端ミモザが大声を出す。
「あの白い霧は――…まずい! これはヒュドラのブレスだ!! 毒か幻惑の可能性が高いぞ!」
「全ては打ち消せない。シャル、練習してたあの魔法はいけそうか!?」
「はい、短時間でしたらなんとかなります――」
【風神の加護】
風の加護の上位版に当たるこの防御魔法は、周囲一帯を暴風で包み込み、あらゆる魔力や物理衝撃から内側を保護する。
砂漠にいた頃から練習していたけど、ここに来て形になったみたいだ。
外の霧は気流に呑まれて、四方八方へと拡散している。
しばらく経てば千里眼も元通り機能するだろう。
しかし付け焼き刃では上手くいかず、シャルがしんどそうに声を出す。
「ショーマ様、申し訳ありません! 魔力操作が難しく、もう限界です……!」
「くっ、これはやむを得ない。すまんシャル!」
シャルのMPが尽きる直前、俺は彼女と唇を重ねた。
回復したシャルは防御を維持し、俺はキスの状態を維持している。
このままでも千里眼は使えるが、エクルの視線がものすごく突き刺さってくるんだが……
モヤだらけだった視界がようやく晴れていき、北東一キロくらい先に大きな影が映る。
俺はシャルから口を離し、特大のエミッションを放った。
「やったのかショーマ!?」
「いや、掠っただけだな。敵は左にズレてる」
「ねぇショーマちん、なんでシャルさんにキスしたの? 今のなに??」
「詳しい説明は後だエクル。俺は先にヒュドラを倒しに行く」
逃げるように高速移動を使い、影の方へと急いだ。
まだ敵の周りはブレスが効いてるらしく、ハッキリとはその姿が映らないけど、もう後戻りは不可能。
次のブレスが放たれる前に、なんとしても仕留めなければ。
俺は細かくエミッションを連発して、敵の頭部が消し飛んでいる事を願った。
「なんだこりゃ……気持ち悪いな」
数十メートル手前から見えた本体は、さながら特撮物に出てくる大怪獣のよう。
破壊された七本の首がモゾモゾとうねりながら再生し、残りの二本で俺を睨みつけている。
三階建ての一軒家よりデカそうな巨体だ。




