ラフィルの墓場(2)
木の葉が風に揺られている音か、はたまた魔獣達が這いずり回る音か……
湿気が多く、枝葉が鬱蒼と生い茂る密林の各所には、獲物を狙う魔獣が大量に潜んでいる。
水流の響きに紛れる環境音の中から、確かにそんなざわめきが聞こえてくるのだ。
魔獣の数が多いとは聞いていたけど、間違い無くこれまでの未開拓地とは異質。
ネビュラで感じた不気味さを生臭くしたような、毒々しい魔力が肌を通して伝わってくる。
行った事は無いけど、アマゾンを内部から味わうとこんな空気なのだろうか。
千里眼を使い出来るだけ敵の居所を把握しようとしていると、背後から物憂げな声が届いた。
「ショーマ様、申し訳ありません。私はここではあまりお役に立てないかもしれません」
「どういう意味だシャル?」
「結界に近い濃い瘴気が漂っていまして、周囲の魔族が発する魔力をほとんど感じ取れません」
「それだったら想定内だ。シャルはそれ以外にも充分に貢献出来るから、弱気になる必要はない」
「ショーマ様……。――はい! 頑張ります!」
シャルが気を取り直したところで、横からエクルが水を差すようなひと言を発する。
「でもさぁ〜、音も魔力も全然拾えないんじゃ、一体なにが分かるの?」
「少なくとも、視覚や嗅覚に優れた敵が多いだろうことは予想できる。あとはそう……温度とかだな」
「ん? 温度?」
うさ耳が傾いたその瞬間、木の影からエクルに襲い掛かった細長い魔物は、俺の魔術剣で首を落とされた。
「ぎゃっ!! でっかいヘビ!??」
「蛇には熱を感知する器官を持つ種類がいる。ボサっとしてると、自慢の耳をもぎ取られるぞ」
「ちょっ、気付いてたなら言ってよショーマちん! めっちゃ怖かったじゃん!!」
「とにかく慎重に進む。千里眼で近場の魔獣を把握しないと、不意打ちを喰らうからな」
「存在に気付いていたとは言え、さすがショーマだな。俺がスパークを使っても今の反応はできん」
「待ち伏せしてたつもりが、逆に俺から待ち構えられていたんだ。当然の結果だろ」
次々に飛び出してくる魔獣は、蛇やトカゲ、虫に似た形の奴ばかりで、熱帯雨林の雰囲気にはマッチしている。
やはりこの異世界の生物も、地球の生物と酷似した生態があるらしい。
体の大きさや禍々しさは、完全に別物だけどな。
スマルトは得意の剣技で敵を斬り、シャルも腕輪の感覚強化で上手く立ち回っていた。
うさ耳娘は蛇が苦手なのか、ずっと縮こまってるけど。
「あ〜あ。ショーマちんとスマルトは強力な武器を持ってるし、シャルさんの腕輪も超優秀。なのにエクルだけ魔術グローブだもんなぁ〜」
「グローブだって使えるじゃないか。特に肉弾戦メインのお前には、ある意味理想的な装備だろ?」
「でもヘビなんて触れないもん……」
「この前の収入でなんか買っとけよ。金も時間もあっただろ?」
「なんか買っとけって、ショーマちんもスマルトも、エクルの買い物に付き合ってくれなかったじゃん!」
「バカ、大声を出すな」
エクルのぼやきに反応したのか、正面側の地面からむくりと起き上がったのは、緑色をした巨大な蛇型の魔獣だった。
何かいる気はしてたけど、遠目には苔と見分けがつかなかったのだ。
馬を余裕で丸呑み出来そうな大きな顎と、十メートルを優に超える長い胴体。
ドレイクどころかワイバーンと同じくらい全長がありそうだな。
エミッションを発動しようと右手を掲げると、更に奥の方から女性の高い声が響いてきた。
「そいつから離れろ! 電撃を喰らうぞ!」
集中力がそちらに逸れた隙に、蛇は攻撃の体勢に入る。
鱗に覆われた尻尾を地面に突き立て、そこに魔力を流そうとしているらしい。
しかし敵の尾は瞬時に切断され、じたばたと悶え始めた。
斬ったのは林の奥から来た女だ。
「とりあえず楽になっとけ」
俺は苦しむ蛇をエミッションで消し飛ばし、ゆっくり視線を移動させる。
そこに立つ獣人の女は、エクルよりも小さめのうさ耳を持ち、レイピアに似た剣を携えた冒険者のようだ。
「あ、あなたは……ミモザさん!」
「久しいなスマルトよ。君のパーティはずいぶんと様変わりしたようだが――…そうか、そこの彼が四人目の一等級冒険者か」
「その口振りだと、あんたも一等級らしいな。こんな所に単身とは、なにかワケありか?」
「恥ずかしながら、二等級ばかりで揃っていた私のパーティが、この奥で半数近く瀕死に陥ってしまってな。私がしんがりを務め、先程逃がしたところだ」
「リーダー自らしんがりだと? 他の奴では時間稼ぎすらままならない敵か?」
「今君が倒したバジリスクが二頭と、取り巻きの毒蛇が数十匹いたんだ。私一人で庇う者がいない状況なら、自由に斬り刻めたよ」
聞くところによるとこのミモザと言う女、クリミナ最速の女騎士と呼ばれているらしい。
シアン以上に強い連中が束になるより、単独での戦果が高いとは、さすが伝説級冒険者だ。




