ラフィルの墓場(1)
「シャルトルーズさん、おめでとうございます。今日からあなたは三等級冒険者です」
「やったなシャル。とりあえずシアンには並んだぞ」
「はい! 一流の称号を頂けました♪」
「僕としては、最初からシャルさんを別格としか見てないけどね」
「相変わらず謙虚だなシアンは」
砂漠の未開拓地から帰還して丸三日。
ギルドから昇級審査が済んだとの報告があり、こうしてキサラディに馳せ参じている。
サラマンダーやバーゲストを単独討伐した実績が認められ、シャルは三等級まで一気に駆け上がった。
もうスマルトやエクルの方が格下である。
とは言え、シャルの実力であれば妥当なのだが。
「続きましてショーマさん。あなたが今回成し遂げた偉業は、過去に類を見ません。よって現在国内に三人しかいない伝説級――一等級冒険者へと昇級になります。おめでとうございます。ギルドとしても鼻が高い思いですよ」
ギルド職員からの表彰に、この場は盛大に湧き上がった。
想定はしていたが、まさかこんなにあっさりと最高ランクの冒険者になれてしまうとは。
「ガーッハッハッハッ! ショーマよ、お主ついに伝説級になりおったか! まぁ存在そのものが規格外だし、もう笑いしか出ないわい!」
「アンバー、お前はどんな時でも笑ってるだろうが。特別みたいな言い方をするな」
「ガッハッハッ! 確かにそうじゃのう!」
「おめでとうございますショーマ様。私も自分のことのように嬉しいです♪」
先程の自身の昇級より、むしろ今のシャルの方が嬉しそうな笑顔をしている。
そんなに喜んでくれるのなら、冒険者になった甲斐があったってもんだ。
持ち込んでおいた素材も買取屋に回され、合計でワイバーンの倍くらいの金額になってしまったから、正直これの重圧が一番酷い。
四等分しても三億円相当って……。
腰を抜かすスマルト達に無理やり分配し、ミィにも色々買ってはみたけど、あまり金品に執着が無さそうだった。
それから五日後。
一等級冒険者率いるパーティという事もあり、ラフィルの墓場への遠征が無事に決行された。
前回の砂漠探索で、ミィは魔法に優れていても体力的には子どものそれだと痛感したので、今回はアンリに任せて留守番させている。
ラフィル川までは迂回する必要があり、道に詳しい御者に馬車で近くの村まで乗せてもらった。
そして現在、馬を降りた俺達は断崖絶壁の一歩手前にいる。
俺の脳内はデジャブっていた。
「……この川にも橋が無いのか。しかも崖とは」
「結構高いねー。飛び越えるにはちょっと遠いかな? ショーマちん、どーする?」
「目測で三十メートルくらいか。飛べそうだけど谷底は深いし、大事をとっていくか」
下の流れは轟音を轟かせるほどに激しい。
俺は近くにあった太い木を魔術剣で切り倒し、強引に転がして位置を固定した。
その場所から、短剣を伸ばすのに使っていた魔術を応用し、大木を対面側の崖まで徐々に延長させる。
これで川に簡易的な橋が架かるのだ。
我ながら魔力操作と魔術スキルの上達っぷりに、しみじみと感心してしまう。
「ショーマ、この不思議な現象も魔術なのか……?」
「あぁ、間違いなく魔術だ。しかしこれは止めると一気に縮んでしまう。早めに渡ってくれスマルト」
「そうだったのか。それで伸び続けて――」
「駄弁はいいから早く行けって!」
シャルとエクルがさっさと木の上を渡る中、俺以上に感心していたスマルトを叱咤して、ようやく全員が向こう岸に辿り着いた。
「そんじゃ、今の跳躍力はどんなもんかな」
気合を入れながら木に使った魔術を止め、後方に距離を取る。
自分が登ってもう一度木を伸ばすのもありなんだが、それではあまりにもつまらない。
どうせなら自分の足で飛び越えてみたい。
そんな好奇心から助走をつけ、全力で地面を蹴った。
「しょ、ショーマ様! どこまで行かれるのですか!?」
「ショーマちんヤバー!」
高々と舞い上がった俺の身体は、谷は疎か、仲間達の頭上すら軽く通り越している。
着地点まで五十メートルは跳んだだろうか。
湧き上がる高揚感に、自然と笑みが溢れていた。
「ショーマ様、ご無事でしょうか!?」
「あぁ、なんともないぞ。ちょっとばかし張り切り過ぎただけだ」
「そうでしたか。安心しました」
「さてと、ここからは正真正銘の未開拓地だ。全員、気を引き締めておけよ」
「ショーマちんがそれ言う? 一番浮かれてんじゃないのー?」
「エクルの言う通りだな。今のは俺自身に言い聞かせたセリフだと思ってくれ」
「めっちゃ素直じゃん。どしたのショーマちん? 本気モードってやつ?」
「お前と話してると、なんか落ち着くよ」
「えー、エクルに惚れちゃダメだよ〜?」
「そういうアホさに、力みが和らぐんだろう」
うさ耳生やしてるクセに喋り方とか価値観的なものが、妙に現代日本の若者っぽいんだよな。
シャルやスマルト、シアン達に至るまで、他の親しい連中はどこか俺の知る常識とはズレている。
そこが異世界らしくて良いのに、結局馴染み深さにまどろむ心が受け入れ難い。
そんな胸の内を秘めたまま先頭を歩く俺は、正面の林を千里眼で入念に調べ、すぐに墓場と呼ばれる所以に気付き始める。




