作戦会議とインターバル
次の目的地を見据えた俺は、早速下の階に降りて、ギルドの職員に遠征の手配を持ち掛けた。
ラフィル川はリノス地方とルイース地方の北側を沿うように流れており、ルイース地方にあるキサラディ所属の冒険者も行けなくはない。
ただしリノス地方を管轄するカンナディアギルドに話を通さねばならず、多少時間を要するとのこと。
どうもこのカンナディアという街がクリミナの首都であり、そこのギルドが最も強い戦力を保持している為、ラフィル周辺も任せきりだったそうだ。
ギルド職員は怪訝そうな表情で、何度も確認してくる。
「本当にショーマさんのパーティで、ラフィルの墓場に向かわれるのですか?」
「そのつもりだ。ギルド的には不都合か?」
「いえ、あの場所はカンナディアの一等級冒険者でさえ、開拓を断念した過去があります。我がギルドの貴重な主戦力であるあなた方を、出来ればそこで失いたくはありません」
「断念した理由はなんだ? そこに四天王がいる可能性がある以上、優先して調査すべきだと考えているし、死ぬ予定も無い」
「この国最強の伝説級冒険者であるジェード氏が、去年までラフィル攻略に尽力されてました。しかしヒュドラに遭遇したのを最後に、近付くことさえ拒むようになりまして……」
ヒュドラという名称には聞き覚えがある。
確か九つの頭を持つ蛇や龍として登場する、ファンタジー定番のモンスターだ。
この世界でどんな存在なのか定かではないが、職員の語る内容と重苦しい声色から察するに、上位魔獣の中でも危険な扱いなのだろう。
スマルトも見るからに顔面蒼白してるし。
当然俺は遠征の意向を変えず、手配を進めるよう頼んでギルドを後にした。
素直過ぎる性格のエクルは、俺の強い姿勢が崩れない事に安心した為か、相変わらずのお気楽な疑問を口走っている。
「ヒュドラは海から来るって、モートリアにいる時に聞いたことあったよー? やっぱりラフィルのも泳いで来たのかな?」
「さぁ、どうだろうな。魔獣の大軍勢に比べれば、蛇一体の方が掃除するにもラクだろ」
「ショーマちん余裕だねー。――あ、シャルさんが来てるよ! おーい、シャルさーん♪」
エクルが手を振った先には、こちらに気付いて駆け寄ってくるシャル。
オフの日だとスカートを好むのか、今日も一段とフェミニンな格好をしているし、なにより手に持った編みカゴが良く似合う。
場の空気が瞬時に和むなこれは。
「みなさんお揃いだったのですね。遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
「休んでいても良かったんだぞ? だがまぁちょうどいい。シャルにも話があったんだ」
「それでしたら、あの……お弁当を作ってきたので、食べながらお話ししませんか?」
「なに? まさかそれを作る為に……?」
頬を軽く赤らめたシャルは、恥ずかしさを隠すようにカゴを持ち上げる。
まるでピクニック気分だけど、近くの野原に全員で腰を下ろした。
そしてシャルお手製のサンドイッチを食べながら、ギルドでの出来事を包み隠さず伝えた。
「ラフィルの墓場ですか……。いやに物騒な呼び名ですけど、そこにセピアさんが囚われている可能性があるのでしたら、私も行くしかないと思います」
「俺とエクルも同意見なんだが、スマルトだけが一向に乗り気にならなくてな」
「あのヒュドラだぞ!? 龍族でも上位の化け物だ。ショーマはヒュドラを知らないんじゃないのか!?」
「毒を吐き、再生する九つの頭部を持つ龍じゃないのか?」
「な……そこまで知っていたのか」
「伝承に聞く程度の知識だ。再生するとは言え、相手も生物。全身を一気に消滅させられれば、さすがに息絶えるだろう」
訝しげな顔をしていたスマルトは、少しだけ普段の冷静さを取り戻し、質問を続ける。
「そんなことが可能なのか?」
「敵のサイズにもよるが、砂漠で見せたサラウンドがある。あれで全体を囲ってそこにエミッションを撃ち込めば、上空に向かって円柱状の魔力が放出され、敵を包み込めるはず」
「なるほどな。ショーマにはヒュドラに勝てる見込みがあるのか」
「問題はその後だ。その奥にいる魔人は、魔法や魔術にも対応してくるかもしれん。なにせ四天王と呼ばれる奴だからな」
「考えたくはないですが、ヒュドラも従わせている可能性がありますね」
「その通りだシャル。ヒュドラに外敵から守らせている、もしくは襲われないだけの力があって、その場を根城としているのだろう」
「うーん、もうヒュドラより魔人の四天王の方が怖いじゃん。セピアさん大丈夫かなぁ」
ボルドーに利用価値がある内は、セピアを殺したりは出来ない。
ボルドーに限ってセピアを見捨てはしないと思うけど、万が一片方が死んだ場合はもう片方も殺されるというのは、たぶん考え過ぎではない。
東の四天王バーガンディ。
一体どれほどの実力者なのか。
「伝説級冒険者が臆する強敵に挑むのか……。今から武者震いが止まらないな」
「スマルト、それ武者震いじゃなくて、怖くてブルってるだけでしょ?」
「エクル……君は顔を立てるという言葉を知らないのか? 俺にも格好つけさせてくれ」
「エクルはね、そのままのスマルトでいいと思うよ! ずっと頑張ってきたじゃん♪」




