新パーティ初遠征(3)
「すまないシャル。やっぱり俺とキスするなんて、ずっと我慢させてたんだよな」
「えっ!? いえ、我慢して下さってたのはショーマ様です。ショーマ様にとっては取るに足らないことかもしれませんが、作業的なのに私だけというのが腑に落ちなくて……」
「待ってくれ、それは誤解だ。全然作業的なんかじゃない。むしろ毎回緊張してるんだが」
「それはやはり嫌な気持ちを押し殺して――」
「だから違うって! シャルのことは本当に大切に想ってるから、どうしても意識してしまうんだよ。でも意識しないからって誰にでもキスするような、そんな軽い男でもないからな!?」
涙をボロボロ零していたシャルが、急に顔を真っ赤にして目を逸らした。
しかしその反応は、怒りや気味が悪いといったものではなさそう。
というか口元が緩んでいる気がする。
「えっと……今度はどうした?」
「……申し訳ありません! 私が勝手に勘違いして、酷い態度をとってしまいました!」
「酷い態度? 身に覚えがないぞ?」
「とにかく、ショーマ様が私を大切に想って下さり、口付けという手段が取れるのも私だけだと分かったので、もう大丈夫です!」
「そ、そうか。じゃあ戻ろうか」
なんか誤解されてる気がするけど、シャルを特別だと感じているのは違いないから、まぁいい。
その後もう一度エクルとスマルトとはMP回復の件で話し合い、注射器で採血するのと同じ感覚だと強引に言いくるめた。
それから三日間、途中で見つけた川に沿ってひたすら南へと進んでいる。
出現する魔獣はどんどん強くなり、見慣れない大サソリや猿に似た怪物もいたが、メンバー達と難なく撃破した。
それ以上に厄介なのはこの気候。
暑さで疲弊した肉体をヒールでなんとか誤魔化しつつ、エクルの魔術で水を冷やして幾らか凌いでいる状態。
終わりの見えない砂の地平線は、俺達全員に絶望感に近い感情を抱かせた。
「ミィ、熱中症になってないよな?」
「んー、平気。あつーい。でも、頑張る」
「もう少ししたら休憩しような。――それにしてもエクルの獣化は、いつ見ても弱そうだよなぁ。手脚がもふもふしただけじゃないか」
「し、失礼な! 獣化前とは比べ物にならない強さで、パンチやキックが打てるんだよ! ショーマちんに喰らわ――って、スマルト危ない!」
【アクアスフィア】
会話中に血相を変えて走り出したエクルは、スマルトを庇うように突き飛ばし、魔法を発動させる。
その魔法は球状の水を作り出すもので、人ひとりがすっぽり埋まりそうなサイズにも関わらず、みるみる蒸発していく。
原因はその奥から放たれる炎のブレスだった。
ギリギリで難を逃れたスマルトが、エクルの背後で慌ただしく声を上げる。
「な、なんだあのトカゲは!?」
「あれはサラマンダー! いいからスマルトは早く離れて! もう保たない!」
水の塊はあっという間に消滅し、燃え盛る炎がエクルに襲いかかる。
間一髪躱したかに見えたものの、掠めた右腕に大火傷を負っていた。
俺はすかさずグローヒールで治したが、一歩間違えれば灰になり治癒も効かなかっただろう。
他の魔獣に比べて、一メートルくらいしかない小さな体のくせに、あのサラマンダーというトカゲは相当な魔力を持っているな。
俺は全員を押し退けて最前線に立ち、大きめの声で指示を飛ばした。
「シャル、みんなと離れた場所に避難しててくれ。こいつは俺が相手をする」
「わかりました! どうかお気を付け下さい!」
「ショーマちん! そいつは怒ると全身が超高温になって、金属も溶かしちゃうの! 絶対に直接殴ったりしたらダメだよ!?」
「そりゃ厄介だ。尚更斬りたくなってきた」
硬そうな鱗だけど、ワイバーンより硬くはないはず。
おそらくエミッションを放てば、一瞬にして終わってしまうのだ。
それより今は接近戦を練習したい。
先日からスマルトに色々と教わってるし、魔人を殺した時よりは剣術らしくなっている。
俺は魔術剣を取り出し、光の刃を顕現させた。
「この剣は熱じゃどうにもならないぞ?」
危険を察知したサラマンダーが再度火を吹くと同時に、俺は高速移動で避けながら敵の背後を取る。
そのまま首を狙うと、あっさりと胴体から切り離された。
あらためて魔術剣の斬れ味が恐ろしい。
「見事だショーマ。今の居合を模した剣撃、目にも止まらぬ速度で驚いたぞ」
「どうも最近筋力が増してる気がしてな。身体強化だけでかなり動けるんだ」
「そうなのか? 体格に優れない俺としては、ショーマの筋肉質な体が羨ましい限りだ。それでいてエクルと同じ魔法も使えるのだから、もう十二分に近接戦闘向きだろう」
この世界に来る以前まで大した運動もしていなかった俺が、今や冒険者にさえ羨まれる恵体か。
身長はシャルと大差ないとは言え、スマルトの四肢も結構逞しく思えるけど。
結局のところ、悪魔に変質されたこの身体はどこまで常識を外れ、何を可能とするのだろうか。




