新パーティ初遠征(2)
砂漠の未開拓地に踏み入ったところ、日が傾き始めた頃から魔獣の動きが活発化していたので、約二時間ほどでその日の探索は終わりにした。
テントを構え、交代で見張りをしながら休むというのは、これぞ冒険といった気分になる。
「エクル、テント張る時に魔術を使ってたよな? あれはどんな種類だったんだ?」
「あー、杭を刺した時? あれは簡単な重力魔術を使ったんだよー。ショーマちん知らない?」
「重力魔術? そんなのあるのか?」
「うん。さっきのは半径十センチの範囲だけ重力を高めて、杭を砂の中にめり込ませたの。戦いに使える威力じゃないけどね〜」
金槌も使わず固定してると思ったら、そんな便利な方法に頼っていたのか。
部分的に重力を強められるなら、魔力量と技術次第で効果範囲は広がりそうだな。
今度教わろう。
その晩は何事も無く過ぎ去り、強烈な日差しの照りつける朝を迎えた。
夜は涼しかったのだが、砂漠の気候は日中が非常に厳しい。
朝日で一気に気温が上がっていき、昼の炎天下にはあまり動けないだろう。
午前中の内に出来るだけ探索を進めようと、立ちはだかる敵をバッサバッサと薙ぎ払いながら、移動ペースを上げた。
「スマルト、左のオーク共は任せた。エクルもガルム二頭くらいはいけるよな?」
「もち! 右側はエクルがもらうよ!」
「よし。シャル、正面から向かってくるケンタウロスの群れを一掃するぞ」
「わかりました――」
【ハリケーン】
シャルは両手を正面に掲げると、水平方向に進む竜巻を発生させる。
巻き込まれた魔獣達は次々に上空へと打ち上げられ、落下した時には気絶、もしくは絶命していた。
これで中級風魔法の派生系だと言うのだから、魔導師としての格の違いを見せつけられる。
息がある奴はエアカッターで片っ端から首を刈り取り、その様子はまさに仕事人と呼ぶに相応しい。
スマルトも目を見張りながら称賛を送っている。
「シャルさんは凄まじいな。魔法に長けたエルフと言えど、ここまでの使い手は聞いたことがない。さすがショーマの相棒だな」
「スマルトの剣術も、俺から見れば充分凄まじいけどな。――しかし本当にすごい魔法だったよ。魔力消費も大きかったんじゃないか?」
「私は大丈夫です。それよりショーマ様、先程エクルさんもたくさんの魔力を使ってましたよ」
「それもそうだな。エクル、MPはどうだ?」
「んー、連戦だったからちょい心許ないかも」
「そうか。――ほれ、今度は指を使えよ?」
「ねぇショーマちん、毎回そうやって腕切るんだよね? 痛くないの?」
「ヒールを使うから問題ない。すぐに治る」
「治るとしても、痛いもんは痛いじゃん」
渋い顔のまま同情してくるエクルは、申し訳ないけど少々面倒だ。
シャルの時は別の手を伝えたが、こいつには絶対に言えない。
お互いの為にも、姿勢を一切崩さずに嘘を吐いた。
「痛みはあるが他に方法が無い。仲間達と常に万全の状態で戦う為だし、そこは深く考えなくていい」
「今回は切っちゃったからしょーがないけど、次からはMPポーション飲むよ。ポーション無くなった時の最終手段ってことにしよ?」
「それはダメだ。万が一俺が死んだ時、お前達だけで帰るのにポーションは必要不可欠になる。最終手段はポーションの方だ」
一時の痛みを避けて、生きるか死ぬかの戦場に妥協案を持ち込むわけにはいかない。
俺の傷はすぐに治せるんだから、この方法は誰にとってもリスクが薄いはずだ。
だがミィ以外の三人が表情を曇らせ、何か物言いたげに俺を見ている。
声を出したのはエクルだった。
「ショーマちんがみんなの為を思ってるのは分かってる。だけどこのやり方はなんか、優しくないよ。こっちが迷惑掛けてる気持ちになるの」
「それは思い過ごしだ。俺はお前達を失いたくないし、お前達は一緒に戦ってくれる。それだけで多少の痛みを耐えるには充分な理由なんだよ」
「ですがショーマ様、それならいっそ――」
「シャルはちょっとこっちへ来い」
昨日あれだけ説明したのに、まだあの方法をバラそうとしたかったらしい。
そんなシャルの発言を遮りつつ、彼女の減ったMPを取り戻す為、離れた場所に連れて行った。
「ショーマ様、なぜこんな所まで……?」
「余計なことを吹き込ませない為と、シャルのMPを回復させる為だ。キスによる回復は、他の奴には使わないと言っただろ?」
「ですからなぜ私には出来るのですか? 私が便利な魔法を使える、勝手が効く道具だからですか?」
「なにとち狂ったことを言ってるんだ? 俺はシャルを道具だと思ったことなんて一度もない。危ない目に遭わせたくないから、可能な限りのサポートをしてるんだ」
「昨日ショーマ様は、私が血を拒むからキスにしただけとおっしゃいました。あれではまるで、ただ機械的に役目を果たしてるだけみたいじゃないですか! それなのに私だけって……ショーマ様の心理が分かりません!」
今回シャルが泣いている理由はどこにある?
俺のなにが彼女を悲しませ、俺自身もこんなモヤモヤした気持ちになっているのだろう。
考えても答えは見つからず、その物憂げな瞳に言い様のない罪悪感が芽生えるのであった。




