ほつれ始めた陰謀
魔石について俺が知ってるのは、未開拓地の深部で魔力を発生させている石だという事。
なんでも太古の時代に地殻から突如出現したそうで、世界の魔力はそこから始まったと古い文献に書かれていた。
実物を見た人類種は極小数らしいが、魔人によって守られていたのか。
首を捻る俺に対し、クラレットがじとっとした目付きで話し掛けてきた。
「魔石があるからアタシらは強力な力を持てる。魔人族にとって重要視されるのは当然だろ?」
「だが魔人も同じ人類種だ。瘴気混じりでなくても、魔力を利用することは可能なはずだよな?」
「それじゃただの人間と変わらなくなっちまう。魔人達がそれを望むわけがない」
「つまり徹底して分かり合う気は無いと……」
「魔族じゃなくても良いと思う魔人もいなくはない。ボルドーの姐さんや、セピアの母親みたいにな。でも魔王様がそんなの許さない」
結局の所、絶対的な支配とそれに賛同する者によって、魔人族との溝が埋まらずにいる。
先に魔王の座を奪ってしまえば簡単だと思うのは、俺が人類種側だからか。
なんにせよ、今はセピアが危険だし、そのせいでボルドーとの交渉さえ叶わない。
手始めの行動はもう決まっている。
「話は分かった。それでクラレット、協力しろと言うのは、セピアの救出か?」
「セピアを助けないことには、姐さんも解放されない。でもどこなのかもわからないんだ、東を収める四天王の居場所が……」
「つまり二人は四天王の下にいるんだな?」
「少なくともセピアはそうだ。姐さんは別の場所に派遣されてる可能性が高いけどな」
東の四天王の名はバーガンディ。
ネビュラをのさばる龍族でさえ歯向かおうとしない、恐ろしい力の持ち主だとか。
俺達はそいつを探し出し、セピアの救出を最優先とした。
「お前はどうするんだ? 敵に塩を送って、そのまま無事でいられるのか?」
「アタシは後で来る兵士に、チェスナットはやられたけど敵を追い返したと報告するさ。この裏切りがすぐバレたりはしないだろう」
「そうか。最後にもうひとつ。エルフの村を襲ったのは、その四天王の指示か?」
「正確に言えば、四天王の命を受けたチェスナットが、姐さんの力を借りてやった。アタシは最初から最後まで監視しかしてない。エルフに興味が無いのは本心だけどな」
「それだけ分かれば充分だ。お前は引き続きスパイとして魔王軍に残ってくれ」
「ちっ! 人間のクセして偉そうに」
大人しく山に帰るクラレットを確認して、俺達も反対方向のキッサ村へと戻った。
道中、メンバーのそれぞれが複雑な面持ちをしていたが、中でもシアンはだいぶ悔しそうに見える。
俺は冷静な態度を崩さずに尋ねた。
「どうしたシアン? クラレットの言葉が信用出来ないか? それとも俺の決断が不服か?」
「そうじゃないよ。たぶんあの魔人は嘘を言ってないし、ショーマくんの判断は正しいと思ってる。だけどセピアが今どうしてるか考えるとね……」
「今のセピアは魔人族には駒扱い、こちらに来ても窮屈な思いをするかもな。いっそモートリアにでも移り住むべきかもしれない」
モートリア帝国は人間の国だが、クリミナとも盛んに交易をし、魔術を伝えている。
エクルの話を聞いた感じでも、寛容な印象を受けた。
冒険者がいない場所の方が、セピアの精神的にも安定し易いだろう。
俺からのちょっとした意見に対し、シアンも深く頷いた。
「僕も同じことを思ったよ。やっぱりこの前ショーマくんが言ってたように、力で押さえつけるくらいの覚悟が無いと、大切な人を守り通すことなんて出来ないのかな……」
「それは違いますシアンさん!」
俯き気味のシアンに異を唱えたのは、今にも泣き出しそうな顔をしたシャルだった。
「多くを救う為に憎まれ役を立てる――それは手段として使われることもあります。ですがショーマ様が憎まれるくらいなら、私は魔人族を滅ぼします。私だって、大切な方をお守りしたいです……」
「ごめんシャルさん。敵と和解する為に仲間の立場を悪くするなんて、そんなの間違ってるよね。僕は少しばかり焦ってるみたいだ」
俺は争う気も失せる絶対的な恐怖として、この世界の頂点に君臨するつもりだったんだけどな。
まぁ四天王でさえ龍以上の強さとなれば、まだまだ力不足は否めないか。
その後馬に乗った辺りから和やかな雰囲気に戻り、シャルもミィと笑い合っていた。
アンリノットに着いて部屋に入ると、シャルが不思議そうな表情で問い掛けてくる。
「ショーマ様はなぜそこまで、魔人族との共生に尽力されるのですか?」
「俺は自分の力を誇示したい反面、人を傷付ける使い方をしたくないし、仲間を傷付けさせたくもない。魔人族を味方にすることで全部達成させようという、ひどく傲慢な欲求だよ」
「本当に全てを独りで背負い、そして包み込もうとする、とても優しい願いなのですね」




