敵意に応じる殺意(3)
「私のテラボルトが……斬られただと?」
「死ななきゃ分からないみたいだなお前は」
俺が携えていた棒は、昨日べレンズで購入した魔術武具。
魔力適性の高い金属を筒状にした物に、魔獣の皮から作った繊維を巻き付けて、刀の柄に似た形状をしている。
筒の内側には数十個の紋章が刻まれており、魔力を込めると光属性の魔術が発動されて、光の刃を形作るという宝具級の魔術剣だ。
刃は形を留めながら、目で捉えられない超高速で振動し、切れ味が抜群。
難点はその値段と、常人のMPでは発動後十秒と維持出来ない燃費の悪さ。
紋章に吸われる魔力が途方もないのだ。
一連の流れに目を丸くしたシャルが、恐る恐る訊いてきた。
「ショーマ様、その光の剣は魔法まで切れるのですか?」
「魔法を切ったと言うより、力尽くで電流の流れを打ち消しただけだ。――それよりシャルとミィに怪我は無いか?」
「はい、ショーマ様のおかげで私達は無傷です」
二人の無事を確認してから、再度目線を敵へと向ける。
奴は何やら怯えた様子だが、標的を変える悪足掻きには俺も腹が立っていた。
「本気でシャル達を殺そうとしたよなお前。さすがに今の一撃には、容赦してやる気も失せた」
「並の魔導師の防御魔法なら、紙みたいに吹き飛ぶ威力だったんだぞ……? なんだその剣は?」
青ざめた魔人は、俺の事を無視して魔術剣だけを凝視している。
全魔力を込めた雷魔法が通用せず、余程ショックだったらしい。
しかし俺は怒り狂う寸前であり、今にもこの男を斬り殺してしまいそうだ。
魔人は更に独り言みたいな呟きを続ける。
「魔術武具だとしても、刃全体に行き渡る高密度な魔力……そんな物、使用者の魔力を食い荒らすだけだ。人間や獣人如きに使えるわけがない!」
「じゃあ試してみるか? お前の首も刎ね落として、高密度な魔力を体感させてやるよ」
「ふ、ふざけるなぁああ!!!」
突如狂乱して襲ってきた魔人の首に、躊躇なく刃を向けた。
まるで皮を剥いたスイカでも切る感触で、あっさりと肉から骨までを切断し、転げ落ちた頭部は今にも噛みいてきそうな状態。
あまりにも呆気なく、さっきまでの憤りが嘘のように消化されていく。
「ショーマ、魔人、死んだ……?」
「すまんなミィ。できれば死体なんて見せたくなかったが、お前達になにかあってからでは遅いんでな」
「ショーマ様は悪くありません。身命を賭して挑んでくる敵に対し、全力で応えるのもまた礼儀です。……話し合えないのであれば仕方ありません」
必死にフォローしてくれるものの、どこか辛そうに見えるシャルには、割り切れない部分があるのかもしれない。
むしろミィの方がケロッとしている。
魔人とはいえ、俺はこの手で初めて人を殺した。
守る為だし後悔は無いけど、当然気分は良くない。
言葉が通じて、意思の疎通を図れるはずなのに、心は全く通わせられなかった。
結局魔人とは相容れない運命なのだろうか。
しかしその時に見たシアン達の戦いは、完全に予想外の展開となっていた。
「どうしたんだい? 三人相手でさすがに疲れたのか?」
「うっさい虎。チェスナットがやられたんなら、もうアタシがやり合う理由はない」
「ああん? ワシらをこんだけ痛めつけておいて、ここで逃げるつもりじゃなかろうな?」
「逃げやしねぇよドワーフ。あの変態人間が生きてる間は、どうせ逃げらんねぇ」
クラレットが攻撃の手を止めた事で、一時休戦といった状況だろうか。
会話も成立しているし、あいつ自身は望んで戦いに来たわけではないらしい。
毎回使いっ走りみたいな扱いだなクラレットは。
そこですかさずシアンから本題を切り出す。
「セピアはなぜ人質にされてるんだ? 僕達を山奥に連れ込むまで解放できないのか?」
「人質にしたのは四天王さ。それにアンタらじゃなくて、ボルドーの姐さんへの人質な」
「どういう意味だ!? ボルドーに言うこと聞かせたくて、セピアを利用したのか!?」
「姐さんにとっちゃ、冒険者も魔王軍もどうでもいい。姐さんはこの山の平和と、セピアを守りたかっただけなんだから」
「その話、俺にも詳しく聞かせろ」
「別にアンタに隠す気はねぇよ変態。こっちから協力を頼みたいくらいさ」
クラレットによると、先程俺が殺したチェスナットという魔人は、魔王軍四天王の補佐官的な立ち位置だとか。
魔王軍とは未開拓地の各所にある魔石を守る為の組織で、魔王が指名した四天王達が実質的に主導権を握り、多くの魔人を従えている。
ボルドーは四天王クラスの実力者であるにも関わらず、セピアを保護する為に軍の勧誘を断り続け、条件としてチェスナットに助力していたそうだ。
「ちょっと待て。それではボルドーも魔王軍の一味と変わらないではないか。なにが違うんだ?」
「全然違うさ。アタシみたいに兵士になれば、一箇所にはまず居続けられない。ましてや超強い姐さんだ。魔石の無い森より他に回されちまうさ」
「魔石というのはそんなに大事なのか」
「当たり前だろ!? アンタバカなのか?」




