敵意に応じる殺意(2)
「貴様……同じ魔法を使えたのか」
「やはりクイックムーブだったか。直線的な移動の仕方が似ていると思ってたんだ」
「だがスパークまで発動している私が、貴様の動きを捉えられぬ道理があるか!」
「その強化魔法より、俺の強化魔術が優れていただけのこと。いちいち狼狽えるなクズが」
「許さん。貴様は私の手で必ず殺す……!」
もう一度高速で眩んだそいつを、今回は見失わなかった。
無詠唱で動き出した奴は、まず右斜めに前進し、強く地を蹴って方向を修正。
馬鹿の一つ覚えみたいに、また真っ直ぐ標的に突っ込もうとしている。
俺は体を半身にして攻撃を避け、振り向き様に障壁を張って激突させた。
高速移動は止まり難い魔法だからな。
【バリアウォール】
「がはぁっ!! き、貴様、素人のクセに、なんだこの機転を利かせた戦い方は……」
相手の言葉を無視してこちらも高速移動で接近し、敵の後頭部を鷲掴んで顔面を障壁に叩き付けた。
魔法の複数使用も、以前より体に馴染んでいる。
「ふ、ふざけるなぁっ!!」
激高した魔人は後方に腕を振り回すが、それも躱すと同時に追い討ちの蹴りを入れた。
顔を抑えながら膝をついたそいつは、太い腕をこちらに伸ばす。
【サンダーランス】
詠唱によって出現した雷の槍は、加速しながら俺を目掛けて飛んできた。
どうやらこの魔法はシャルの風の弓矢と似た特性らしく、込めた魔力の分だけ威力を増すと見える。
手のひらを突き出してからちょっと間隔があったからな。
俺も当然その間に迎撃準備をしておき、敵に向けておいた右手からエミッションを放った。
「これで死んだとしても、謝る気は無いからな」
「ば、バカな!!」
二割程度の力だったが、あっさり雷を丸呑みにした光線状の魔力は、更に魔人の腹部へと直撃する。
そのまま上空に放り出して爆発したけど、本当に死んだかもしれないなこれは。
しかし思ったより手加減は上手くいき、男は原型を留めたまま、空から落ちるゴミ屑みたいに地面を転がった。
ふらつきながらもまだ諦める気はないらしく、眉間に深いシワを寄せ、鋭く俺を睨みつけている。
ふとシアン達に目を向けると、三人がかりで全力で応戦しているのに、少々苦戦しているようだった。
もしかしてクラレットって結構強いのか?
よそ見をする俺に対し、男の魔人が不服そうな声を出す。
「ここまでとは……まさかこれほどまでの実力だったとは! 貴様本当に人間か!?」
「んなこたどうでもいい。お前はまずシャルに謝れ。あとセピアとボルドーに会わせろ」
「無理だと言っている。――おいクラレット! 早くそいつらを片付けて加勢しろ!」
「ちょっと待ってよ! こっちだって結構厄介で、手一杯なんだからさぁ!」
なんか魔人達にも、面倒な上下関係みたいなものがあるみたいだな。
俺はシャルが安全かをまず確認し、それから男に視線を戻した。
この状況で助太刀が無いのなら、こいつらは二人で戦いに望んだのだろう。
だったらまずこいつを半殺しにして、その後でクラレットを止めに行ける。
男の方は深手を負ってるからな。
そう思ったのも束の間、そいつは自分にヒールをかけて、腹のダメージを癒し始めた。
「お前、なかなか多才だな。回復もできるんなら、こっからは一発で仕留める必要があるのか」
「例え私を殺したところで、貴様は近いうちに必ず殺される。今は大人しく引いた方が、まだ長生きできるかもしれんぞ?」
「なんだそれは? 魔人なりの命乞いか?」
「ほざいてろ! いずれ後悔する日が来る!!」
吠えた魔人はがむしゃらに特攻し、そこからは高速移動連発で殴り合いの応酬となる。
互いに相手の背後を取ろうとせめぎ合い、繰り出しては跳ね除ける攻防。
しかし魔人の動きはさっきよりキレが無く、どうもエミッションのダメージが残っているらしい。
更に高速移動は消耗が激しく、魔力の尽きない俺の方が圧倒的に有利だ。
ついにこちらが放った裏拳がクリーンヒットし、敵の鼻が歪んで血がぽたぽたと垂れている。
完全に鼻骨が砕けたな。
「もういいだろ。素直にセピア達を連れてくれば、これで勘弁してやる」
「クソっ!! なぜ貴様は魔力が切れない! 魔法も魔術も使い続けて、とっくに衰えていいはずだろ! 魔石でも食ったのか!?」
「魔石? なんだそれは?」
「馬鹿にしおって……だがここまでだ! これ以上図に乗らせはしない!」
そう言い放った魔人の男は、回復した頃から左手に魔力を蓄えていたらしい。
ヤケクソ気味だった攻撃の狙いは俺の魔力切れかと思ったが、それ以外にも一応考えていたようだ。
「そこの厄介なエルフとチビは道連れだ――」
【テラボルト】
「ふざけんなてめえ!!」
奴は残りの全魔力をこの一撃に捧げている。
特大の雷が超高速で解き放たれ、地面を這いながらシャルとミィに襲いかかった。
障壁を張るにも位置が悪く、高速移動で割り込まないと、とても防御が間に合わない。
雷とシャルの間に飛び込んだ俺は、移動中に腰から金属製の棒を抜き取った。




