一波乱を終えて
べレンズの南で起きた今回の騒動は、俺とエクルでギルドに詳しく報告した。
すぐにギルドから現地調査の人員が派遣され、冒険者の遺体も丁寧に回収されるだろう。
ギルドは各地方に本部が設置され、ここルイース地方はキサラディギルドが担当している。
べレンズは地方境界の最西端に位置し、そこを中心に活動するスマルト達は、ルイース内でもかなりの手練だったとか。
何よりエクルが史上最速で四等級に上り詰めた、期待の超大型新人扱いだったのが驚きだ。
冒険者全体の実力を疑いたくなる。
そんな話を聞きながら、今いるこの場所はギルド内の待機所。
駆けずり回っていたせいか、腰を預けられる背もたれが凄く心地好い。
「シャルトルーズさん、ショーマちんを貸してくれてありがと♪ おかけでべレンズの街と、エクル達の大切なリーダーが守られたよ」
「いえ、貸すなんてそんな……私がお仕えしている身ですし、向かわれたのもショーマ様のご意志ですから。同行できなかったことだけが、少々心残りです」
「シャル、いくら軽いとはいえ、俺もさすがに二人抱えて走るのは骨が折れるぞ」
「エクルさんを抱えて走られたのですか?」
「ショーマちんめっちゃ速かったよー!」
自己紹介を終え、仲睦まじく会話している二人に対し、つい余計な口を挟んでしまった。
シャルの目が泳ぐ様を見てると、変に誤解させたかもしれない。
俺はそそくさとその場を離れ、奥で座るシアン達の下に避難した。
「あ、ショーマさん。シャルさんと揉めてたそうですが、もう仲直りできましたか?」
「折り悪く詮索するなオーカー。今まさに新たな火種を撒いた気がして、隙を見て逃げてきたんだ」
「それはご愁傷さまです。――それにしても今回の事件、自分は別勢力の関与を疑っていますが……」
「それについては同感だ。俺達を引き離す為とも考えたが、他への襲撃が無い。つまり陽動でもないらしい」
「僕もそう考えてシャルさんに警戒を促したんだ。しかし何も起きなかった。先日の魔人より、オーカーが危惧する線が濃厚そうだね」
別の勢力と言っても、凄腕冒険者達で歯が立たなかった魔獣を従わせたなら、魔人の中でも強者が糸を引いているのだろう。
なんとか尻尾を掴みたい所だが、いかんせんボルドー達の裏の存在すら手掛かりが無い。
問題が山積みだし、なんだか体も少しだるくなってきたな。
「ショーマくん!? どうしたんだい!?」
「あれ? 急激に眠気が……。それに全身がやけに重い。ヒールが足りなかったのか……?」
「ヒールは傷や体力をある程度回復するけど、疲労まで完全に消し去る効果は無い。体が動くから誤魔化されてるだけなんだよ!?」
「そうなのかシアン。悪い、少し寝る……」
待機所の机に伏せていた俺は、次に目が覚めるとふかふかのベッドで仰向けだった。
胸板の上では小さな少女が眠ってるし、隣のベッドにはシャルではなくうさ耳女の姿が。
なんかこの二人、妙に安心感丸出しで寝息を立ててるな。
ここはいつものアンリノットの宿屋。
俺達が借りてる二人部屋で、天井の木目も見慣れ始めた。
ギルドからリーヴァルのこの店まで何キロもあるけど、どうやって運ばれたんだろう?
ぼーっとした頭で考えていると、全身を目一杯伸ばしたエクルがまぶたを開いた。
「あー、ショーマちんだいじょぶ? 疲れが溜まり過ぎて、ちょっと熱も出てたんだよー?」
「マジか。エクルが俺をここまで……?」
「ううん、シャルさんがおんぶしてきた。これは私の役目ですから! って言ってね〜」
「おんぶ……。せめて男なら受け入れ易いが、華奢な女子にされるとか、どんな羞恥プレイだよ」
想像するとむず痒くて、思わず腕で目を覆っていると、なんだか眉の上辺りがひんやりする。
その正体はエクルの額の感触だった。
自分と俺の前髪をかき上げて密着させてるし。
「えっと……なにをしてるんだエクル?」
「んー、まだちょっと熱いねぇ。エクルのおでこ、冷たくって気持ち良かったでしょ?」
「熱計ってたのかよ。確かに冷たかったけどさ。それよりシャルはどこに行ったんだ?」
「シャルさんならお店のキッチン借りてご飯作ってるよ。疲労に効く料理だって〜」
なんて献身的で気遣いの出来る人なんだ。
宿まで運んでくれた上に、食事の支度までしてくれるなんて。
シャルの思いやりに感動していると、静かに開いた部屋の扉から、小さな鍋を持つエプロン姿の本人が入ってきた。
「あっ、ショーマ様! 起きてらしたんですね。エクルさんもおはようございます」
「ついさっき起きたとこだ。色々と世話になったみたいですまんな。ありがとうシャル」
「私は当然のことをしたまでですので……」
照れ臭そうに下を向いたから、一応感謝の気持ちは届いたのだろう。
枕元の小さな机にシャルが鍋を置くと、途端にミィが口を開く。
「んー? いい匂い。ショーマ、おはよ!」
「音より匂いで起きるのかミィは。おはよう。今朝は突然置いていって悪かったな」
「平気ー! ミィ、お部屋、お掃除した!」
「そうか。ミィも役目を全うしたんだな」




