交錯するコントラスト(1)
悪魔に眠らされ、あの屋敷に監禁される少し前の事。
イヌイルの魔術師組合で世話になっていた俺は、未熟ながら特訓した魔術を試そうと、三人の見習い魔術師達と共にイーバの森に入った。
望んで組んだパーティではないが、それが組合の規則だったので仕方がない。
普段から何かと俺を見下し、反りが合わない連中だったけど、さすがに目の前で死なれた時はショックが大きかった。
何せたった二頭のガルムに魔術も魔法も当てられず、隙を見てハーミットで隠れている間に、三人とも呆気なく喰われてしまったのだから。
貪られながらも、俺を役立たずだと罵倒していたあの声は、今でも忘れられない。
出来る事は全てやった上で、それでも通用しなかったのだから、あとは自分の命を優先するしかないだろう。そう思ったのだ。
だが今回は違う。
俺はとっくに諦めていた。
到着した時点で化け物の腹の中だったのだから、俺に責任は無いと思い込んでいた。
まだ生きていたロズがいたのに。
他の五人も救えたかもしれないのに。
悪魔に頼って力を得てもこれか……
「ショーマちん、ホントにありがとね」
「もうやめてくれエクル。慰めなんて要らない。俺は気が緩み過ぎていたんだ」
「それでもエクルは感謝してるの。だってみんな早く出して欲しかったと思うもん」
肩に乗せられた細腕が小刻みに震えていて、うさ耳少女の悲しみが伝わってくる。
それでも俺に感謝を述べるなんて、一体どんな心境なのだろうか。
更に涙目のスマルトまで歩み寄ってきて、俺の前でゆっくりと膝をつく。
「ショーマ、君のおかげでロズと最期に言葉を交わせた。俺からも礼を言う」
「助けられたかもしれないんだぞ? 俺が諦めたりせず、先に生存を確認していれば」
「それは違う。仲間を守れなかったのは俺の責任だ。決して君の怠慢ではない」
どいつもこいつもお人好しでうんざりしてくる。
だが自分の気持ちを押し殺してでも励まそうとしてくれる誠意は、俺の心の深い部分にまで染み渡った。
もうウジウジと考えるのは辞めにしよう。
エクル達に申し訳が立たない。
「わかった。彼らの遺体を安全な場所に移動させて、ギルドに引き取りに来てもらおう。そうすれば大勢の仲間達に供養してもらえるからな」
「そうしよう。俺は街で馬車を借りてくるから、ショーマはエクルと待っていてくれるか?」
「あぁ。ついでに周囲の見張りをしとく」
スマルトを見送ってから千里眼で見渡すと、牛やら鹿やらに似た魔物はいても、バーゲストみたいな強い魔獣は見当たらない。
やはりこの件も魔人が関与しているのだろうか。
その割には目的が不明だし、恐らくボルドーやクラレットとは無関係。
あいつらなら、こんな戦力を俺にぶつけても無駄になるだけだと知ってるからな。
しかし今はそれ以上に、どうしても腑に落ちない事があった。
「エクル、いつまでこうやってしがみついてるんだ?」
「だってこうしてないと、ショーマちん泣いちゃいそうでしょ?」
「いや泣きそうなのお前だよな?」
「そうだね……。エクル、冒険者になって初めてなんだ。こんな風に仲間が死んじゃうのって」
「そうか。子どもが冒険者なんてやるもんじゃないぞ。命懸けの世界なんだから」
「エクル子どもじゃないし! 十七歳の立派な大人の女性だしー!」
成人してないと冒険者になれないのは当然知ってる。
でもこの幼い見た目で、俺と同い年か一個上なのか。
聞いてからの方が疑いたくなる。
その後スマルトが手配した馬車に全員の亡骸を乗せ、一旦べレンズへと舞い戻った。
すぐにギルドへ報告に行こうとしたら、エクルに呼び止められる。
「どうした? スマルトと一緒にみんなの下で待ってるって話になったよな?」
「やっぱりエクルも一緒に行っちゃダメ?」
「別にいいけど、側を離れていいのか?」
「ショーマちんとここに来る時ワクワクしたから、悲しいのもちょっとは誤魔化せるかなぁって」
「……甘ったれのお子様だなエクルは」
「ごめんね。ショーマちん、なんか頼りやすくて……」
エクルを抱えてギルドまで突っ走る道中、パーティについて簡単に聞かされた。
スマルトはシアンに憧れて剣技を磨いた十九歳の青年で、恵まれない体格を逆にスピードに活かし、個人戦力なら三等級にも劣らない。
そんなスマルトを初期から支えてきたのがロズだったそうだ。
ロズは鳥型獣人で五等級。
能力的にずば抜けたものは無いが、唯一視力だけが優れていた。
広範囲を見渡しつつ、敵とスマルトの動きを正確に捉え、良きサポーターの働きをしていたという。
歳がスマルトより一つ上だった事もあり、お姉さん的存在として常にみんなを見守ってきた。
軽く触れただけでも、その二人が深い関係だったのだろうと容易に想像がつく。
そしてエクルは……
「好きなのか? スマルトのこと」
「ん――…、よくわかんない。でもスマルトだけでも無事だったから、すごくホッとしちゃったんだ。それと同時に、自分に嫌気が差した」




