湧き上がる心
スマルトからバーゲスト達を遠ざけ、エミッションの砲撃であっさり撃破。
ここまで使い勝手が良いと、他の攻撃手段が霞んでしまう。
それにしてもこの刻印を寄越した悪魔の奴、自分ではエミッションを見た事ないと言ってたけど、効率が悪い魔術だとは認知していたよな。
つまり開発者が別にいて、実際に利用されてた時期もあるけれど、現在では廃れていると考えるのが妥当。
こんなに便利な力だけど、MPが無尽蔵ではないだけで使用者がいなくなるものだろうか。
そんな事を考えながら、バーゲストの素材を折れた短剣でむしり取っていると、背後から悲鳴の様な声が聞こえてきた。
「しっかりしてスマルト! ロズが持ってた回復薬は!? あの荷物はどこにあるの?」
「ロズが背負ったまま……あいつら……に、呑まれちまった……。ごめん、みんな……」
「スマルト!! もう少し頑張って!!」
横たわるスマルトの腹部は出血が酷く、今にも意識を失いそうになっている。
別の事を考えていて回復をすっかり忘れてたわ。
俺は手を止め、すぐにそちらへと向かった。
「エクル、そのままこいつの体を支えとけ」
「え、ショーマちん回復も使えるの!?」
【グローヒール】
「へっ!? ヒールの凄いバージョン!?」
傷口はあっという間に塞がり、戦闘で尽きかけた体力も戻ったのだろう。
スマルトの顔色は完全に良くなり、抱えていたエクルの腕から上体を起こした。
一部始終を目撃していたうさ耳は見るからに凍りつき、犬男も奇跡を目の当たりにした様な表情で俺に問い掛ける。
「信じられない……。あなたは一体何者なんだ? リブラッド出身の大魔導師か?」
「リブラッドには行ったこともない。この前までモートリアの田舎町で魔術を学んでいて、今はわけあって冒険者をしている魔術師だ」
「魔術師なのにこの回復魔法か。まずは感謝する。俺は四等級冒険者のスマルト。エクルを含め八人のパーティを率いていたが、ついさっき彼女以外を失ってしまった……」
申し訳なさそうに目を瞑るスマルトは、恐らく責任感の強いリーダーだったのだろう。
隣にいるエクルもようやく現実を受け止め、その場で泣き崩れている。
あとどれくらい早く着いていれば、他のメンバーを救えただろうか。
今更考えても仕方ないが、考えずにはいられない。
「俺はショーマ・キサラギ。エクルの救援要請で駆け付けたが、スマルトだけしか間に合わなかった。すまない」
「な、なにを――」
「なに言ってんのさショーマちん! 君が馬より速く走ってくれたから、スマルトを救えたんだよ! 本当に――…ありがとう!」
訂正しようとしたスマルトに被せて、顔をぐしゃぐしゃにしたエクルに礼を言われた。
「そうだなエクル。その涙がどちらの意味なのか、それが分かれば俺もスッキリする」
「ごめん、どっちも。嬉しいし悲しい……」
こんなに正直に自分の気持ちを打ち明けるとは、エクルは顔も心も幼い子どもみたいだ。
決して嫌な気はしないし、むしろ好感が持てる。
ふとバーゲストの死骸に目を向けると、腹部が一瞬膨らんで見えた。
すぐにクレアボヤンスで内側を覗くと、真っ暗でほとんど見えないが、確かに何かが動いている。
「スマルト! その刀を貸してくれ!」
「構わないけど、何に使うんだ?」
「あの死骸の腹を捌くんだよ! 喰われた奴がまだ生きてるかもしれん!」
慌てて受け取った刀を化け物の肉に突き刺し、力任せに水平方向に引き裂いた。
ドロっとした血が溢れると同時に、中から人の手が飛び出してくる。
俺はその手をしっかり掴み、慎重に引きずり出したものの、直後に絶句する。
「ロズ……ロズ!! しっかりしろ!!」
「スマ……ル……ト? よかっ……た……」
「ロズ! ごめん、ごめんな。俺がもっと強ければ……君達だけでも逃がせてたら……」
バーゲストに飲み込まれていた獣人の女は、胸から下と右腕が千切れていた。
背骨や肋が剥き出しになり、残った左腕で内側から押していたらしい。
肩に掛けた薬品入れのポーチを見ると、仲間の為に気付かせたかったようにも思えてくる。
呆然としている暇はない。
もしかしたらと思いグローヒールを使ったが、すでにロズは息を引き取っていた。
それならばと、他の二体の化け物から残された五人を取り出すものの、ただ五つの死体を並べただけに終わる。
なぜこんな事になった……
もし俺が攻撃の仕方を工夫して、体内への衝撃を避けられていれば、彼らはまだ脈打っていたのだろうか。
いやそれよりも、呑気に素材回収などしてないで、生きてる可能性に賭けるべきだった。
すぐ腹を切り開いて確認すべきだった。
全部俺の判断ミスだ……
頭を抱えて自暴自棄になっていると、背後から優しく抱きつかれた。
「みんなを明るい所に出してくれてありがとう。ショーマちんはみんなを救ったよ」
「エクル……これのどこが救いなんだよ……」




