力ある者のやり方(2)
セピアの復讐に手を貸した魔人達。そしてエルフを襲った背景に関連性があるのは確信している。
ボルドーやクラレットがそこに一枚噛んでるとしても、別の意志に動かされているとしか思えなかった。
では主犯は誰か。
この答えは恐らく、魔王軍やら四天王やらに繋がるのだろう。
強大な個の意志か集団の願いかは知らんが、手を結べる可能性のある連中を、他者の思想で敵に回したくはない。
ギルドに向かう足を止め、二人に考えを語った。
「これは俺の勝手な理屈なんだけど、元は同じ人間だった人類種を殺す事に抵抗がある。それが例え魔族となった魔人だとしてもだ」
「それはエルフ族も同じ考えでした」
「そうした思想を広めるには、セピア達が大きな鍵となる。手を取り合える可能性を示すあいつらが、人類共存の礎となれば、人々の中に賛同する心も芽生えやすくなるだろう」
「確かにそうだね。セピアは魔人とのハーフだし、まさに心を通わせた象徴と言える。なにより僕は彼女を敵に回したくない。でもお互いが理解し合える世界なんて実現可能なのかい?」
「だから俺は両陣営の指導者を、力任せにでもねじ伏せる。まずは狭い範囲で、魔王軍の四天王と――亜人側はシアンか? 地方領主か?」
俺の発言を聞き届けた二人はあんぐりと口を開き、驚きを通り越して呆れていると表現するのが的確だろう。
あまりにもぶっ飛んだ主張だからか、それとも現実離れしていると思われたからか。
本人は大真面目なつもりだ。
数秒間の沈黙の後、シャルは困り顔で目が泳いでいるけど、シアンは鋭い眼光を光らせた。
「ショーマくん。仮に上から抱き込むとして、それはいずれ他国や魔王さえも超えなきゃいけなくなる。君はどこまで行くつもりだい?」
「当然国盗りを手始めに、世界を蹂躙するしかないだろう。人類種全てを統一するとなれば、魔王を凌ぐほど畏怖される存在が必要だ。どんな正義も、恐れられて初めて抑止力になる。現状、そうなれる奴が俺以外にいるか?」
神はただ崇められるだけではなく、天罰を下す裁定者としての威厳を持つ。
争いを鎮めるには一方の服従か、より大きな力で秩序を生み出すしかない。
魔人とその他の人類種は、今まさに双方が領分を侵し合い、互いを絶対悪と捉えている。
俺が魔王を倒せたとして、それは後の魔人達の立場を貶めるだけ。
ならば神にはなれなくとも、畏敬の念を抱かれるだけの権力を掴み、終戦を謳うしかない。
必ず持たれる反感に対して、断固として屈せずに。
しかしこんな理念はすんなり頷かれるわけもなく、シャルが必死な様子で訴えてきた。
「そのやり方では、ショーマ様はどれだけ多くの敵を作られるのですか!? あまりにも危険です! もっと平和的な手段はないのですか!?」
「そりゃ考えを押し通しに行くんだ、敵はいくらでも湧くだろう。でもこの戦争が長引くほどセピア達が危険に晒される。同じ主張を持つ者を探している時間は無いんだ」
「最悪の場合双方から危険視され、命を狙われてしまいますよ……?」
「それはむしろ好都合だ。共通の敵を持ち、休戦か意気投合でもしてくれれば、それはそれで平和へと進むキッカケになる」
「自惚れないで下さい!!!」
初めて聞いたシャルの怒りの声に、思わず目を見開いた。
気迫は直後に弱々しい涙へと変わり、掠れそうな声で話しを続けている。
「私は容認できません。ショーマ様が自身の身を案じず、あまつさえ恨みを買いにいこうとするなど……死に急ぐのと同義です!」
「そうだよショーマくん。いくら君でも無茶だ。魔人の軍勢は魔獣とは違うんだから」
「……もういい。お前らの協力は要らない」
「ショーマ様! 考え直してくだ――」
「うるさいぞシャル。反対するしか能が無いなら、さっさと村に帰れ。お前には頼らん」
「ショーマ………さま……」
なにも伝わらなかった。
そんな絶望感を露にしたシャルは、俯きながら俺に背を向け、リーヴァルの方へと去っていった。
俺にも曲げられない信念がある。
譲ってはならないと感じたこの気持ちは、例えシャルの想いを踏みにじったとしても、動じたりはしない。
彼女の後ろ姿をぼーっと眺めながら、ふと隣からの殺気に気付く。
静かに口を閉じてるが、それでいて煩わしいほど刺さる感情だ。
「なんだよシアン。その顔は目障りだぞ」
「ショーマくん。セピアは僕が守るべき人だ。君の配慮は嬉しいけど、いくらなんでも出しゃばり過ぎてる。君も引いてくれ」
「なにをぬかしてるんだ? 力の無いお前に出来る事なんてないだろう。それとも他の魔人を殺してでも、セピアだけ守り抜くか?」
「シャルさんの言う通りだ。君は自惚れてる。目を覚まさせてやるからこっちに来てくれ」
ギルドの裏へと向かうシアン。
俺は軽く溜め息を吐いてから、渋々その背中を追った。
そこにある広場は分厚い塀に囲われ、見るからに実戦訓練用の場所。
身の程知らずだな。




