力ある者のやり方(1)
シアン一行に連れ立ち、魔人達と対峙してから一夜明けた。
本来なら寝てる時間に活動していたミィは、帰りの馬車の中でも仮眠を取っていた。
しかし相当疲れていたらしく、昨夜早くに布団に入って、今もぐっすり夢の中。
一日二日では何も進展しないと思い、ボルドーとは三日後に話す約束をした為、今日はキサラディに顔を出す。
もちろんシアン達と会談する目的もある。
だがそれ以上に気になるのは、現在ギルドに掲示されているクエストの内容だ。
魔人が何らかの手段で龍まで支配可能なら、過去にも混乱があっていいはず。
それが無い、もしくは少ないならば、現状では手法が確立されていない。
最近開発された魔術系統の線も考え得るし、それだとすれば最悪だ。
とにかく今後の方針を決める為にも、情報収集が最優先だろう。
「ショーマ様、お待たせしました。準備終わりましたけど、ミィは残して行きますか?」
「あぁ、ミィは眠らせておくつもりだが――ちょっと待てシャル。なぜその服装なんだ?」
金髪碧眼の耳長美少女が、ふんわりした空色のワンピースに身を包んでいる。
動きやすさ重視の、自然に紛れるシンプルな装備姿しか見ていなかったから、思わず疑問が溢れた。
「えっと、今日は戦わないとおっしゃっていましたので、普段着られない服を、と……似合ってませんか? ご不満でしたら着替――」
「いやむしろ似合い過ぎてる。着替える必要など一ミクロンも無い。不満も皆無だ」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです」
広がった耳は先端まで赤くなるのな。
うさぎの耳ってめっちゃ血管通ってるし、エルフ耳も似たようなものか。
宿屋夫婦にミィが寝てる事を伝え、のんびり歩いて隣の街まで向かう。
せっかくシャルがオシャレしてるし、ローブで隠すのも可哀想だから、むしろ堂々と胸を張った。
周りから大量の注目を浴びながらも、今日は不思議と誰も声を掛けてこない。
「この調子なら割と早めに着きそうだな」
「そうですね。でもどうしたのでしょう? 視線は感じるのに、逸らされてる気もします」
「俺の悪い噂でも立ったか、シャルを直視出来ないだけかのどちらかだろう」
「えっ、やっぱり私、変でしょうか!?」
「逆だって。美し過ぎるものを見ると、なんだか気まずくなったりするだろ?」
その後シャルはひと言も発しなくなり、無言のままキサラディへと到着した。
ギルド周辺の訓練施設は相変わらず人が多い。
それもそのはず。昨日シアンには上手く誤魔化すよう伝えたが、未だ一番近くの国境である山脈には近寄らせていないからだ。
あの場所は初心者向けの未開拓地だから、ビギナー冒険者は行き場を失っている状態だ。
それもなるべく解決せねばな。
「しゃ、シャルさんっ!? 今日はまたずいぶんと雰囲気が違うね! びっくりしたよ」
「ようシアン。お前もここで訓練中か」
「昨日実力差を思い知らされたばかりだからね。今は僕も必死だよ。それより本当に可愛いよシャルさん。すごく似合ってる!」
「あ、ありがとうございますシアンさん」
「おい、お前に口説かせる為にこの服を着させたわけじゃないぞ? 少しは自重しろ」
「気を悪くしたならごめん。女の子がオシャレしてたら、どんどん褒めるのが礼儀かと思って。親にもそう教わりながら育ったんだ」
「お前ん家はイタリア人一家かよ……」
「え? 僕はリーヴァル出身で、代々虎型獣人の一族だよ? イタリアってなに?」
「すまん、なんでもない。それより昨日の報告はどうなった? 疑われなかったか?」
その問い掛けに、シアンの顔色はあからさまに悪くなり、問題がある事だけは伝わった。
ギルドに向かいながら聞いた話によると、昨日の報告の中に、魔人との遭遇は含めずに済んだと言う。
途中の平原でワームが出現し、討伐こそ叶わなかったものの、全員で追い返す事には成功。
その際セピアが重傷を負い、しばらく彼女のパーティへの参加は絶望的。
行方不明者の捜索も果たせていないが、今あの山脈地帯周辺に立ち入るのは危険極まりない。
そのように調査結果を伝えたそうだ。
「いい牽制だと思うが、なにが問題なんだ?」
「まず大事になり過ぎているんだ。キサラディギルドは他の地方のギルドや、モートリア帝国への派遣要請も視野に入れている。本来なら一等級冒険者や、大魔術師の力を借りるべき案件だからね」
「なるほど。クリミナの領地を死守する為にも、ワームの討伐が最優先になるわけか」
「そしてもうひとつは魔王軍の懸念だ」
「魔王軍? 魔王が軍隊を率いてるのか?」
「まだ規模が未知数だけどね。東西南北各所には四天王と呼ばれる強い魔人が存在し、それが軍を統率している可能性があるんだ。四天王自体は確認されてるから、この東の地域の魔王軍が動き出してるかもって話に……」
「なんでそれを先に言わないんだ!」
「へ!? ど、どうしたのショーマくん?」
魔王がいるらしいと耳にした程度の俺にとって、軍や四天王の存在なんて知る由もない。
もしそれが事実なら、この一件の黒幕にも近付けそうだ。




