謀りを律する図り
「やっとここまで来たんだから……。キサラディギルドの最強パーティを、無傷で葬れるところまで! 計画は狂ってしまったけどね」
「解せんな。シアン達三人くらい、ボルドーが相手をすればほぼほぼ勝てるだろ?」
「三人共冷静な状態で、しかも獣化までされてたら、ボルドー姉さんでも簡単には殺せない。家族に傷なんて負わせたくない!」
シアン達は精神的にも状況的にも、本気を出せていなかったのか。
まぁパーティメンバーの裏切りや、前座の敵戦力を考慮すれば、当然の事だとも言える。
自身の過去を語ったセピアについて、俺は同情どころか微塵も理解出来ない。
家族を失った痛みが復讐によって癒えるはずもなく、更に同じ冒険者だからといって無関係なシアン達を殺して、なんの慰みになると言うのか。
魔人達が同族を脅かす敵を排除したいのは解る。
しかしセピアが親の仇として冒険者を狙うのは、ただの屁理屈だ。
それに――
「なぁセピア、お前はシャルにクラレットを殺す権利があると、そう言いたいのだな?」
「はぁ!? なに言ってんのあなた!? 手を取り合おうとした私の親は、魔人だからって有無を言わさずに殺されたの!! エルフがクラレットを殺すのになんの関係があるって言うの!?」
「シャルの村はクラレット達に襲撃され、ばら撒かれた病で壊滅の危機に瀕した。引き連れたオークとの戦いで戦死した者もいたと聞く。村のエルフ達はシャルにとっての家族だ」
「そんなの家族じゃない! 私の悲しみと一緒にしないで!!」
「それを決めるのはお前じゃない。傍から見ればお前とボルドーの関係となんら変わりはない。それでも違うと主張するのなら、殺し合いの最中に傷を負わせたくないなんて甘いことぬかすな」
感情的に泣き始めたのはセピアだが、横からシャルの啜り泣く声まで聞こえてくる。
心の傷を掘り返してしまったのだろうか。
たまらずシャルの頭を撫でていると、今度はボルドーがしんどそうな様子を見せ始める。
「あ、姐さん! 大丈夫ですか!?」
「どうしたんだ? あんたはさっきの戦闘中、ダメージなんて受けていないはずだよな?」
「いくらMPが高くても限界はあるのよ。ずっとスパークを発動してたからね」
「スパーク? なんの魔法だ?」
「雷属性の強化魔法だよ! アタシら魔人は肉体と感覚強化をこの魔法でやってんだ! そんなんも知らないのかただの変態!」
いちいち人を変態扱いせずにはいられないのかあのアホは。
だがそのスパークとやらを発動させてたから、ボルドーはシアンの攻撃を易々と躱し、一撃で沈められたんだな。
「ご丁寧に種明かしをどうも。それよりボルドーが戦えないなら、日を改めるか?」
「なにを言ってるんだい少年? あたしらを生かして、挙げ句撤退まで許すつもり?」
「あ、アンタなんざアタシひとりで充分だ! この場で今すぐタイマン張れ!」
「クラレット、お前はマジで黙ってろ。――セピアの気持ちを理解する気はないが、親の思想には俺も賛同出来る。ここで溝を深めるより、後日話し合う方が互いのメリットは大きいよな?」
本音を漏らせば、やはり見た目が人間と変わらない連中を殺すのは気が引けるし、歩いたり頭を使ったりでいい加減腹も減った。
シャルが泣いてる理由にもピンとこない状態で、集中して戦う気も起きない。
そろそろ夕暮れにもなりそうだから、ここらが良い引き際だろう。
「ショーマくん、君は魔人に対して嫌厭や恐怖の感情は湧かないのかい?」
「全く無いな。何しろ最初に出会った魔人が、そこでイキってるあいつだから……」
シアンからの質問に、俺はクラレットを指差しながら分かり易く回答した。
「初めての相手がアタシで悪かったな!!」
「んもう! あなたは先程から変な言い回しするのをやめて下さい! 誤解を招きます!」
「変な言い回しってなんだよ? どんな誤解を生むってんだよぺチャパイエルフが!」
「ぺチャ――…ショーマ様、あの魔人やっぱり許せません。この場で退治しましょう!」
「もう気持ちは落ち着いたのか?」
「はっ、はい! 取り乱してしまい申し訳ありません。もう平気です」
「それならいい。セピア、お前は一旦魔人達と行け。街に来られても困る」
「な……私を本気で自由にするつもり?」
「自由じゃない。諍いが収まるまで人里には出入りするな。たまたま会った冒険者を殺されても困るし、お前の身も危険だからな」
万が一セピアが半魔人だと露呈すれば、立場が逆転して今度は冒険者の標的にされるだろう。
そうなればボルドー達との和解も不可能になるし、橋渡し役がいなくなる。
まずはそういった理解者を探し、双方に受け入れられる準備が必要だ。
ボルドーが俺の意見を承諾し、続いてシアンも納得してくれた事で解散となる。
しかし山脈の方へと立ち去るセピアの背中は、どことなく寂しげに見えた。




