セピアの過去(2)
十三歳になるまでの六年間、私はキッサ村で生活していた。
父が度々世話になっていたという老夫婦は、父が魔人に殺されてしまったと告げると、何も疑わずに面倒を見てくれた。
彼らを見ると、父と同じ獣人達が悪い人というわけではなく、魔族を殺す事しか考えていない冒険者だけが悪いのだと強く思う様になる。
ボルドーや他の魔人とは時々接触し、お互いの近況報告をしたり、戦い方を教わった。
それでも足りないと感じた私は、十三歳になったと同時にキッサ村を出て、魔人族の下で命懸けの修練に励んだ。
もちろん村人達にバカ正直になんて伝えない。
街で父の親族に会えたから、その人の世話になると伝えた。
「セピア、あなたの獣化は他の獣人に比べて弱い。でもその分魔人に近い多くの魔力を持ってるわ。それを活かして戦いなさい」
「わかってるボルドー姉さん。土属性とは相性が良さそうだから、これで冒険者を超えてみせる!」
【マッドショット】
「なぁセピア、土ぶっかけるだけの魔法なんて弱いだろ? アタシと一緒に雷魔法極めようぜ〜。すげー強力だからさ」
「そうしたいのは山々だけど、私はクラレット程の魔力は無いし、操作の素質も足りない。今は出来ることからやるだけだから」
「ちぇ〜。テラボルトやべーのに」
「お黙りクラレット! あなただって雷属性以外はからっきしでしょ! セピアの邪魔してる暇があったら、他の魔法も練習なさい!」
「ひぃ! ごめんなさい姐さん!」
父と母から譲り受けた土と雷に適性があるものの、ほとんど土属性しか使いこなせない私。
それでもドワーフ並のMPと、魔人の血が成せる魔力操作は磨かれていき、成人である十六歳の時には実力がほぼ完成されていた。
「すごいわセピア。今のランドピラー、過去最大の範囲をトゲが埋め尽くしてる。威力も充分だし、もう立派な魔導師ね」
「ありがとうボルドー姉さん。でもまだ足りない。攻撃や補助系の魔法が使えても、魔人族には到底及ばない。これじゃ冒険者と戦闘になった時、ママみたいに殺されちゃうわ」
「そうね。もう四年以上も人里から離れてるし、冒険者になる前に、もう一度そっちで暮らした方が良いかもしれないわね」
「それは復讐の役に立つの?」
「もちろんよ。他の人類種に上手く溶け込まないと、すぐに敵だとバレてしまうでしょ? 相手を油断させるのは、勝負に勝つ為に重要よ」
一年半、リーヴァルで商人の手伝いをしながら暮らし、大人の目線で亜人達の日常を観察した。
街は本当に穏やかで、平和ボケしてしまいそうになったけれど、冒険者の姿を見る度に煮え滾る感情が疼く。
その気持ちを溜め込んだまま十八歳を迎える頃に、私はキサラディの冒険者ギルドへと足を運んだ。
「みなさんよろしくお願いします!」
「おう! 俺達のパーティへようこそ。セピアちゃんは魔法が得意なんだって?」
「いえ、得意というほどでも……。獣人にしては多少MPが高いので、それなりに使える程度です。あまり期待しないで下さい」
まず私は自分の存在を目立たなくする為に、大所帯のパーティを選んで参加する。
当然、魔人とのハーフだなんてバラしたりしないし、補助系魔法を中心に使って実力を隠した。
実力者と組めば様子を見る余裕もなくなるから、六等級前後のこなれてきた冒険者がちょうどいい。
下手に注目されないよう、じっくり時間を掛けながら計画を練り、ボルドーとも話し合った。
六〜十人からなるパーティをいくつも渡り歩き、標的を絞っていく。
信用を勝ち取れたと感じたところで、私は計画を実行した。
ギルドからの依頼とは違う、討伐の難しい魔獣を目的地に配備し、隙を伺って冒険者共を襲わせる。
後方支援役の私は逃げ道を塞ぎ、目撃者を全て皆殺し。
こんなことを密かに繰り返した結果、六年足らずで三十人を超える冒険者を葬る事が出来た。
逆に言えば、そのぐらいの人数が限界でもあったけど。
「セピアさん、大丈夫でしたか!?」
「申し訳ありません。また強い魔獣が出現して、私一人で逃げるのが精一杯でした……」
「いえ、あのパーティも最近成績が良かったので、攻略可能なクエストだと判断した我々の落ち度です。私達ギルドとしては、あなたの無事に少なからず報われる思いですよ」
「すみません。せめて獣化を上手く使えていれば……弱い私を逃がす為に、パーティのみんなが体を張る必要なんてなかったんです」
「そんな事はありません。貴重な魔導師系の冒険者であり、そして心優しいあなたに、みなさんも生きてもらいたかったんですよ」
ギルドまで味方につけた私に、もう怖いものなんてない。
疑われない程度に自分だけが生き残ったという演技を続け、五等級という大した等級でもない私にも、パーティへの誘いは途切れなかった。
その頃トップクラスへと昇格していたのがシアン。
ちょうど前の連中を皆殺しにしたところへ、都合良く最強パーティから加入の誘いがきたのだ。
私は次の標的を見定めた。
この地方で最も功績を挙げている連中だし、入念に策を練らねば。
気付けば過去最長の時間を、このパーティで過ごしていた。




