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セピアの過去(1)

 物心ついた頃の私にとって、山の斜面を埋め尽くす広大な緑は、全て庭みたいなものだった。


 辺りには魔物がうようよしてるし、我が物顔でのさばる魔獣もたくさんいる。


 そして他の人類種を敵に回し、自分達だけで血に飢えた獣達との共生を選んだ魔人族も、この山脈地帯には大勢暮らしていた。


 だけど私はそこにいる自分を疑問には思わない。

 何故なら私の母もまた、ひとりの魔人だったからだ。



 父は魔人族を理解し、同じ人類種として協力関係になれないものかと考える、獣人族の研究者だった。


 そんな父が旅の途中で出会った魔人に、魔族を従えつつも人里に危害を加えようとしない変わり者がいた。

 それが後の私の母。


 魔人の中でも一定の割合で特別な魔力を持つ者が生まれる。

 フェロモンと呼ばれるその魔力は、魔物や魔獣に襲われにくくなる匂いを放つ。


 それの持ち主だった母は自身が抑止力となり、亜人達との棲み分けを測っていた。


 似た志を持つ父と母はすぐに結ばれ、二人の間に子どもができる。


 世にも奇妙な魔人と獣人のハーフである私は、生まれてから一年間は父と人里で暮らしたそうだが、父は母と離れて暮らす道を好ましく思わなかった。

 


「ねぇママ、なんであの村に行っちゃいけないの? 私に似てる子がたくさんいるんだよ?」


「ごめんねセピア、ママはこの山から出られないの。パパが家族みんなで暮らすのが幸せって言うから、あなたも一緒にここにいるのよ。大きくなったら村に行ってもいいわ」


「そっか! じゃあ私もお山で暮らす! ママとパパとずっと一緒にいたい!」


 

 母が行かれないのなら仕方がない。

 当時の私にとって、理由なんてそれで充分だった。

 だから獣人として生きる道よりも、家族として暮らす決断を下した父は、今でも正しいと思っている。


 過酷な生き方だとしても、ずっとそう在れたらどれだけ幸せだったか……。



 母親の体質であるフェロモンを私も僅かばかり受け継ぎ、突然他の魔族に襲われる事は滅多になかった。

 それがなければ、もっと苦労の多い幼少期になっただろう。


 半分獣人の私が、未開拓地(ダンジョン)で生きていけた理由はもうひとつ。

 それは私を妹のように可愛がってくれる、ボルドーの存在だった。


 ボルドーは八つ年上の魔人の少女で、母の親類にあたる人。

 母より遥かに強いフェロモン体質を持ち、数百体の魔族さえ従わせられる。


 強くて優しい性格の彼女はいつも私の遊び相手になってくれて、弱肉強食の世界でも楽しい日々を送れていた。



 しかし私が七歳になる少し前、とある事件が起こる。

 それは冒険者の集団が、山脈地帯を手に入れようと乗り込んで来た日の出来事だ。

 


「ねぇねぇ、パパとママはどこに行くの?」


「心配しなくていいのよセピア。あなたは魔人と暮らしていた事を絶対に秘密にして、先にキッサ村に行ってて。明日になったらパパかボルドーが迎えに行くから、山のふもとで待っててちょうだい。約束できる?」


「うん、わかった! 絶対秘密にする! キッサ村で待ってるからね!」

 


 事件の日に訪れた冒険者達は凄腕だったらしく、私はひとり人里へと逃がされた。


 もう二度と両親と会えないなんて想像もせず、愚直に言いつけを守る事だけを考え、村へと向かう。


 旅する研究者である父の名を出しただけで、特に疑問も持たれずに獣人達からも受け入れられた。


 何も知らずに呑気に眠っていた私は、どこまで愚かだったのだろうか。



 翌朝。迎えを待てなかった私は、早朝から山のふもとへと向かった。


 まだ薄暗い夜明けだと言うのに、そこには一足先にボルドーの姿があった。

 


「ボルドーお姉ちゃん、早かったね!」


「ごめんセピア。あたし、あなたの両親を守れなかった。本当にごめんね……」


「どうしたのお姉ちゃん? パパとママは?」


「あたしは戦っちゃダメって言われてたから、こっそり陰から見ていたの。あなたのお父さんは冒険者達に、山を拓くのは待ってくれと必死で懇願してたわ。でも奴らは聞く耳を持たず、お母さんに斬りかかった。庇おうとしたお父さんも一緒に殺されてしまったのよ……」


 

 泣きながら語るボルドーの言葉は、すぐに現実だとわかった。


 昨日の両親の様子も変だったし、私が村に降ろされたのも全て辻褄が合う。


 ようやく理解した時には何もかもが手遅れで、私はボルドーの胸の中で泣き崩れた。

 


「なんで……なんで冒険者はこんなことするの!? パパとママが悪いことしたの!?」


「あたし達とは住む世界が違う。どちらかがいなくならないと、この争いは終わらないのよ」


「じゃあ冒険者がいなくなればいいじゃん! ボルドーお姉ちゃんまでいなくなるなんて、そんなのヤダよ! 冒険者が消えてよ!」


 

 私の心の叫びを聞いたボルドーは、何か決意した様な表情を見せた。


 普段の優しさが消えたその顔に、背筋がゾッとしたのを覚えてる。

 


「セピアはこれから亜人の国で暮らして。そして冒険者になるの」


「なんで!? お姉ちゃんといたい!」


「復讐する為よ。あなたが両親の仇をとるの。あたしも手伝うし、ちゃんと会いに来るわ」


「わかった……。私、冒険者を全員殺す。仲間のフリして、絶対に殺す……!」

 

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