反逆と猛襲(2)
魔獣の大軍に続いて、頭の弱そうな龍まで繰り出してきた魔人。
魔獣使いの称号が似合いそうな女だけど、まだ余裕綽々といった表情がかなり気になる。
本職は魔導師か肉体派の戦士なのだろうか。
とにかく油断は出来そうもない。
裏切り者のセピアは見ているだけで手足を動かさず、魔人もまた手駒をことごとく討たれておいて、冷や汗ひとつかかない。
敵陣は用意周到な連中だし、ここにきてまだ切り札でも残しているのだろうか。
これまで感じていた違和感を紡ぎながら、敵が戦況をひっくり返す可能性を模索していると、剣を構えたシアンが魔人の方へと歩み出した。
【エアフロー】
シアンが詠唱を唱えると、携える刃を気流が包み込み、剣先から伸びる風圧だけで芝が刈り取られていく。
あれは風属性の補助魔法なのか。
だが不用意に近付くのは危険極まりない。
俺は怒りに震える男を制止しようとする。
「おいシアン、その魔人はお前の手に余るぞ。お前はセピアの尋問でもしていろ」
「君のせいか……君がさっきのワームみたいに、セピアを操っているのか。今ここで君を討ち果たし、必ず仲間を取り戻す!」
「虎くんはずいぶんとご立腹じゃないか。いいよ、あたしがいい夢見させてあげるよ」
俺の声はシアンの耳にまるで届いていない。
逆に相手の挑発に憤りを増し、飛びかかれる距離まで詰め寄ってしまっている。
前後に構える敵を殺すのは簡単だ。
しかし下手に動いてシャルとミィに被害が出たらどうする?
アンバーとオーカーも戦闘態勢だが、むしろこの状況、俺にとっては人質と変わらない。
悩んでいる間にシアンが魔人に刺突を繰り出し、後方からは聞き慣れない魔法名が響き渡る。
「君は絶対に許さない!」
【ランドピラー】
地面の揺れを感じた俺は、シアン達一行を捨てる決断を下す。
正面の戦闘に気を取られた隙に、背後のセピアが魔法で一網打尽にする策略だろう。
そう察した瞬間に動き出したこの体は、ミィの付与魔法のおかげでかつてないほどの速度で移動し、肩に掴まるミィごとシャルを抱えてその場から離脱した。
「しょっ、ショーマ様!?」
「間一髪だった。しかしあいつらは――」
「え……? あぁっ! シアンさんとアンバーさんが……!?」
空中で振り返ったさっきの戦場は、平原から突き出る無数の土の針山に変化している。
ひとつひとつのトゲが二メートル以上あり、安全な隙間は極僅か。
ランドピラー、恐ろしい魔法だ。
一方、魔人に剣を向けたシアンは力無くぐったり倒れ込んでおり、腹部から出血している。
想像するに刺突を躱された後、敵の拳で逆に貫かれたのだろう。
魔人の手が血に染まってるのもそれで説明がつく。
セピアの土魔法の犠牲になったアンバーは身動き取れずにいるが、オーカーはなんとか攻撃を免れたらしい。
「シャル達がああならなくて良かった……」
「ショーマ様、お二人共まだ息があります! 彼らを助け出しましょう!」
「え? あ、うん。わかった」
もっとつらそうな顔をするかと思ったが、案外勇ましいなシャルは。
どっち道、生きてるなら見殺しにする気もないけど。
俺は銃弾状にしたエミッションを魔人の女に向けて連発し、距離を取らせたところでセピアにも放った。
魔人には当たってもいいぐらいに撃ってみたものの、身のこなしが良くて小さい弾ではダメらしい。
セピアには威嚇射撃で勘弁。
「なんだいこのちゃっちい攻撃は。さっきのとんでもないのを撃たないのかい?」
「人を消し飛ばすのは趣味じゃない――」
【グローヒール】
「――オーカー、アンバーは降ろせそうか?」
「くっ! トゲが深く突き刺さって抜けません!」
「わかった、俺がやる。シャル、シアンが目を覚ますまでここで防御魔法の準備を」
「はい! お任せ下さい!」
魔人とシアンの間に割って入り、シャルを降ろしてシアンの傷は癒した。
オーカーは下からアンバーを押し上げようとしているが、ドワーフの太い胴体から四肢にかけて、複数の針がブスりといってるから、どうにも助けられないらしい。
俺はエミッションで長い針を全て土台から薙ぎ払い、落ちてきたアンバーを受け止めると同時に、突き刺さる異物も根こそぎ引っこ抜いた。
本当にこの魔術は便利だわ。
「うっ……ショーマ、助かったわい……」
「黙れアンバー。今回復魔法をかけてる最中だ。オーカー、セピアを拘束できるか?」
「は、はい! ランドピラーの反動がある内なら、自分にもいけます!」
「頼む。俺は魔人の方を――」
「その子に触るんじゃないよ!!!」
オーカーがセピアの方へ走り出した途端、俺とシャルの様子を伺ってた魔人からの咆哮が、大気を鈍く振動させた。
先程までのすました表情から一転、敵意が剥き出しになっているけど、ようやく手札を出し尽くしたのか?




