反逆と猛襲(1)
「さーて、あらかた片付いたかな? ――うん、撃ち逃した数十匹も山の奥に逃げていくな」
「ば、バカな………。こんなの人間の魔力じゃない。龍のブレス以上じゃないの……!」
「思惑通りにならなくて残念だったなセピア。俺を含めて、全員まとめて始末しようなんて考えた、お前自身が招いた結果だぞ?」
「う、うるさい! ショーマさん、君は危険過ぎるのよ。だからここにいる冒険者達と一緒に、最大戦力で叩き潰す必要があったの!」
「ど、どういうことだいセピア!? 君とショーマくんはなんの話しをしている!?」
「わからないのかシアン? オーカーはとっくに気付いて、さっきから戦闘態勢だぞ?」
魔獣の大軍勢はほぼ壊滅した。
列車が山を走るかのごとく、特大の魔力が地の表面を通り抜け、魔獣を食い散らかしていったのだ。
その光景を唖然として見ていたシアンとアンバーに比べ、オーカーは直前の怒鳴り声ですぐに警戒心を持ち、周囲を入念に探っている。
シャルもキョロキョロしているところを見ると、敵は半径二百メートル以内にいないのか、もしくはハーミットみたいな魔法を使用しているのか。
どちらにせよ、数千の魔獣に比べればどうってことはない。
内通者もこの場に残ってるし。
「セピアさん、もう魔人と一緒に降伏して下さい。ショーマさんと戦って勝ち目が無いことくらい、さっきのを見たら分かりますよね?」
「オーカー、あなたのそういう性格が苦手だったわ。ただ臆病なのではなく、誰よりも強い警戒心で、正確な判断を下せるのよね」
「待ってくれセピア、冗談だろ? なんで君が僕達の敵みたいになってるんだ?」
「あなたは懐に入りやすかったわシアン。実力はあっても、常に前しか見えてない。ショーマさんがいなければ、簡単に足をすくえたのにね。非常に残念だわ」
未だに事実を受け入れられないシアンは、滑稽だと言わざるを得ない。
引きつった顔で、それでもセピアに近付こうとするシアンを、身長が四十センチくらい低いアンバーが手を伸ばして止めた。
頑張って肩に掴まる姿が面白いな。
「アンバー……? 一体何がどうなって――」
「いいから下がれシアン。――セピア、ワシらに恨みでもあるなら、正面から受け止めてやろう。魔獣なんかの力に頼らず、お前さん自身の思いでかかってこい!」
【風の加護】
セピアを諭そうとするアンバーを見ていた矢先、俺の周囲に風の防護壁が展開された。
もちろん守ってくれたのはシャルであり、間一髪で魔法の直撃を免れる。
セピアの仲間がいる状況で、呑気に観察している場合じゃなかったな。
「ショーマ様! ご無事ですか!?」
「助かったぞシャル。今の攻撃、だいぶ大きな火球だったな。ブレイズか?」
「正解よ。速度で選んだ攻撃だけど、そこのエルフの方が一枚上手だったようね」
「ようやくかくれんぼにも飽きたみたいだな。登場の派手さだけは驚いたぞ」
姿を現した長身の女は、日焼け跡に近い赤みがかった肌に、黒くて長い髪。
女性らしいスタイルの持ち主で、妖艶な雰囲気を醸し出している。
前の野生児みたいな魔人とは似ても似つかず、ドロドロした威圧感がかなり濃い。
シャルの防御魔法に弾かれたとはいえ、さっきの魔法も相当な威力だった。
これまで出会った人類種の中では、最も手強い相手だろう。
「ショーマ! 悪者! あれ、悪者!!」
「分かってるミィ。――シャル、後ろにいるセピアの相手を任せてもいいか?」
「問題ありません。私が全力で足止めします!」
「早とちるなよ少年、君と遊ぶのはあたしじゃない。代わりにこの子の面倒を見ておくれ!」
魔人の女が勢いよく手を振り上げると、その後方、薄っすら芝の生える大地が、突如不穏に隆起し始める。
土の中から飛び出したのは、巨大な蛇に近い生物だった。
表に出ているだけでも、全長五十メートルはあるだろうか。
高層マンションすら呑み込めそうなデカい口があり、目と四肢は退化したのか見当たらない。
這いずっただけでも街を崩壊させそうな巨体が、今にも暴れ出しそうにうねっている。
「なぜワームがこんな所に!? あの龍は砂漠地帯に棲息し、バーゲストを好んで捕食すると言われる獰猛な奴だ! ショーマくん、これはさすがに逃げた方がいい!」
「あー、この見た目で龍族なのか。ミミズか深海魚の類いかと思ったんだが……」
「ショーマ様、あれもいけますか!?」
「たぶん心配ないから、とりあえずシアンもシャルも落ち着け。――ん、エミッション」
匂いを嗅ぎつけたのか、こちらに向かって豪快に口を開けているそいつに、さっきと同等の特大な魔力を放出した。
正面からまともに喰らったワームは頭が吹っ飛び、残った体が倒れ込んで地響きを鳴らす。
見掛け倒しの脆弱さで拍子抜けだ。
「お次はどんな曲芸を見せてくれるんだ?」
「あっはっは! やるじゃないか少年」




