山脈に現れた大軍勢(2)
未開拓地まで約一キロ程に近付いたところで、ようやく魔獣の列の最後尾がハッキリ見えた。
数キロに渡る距離をずらっと立ち並ぶ姿は壮観だが、あれらは全て人類種の敵である魔族。
悠長に感心してなどいられない。
シアンもサーチを使って確認したらしく、顔面蒼白して口を開いている。
この位置で何体の魔獣が見えたのだろうか。
「僕のサーチに引っ掛かったMPは全部で二千二百五十四。弱い魔物を引いても二千以上はいるよ……。あの崖が見える辺りまでで」
「あそこまでか。それなら三倍は奥まで続いてる。単純計算で六千以上いるな。ミィ、そこまでの範囲にブラウニーはいるのか?」
「ブラウニー? そっち、違う! ブラウニー、あっち! みんな、隠れてる!」
「なるほど。同じ山脈の周辺でも、安住の地ぐらいは自分達で選ぶか。なら心置き無くぶっ放すとして、魔獣達は元からここに棲む種類か?」
「あぁ、普段からあの山にいる連中だぞ! ただ数千体集まるなんぞ有り得んがな!」
「僕も疑ったよアンバー。でもあのMPの高さなら、確かにケンタウロス級の魔族だ」
ブレない能天気さを発揮するアンバーに比べて、ガタガタ震えてるオーカーの方が長生きできそうだ。
シアンとセピアは息を飲むといたった様子だけど、シアンよりもセピアが落ち着いて見える。
高めの魔力量は伊達じゃないってわけか。
俺は自分の最高火力を客観的に測る為、シャルの意見を聞く事にした。
「シャル、前に魔人を退けたあの一撃で、アンバーなら何人くらい殺せると思う?」
「おいぃ! 例えにしても悪意を感じるぞ! ワシに恨みでもあるのかショーマ!?」
「そうですねぇ……、純粋な魔力同士のぶつかり合いと、攻撃の大きさや範囲を考えると――アンバーさんであれば四百人は倒せるかと思います」
「エルフっ子も普通に答えるんかーい!」
「四百人か、いい数値だ。それなら俺の全力を放てば、少なくとも四千人は死ぬな」
『はいぃぃい!!??』
「うるさいぞアンバー。少し黙れ」
「いやなんでワシだけ!? 今パーティ全員がしっかりリアクションしとったぞ!?」
説明するのは煩わしいけど、いきなり仕掛けるよりまずは心構えを持ってもらった方が、後々面倒にならないはず。
あんぐりと口を開けた間抜け面共に、わかり易く解説してやるか。
「俺は以前、魔人の放った中級以上の雷魔法を、これから使うエミッションと言う魔術で正面から打ち消した。そのまま魔人を戦意喪失させた一発が、大体十分の一程度の力だった」
「魔人の魔法を正面から……? 普段なら信じ難い内容でも、ワイバーンを倒したショーマくんなら今更か……」
「そういう事だシアン。十分の一の魔力でアンバー四百人なら、全力だと四千人。小学生でも理解出来る計算をしたまでだ」
「小学生というのが何かはわからないけど、君の強さは理解したよ。あの魔獣達はアンバーよりは脆いから、なんとかなると思うよ」
「ちなみに俺はその魔術を無限に放てる」
『はぁぁああ!!???』
「ショーマ様の魔力は自動で回復し続けます。ですから皆さん、どうかご安心下さい」
説明はしてやった。どう考えても全員、話す前より心ここに在らずな状態だが、これ以上口を動かす気力が湧かない。
魔獣達は未だに動き出そうとしないけど、もし今の情報が統率者の耳に届けば、進軍もしくは撤退を始めるだろう。
ブラウニー達の住処まで脅かされる前に、あの大軍勢をまとめて駆逐すべきだ。
「シャル、周囲は問題無さそうか?」
「はい、異常ありませんショーマ様!」
「ではここから攻撃する。全員離れてろ!」
山肌に潜む茶色やグレーの隊列に向けて、手のひらの術式を見せ付ける様に右手を掲げる。
できるだけ広範囲に広がるイメージを強く抱くと、魔力に象られた術式がそのまま空間へと浮かび上がった。
この現象は初めてだ。
「なんだいそれは……? 魔法陣なのか?」
「違うぞシアン。これはエミッションの術式だ。文字も形も異質だが、まぁ見ていろ」
手の刻印に魔力を込めるごとに、並行して浮かぶ巨大な術式も輝きを増す。
発動しようとしたその瞬間、左側から響く女の怒鳴り声が耳をつんざき、そのまま攻撃を躊躇してしまった。
「動くな!!!」
「……ほう? 内通者はお前か、セピア」
「今だ!!! 今すぐ魔獣を散開させろ!!」
「させるわけねーだろ!」
空に向かって叫ぶセピアが、どこにいる仲間に伝えようとしたのかは分からない。
しかしここから一キロも遠い場所までは届かないだろうし、中継役がいてもタイムラグが生じる。
この世界にも念話の魔術という通信手段はあるが、それを考慮しても魔獣達への指示は遅れるからな。
騒然とする雰囲気をガン無視し、俺は容赦無くエミッションを放出した。
住宅一軒を丸ごと呑み込めそうな特大サイズの魔力が、標的に向かって勢い良く伸びていき、山を削り取る様に正面から右へとカーブしていく。
強大な力の前に、大気が震えているみたいだった。




