山脈に現れた大軍勢(1)
「ふぅ〜。疲れ治った! ショーマすごい!」
「ミィ……ちょっとお話しがあります!!」
「シャルー? シャル、怒ってる?」
「怒ってます!! こっちに来て下さい!」
ついさっきまで敵地を視察していたはずなのだが、もう緊張感の欠片も無くなってしまった。
満足気なミィがシャルに摘んで持っていかれ、シアン達パーティメンバーはぽかんとしている。
まぁ俺の特異体質を知らない彼らが、状況を把握出来る道理がない。
一同が状況を飲み込めずにいる中、最初に声を掛けてきたのはアンバーだった。
「ガッハッハ! ショーマ、娘っ子達がお前さんの取り合いをしとるぞ! 青春だなぁ!」
「鼻だけでは足りないかもな。微妙にとんがったその耳も寄越せ。引きちぎってやる」
「ひえぇ〜……ショーマさん鬼です」
「オーカーもちょっと落ち着きなって。それよりショーマくん。クレアボヤンスは使ってみたかい? 本当に観測距離は伸びてる?」
「待ってくれシアン。俺も少し落ち着きたい」
大きく深呼吸をして心を鎮め、驚いて止まってしまったクレアボヤンスを再び唱える。
さっきまで山の低い位置をギリギリ見れていた程度なのに、更に一キロ以上登った中腹辺りまで目が届く。
確かに効果は増したけど――
「なんだあいつら? ワーウルフとケンタウロスだと思うけど、数が百や二百じゃない」
「なんだって!? そんな魔獣が数百体もいるのかい!? どの辺りか教えてくれ」
「恐らく千体は下らないだろう。山の中腹から奥の山脈にかけて、ズラっと並んでる」
「並んでるってことは、統率者がいるのか。過去にも魔人が魔獣を従えて、人里を襲った例はある。千体以上の大軍勢なら、こちらももっと戦力を集めて出直す必要があるな」
シアンの冷静な判断は正しい。
だがそれに異を唱えたのは、勇ましい表情をしたシャルだった。
ミィとの決着はついたらしい。
「それはかえって危険かと思われます。魔人は狡猾です。私達が離れた途端にその軍勢をけしかけてくれば、リーヴァルまで崩壊しかねません。それに他の冒険者達が、千以上の魔獣を相手に応戦出来るのですか?」
「だがこのままでは、ここにいる全員が無駄死にで終わってしまう。僕はパーティのリーダーとして、それだけは絶対に避けたい」
「ご安心下さい。ショーマ様の魔術なら、魔獣が千でも一万でも差し支えありません」
「ど、どういう意味だいシャルさん?」
シャルの見立ては間違っちゃいないけど、一万も敵がいたら、さすがに山ごと吹き飛ばすしかなくなるぞ。
エミッションを最大出力で放出すれば、それも可能だとは思うが。
「シャル、前みたいにハーミットを使う魔人がその辺にいるかもしれない。充分注意しながら、ミィと自身の安全を最優先してくれ」
「もちろんショーマ様も含めてお守りします。この近辺の警護は私にお任せ下さい!」
「頼りにしてるぞ、シャル」
「はい♪」
「ちょっと、全然話が見えてこないんだけど。ショーマくんはなにをしようとしてるの!?」
怪訝そうな顔で聞いてきたセピアに続き、他の三人もじっとこちらを見ながら説明を求めてる雰囲気だ。
彼らにとっても未曾有の危機だろうし、勝手に進めるのも申し訳ないか。
「敵の数が何体だろうと、広範囲をまとめて殲滅可能な魔術が俺にはあるんだよ」
「それって上級魔法に匹敵する威力ってこと? でも千体以上の魔獣を魔術で一気に倒すなんて、どんな大魔術師にも不可能よ!」
「セピア、いくら知識が豊富なあんたでも想像つかない、龍を一撃で葬り去った魔術だ。上級魔法でさえ比較にならない威力を誇る」
「あ……そうか。あなたにはワイバーンを倒した攻撃が……」
「だがここでは遠過ぎるし、標的の正確な数も把握出来ない。とりあえずシアンのサーチが届く所まで近付こう。向こうは動く気配がないし」
それからの冒険者一行は、ひと言も喋らずについてくるだけだった。
一流の実力を見ておきたかったのが本音だけど、今の状況下では敵がバラけた時点で危ない。
動きを止めている内に片付けなくては。
それにしても、山に近付けば近付くほど敵の数が多くなる。
あの大行列はどこまで続いているのだろうか。
これだけの魔獣を統率する奴は、同じ魔人だとしても、前に戦った奴より格上なのは間違いない。
「なぁ、ケンタウロスやワーウルフって、魔獣の中ではどの程度の強さなんだ?」
「そいつらは龍族に比べれば討伐難易度は低いけど、それでも下位より中位寄りの魔獣だよ。二、三体なら僕一人でも相手にできる。でも五体以上いたら苦戦するだろうね」
「つまり現状、三等級冒険者が五百人以上いないと厳しいクエストか。面白そうだ」
「ガッハッハ! 顔が凶悪になっとるぞショーマ! 魔獣より魔獣らしいわい!」
「それは褒め言葉として受け取っておこう」




