ミィの付与魔法
「五キロ!? ショーマさん、そんな距離を見通せるの? 本当に魔力お化けなのね」
「やっぱこの魔法は魔力量に依存するのか」
「大抵の魔法はそうね。魔力量と練度によって強化されるわ。そもそも使用魔力は、MPが高くないと一気に吐き出せないからね」
原っぱの平地を歩きながら、驚愕するセピアの説明を受けていると、単に魔力は魔法に乗せればいいというものでもないらしい。
膨大なMPの絶対値に加え、出し続けても瞬時に回復している俺だからこそ、魔力放出の負担を微塵も感じないのだろう。
五キロ近く歩いてもまだふもとしか見えず、徐々に目的地との距離を詰めていく。
今のところ静かだな。
「シャル、近くに魔力は感じるか?」
「いえ、私は二百メートルくらいの範囲内しかわかりませんので……。すみません」
「謝ることじゃない。周囲一帯を感知出来るシャルの力は、すごく助かるからな。シアンはサーチをまだ使わないのか?」
「サーチで探れるのは限界でも二キロ圏内だよ。あと君みたいに使い続けるMPも無いからね」
「そうか。それじゃもう少し……」
山の斜面が見え始めたところで、動いている何かに気が付いた。
隈無く辺りを調べると、それは洞窟に逃げ隠れたコボルトらしい。
毛むくじゃらで犬っぽい顔をしながら、体はゴブリンとよく似た形だ。
奴らは一体に怯えてるんだ?
「ショーマ、いた? 悪者、いた?」
「いや、隠れたコボルトしかいない。ミィが言ってる悪者共は、もっと奥の方だろう」
「ふーん。ショーマ、これ、なーに?」
「え? それは身体強化の紋章だが……?」
「これ、変! ミィ、これ、綺麗にする!」
いきなり肩から降り始めたミィは、俺の右腕にしがみつくと、紋章を小さな手でぺたぺたと触り出す。
何をしているのかと思っていたら、突然指先に溜めた魔力で術式を描くような動きをし始めた。
だが魔術とはなぞり方がまるで違い、ブツブツと詠唱も唱えている。
「ミィ、何をしてるんですか!? ショーマ様の邪魔は――って、え? この流れは?」
「どうしたシャル? ミィの行動の意味がわかったのか? 腕がこそばゆいのだが」
「ショーマ様の魔力が紋章によって変換される流れ……、それが今までよりも強く――…いえ、とてもスムーズになってるんです」
「どういう意味だ? 魔術なのかこれは?」
「これ、ミィ、直した! お掃除した!」
腕に刻まれた魔力を含んだ墨が、皮膚の中で蠢きながら形を変えていく。
紋章自体刻印した魔術師のオリジナルで機能しているのに、その図柄が若干変化し、それでいて身体強化が効力を失っていない。
これはミィ独自の強化魔術の紋章として、確実に機能している。
「まるで、魔術を最適化したみたいです。体を巡る魔力が、本当に円滑になってます」
「シャルが言うなら間違いないな。ミィ、もしかしてお前は魔術も使えるのか?」
「付与魔法ー! これ、魔術、違う!」
聞き覚えのない魔法名に首を傾げていると、セピアが低めの声色で説明を加えた。
「付与魔法はブラウニー特有の魔法よ。無生物を自律的に動かしたり、魔法の効果を上乗せする為に使うの。無生物を動かす際、中に魔力回路を作って魔力を流し、それを運動エネルギーに変換していると言われてるから、今のは魔術の回路を書き換えたのかも……」
「新たな効果や能力を与えるから付与魔法か。それで掃除用具を自動で動かせてたんだな。だけどミィ、なぜ今それをやった?」
「ショーマ、見える? あっち、見える?」
「あっちってまさか、千里眼の範囲まで広げたのか?? この数分間だけで??」
「ショーマ、この絵、魔法上手く使えなかった! ショーマ触って、ミィ、わかった!」
ミィの言いたい事を噛み砕いて理解すると、紋章が魔法の効力を阻害していた部分があり、それを修正した事で魔力操作もやり易くなる。
そんなところだろうか。
シャルが匂いを感じる要領で魔力を感知出来るみたいに、ブラウニーは触れた対象の魔力回路を感じられると考えれば、ほとんど辻褄も合う。
いきなりのとんでも能力だから、全て飲み込むのは難しいけど。
本当にブラウニーという種族は、小さな体に大きな可能性を秘めているな。
「ショーマ、ミィ、疲れた〜」
「あぁ、助かったよ。肩の上で休んでくれ」
「ショーマ、ミィも〜! ミィもちゅー!」
「はぁ!? って、おいぃ!!!」
腕から肩に登ってきたミィは、有無を言わさずに俺の唇を奪った。
しかもちっちゃい舌で口の中舐め回してくるし。
なにが悲しくてこんな少女と濃厚なキスをせにゃならんのだ。
魔力を使わせ続けるのも可哀想だから、馬車に乗った時から姿も現している。
もし透明だったら、逆に気持ち悪く見えてたかもな……




