常識外れの魔術(2)
轟音と共に放たれた砲弾をイメージした魔力は、直径二メートルくらいあった大木の幹を一瞬にして粉砕した。
先に撃ったカス当たりの五十倍相当になる魔力量だと思うけど、これ程の威力になるのか。だいぶ侮っていた。
「あのさ、フレイム二十発分のMPが、最上級の炎魔法一発より消耗多いって知ってるか? いや知らんよなお前様は」
「あぁ知らん。百倍くらいかと思ってた」
「お前様は魔法の才能も魔術の知識も無いが、魔力保有量の上限だけなら端っからこの世界で最高クラスなんだわ。それも知らんよな?」
「比較しようとも思わなかったからな。そんなに俺の能力ってぶっ飛んでたのか?」
「MP以外は平均レベルだが、とにかく異質な存在なんだよ。なにせ俺も知らない魔力が無い場所から、悪魔召喚を成功させた特例だからな」
ピンとこなかったから詳しく説明を聞くと、どうやら元いた世界には魔力が存在しないだけで、存在した場合の保有量の潜在値はあるのだとか。
更に悪魔の召喚には、術式を完成させる難易度以上に召喚者のMP上限が重要になり、たまたまどっからか魔力を溜められた俺は、偶発的に召喚出来たのだろうと語る。
こちらに来て三ヶ月、俺は潜在能力とゲーム知識だけで生きてきたんだな。
「なんとなく理解した。つまりドーピングとこの術式を手に入れた俺は、最高クラスの攻撃力を誇るってことだよな」
「最高クラスどころか、攻撃だけならすでに人類最強と言っても過言ではない。ちなみにその魔術にはエミッションって固有名称がある」
「エミッション……。名前はなんか弱そう」
「放出って意味だぞバカ契約者様よ」
「とりあえずこのエミッションを使って、この森にいる魔獣を狩ってみるか……」
魔法は使う際のイメージを明確にする為、必ず名前が付けられている。
しかし魔術は術式や紋章自体に効果が記載されており、名前の無い物が多いと聞く。
放出の意味を持つエミッションは、やはり特別なのだろう。
強力な攻撃手段を手に入れた俺は、早速その威力で強い魔獣を倒してみたくなり、辺りを探れる補助系魔法の名称を唱える。
【クレアボヤンス】
「お、なんだ? 千里眼なんて変わった魔法が使えるのか、お前様は」
「うお、デカいトカゲがあちこち彷徨いてるし、こっちに飛んで来てるのもいるな」
巨大な翼を持つ二本足の龍。恐らくあれがワイバーンだ。
いきなり強敵らしいのが相手とは、運が良いのか悪いのか。
まぁワイバーンって聞くと、RPGではそんなに強い印象を受けないんだけどな。
そうこうしている内に突風に煽られ、上空から敵が見下ろしてきた。
「あー、向かって来てたのはワイバーンだったのか。お前様の試し撃ちにはいいかもな」
「さっきは歯が立たないって言ってなかったか?」
「エミッションの発動を実際に見たのは、俺も初めてなんだよ。あれだけの破壊力なら、ワイバーンの鱗もぶち破れるだろうさ」
鋭い眼光で睨み付けてくるトカゲ面は、獲物を定めたかのように唸り声を上げている。
バス一台分くらいありそうな巨体で突っ込まれたら、障壁を張ってもタダでは済まないだろう。
痛い目に遭うのはごめんなので、俺は空を掴みにいくように右手を突き伸ばした。
「当たってくれよ!?」
魔力を放出する刹那、脳裏を掠めた嫌な記憶――
ガルム相手に速度の遅いフレイムは通用せず、遊ばれるみたいに全て躱されたあの日の屈辱。
もうバカにされるのは懲り懲りだ。
この一撃は必ずあの龍に当ててやる。
気付けば保有する全魔力を、考え得る最高速度に乗せて撃ち放っていた。
「ブワッ!! アホかお前様は!!」
敵の長い首から下は魔力の砲撃で瞬時に消し飛び、空中に残った頭部だけが落下してくる。
「……とんでもねぇなこれ。撃ち出した魔力は一体どこまで飛んでったんだ?」
「あんな高密度な魔力、そう簡単に消えやしないさ。空に放ったから良かったものを、下向けてたら地形まで変わってただろうぜ」
「お前って悪魔のクセに変なとこ常識的だな。悪魔的には誰かに迷惑掛けたって、痛くも痒くもないだろ?」
「馬鹿言え。魔人族に被害なんて出たら、せっかくの俺の中立な立場が台無しだわ」
「悪魔も立場とか気にしてんのかよ。てか本当にこの世界ってなんなんだ? 人種にも色々あるとか、魔人がいるってのは文献で読んだけどさ、ゲーム感覚だったからなぁ」
「それはお前様自身で調べるんだな。俺が口出ししてやれんのは、そのワイバーンの首を今すぐ屋敷に運んで、素材剥ぎ取ってデカい街でも目指せってとこまでだ」
「やっぱり龍の素材は、他の魔獣の物より高く売れるのか?」
「ワイバーンの鱗は鋼よりも硬くて希少だし、牙も武器の材料になる。そもそもワイバーン狩れる人間なんてロクにいねぇんだよ」