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森を抜けて人里へ(2)

ウィンド(低級風魔法)

 

 人っ子一人いない河原で魔法詠唱が響くと同時に、突風が地面とぶつかり合う。


 長さが戻った短剣(ダガー)を手に持ち、背に乗せたシャルの安全を確認しながら、跳ね返った風に乗って無事に着陸した。


 低級魔法と言えど、使い手の技量によってここまで調節出来るとは。


 

「助かったよシャル。さすがだな」


「いえ、咄嗟にバリアウォール(魔力障壁)で風を受けるなんて、ショーマ様こそさすがです」


「面積が広い方が、空気抵抗も増すからな。それよりこれ、不法入国にならないよな?」


「大丈夫です。聖者の森はクリミナ(亜人国)の統治下で、エルフ族も一応国民扱いですから」


 

 なんか亜人の国は規制が緩そうだな。

 俺なんてイヌイルで魔術師登録した時の身分証しかないけど、それでもなんとかなる気がする。



 河原の向こうは広い草原になっていて、畑やそこそこ大きめの家、柵の中で飼育された家畜のような魔物が目に入った。


 もう昼過ぎだけど辺りはずいぶん静かだし、環境音しか聞こえてこない。


 奥には街があるみたいだが。

 


「全然人が見当たらないな」


「そうですね。でもあっちの方は賑わってるみたいです。たくさんの人の声がします」


 

 さすがエルフ。指差す先は目でも認識が難しい距離なのに、聴力が人間のそれとは別次元らしい。


 クレアボヤンス(千里眼)で一キロくらい遠くを覗いてみると、住宅地の奥に店が立ち並び、道の真ん中でお祭り騒ぎをしていた。


 犬や猫、兎みたいな耳をした者から、角の生えた人までいる。


 あれが獣人か。

 動物の特徴こそ持ち合わせているが、見た感じ顔も体型も人間のそれと大差無いな。


 とりあえず二人でそこを目指した。


 

『うぉー! すげぇー!! 本当にあのバーゲストを倒しちまったよ!!』


『さすがシアンさん率いる、最強の冒険者パーティだ!』

 


 冒険者パーティ? 

 この世界にも、そんなゲームみたいな制度があったのか。


 飛び跳ねながら興奮する獣人の列は、中央の通りを挟んでパレードでも見るかのように続いている。

 人々の目的はどうやら討伐された魔獣と、それを仕留めた冒険者達を拝む事みたいだ。


 ユニコーン(一角獣)の馬車に引かれ、大きな荷台に横たわる亡骸は、真っ黒で禍々しい姿をしている。

 巨大な熊と犬を混ぜた様な体に、首まで避けた奇妙な口。

 鳥肌が立つおぞましさだ。


 

「バーゲスト……。南方の砂漠地帯に棲息する魔獣が、なぜこんなところにまで……?」


「お、エルフの嬢ちゃんよく知ってるな。奴らはこっから何百キロも離れた砂漠にいるもんなのに、最近近くの村で人が襲われてたんだよ。それでシアンさん達が遠征に向かって、無事に討伐を終えて帰ってきたところだ」


「そのシアンってのは、先頭にいる猫耳の男のことか? 猫人間はそんなに強いのか?」


「うぉ、人間の兄ちゃんもいたのか。シアンさんは猫じゃねぇ、虎だよ。獣化した時のパワーもだが、剣術の腕がすげーんだ」


 

 この狼男みたいな獣人と話してみて分かった事がある。


 この世界には動物っぽい魔物はいるけど、地球と全く同じ動物はいない。だが動物の名前は共通しているらしく、話が噛み合うという謎。


 そして虎男への信頼が厚い。

 


「シャル、あのシアンという冒険者は、MP(マジックポイント)も相当高いのか?」


「正確には分かりませんが、獣人族の例に漏れず、あまり強い魔力は感じません。この場にいる数百人の誰よりも、ショーマ様の魔力の方が強大ですよ」


「そうか。獣人族は魔力が控えめなんだな」


「量だけで言えば人間と同等かそれ以下と聞きます。ただ獣人は他の人類種より身体能力が高く、獣化すれば素手で魔物を倒します」


 

 魔法で戦うエルフや魔術を扱う人間とは、だいぶ違った戦闘スタイルみたいだ。



 しばらく凱旋パレードを眺めた後、色々教えてくれた狼男に礼を言い、ワイバーン(飛龍)の素材を売れる店を探す事にした。


 イヌイルより何倍も店が多いこの街は、目的地を見つけるにも広過ぎる。


 道行く人に注目されてる気もするし。

 


「そこのお二人さん、珍しい組み合わせだな。この街には観光で来たのかい?」

 


 突然話し掛けてきた軽そうな男は、今度こそ猫っぽい。尻尾に縞模様もないからな。


 

「まぁそんなところだ。――不躾ですまないが、魔獣から剥ぎ取った素材を売りたくてな。この近辺にそういった店はあるか?」


「そうだな、素材の買取屋なら、良い鑑定師のいる店があるぜ。だが魔獣って言っても、ガルムやズラトロクの毛皮くらいじゃありふれてるから、大した金額にならないけどな」


「ズラトロクというのが何かは知らんが、ワイバーンの牙と鱗でも高く売れないか?」


「はぁ!? ワイバーンだと!??」

 

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