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森を抜けて人里へ(1)

「シャル、村は私達で守るから、心配しないで行ってきて。でも時々顔を見せに帰ってきてね」


「もちろんです。皆のことをお願いしますね、スプルース。では、いってまいります!」


 

 最初に俺が目指すのは亜人国家クリミナ。



 とりあえずワイバーン(飛龍)の素材を持っていたところで、俺には使い道が無い。


 そしてゴブリン(小鬼)くらいの下位の魔物しか安心して倒せなかった雑魚魔術師に、金品の持ち合わせがあるわけもない。


 だったらこの希少素材を売るところから始めるべきだろう。



 そう思って意気揚々と村を後にするのだった。


 エルフの美少女と一緒に――




 結論から言えば、聖者の森の西方はかなり平和だった。


 魔物も弱い奴しか出てこなかったし、魔獣なんて影も形もない。


 過去に大魔導師が浄化したとは言え、ここまで出来る人間がいるなら、魔族滅ぼせそうだけど。



 そして少し先から水の流れる音が聞こえてきた。

 


「さっきの魔術、すごかったですね!」


「あぁ、短剣(ダガー)に使ったやつ? 魔術の中では初歩的な技術だし、かなり簡単だぞ」


「そうなのですか? 私は魔術のマの字も存じませんが、魔力の操作がとても綺麗でした」


「それはローレルさんの訓練のおかげだな。それよりこの先の広い川が、クリミナ(亜人国)との境か?」


「はい。リーヴェ川と言い、北の山脈から流れる長い川ですが、この辺りの川幅が一番広いそうです。クリミナでは、この川で取れる魚料理が名物になってるそうですよ!」


 

 魔法がある世界と言っても、水が暮らしの根幹になっているのは変わらないんだな。



 ちなみにシャルが感心したさっきの魔術とは、短剣の刀身を一時的に伸ばすもので、以前は俺の攻撃手段の要だった。


 対象物である短剣に、魔力を宿した指で魔法陣に似た術式を書くのだが、書くと言っても、文字を思い浮かべながらなぞると表現する方が正しい。

 無属性で発動効果も単純なので、慣れれば三秒で記述可能な初歩の初歩。

 術式の基本法則は全て同様だから、早く他も覚えて使いたいものだ。



 そうこうしてるうちに川岸へと到着し、近場に橋が無い事に唖然としている。

 


「これは飛び越えろということか?」


「いえ、向こう岸で渡し舟をしている人がいまして、手を振れば来て下さるそうです」


「そりゃまた原始的だな。――んで、舟は二隻あるけど、舵取りの姿が見当たらないんだが」


「本当ですね。お休み中でしょうか……」


 

 入国前に躓いた。

 川があるのに橋が無いとか聞いてないし、どんだけ聖者の森は断絶されてるんだよ。


 たまにエルフも買い物に行くそうだが、未成年は他の人類種と必要以上に交流させていなかったらしく、シャルも森を出た経験が無い。


 そもそも結構遠かったからなここまで。

 


「ちょっと魔術の練習を兼ねて渡れるか試してみたいんだが、付き合ってくれるか?」


「もちろんです! 私はショーマ様に従います」


「じゃあ念の為、防御魔法を使っておいてくれ。俺も障壁(バリアウォール)を張るから」


「えっ!? 危ないことでしょうか?」


 

 俺の案はこうだ。

 まず短剣を頑丈な岩に突き刺して抜けにくくする。

 その状態で胸の前に障壁を張り、短剣を伸ばす魔術を行使。

 延長限界の指定をせず、魔力を注ぐ間ずっと伸び続ける寸法だ。


 今の俺に魔力切れは無いから、術式をそう組むだけで、短剣が如意棒に変わるはず。


 あとは柄の部分を障壁で受けて、自分が後方に上手く飛ばされるかどうか。


 途中で刃が抜けて川に落ちるという心配もあるけど、まぁ落ちたらその時になんとかしよう。

 


「という提案なんだが、どうだろうか」


「うーん……リーヴェ川に危険な魔獣はいないそうですし、やってみましょう!」


「じゃあ防御魔法を使ったら、俺の背中に乗ってくれ。背負って行くから」


「は、はいぃ!」


 

 ちょうど近くに人の身長くらいのデカい岩があった。これを利用しよう。


 だが岩の欠けてる部分に剣を突いても、上手く刺さらない。


 それならばと、下の土壌に突き刺して岩の重量で固定したところ、案外安定感がある。

 これなら斜め上に伸びそうだ。

 


「よし、腹は括ったかシャル?」


「いえ、あの………私、重くないですか?」


「むしろ子どもみたいに軽いぞ。ちゃんとたらふく飯食ってるのか?」


「た、食べてるので大丈夫です!!」


 

 シャルをおぶってみたものの、本当に軽くてびっくりしている。

 身体強化を使ってるけど、荷物込みでもまるで重量を感じない。

 背中に当たる胸の感触も――これ肋骨だな。


 屈んだままで、短剣に記述した術式を発動させる。

 バランスを取る為にも速度が大事だから、初っ端から大量の魔力を注いだところ、目論見通り後方に跳ね上げられた。

 勢い良過ぎてバリアウォールの耐久力が心配なレベル。

 


「すごいですショーマ様! 飛んでます!」


「もう少ししたら魔力を止める。着陸の方が危ないから、絶対に手を離すなよ?」


「あっ、それなら風魔法で衝撃を抑えます」

 

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