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自身への葛藤

「ショーマさまぁー!」


「どうしたシャル?」


「先程ショーマ様の巨大な魔力を感じたので、気になってこちらに―――って、植えたての薬草が、もう株を増やしそうな勢いに!?」


「それはショーマさんが使ったグローヒール(上級回復魔法)の効果だよ。生物であれば回復が効くけど、まさか直接魔力を注いで生命力を上げるとはね」


「そういう原理なのか。まぁ疲れを癒せるのだから、生命力に影響するのも当然か」


 

 慌てて駆けてきたシャルは、畑の前にしゃがみこんで薬草を眺めている。

 血を分けてMP(マジックポイント)を回復させた時よりも、今回の方が役に立てた実感が湧くな。


 ヒール(回復魔法)の上位版が使えるとなれば、他の回復系の魔法も身に付けておきたいところ。



「病気を治した魔法はどうやるんだ?」


「そうさね。キュアーって魔法なんだが、免疫力を活性化させつつ、細胞を修復する効果があるんだよ。病気とか神経が損傷した際は体力を回復しても無駄だから、こっちを使うね」


「なるほど。免疫力が上がればウイルスを殺すし、神経が修復できれば、痺れや毒による機能不全も正常化される。根本治療ってわけか」


「なんか難しいこと言ってるね。医療の知識でもあるのかい?」


「俺の故郷では教養を身に付ける事が重視されていたんだ。平均的に学力が高く、このくらいは基礎知識として教わる」


「ふむ、確かに魔術師向きな思考回路なんだね。物事の理屈を極めるのが魔術だからね」


「だから魔術師だと言ってるだろう」


「でも村では聖者様と呼ばせてもらうよ」


「聖者ショーマ様♪」


「やめてくれふたりとも。恥ずかしいから」



 キュアー(修復魔法)の効果を実感するには、更に丸三日を要した。


 対象者の身体に魔力は送れても、実際に体調が悪くなければ何も変化が起きない。


 たまたま風邪を引いた子どものエルフがいたから、その子に使用して効果が立証されたのだ。



 そして教わった魔法のコツと、魔力操作にも慣れてきた頃、俺の中である決意が芽生え始める。


 

「本当に明日、村を出ていくのかい?」


「あぁ、一週間も世話になったからな。風属性には望みが薄そうだけど、魔法ではなく魔術でなら再現出来そうな気がする。その為にも、街へ行って魔術をもっと学びたいんだ」


「そうかい。私は止めはしないけど……」


「ショーマ様、私も連れていって下さい!」


 

 ずっと魔法の練習に付き合ってくれたローレルさんには、昨日から亜人の国に行く旨を伝えている。

 しかし他の住人――特にシャルには悟られない様、注意していた。


 シャルは毎日俺だけの為に肉や魚料理を作ってくれるし、その上自分は床に布団を敷き、俺にベッドを譲ってくれる。


 気遣われ過ぎてこっちが疲れてしまい、そろそろ限界を感じていた。


 だからシャルには黙って去るつもりだった。


 しかしどこからか聞き付けてしまったらしく、とんでもない申し出をしてきている。

 同行なんてさせられない。

 


「シャル、気持ちは嬉しいけど、村のみんなが家族みたいだと言ってただろう? 寂しい想いをしてまで俺に尽くす必要は無い」


「違います。今の私が一番寂しいのは、ショーマ様にお仕えできないことです」


「なんでそこまで俺にこだわる? 村を救えたのは事実だけど、恩ならこの一週間で充分に返してもらった。だから気にするな」


「……ショーマ様は私が傍にいると迷惑ですか? いなくてもなんとも思いませんか?」


 

 シャルと共にした時間はとても楽しかったし、かけがえのない日々だったと感じている。


 この村の人達は俺の力を認めてくれて、その充実感を与えてくれたシャルには感謝しかない。


 だからこそ、優しい人ばかりの村で幸せに暮らしてくれればいい。


 俺なんかに固執せず、他人でさえ家族と思い合える人達に囲まれて、ずっとあたたかな日常を送ればいい。


 俺とは違う彼女を、俺みたいな救いようのない人生観に巻き込みたくない。


 俺みたいな奴は、今後もこの異世界をひとりきりで生きていくべきなんだ。


 そうすれば誰にも無理させずに済むから――

 


「何も思わないなら、黙って行く理由なんて無いだろ。普通に礼を言って立ち去ったさ」


「ショーマ様……」


「俺にとってシャルは眩し過ぎるんだよ! みんなに対する思いやりも、明るく振り撒ける笑顔も! 俺には無いんだ。ただ見返したくて力を求めてるだけなんだ。そんな自分が醜く思えてくる! シャルが隣にいると……」


 

 悲しそうに下を向くシャルに、追い討ちをかける様に大きな声を出してしまった。


 相手の為と思ったはずが、結局感情が出て逆ギレするとか、本当に救えない奴だよ俺は。



 ふと見ると、シャルの頬から雫が落ちている。


 

「私達の恩人を……私の尊敬する方を、醜いだなんて言わないで下さい。ショーマ様はとても優しくて、周りを笑顔にできる方です」


「だったら泣かないでくれ。そんな顔をされたら、決意が揺らいでしまうだろ?」


「卑怯だと思われても構いません。私はあなたに拒絶される事が、何よりも悲しいです」


「……分かったよもう。いつ戻れるか分からないけど、シャルも一緒に来るか?」


「――…はい! いつまでもどこまででも、ショーマ様とご一緒します」

 

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