四話
やっと書き終わりました。
めちゃくちゃ遅れましたすみません。
最後まで読んでくれたらうれしいです。
『兄さん、まだ名前思いつかないんですか?』
『え?』
学校帰り、隣で一緒に歩いているありさが今朝の事について聞いてくる。
『いい加減付けてあげましょうよ……』
『分かってるよ、分かってるけど……』
今日一日、学校でずっと考えていた。でも結局思いつかなかった。
『正直、そんなに悩むことでもないし、シンプルな名前でもいいとは思ったんだけどな』
『それでも決められないと?』
『……まあ』
俺が苦笑いすると、ありさがため息をついた。
『やれやれ……兄さんは優しいんでしょうね……愛情を込めたいと思っているからこそ、そこまで悩めるんだと思いますよ?』
『お、おう……』
あれ?てっきりまた怒られるかと思っていた。微笑んでいるありさを見ながら再度名前を考える。
一応候補はある。ただ、あまりにもシンプル過ぎる。
もっといい名前があるかもしれないと考えているときりがないが、それでもやはり考えてしまう。
『……うーん』
腕を組んで唸っている俺を、ありさは笑いながら眺めていた。
『ほら、兄さんもうすぐ家に着きますよ。怪我しないように前を向いて歩いてください』
『ん?ああ……』
俺が前を向くと、ちょうど家が見える位置まで来ていた。
『あ、兄さん兄さん!』
『どうしたありさ?』
ありさが嬉しそうに家を見ながら喜んでる。俺もしっかりと家を見てみると、フクロウが俺の部屋の窓から身を乗り出してこちらを見ている。
『あれ?俺窓閉めてなかったっけ………』
『どうやって開けたんでしょうか……可愛いですね』
『うむ』
あいかわらず可愛い。こんなに可愛いんだからこそ、やっぱり名前はしっかりと決めたい。
名前は最初に送れる物。大事なプレゼントだ。
『うーん、やっぱり変えるか……』
思わずそう呟いてしまうと、ありさは俺の発言に首を傾げる。
『あれ?やっぱり決めていたんですか?』
『まあ、一応は……』
『なんて名前にしようとしていたんですか?』
『それは……』
俺は再度フクロウを視界に入れた時、黒い影がフクロウに向かっているのが見えた。ありさも黒い影に気が付く。
『あれは……カラスでしょうか?』
『……っ!?』
ありさの発言の瞬間、フクロウにカラスが襲い掛かるのが見えた。
『に、兄さんあれ!』
俺は反射的に走り出す。こんなに自分の足が速かったのかと思うぐらいのスピードであっという間に家の前までくる。
フクロウはこちらに気が付いたのか、襲われながらこちらに向かって下降してきた。
『フク!!!』
俺はフクを呼びながら手を伸ばした。
「兄さん、明日は時間ありますか?」
「え?」
女子会と言えない女子会が終わり、夕食の時間に急にありさから声がかけられる。
「どうしたんだよ急に……また女子会か?」
「違いますよ……、フクが人間になってから、まだまともな洋服を揃えてないじゃないですか」
「あー、たしかに」
そう言えば、コンビニで揃えられる歯ブラシや下着なんかは揃えたが、服はありさの物を借りている状態だ。
「この際ですから、生活必需品も含めてちゃんとフクの物を用意しましょう。せっかく家族として迎え入れたんですから」
「ああ、そうだな……フクも連れていくのか?」
「当たり前ですよ。じゃなきゃフクの好みは分からないじゃないですか」
「……そうだよな」
俺はフクが人間になってから、一つだけ拭えていない不安があった。
それは、人間になった元動物が向けられる世間の目。
どれだけ安全だと飼い主が言ったところで、他者から見ればどの動物も、人の知恵を持った危険な存在だと考えるかもしれない。
「……兄さん」
俺が考えていると、ありさは俺が座っているソファーの隣に腰掛ける。
するとありさは、ジト目のまま封筒を取り出す。
「……それは、動物病院の先生がくれた……」
「そうです、フクに関する注意事項です」
ありさは事前に確認していたのであろう、付箋を貼っていたページを開く。
「人間になってしまった動物を外に連れ歩く場合、飼い主が同伴であれば問題はありません。それに今後、フクがある程度の社会のルールを理解すれば、一人で出歩くことも可能だと書いています」
「そ、そうなのか?」
俺が思わず喜びながら返事をすると、ありさは俺を睨んでくる。
「兄さん……飼い主ならこの注意事項しっかり読んでください……」
「すまん……」
ありさは、「まったく……」とため息をつく。
ありさの言う通り、俺は飼い主なのだ。人間になったのだって俺が原因なんだから、その注意事項に対してはしっかりと熟読する必要があると思っている。
でも、それを読むたびに、病院の最後に言われたことが頭によぎるのだ。
『可能な限り、動物のままでいるように躾けてください』
この説明については注意事項の最後のページにも記載されている。
この文章だけは、何故か見たくないのだ。
「兄さん?兄さーん?」
「ん?どうした?」
「いえ、なんだかボーっとしていたので」
「ああ、ごめんごめん……とりあえず、明日なら大丈夫だぞ。予定も何も入ってないし」
そう言うと、ありさはニコリと笑い、ソファーから立ち上がる。
「わかりました、フクには兄さんから説明しておいてくださいね」
「ああ、わかったよ」
それだけ言うと、ありさはそそくさとリビングを後にしてしまった。
不安が無いわけではない。
だけど、フクが外の世界に触れるにはいい機会かもしれない。
「……あれだけには気を付けないとな……」
「あれってなに?」
「おわあああああ!?」
ふと声がした方向に向くと、すぐ横にフクの顔があった。
「ふ、フク、頼むからいきなり横に来るのやめてくれ……」
「……?うん、わかった……」
首を傾げながらの返事に不安を感じる……。
しかし、ちょうど良いタイミングではある。
「フク、明日買い物に行くから、一緒についてきてくれないか?」
「……かいもの?何買うの?」
「ほら、フクのための生活用品とか、洋服とか、まだしっかり買ってなかっただろ」
そこまで言うと、フクは少し考えるような動作をしてポツリと呟く。
「……でーと」
「え?」
「それは、デート?」
「……っ!?いやっ!?」
俺は無意識に視線を外すと、フクが持っている雑誌に目が行く。
『春のデートプラン!!気になるあの子を落とす!?』
「……フク、その本は?」
「これ?文字が読めるようになりたいってももに相談したら、この本をくれた」
「………」
なんでよりによってこの本なんだ……。
フクは雑誌をパラパラとめくり、とある1ページを読み始める。
「……男性から誘ってきたお出かけはすべてデートだと考えていい……帰りにジミーの帽子を買ってくることを忘れるな……ジミーの帽子ってなに?」
「没収!!!!」
「あう……」
俺は慌ててフクから雑誌を没収する。
「なんなんだよこの雑誌……」
「おもしろいのに……」
文字を覚えさせるならもっといいものもあるだろうに……明日はそれも見て回ろう。
「とにかく、明日外に出かけるけど……フクは大丈夫か?」
「……何が?」
「いやだって、……外だぞ?」
「……ありすと一緒に、お外に出られるんでしょ?……楽しみ……」
「……っ」
フクは目を細めて、小さく微笑んでいた。その姿を見て、思わずドキリとしてしまう。
まあ、この調子だと、明日は心配いらないだろう。俺もありさもいるし、見た目だけなら動物ともばれないだろう。
「……へへ、デート……」
いや、デートでは無い……。
と、言いたいところだが、あまり言い過ぎても落ち込んでしまうだろうし、このまま楽しみにしていてもらおう。
「ひ、ひろい……ひとがおおい……」
「お、おい、大丈夫か……」
次の日、俺たちは約束通り、フクの買い物に来ていた。
来た場所はショッピングモール。ここなら必要なものも大体そろうだろうと思ってここにしたが、休みの日だけあってなかなかの人の数である。
「……ありす、離れないで……」
「わ、分かったから、あんまりくっつくなって……」
フクは俺の腕にしがみついて全く離れようとしない。
「フク、しがみつくのはいいですが、兄さんの腕は折らないでくださいね」
「いや怖いから!?そういう事言うのやめようよ!!」
最近は馬鹿力を発揮することもないからだいぶ力のコントロールは出来ているのだとは思うが、それでも不安は拭えない……。
「とりあえず、洋服でも見に行きますか?」
「そうだな、フク、行くぞ」
「う、うん……」
歩いている途中でも全く腕を離す様子が無いのでそのまま向かうことにする。
………本当に腕折れないよな………。
いざ洋服を買いに店にやってくる。
まだフクは俺の腕をつかんだまま離さない。が、ありさは周りを見ながらよさげなものを見繕っている。
周りは当然ながら女性物ばかりなので、店員も客も女性ばかり。
なぜみんな俺たちをそんなに見ているんだ……。やっぱりあれか?こういう店に男がいるのは場違いなんだろうか……。
「……ありさ、俺外で待ってるからさ、フクのこと頼んでいいか?」
「ダメです」
俺がありさに声をかけるとすっぱりと断られる。
「今フクは兄さんがいないと不安でしょうし、何よりなんで兄さんまでついてきてもらったのか意味がなくなってしまうじゃないですか」
「い、いや、別に服を買うぐらい俺が居なくてもいいだろ……」
俺がそう言うと、ありさは小さくため息をつく。
「兄さんは女の子にだらしないくせに、女心は全くわかってないんですね……」
んなこと言われても……。
そんなことを考えていると、女性店員が声をかけてくる。
「彼女さんの洋服、お探しですか?」
「え?は?いや、彼女じゃ……」
「そちらお選びになった商品、是非試着してみてください、試着室はこちらにありますから」
「い、いや、ですから」
俺がしどろもどろしていると、服を何着か手に持っていたありさが代わりに間に入った。
「はい、是非お願いします」
「でしたら、こちらにどうぞー」
促されるままに俺たちは店員についていく。
「……なんか誤解されちゃったけど……」
「別にいいじゃないですか、お似合いだったんじゃないんですか?」
「……へへ、ありすと恋人……」
なんか恥ずかしい……。
俺だって別に嫌だと思うこともないけど、フクはペットのフクロウであって別に恋人ではない。……という考え方が変わってしまいそうで……。
「どうぞ、ご自由にー」
そんな事を考えていると試着室の前まで来る。
「ほらフク。中で着替えてみて」
「う、うん……」
フクはありさに腕をひかれ試着室に促される。
フクは名残惜しそうに俺の腕から離れ、二人で試着室の中に入っていった。
「……やっと腕が解放された……」
正直周りからの視線と、折られるのではないのかという不安で緊張状態だった。
ほんの少し心が落ち着く。
ほっとしていると、カーテンの隙間からありさが顔だけ出して俺をジロリと睨む。
「な、なんだよ……」
「……言っておきますが、覗かないで下さいね……」
「し、しねーよ!!」
俺が反論すると、まだ疑いが取れていないのか、カーテンを閉めるギリギリまで俺を睨んだままありさの顔が見えなくなる。
「……どんだけ信用無いんだろ俺……」
最近、ありさの俺への対応がきつくなってきている気がするのは気のせいではないのかもしれない。
フクが毎朝俺のベットに潜り込んでいて、しかも服をちゃんと着ていない時があるたびに、俺はありさにお叱りを受けている。
そういうことに注意をしないのも悪いと言われてしまった。
これが原因なのだろうか、段々とありさは俺に対してきつめに当たるようになってきている。
「……何とかしないとな……」
そう呟くと、ありさが試着室から出てくる。
「ん?もう終わったのか?」
「いえ、今フクに着せようと思ったブラウスなら、もっといい色があるかと思いまして。ちょっと探してくるので、ここで待っていてください」
「お、おう……」
ありさは俺の返事を待たずに速足で探しに向かう。
そんなありさの動きを見ていると、フクが人間になったことに対して、やっぱりそんなに困っていないんじゃないかと思ってしまう。
まあ、俺自身も生活が楽しくなったような、なっていないような……。
「……あ、ありす~……」
「……ん?」
ふと、試着室の中から、フクが俺を呼びかける声が聞こえた。
「どうした?」
「ありす……助けて……」
「っ!?」
あまりにも弱弱しい声に驚き、何も考えず反射的に試着室のカーテンを開けてしまう。
「どうし……た……」
俺がカーテンを開けてまず見えたのは、大きな胸。
そう、大きな胸だ。
「お、お洋服が……首から降りない……」
首から上はブラウスで見えない状態で、フクは下着姿でうんうんと唸っていた。
時折ジャンプして無理矢理にでも首を通そうとするものだから、大きな胸が上下に激しく揺れる。
最初は目を逸らそうとしたが、その上下運動に魅了され、俺の視線はフクの胸から一切離れなくなった。
「ああ、なるほどな、猫が赤いレーザー線を追いかけるのってこういう……」
「……兄さん」
あ、終わった。
これいつものパターンじゃないですか。
「……まあまあ、おちつけ妹よ」
俺はさりげなくカーテンを閉めて、後ろにいるどす黒いオーラを出したありさに笑顔で向き直る。
「俺分かったんだ、動物も人も、自分の好きなものに対しては、目を背けちゃいけないんだって……。だってそうだろ?フクも俺にとっては可愛くて大事なペットで……」
俺が話し終わる前にありさは満面の笑みで話しかけてきた。
「言い訳はそれだけですか?」
「いや、違うぞ!?これは、フクが首から通らないっていうから、だから……」
この後、容赦のないビンタをもらい、着替えて出てきたフクが俺の頬が赤いことに疑問を抱いていたことは、言わずもがなである。
「ひどい……」
「何もひどくありません。大体、着替えているのは知っていたんですから、フクに着替えの状況を聞いて私を呼ぶとか考えなかったんですか?」
「その通りです……」
俺たちは買い物が終わり、ショッピングモールの中にある小さなレストランに入店していた。
「いつもいつも、先を読まないで行動するからこういうことになるんです。別に優しいことが悪いとは言いませんが、頼れるときは頼ってください」
「……はい」
俺は頬を撫でながらありさの話を聞いていた。
そんな会話をよそに、さっそく新しい洋服を着たフクは俺の隣で熱心にメニュー表を見ている。
「……なんかたくさん食べ物があるよ?」
「ああ、食べたいものを食べていいよ」
「どれでもいいの?」
「いいよ、何が食べたい?」
俺がそう言うと、フクは食い入るようにメニュー表に集中する。
そう言えば、いつの間にかフクも周りの人の多さに怯えることは無くなっているという事に気が付く。
まあ、それだけ馴染んでくれたほうが、今後も外に一人で出かけることもできて楽しいことも増えるだろう。
今日のお出かけは、フクにとっていい経験になったのかもしれない。
「……ありさは、何にするの?」
フクはメニュー表をいったんおいて、困ったようにありさに声をかける。
「私?私は、ストロベリーパフェにしようかな」
「お、おい……一応昼飯に来てるんだから、甘い物の前にちゃんと飯頼めよ……」
「だって、兄さんがおごってくれるんですよね?だったら、普段あんまり食べられないちょっとお高いものに手を出してもいいかなと」
ありさはニコニコ顔で俺に答える。
いや、確かに俺が支払うとは言ったが……。ここのパフェってそこそこの値段はするんだよな……。
「……ありす、私も同じのがいい」
「うええ!?」
マジで言ってらっしゃる?
「……ダメ?」
フクは残念そうな顔で俺を見つめてくる。
頭の中の計算機をフル活用する。今日の交通費、洋服代、生活必需品、そして今回の食事代で……。
「い、いや、全然大丈夫!いいよ、好きなもの頼めって言ったのは俺だしな!」
俺は全力で笑顔を作ると、フクは嬉しそうな顔をした。
うん、頑張ろう。バイト……。
その後、注文をして二人の前にパフェが並べられる。
ちなみに俺はもう注文はしなかった。おなかがすいていないんです。
………嘘じゃないよ?
「……これが、ぱふぇ?」
「うわあ、相変わらず美味しそうですね」
二人とも目をキラキラさせながらパフェを眺めている。
やっぱり、女の子は甘いものが好きなんだなあと思いながら、そんな姿を眺めていた。
ありさは美味しそうに小さな口にパフェを放り込んでいるが、フクはパフェを見つめたまま固まっている。
「……どうしたフク?食べていいんだぞ?」
「……ありすは、本当に食べないの?」
「ああ、腹減ってないんだよ」
「……本当に?」
フクが心配した顔で俺を見つめてくる。
「……本当だよ。今日はせっかくフクを外出させたんだからさ、美味しいものを食べさせたいって思ったんだよ。フク達が食べられたら、俺は満足だから」
カッコつけてみたものの、まあ実際腹は減っている。
それでも、二人が美味しいものを食べられれば満足だという思いに嘘は無い。
フクはまだ俺を心配しているのか、横目で俺の様子を見ながらパフェを一口頬張る。
フクの顔が、満面の笑みに変わったのを見て、やっぱり人間の女の子になったんだなと改めて感じた。
そして何より、この子はとても優しい子なんだということがよく分かる。
そんなことをうんうんと頷きながら眺めていると、俺の前にずいっとスプーンが付きだされる。
「ありす、食べて」
「……えっ」
「すごくおいしいよ、パフェってすごいんだね……なんていうか、ふわふわでとろとろで……とにかく、ありすも食べてみてよ」
「え、いや、俺は……」
俺は突き出されたスプーンをまじまじと眺める。次にフクの口元に目が行く。フクの唇の端に、生クリームが付いているのを見て、更に今行おうとしていることを意識してしまう。
いや、間接キスじゃないですかこれ!!
ただでさえこんなに美少女なのに、こんなことをされたら、俺だって変な感情がわいてしまうかもしれない。
よくわからない感情で脳内が埋め尽くされている。
「……食べないの?」
躊躇している俺を見て、フクはまた残念そうな顔をした。
「……っ!?いや、食べます!食べます!!」
俺は目を瞑って思いっきりかぶりつく。甘い生クリームと苺の酸味が、絶妙なバランスで口の中に広がる。
そして、無意識にフクの唇に目が行ってしまう。
「……ねえ、ありす?」
「え、ああ……」
「甘かったでしょ?」
フクは微笑みながら俺に話しかける。そんな笑顔を見ていると、なんだかくだらないことで一人ドギマギしていたなと考えてしまう。
「うまかったよ、ありがとう……」
そう言うと、フクはまた微笑んで、再度パフェに向き直った。
すると今度は、席の目の前にいる顔を少し赤らめたありさからスプーンが伸びてくる。
「どうしたんだよお前まで……」
「なんと言いますか、フクを見ていたら、自分が悪者に見えてきまして……」
「いや、別にそんなことは考えてないけど……」
確かに、今日もまたビンタを受けたが、それは俺自身にも間違いがあってのことだし、今更そんなこと考えてもしょうがないとは思うが……。
「とにかく!これでお詫びということにしてください!」
「いや、だから……むぐっ!!」
無理矢理口の中にスプーンを突っ込まれる。先ほどと同じ甘酸っぱい味が口の中に広がる。
「……美味しいですか?」
「あ、ああ……」
「そうですか、それはよかったです……」
ありさはほんの少しだけ安心した表情をすると、フクと同じようにパフェに夢中になり始めた。
二人とも美味しそうにパフェを食べる姿を眺めながめながら、俺は若干満たされた空腹感を紛らわせることにした。
「……すぅ……すぅ……」
「やれやれ、どうすっかな……」
「初めての外出で、疲れてしまったんでしょう。しばらくそっとしておきましょう」
食事後の帰り道、あと少しで家というところで、フクが目をこすり始めた。
少し休もうと思い、近くの公園のベンチに座ったところ、そのまま俺の肩に頭を預け眠ってしまった。
幸せそうに眠っているフクを見ると、やはり起こさないでしばらく待つほうが良いのではないかと思うが、あまり長くここで眠りすぎて風邪をひかれても困る。
「夜までには帰らないとな」
「夕飯の準備もありますしね。兄さんはお昼もほとんど食べていませんし」
「それはもう気にしなくていいんだよ。外の飯よりありさの作ってくれる飯のほうが美味しいし……」
「……そうですか」
少し返答に困っているような気がしたので、気になってありさを見ると、頬が少し赤いような気がする。
「お、おい、大丈夫かよ……。風邪か?」
「大丈夫ですよ……ほんとに兄さんは……」
「なんだよ……」
また変な事でも言ってしまったのだろうか……また怒られなきゃいいけど……。
「まだ春ですから、この時間は少し冷えますね……お昼のお詫びに、自販機でコーヒーでも買ってきますよ」
「ああ、ありがとう……」
俺が返事をする前にありさはパタパタと走って行ってしまった。
ありさの背を見送り、俺は再度フクの様子を伺う。
フクは未だに起きる様子は無い。
「……今寝すぎて、夜に眠れなくなってしまわなければいいけど……」
そう言えば、フクは夜行性のはずだが、夜は俺と同じタイミングで眠りについている。
フクが俺に合わせてくれているのか、人間になって変わったのか分からない。もし前者なら、やはりフクは俺たちに対して気を遣ってくれているという事なんだろうか。
「……無理してなきゃいいけどな……」
「おいお前」
後ろからいきなり声を掛けられた。
恐る恐る後ろを振り向く。
ベンチのすぐ後ろ。茂みの奥から何かが来た。
「……だ、誰だ?」
そこには、フードを被って顔がよく見えない男が、俺達を見ていた。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
そんなあなたが大好きです。
※以下愚痴
長い長い出張が終わり、いざ作業ができるほどの時間が取れると思っても、やはり急な仕事が入り込み全く自分の好きなことが出来ないというのはつらいものですね。
世の中そんなに甘くないと分かってはいても、もう少しだけ僕に優しい世界になってくれないだろうかなんて考えてしまう時があります。
まあ、今投稿出来てるだけで僕は幸せなんですけどね。