じゃじゃ馬お嬢様 〜ウニ密猟編〜
日本の産業の数割を支える大企業、百目鬼グループが所有する数多の超高層ビルのうち最も高いビル、その屋上に位置する庭園。
各国から取り寄せた名花が様々な彩りを見せながら咲き誇る神秘的な空間。その光景を見た人間が口を揃えて『楽園』と称するその場所で、優雅なティータイムをすごす美しい令嬢が1人。
彼女の名は百目鬼 金華。高校生という若さにしてその才覚を顕し、その類稀な経営能力と圧倒的なカリスマで百目鬼グループを僅か1年で国内最大手までに成長させた百目鬼グループの一人娘である。
だが悲しいかな、天は人に二物を与えないものである。
「セバス」
「なんでしょうか、お嬢様」
彼女専属の執事、セバスと呼ばれた彼の名はヨハンス・クロフォード。これを読んでいる諸君らなら分かるであろうが、本名にかすりもしない呼び名は『執事だから』という理由で付けられたものである。
「ウニが食べたいですわ」
突拍子のない彼女の要望に呆れを感じつつも、そこは歴戦の執事。そんなことはおくびにも出さない。
「ウニでございますか。では、三ツ星の寿司店から選りすぐりのウニを持ってこさせましょう」
「いえ、違うんですのセバス」
「違う、とは?」
「獲れたて新鮮のウニが食べたいんですの」
「ならば、ここに板前をお呼びいたしますか?」
辞書に突拍子という言葉がなさそうな更なる要望にセバスが困惑を隠しきれずにいると、
「セバス」
「なんでしょうかお嬢様」
「ウニ狩りに行きますわよ!」
ウニ狩り。
一瞬、言葉を理解出来なかったセバスであるが、許可なくウニを獲るのは違法行為。大企業の令嬢ともあろうお方が違法密猟に手を染めるのはあってはならない事である。
「ですがお嬢様。ウニの密猟は犯罪行為にございます。かの百目鬼グループのご令嬢がそのような事をなさるのはよろしくないかと」
「大丈夫ですわ!見つからなければ犯罪ではありませんもの!困った時は私のポケットマネーを使えば多分なんとかなりますわ!さあ!行きますわよ!」
***************
海。
太陽の光を煌々と反射し輝く広大な水面はまるで一つの宝石を思わせる。全ての生物の根源と言われる母なる海からは、その荘厳さと雄大さにおいてまるで自然の厳しさを語っているよう。
「さあ着きましたわ!この岩礁部にはウニがいると噂されてますの。その噂の真偽を確かめるためにも探しますわよ!さあセバス、貴方も用意なさい!」
ちなみにこのお嬢様、大抵の事に関して高スペックであり、日本が誇る大都会の中心部から移動するにあたってのヘリ操縦も1人で行っている。
セバスもしぶしぶといった様子でウニを探し始め、
瞬く間に2時間が過ぎた。
ここは岩礁部。打ちつける波に大小はあれど、そのほとんどは狙われているのかと思うほど的確に身に降りかかり、体温と共にやる気を奪っていく。
「なかなか見つかりませんわね…。あの噂はガセだったのでしょうか…ん?」
そろそろ潮時だろうか。そんな考えが頭に浮かび始めた頃、岩の影にとあるものを見つける。
「これは…!セバス!セバス!ありましたわ!早く!」
そこには、なぜ今まで見つからなかったのかと疑問に思うほどの沢山のウニが、その身を寄せ合うように山になっていた。
「まるで宝の山ですわ…!セバス!これを持ち帰りますわ!」
「しかし…よいのですか?」
「まーだ言ってるんですの?めんどくせえですわ!いい加減諦めろですの!ここまで来て手ぶらで帰る方がありえねえですの!」
そうして集めたウニの数は43匹。大漁である。
「さあ!帰りますわよ!今夜はこのウニで料理を作らせますわ!」
今にもスキップしそうな歩調でるんるんとヘリへ乗り込む金華。それを疲れ果てた顔で追うセバス。こんな無茶振りをもう数年も執事として聞き続けているセバスも大概ではあるのだが。
その晩、テーブルを埋め尽くさんばかりに並べられたウニ料理の数々。あまり美味しいとも言えないウニではあったが、その料理を食べる金華は心から楽しそうであった。
ここまで読んでくれた諸君らならばもう分かるであろう。
天は人に二物を与えない──天が二物を与えた分差し引いた欠点──そう。このお嬢様、超がつくほどじゃじゃ馬なのである。
「さあセバス、次は何をしようかしら?」
お目汚し失礼致しました。