表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

(9)嵐の前触れ

 もう一作と並行して書いてたのに、こっちが先に仕上がってしまった……。

 まぁ、ここまでが第二章の前振りやったしな。

 二学期になって変わる事と言えば、俺達みたいな非進学組がほぼ半ドン(午前のみ)になるという事だろうか。午後に有っても一齣だけ。時間の余裕が半端無い。

 二学期の初日に教室へと向かった俺は、そこでこれまで殆ど会話もしなかったクラスメートから声を掛けられた。


「よ、――ちょっと雰囲気変わったか?」

「え? ……そうやな。家の借金がやっと無くなったから、ほっとしてるかも知れんわ」

「おお! それはおめでとう。……それならさ、卒業旅行、行けるんか?」


 ちょっと胸に込み上げてくる物で息が詰まった。


「……そうやな。一度位はそういうのにも行ってみたいか知れへんな」


 その言葉に、耳を澄ませていたらしい級友達が囃し立てる。


「おー! そうなん! 行こや、行こ!」

「風牙君も旅行来るってー!」


 遠慮の無い級友達の騒ぎっ振りだが、悪い気はしなかった。

 ただ、俺は卒業旅行については何も聞いてない。


「ちょ、まだ行けるかどうかも分からんのに、そもそもいつ行くつもりなんやな」

「今月の終わりや。二十六日の金曜日に移動して、城崎の温泉旅館で二泊三日。一部は一泊二日で帰るけどな」

「十月になったら受験も始まるから、最後の機会やねん」

「でも悔しい! 一泊しか許可貰えんかった!」


 俺は『分析』が【記録】している自分の予定を確認する。

 うん、その日程なら大丈夫だ。


「多分その日なら大丈夫や。ありがとな、誘ってくれて。ほんまに嬉しいわ」

「いや、俺らも何かほっとしたし」

「うん、一緒に遊びに行ける様になって嬉しいし!」


 まぁ、修学旅行には行けなかったが、文化祭とかそういった行事には普通に参加していたし、最低限でも会話もしていたから、はぶられていたという訳でも無い。俺が話し掛け難い雰囲気を作っていただけなのだろう。


「いや、ほんまおおきにな。まぁ、俺はどっちか言うたら、一足先に就職果たした様なもんやから、それでほっこりしてたら勉強の邪魔とか言われそうやけど」

「うん。それは邪魔やから勉強しとき」


 そんな遣り取りも今は楽しい。


「御免御免、余裕が無くて分からんでいたけど、ずっと心配掛けてしもててんな。お詫びや無いけど何か怪我でもしたら俺に言うて。この夏休みに三十日間ダンジョン籠もりした御蔭で、『錬金』に関しては第一人者言うてもええ感じになってんねん」

「それ本当?」

「言うても日本の中だけやろうけどな。三年前から探索者制度始まってるけど、その内の二年を毎日『錬金』に注ぎ込んだ奴は多分他におらんで? 今は初級ポーションも中級ポーションもかなりの量を納めてるから、病院でも足らんいう事は無いやろけどな」

「へー。病院にも納めてんのや」

「買い取り担当のお姉さんが教えてくれてん。

 そやな、教室の前の棚にでも大瓶に入れて置いとくわ。探索者してる時の怪我って大抵打ち身も有るからポーション使うんにも飲んだりするけど、そうで無い切り傷とかやったらちょんと一滴付けるだけで充分やで?」

「おー、そしたら怪我した時には使わして貰うわ」

「飲む場合でもお猪口に一杯で充分やで」


 と、まぁそんな具合に不思議な位に級友達と混ざり合う事が出来た。

 ……でもここだけの話、探索者では無い進学組って、かなり不利なのでは無いかと思えてくる。『分析』を持っているかいないかで暗記物なんて意味が無くなるし、頭の回転がと言われた所で、ステータスで言えば悩める時間は実質倍以上の体感となるだろう。

 せめて『分析』は手に入れた方がいいと伝えるにしても、未だ距離を測り兼ねている状態では、少し口に出し辛かった。


(言えるとしたら、卒業旅行のその日かなぁ)


 俺には勿体無い程の、気のいい級友達とのお喋りに興じながら、俺はそんな事を思ったのである。



 そして昼に帰ればダンジョンでボスの周回をしたり、母に連れられて弁護士を訪ねたり。

 早いもので九月四日の木曜日には家庭裁判所で手続きをして、後は結果を待つばかりとなった。母さんは嬉しそうだけれど、やっぱり何処か微妙な気持ちは拭えない。きっと父との決着が付くまでは、この感情にけりを付ける事は出来無いのだろう。

 元々他人同士だった母と、子供で有る俺や妹では、きっとそこが違っているのだ。


 そして金曜日にホームセンターでポンチョだとかの道具を仕入れて、土曜日に講習ビデオの撮影をした。正直めっちゃ楽しかった一発撮り。日曜日に吹き替え音声を当てている時は、腹が痙攣して捩れそうだった。見学者も大勢居て、笑い声がマイクに入らない様にするのに苦労した程なのだ。

 まぁ、楽屋ネタだ。新乃木さんはそれからというもの、良く「いい声だねぇ」と弄られている。


 その次の週も終わりに受けた、国連サミットで上映されるなんて不意討ちは、そういった諸々への新乃木さんからの逆襲だったのだろう。

 落ち着かない日々を過ごした更にその次の土曜日、唯一背の高いアンテナを立ててテレビが見れる実茂座さんの家に集まって、俺達はその瞬間を目撃した。


『――今ブラジル代表の発言にも有った下層攻略の戦略について、日本からの報告が有る。その前に幾つか確認したいのだが宜しいか?』

『日本代表。この場は八十階層を攻略する為の話をしているのであって、五十階層は下層では無いのは分かっているか』


 会場から漏れる忍び笑い。


『勿論了解の上です。ですが我が国の『錬金』使いは、初級ポーションの材料は薬草であって、上薬草は中級ポーションの材料だと言うのですよ。これは我々が聞いていた話とは全く違う。しかし聞けば聞く程納得出来る以上は、あなた方の『錬金』に対する認識が根本から間違っているとしか思えない。

 彼によれば毒消しも麻痺消しも五階層の素材で作れるそうですよ?

 ヒーラー(回復職)も居ないのに、ゲーム冒頭で手に入るポーションだけで、状態異常の回復薬も持たずに最終決戦に挑む様な物です。行き詰まるのも当然と思うのですが、何か間違ってますかな?』


 静まり返った会場に、日本代表の声が響く。


『それでは、まずはその『錬金』使いの探索者から提供頂いたビデオを見て頂きたい。その上で申し上げるとするならば、ダンジョン攻略の行き詰まりは唯一の回復職とも言える『錬金』使いを軽視し、その育成を怠ってきた付けが回って来ただけであり、ダンジョン攻略を進める為にはまず『錬金』使いの成長を待つ外は無いと、我々日本としてはそう判断しているものです。

 残念ながら我々がこのビデオの提供を受けたのも今月に入ってからの為、英語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、アラビア語、ドイツ語の字幕しか用意出来ていないが、そこはご容赦頂きたい』


 そして、再生される講習ビデオ。中継しているTV局もここがハイライトとでも思っているのか、“サミットで上演された講習ビデオの内容はダンジョン管理部のインターネットサイトで公開されています。”のテロップと共にアドレスが示されている。

 威厳の有る曲調が流れた後に出て来た現場作業員が、片手を上げて挨拶した。


『こんにちは。私はこの『錬金』講習ビデオで講師を務めるフーガだ――』


 ぽてりと俺は、隣に座る妹に向かって倒れた。


「……兄は死んだ」

「ぎゃー、寄っ掛からんといて! 重い~」

「みゃーちゃんで癒されんともうあかんねん」

「何でや! 凄いやんか!」

「だってさ~……誰も突っ込まへんねんで!? 工事現場の講習でもやるんかって音楽の後に、作業員みたいなんが出て来たのにじっと聞いてるってなぁ」

「いやいや、風牙君、それは無茶やて。サミットで突っ込み入れたりなんて然う然う出来んわ」

「ん~! 勇者は何処ぞにおらんもんかね?」


 最初のシーンで行き成りだらけてしまった。

 しかし、仕方無いだろう? ()けているのに突っ込みが無い。そういう状況に晒された関西人は、やがて自らの発言に、自分で突っ込みを入れる様になるのだ。

 俗に言うセルフ突っ込み。主に関東圏に引っ越した関西人が掛かるという、不治の病である。


「あー、ちゃうねん! 突っ込めんのは仕方無(しゃーな)いとしても、せめて笑えへんの!? めっちゃ棒読みやんか!」

「ふふ、風牙君は面白いねぇ。楽しんで作っているのが良く分かるよ」

「ダンジョン管理部で御披露目した時は、皆痙攣する勢いでめっちゃ楽しかったんやけどなぁ」

「ユーモアが分からへんねんで。それより兄さん、この助手さん達って関西人ちゃうな」

「いや、分からんで? 神戸辺りやったらお洒落にしてるか知れへんやろ?」

「そう? 関西人や無いと思うけどな~」


 そんな事を喋っている間にも、ビデオは其の一が終わり、其の二の内容に入っていく。

 時折映される会場の様子は、怖いぐらいに真剣な眼差しの各国代表の姿だ。


「そうや無いねん!!」

「風牙君、もう諦めたら?」

「うあ~~……拷問や。耐えられへん」

「もう、大袈裟やねぇ」

「もう決めた。解説版作ろ。講習ビデオとサミットの映像並べて、サミット連中の不甲斐無さを責めたるわ!」

「なぁなぁ、兄さん、溶接工って呼ばれてんの? そりゃあの装備やもんな」

「…………今は点滅男って言われてるで?」

「何それ?」

「お! 点滅男って風牙君の事やったんか!」

「ボス周回って言われて何か分かるか?」

「……あ! ボス部屋行った思たら帰って来て、またボス部屋に行くから?」

「そうそう。一周十秒切る様になったからな、十秒毎にコンマ数秒だけ姿を現す感じの超効率周回って感じ?」

「無茶するなぁ、風牙君」


 因みに、『アレンジ』の力でロプスの指輪やステータスの上乗せ分は無効にしている。心情的にはずるをしている様な気分になる事と、実質的には俺はもう一段階の変身を残しているというネタな感じで。

 ただ、その御蔭か自力の各種魔力がじわじわと上がっているので、これはこれで病み付きになる。魔術も満遍無く使う様にしているから、中々の上がり具合だ。兎に角その段階で出来る事を全てやってから次の段階へ、なんていう遣り込み好きには、自力の各種魔力なんていう物は、マスクデータにしておかなければならない値に違い無い。


「ボス斃すのが一秒切ると“瞬殺”なんて称号付いてな、【速攻】って称号能力が手に入るから益々周回が捗るねん。ボスの間に入った時に、まだボスが空中から降りてくる所やったりするしな。

 因みに、レコードホルダーとか言うんも称号に有るみたいで、この前の金土をダンジョンに泊まり込んだんはそれの為や。ボス討伐最速タイムと、一時間当たりのボス討伐数と、一日当たりのボス討伐数でぶっちぎりの一番取ったった」


 但し、この時ばかりはロプスの指輪も利かしての全力全開。多分点滅男の二つ名が付いたのはこの時だ。

 正規の倒し方をした時の報酬は、時間が短い程強化石も多くなったが、最大で十個。既に数十万個の強化石を手に入れたから、今後足らなくなる事は無いだろう。特殊な強化に強化石は使えないみたいだから、今の所ダンジョン産で無い武器や防具の強化に使うぐらいだが。

 因みにレコードホルダーの効果は、ドロップアイテムや宝箱の中身が良くなるらしい。こういう効果なら大歓迎だ。

 レコードホルダーを取ってそれで一息吐いた感じで、ちょこっと下層の攻略を進めたりしてみたけれど、やっぱり五層を超えると安全ヘルメット姿は場違いで、防具が揃う迄は一時中断である。

 まぁ、中断するまでの間に、お風呂中の妹を引き当てたりもしてしまったから、そこで気が抜けてしまったというのも有るかも知れないが。


「日本一?」

「世界一」

「兄さんって、実は滅茶苦茶凄いん?」

「……うわ、何か胸が痛い。テレビゲームのタイムアタックにのめり込んでるんを純粋な目で見られた様な胸の痛さや」

「はははは、実際世界一なんやったらほんまに凄いと思うがね」

「偶々俺にしか出来へん攻略法見付けただけの様なもんやから、何とも言えへんなぁ」

「それも風牙君の実力やろうに」

「教えぇ言う奴らに絡まれても面倒そうや」


 そんな事を言っている間にも、講習ビデオの其の二が終わって、サミットの会場は響めいていた。

 そして講習ビデオの其の三。


「あ、ここや!」


 要らん事を口走ろうとする妹を小突いてとしている内に其の参のビデオも終わり、サミットの会場は総立ちの|スタンディングオベーション《拍手喝采》。


「うわぁ、やめて、勘弁して」

「顔を隠しといて良かったなぁ」

「ほんまそれな! 背筋凍えるわ」


 実茂座さんの家のソファに詰めて座りながらそんな事を嘆いていたのに、そこで自慢気に日本代表が取り出した物がまた問題だった。


『静粛に。話はこれで終わりでは有りません。三つ目のビデオの中で語られた強化の指輪。その五十回強化品が此処に有ります。『錬金』を失敗した副産物としてのポーションを求めていては、『錬金』のスキルレベルも上がらないのかも知れませんが、正しく『錬金』を用いればこれだけの事が出来るという証左です。

 そしてもう一つ、これは両端からコードが飛び出たジュース缶に見えるかも知れないが、魔石式の発電機です』


 俺は思わず跳ね起きてから、ぐったりソファに沈み込んだ。


「うわ、最悪や!?」

「あれ? あれって風牙君が作ってくれた発電機みたいな……」


 実茂座さんが検討していた魔石式の発電機は、よくよく資料を集めてみれば、薪と一緒に魔石を焼べれば燃焼効率が三十パーセントアップだとかいう、非常に怪しい代物だった。当然、魔石を加えなくても発電は可能だ。

 それで頭を抱えていた実茂座さんに、平屋の買い取り計画に一枚噛まさせてなんて言いつつ考案したのが、あの魔石式発電機だ。

 作ったはいいけれど、特許とかどうなるのかとダンジョン管理部に相談に行ったら、「悪い様にはしないから暫く預かりたい」と言われた結果がこれというのは、一体どういう事なのだろうか。


「普通、特許の相談に持って行った(もん)を、あんな風に見せびらかさんやろ……」

「それは本当に最悪やなぁ」


 実茂座さんも呆れた様に溢している。

 妹がくいくいと服を引っ張るので耳を寄せたら、


「兄さんの力でパッとやってしまえへんの?」


 なんて訊いてくるから、同じく耳元に、


「これは録画。中継や無いから手遅れ」


 と言えば、口を尖らせて足をぶらつかせた。


「大人ん中に時々凄い変なんが居てるみたいやけど、何でそんなんばっかり兄さんに関わって来るんやろ」

「三太さん、あんな事言われてますで」

「え、俺か!? う~ん、そうやなぁ、多様性の行き着く先には――」

「さ、三太さんの事ちゃうわ!」

「そうか? 三太さん冬になったら血塗れの服着て大袋担いで彷徨(うろつ)いてるやん」

「え? ええっ!? それはきっと爺ちゃんが仕留めた猪捌いててんわ」

「いや、それ俺や無くてサンタさんやからな?」

「ふふ……凄い苦労してそうなサンタさんやわ」

「え? え? ええ!? ――……あ! あ、あほーー!!!」


 テレビを見せてくれた実茂座さんにお礼を言って、実茂座さんの家を辞去した時には、もう日が沈む時間になっていた。


「母さん、やっぱ今の内に文句言いに行ってくるわ。考え過ぎやったらええけど、洒落にならん気ぃするし」

「走ってくん? ――ふーちゃんも携帯買わなあかんなぁ」

「知り合いとしか喋らへんし、テレパシーとかのスキル探す方がええわ」

「明日でええんとちゃうの?」

「それこそ俺はサンタクロースでも無いんやから、世界中に発電機贈れ言われても出来へんねんで? あの調子やとどんな話になって戻って来るか分からんのに、悠長になんてしてられへんわ」


 それこそちょっと車追い抜く勢いで走って、辿り着いたダンジョン管理部での開口一番。


「なぁ、お姉さん。スキル使った品物の特許について相談に来たら、借りてったその品を特許がどうなるのか分からん内に、全世界の前で見せびらかされた俺としては、どうしたらええんやろな?」

「――いらっしゃるとは思っていましたけれど、行き成りそれはきついです、風牙さん」


 ぐったりとした様子の新乃木さんを見て、俺も状況を察した。確かにあの発電機を塩崎さんに渡した日、新乃木さんはしつこいくらいにこれは特許の話を進める為に借りるのですよねと念押しをしてくれていた。

 ダンジョン前の待機所に流れるテレビのチャンネルは、サミットのニュースがやっていたのと同じチャンネルだ。きっと新乃木さんもあれを見て、既に動いてくれていたのだろう。

 案内された会議室で、新乃木さんに深く頭を下げられてしまったが、いやそれをされても何も解決しないと、疲れた顔を見合わせるだけになってしまう。


「新しいボスもあかんのとちゃう? 結局どういう状況なんよ」

「向こうは徹夜して調べての早朝です。どういう理由でお借りしたのか、既に頭の中には残ってないのでしょうね」

「――は~ん……つまり、もうあの人らの手元には無いんか」

「……申し訳有りません」

「ん~~、そうと(ちご)てな、新乃木さんには落ち度は無いねん。お仕置きが必要なんは、サミットの会場に居る人らやろ? 自分が正しい思たら人の迷惑顧みぃひんて、うちの父親に似て関わり合いになりた無いけど、でも、そうも言ってられへんねんな。

 俺が避けたいんは、俺が情報を公開した事で、俺に絡んでくる輩が出てくる事や。言うても或る程度は仕方が無いと思っとったけどな。ダンジョン管理部で収められる範囲に留まるやろうと思っとった。

 ポーション作りに関しては情報全部出しておまけの情報まで付けて有る。

 強化の指輪も『錬金』使うなら予想出来る範疇や。

 でもな、あの発電機は違うねん。俺は一言も『錬金』であれが作れるなんて言ってへんで?」

「あ……」

「まぁ、『錬金』も使てる言えば使うてる。でも、他の要素の方がでかい。そしてそれは教えられへん。そもそも手の内晒す謂れは無いけど、スキルオーブで覚えられん物はどうやったって教えられんやろ」

「……アビリティ、ですか」

「アビリティも関わってるな。でも、そういうのんだけでも()うて、レシピ外レシピって、それこそ人が変われば遣り方も全然変わっておかしないと思うねん。ポーション作りに二年費やした奴は、きっと半年でポーション作る奴とは違う遣り方になるのは当たり前ってな。

 でも、そんなん外国の――いや、国内も含めて無茶する人には関係無いやろし、それこそこの前言ってた諜報がどうのとかなったら怖いばっかりやん。何とか向こうから手を引いて貰わへんとあかんと思わへん?」

「それが、出来るというのでしたら、一番ですけれど……」

「そこは新乃木さんが黙っててくれたら、ちょちょいとな。

 でも、俺はそういうのにもユーモアっていうのは必要やと思うねん。でやな、新乃木さんって語学とか堪能やったりせぇへん? パソコンでの翻訳でもええんやけど“他人の成果を奪わんとする者に災い有れ”とか、“盗人には死を”とか、“呪われよ”とか、その手の言葉を色んな言語でどう書くんか教えてくれへんかな」


 正直、どうするのかを考えている内に、ちょっと楽しくなってきていた。と言っても、どうしてくれようか、という歯を剥き出しにした嗤いを浮かべる感じでは有るが。

 俺の自由どころかひょっとしたら命ですら、俺の知らない内に賭け金にされていたのだとしたら、恩を仇で返すなんて話では無い。

 ちょっと遣り過ぎ位で丁度いい筈だ。


 折衝担当をしているという新乃木さんは、やっぱり何カ国語かに精通していて、一度辞書を取りには戻ったが、その後はすらすらとホワイトボードに幾つかの言葉が綴られていく。


「何か手が有るって、こうなる事を見越して仕掛けでも施していたのでしょうか」

「無理。予想出来たら凄いわ。

 ほんまに妹の言う様に呪われてんのとちゃうやろか。良く分からん正義感で暴走するんは、他に被害が出ん時だけにして欲しいわ。

 新乃木さん、一応言い回しとかネイティブにも違和感無いって思てええ?」

「ん~、ちょっと時代がかった古めかしい言い方に寄せましたけれど」

「ナイスや!

 ――で、念の為に聞くけれど、信用しても大丈夫って思てもええんかな?」

「信じて貰えると嬉しいですね」

「新乃木さんが最後の砦やで? まぁええわ。

 でも、これからする事を誰にも内緒に出来へんのやったら、回れ右して暫くこの部屋を立ち入り禁止にして貰う感じやな」

「いえ、見届ける人は必要だと思います。秘密は厳守します。同席させて下さい」

「……ならもう少し手伝って。人払いとA3の紙と色ペンも宜しく。多分結構時間掛かるし」


 そして持って来て貰った紙に発電機の展開図をフリーハンドで描いて、そこへいい具合の配置で(のろ)いの言葉を書いて貰う。

 細かな部品も展開図にして、満遍無くみっちりと。文章毎に色を変えて分かり易く、大胆に大きさを変えて重ねたりもしながら。

 当然会議室の扉には内側から鍵だ。知られてしまっては意味が無くなってしまうのだ。


「きゃー。会議室に連れ込まれてしまいました」

「余裕出て来たなぁ。まぁ、心配する事は有らへんよ。俺が俺の物を取り返すだけの事やし。

 さて、武士(たけし)さん達以外は家族しか知らん俺のアビリティを明かそうか。俺のアビリティは『召喚』。初期アーツは目視した品物を手元に召喚する【アポーツ】やったけど、レベル十で自分の持ち物なら距離に拘わらず取り寄せられる【召喚】を覚えたわ。でも、戦力にはならんから武士さん達のパーティは外れる事になったけどな。

 今回はちょっとアレンジを利かして、【解体】しながら【召喚】してみたいと思う」

「それで…………色々と謎が解けました」

「ま、ちょっとやってみるかね――」


 意識すれば何処に有ろうとその物の状況なら把握出来る【召喚】の感覚。【ドッペル召喚】だと召喚可能かどうかしか分からないのは、俺の所有物という訳では無いからだろう。

 その感覚で読み取った状態を、展開図の上に被せる様にして『分析』のスキルレベル六十でのアーツ、【模擬投影】で投影する。

 その状態で極小の玉を抉り取る様に、【解体】すると同時の【召喚】を意識して集中していると、紙に書かれた文字の上に僅かに音を立てて小さな玉が転がり落ちる。

 一粒転がれば、二粒目からは楽だった。粒の大きさを小さくして、砂が零れる様に【解体】と【召喚】で文字を綴っていく。


「な、成る程! 風牙さんが自分の物を取り返しているだけというのはこういう……」


 そこに明らかに楽しんでいる響きを感じ取って、俺は口元を笑みの形に歪めた。


「まぁ、ここまで上手く行くとは俺も思ってへんかった。出来るやろうとは思ってたけどな。スキルを別のスキルに被せて使うなんて事は、そう簡単に出来る事や有らへんと思ってる。こういう辺りが二年の研鑽の成果で、三十日間のダンジョン籠もりで磨いた部分で、他人には教えられんという所やねんわ」

「つまり、レシピ外レシピが有る様に、スキル外スキルが有るという事でしょうか」

「……まぁ、好きに理解したらええと思うで。ちょっとサービスし過ぎたわ。

 そもそも俺が陸なスキルを持ってへんのを忘れたあかん。別のスキルを使ったら、俺が苦労したのとは全然別の方法で、スキル通りにやるだけであっさり作れるもんかも知れへんし。

 …………はぁ。新乃木さんなら仕方無(しゃーな)いか。

 俺と同じ遣り方が出来る様になるかも知れんと俺が考えてる方法な。五階層のボスの間で、強化の指輪を五十万個【強化錬金】したら、もしかしたら同じ様な事が出来る様になってるかも知れへん」

「え!? 五……五十万個!?」

「数えた訳や無いけどな、ボスロップが十秒に二体ボロップを呼ぶとしての三十日間分と考えたら、大体五十万個や。三十日で【強化錬金】し切ったっていう作業密度もそうやろし、ボスの間で五秒に一度ボロップが死んでるっていう環境も大きそうやし、もしかしたら初回の挑戦でソロやったというのも影響してるか知れん。

 その状況で遣り遂げようと思たら、【召喚】で荷物や食事を取り寄せて、ドロップアイテムも拾いに行かんでも【召喚】で手元に引き寄せる事が出来へんかったら無理やろうと思ってる。

 でも、そんなん言えんやろ? 五十万個で無理やったとして、その次の五十万個で大丈夫かなんてのも俺には分からんねん。頑張ってとしか言えん。人によって合う方法は違うやろしな。

 いつかばらすとしても、今はまだ無理や。『錬金』使いも育ってない。何か有った時に俺も自分の身を守れへん。何か教えるとしたら、少なくとも半年後に高校卒業してから、『錬金』講習ビデオの第二弾をどうするかという所やろうな」

「……その時は、宜しくお願い致します」

「言うても、ダンジョン産物とかスキルでの特許がどうなるか次第やろうけどな。多分論理回路とかも再現出来るやろうから、魔力で動くコンピュータとかもその内出て来そうやけれど、そういう今有る物を置き換えた物はどういう扱いになるんやとか、スキル外で無いスキルで作った物はどういう扱いになるんやとか、一筋縄ではいかんやろな」

「スキルを介する以上量産は出来そうに有りませんし、特許では無く情報を買い上げて販売という形態も考えられますね」

「それでも半年後に纏まってるとは思えへんなぁ。まぁ俺は身内用に便利グッズを作るだけやけど」

「あの発電機もその便利グッズの一つなのでしょうから、便利グッズと言われても気が抜けません」

「言われても、便利グッズには違い無いやん。無くても今有るもんでどうにかなるもんや」

「公害の無いクリーンなエネルギーは世界が求める物ですよ?」

「公害が無くてクリーンや何て誰にも分からへんやん。ラノベで言うなら、ダンジョン外に魔素が満ちて、未知生物がダンジョンから溢れてくるなんて良く有る話やで? どんな影響が有るのか分からんいうんは、影響が無いという意味や無いんやから」


 そんな感じで延々と駄弁り続けていたのだが、到頭最後の一粒が手元に【召喚】されたのを感じ取って、それでこの場は御開きになる。


「細工は流々、後は結果をご(ろう)じろってな。皆切り上げてて誰も見てへんかったら哀しいけど」

「それは哀しいですけれど、言葉の使い所が変ですよ? 人事を尽くして天命を待つ、では?」

「……そういう意味や無かったん? あかんな、良う分からんままに使ってたわ」


 召喚した数多の粒は、展開図を描いた紙で包み込んで、ぎゅっと口を捻じ上げた。

 錬金王の腕輪に入れておけば邪魔になる事も無い。


「そう言えば、明日は宜しゅうな」


 用事は終わりとなった所で、明日の事を思い出す。

 防具作成の目星が付いたとの事で、明日は新乃木さんが車で迎えに来てくれるのだ。


「ええ。でも茂賀名台の南口で良かったのですか? 家までだって迎えに行きますよ?」

「うん、無理。多分思てんのの十倍酷い場所やから気にせんでもええよ」


 武士さん達はあの細い畦道も車で突破したと聞いているけど、とてもじゃ無いけどお勧めは出来無い。


「今日の事は絶対の内緒で。ほな、また明日!」

「ええ、ご迷惑をお掛け致しました。ご安全に!」

「ご安全に!」


 どうしてもその言葉が付いてしまうのかとおかしくなりつつ、あっさりその日は蜻蛉返りしたのだった。


 そして次の日。

 茂賀名台南口に在る橋の手前で待っていると、ププッとクラクションを鳴らして一台のバンがやって来た。


「あ、車にダンジョン管理部って書いてる」


 妹が妙な所に感心している。

 今日は、母、妹、ペルと家族が勢揃い。母に「もっとちゃんと構って上げなさい」と叱られて、かーくんも腕の中で撫でられている。

 冷やっとはしなくても、生き物の体温とは思えない冷たさに、かーくんの謎が深まる。丸で温もりの有る縫い包みに近くて、ずっしりとした重さは有るのに、何処か不安になってくる感じ。


 直ぐ横に停まったバンは自動で扉が開いて、中から新乃木さんの声が響いてきた。


「お早うございます! 今日はいい天気になりましたね!」

「お早うございます。うちの家族です。今日はよろしくお願いします」

「あ! ロンドさんや! 雅です。よろしくお願いします!」

「母の美野です。お早うございます。私達の分まで今日は済みません」

「あと、ペルな!」「ワン!」


 母がペルを連れて後ろの座席に潜り込んだので、妹と二人で前側に座る。

 しかし、何故俺の腕を抱え込んでくるのか妹よ。


「仲良しさんなんですね」

「え? ――ぅおぉ!? 何やこの手は! 兄さん何で手ぇ突っ込むねんな!?」


 しかも無意識らしいときては呆れるしか無い。

 新乃木さんの笑い声が零れる和やかな雰囲気で、車は動き始めたのだった。


「今日これからお伺いする東雲(しののめ)さんは、昔から甲冑の修復や手入れをしていた方です。その傍ら西洋の鎧にも手を出しておられて、HEMA(歴史的ヨーロッパ武術)の大会にも何度も出場されていたとか。でも、それだけにダンジョンの出現からの現実をしっかり見ておられて、何れこの様な世の中になると予想していたのでしょうね。工房も拡張して、現代の鎧を探求してと水面下では動いてらしたそうです。

 世界でもトップクラスの防具職人ですよ」

「そんな人が奈良におったんやなぁ」

「柳生の里とか有りますから武芸も盛んなのでしょうけれど、それとは違って本当に趣味でその世界に入ったみたいですね。ですから柔軟に最新技術も取り入れて、探索者の身体能力に合った鎧を真剣に考えているのは東雲さんくらいかも知れません。海外での防具はヘルメットと同じで、一度衝撃を受けたら即交換というのが主流ですから」

「それはそれで合理的なんやろうけどなぁ」

「あかんよ、ふーちゃん。一度ダメージを受けたヘルメットは強度が落ちてるんやから」

「でも、そこを修復してしまうのもダンジョン素材の凄い所だったりするのですよ。東雲さんはそういうのを上手く取り入れていらっしゃいますね」

「へ~」


 そんな事を喋っていたら、新乃木さんが面白そうにくすっと笑った。


「それはそうと、今朝のニュースは見ました?」

「いや?」

「うちはテレビ見られへんねん」

「ふふふ、サミットがダンジョンの怒りに触れたと大騒ぎになってましたよ?」

「そら、大変やなぁ」

「……」

「ん? 雅、何や? ――新乃木さんはアビリティの事やったら昨日教えたで?」

「あ、そうなんや。でも、兄さんが召喚しただけでそんな騒ぎになるん?」

「そりゃ、ちょっとおどろおどろしい感じで召喚したからやな」


 すると、母が(うち)の唯一の情報源である母のスマホで、そのニュースを検索したらしい。


「ふーちゃん、これかな?」


 後部座席から身を乗り出した母と一緒に、スマホの動画を覗き込む。

 画面の中ではいい感じに撮影されていた発電機に、思わずガッツポーズを取りたくなる様な不気味さで呪いの言葉が刻まれていき、阿鼻叫喚の中で消滅するまでが克明に映し出されていた。


「会心の出来や! 新乃木さんの御蔭やな」

「お陰様でスキルを用いた特許についても、サミットの期間を延長して話し合われる事になったそうですよ。ですけどその動画が流出してしまった事が、そもそも特許の保護から言って大失敗だったのではと戦々恐々としているみたいですね」

「凄い楽しそうやけど、その心は?」

「とてもすっきりしました♪」


 車はどんどん山間の道へと入って行くが、まだまだ先は長そうだ。


「ロンドさんは兄さんが探索者になってからの知り合いやったりするん?」

「あ……これは失礼しました。新乃木鈴花です。そうですね、私は第六十四番ダンジョン管理部の最初期スタッフですから」

「なら、兄さんが何をやって来たんかも知ってんねや。なぁなぁ、兄さん何も教えてくれへんねん。どんな感じやったんか教えてくれへん?」

「それは私も知りたいなぁ」

「いや、初めの半年は兎も角、後の二年はポーションしか作ってへんから、何も無いのはそのままやで?」

「そうですねぇ――」


 俺が話のネタにされて居心地の悪い思いをしながらも、俺の知らない周囲の反応なんかも聞きながら、車は山の中を進んでいく。

 迷い様の無い一本道ながら点けられていたカーナビが、やがてその画面の中に目的地を表示した時には、既に一時間以上が過ぎていた。

 山の中の集落は、意外と其処に近代的な家並みを見せたのである。


「でっかい家やねぇ……」

「母さん、こういう家がええん? ログハウスがいいなって思てたんやけど」

「皆で集まる場所はそれがええかも知れんけど、普通に暮らすんやったら断熱とかしっかりした普通の家がええなぁ」

「あー、それはうちもそう思う。冬は壁際から冷えて来るもんな」


 新乃木さんが苦笑を漏らしているが、その気持ちも分からないでも無い。

 少なくとも十億以上の資産が有る家族の会話では無いだろう。


 集落の一画に設けられた広い駐車場にバンを止めて、全員連れ立って一際大きな家へと向かう。


「御免下さい。ダンジョン管理部の新乃木です」

『は~い。直ぐ行きま~す』


 インタホンで呼び掛けると、女の人の元気のいい声が返って来る。

 暫くしてガラリと引き戸を開けたのは、癒しの波動を身に纏っているかの様な、ほんわか美人さんだった。母より少し年上だろうか。


「ようお越し。内の人も楽しみにしてたんですよぉ。早よ上がって下さいな」


 その言葉に、「よろしくお願いします」や「お邪魔します」の返事をしながら皆が靴を脱いで上がっていくが、ペルを抱えた俺は少しまごついてしまった。


「あの、ペル――うちの犬はどうしましょう。足は拭いてるし、大人しいから抱き上げてれば大丈夫と思うんですけど」

「足拭いててくれてるなら、そのまま上げても構いませんよ? 犬も猫も居ますからに、仲良うしてくれるといいんですけどねぇ」


 その言葉に甘えて、ペルを下ろして俺も靴を脱いだのである。



「ほほう、……ほほう? ――悩ましいな、これは」


 待たされた客間に現れた東雲風雲は、アメフトでもやっていたのだろうかというがっちりとした体格の男だった。

 因みに風雲は号であって、本名は別に有るらしい。

 その男が、俺の腕や肩を揉みながら、頻りに顎を(さす)っている。


「予め聞いていた要望に真面目に対応すると、宇宙服の様なデザインになるがそれでは動き難い。特殊部隊の装備も体幹の防護が主だからな。動画で見た古い革のジャケットは或る意味合理的だった。其処で言うと、寧ろ嬢ちゃんの要望がぴったりだ。流石巨匠は良く考えている」

「おお!」


 妹は喜んでいるが、俺は突っ込みを入れずには居られない。


「あの、お前は何処の風の谷出身やっていう……」


 確かに良く考えられている。巨大菌類の胞子が入り込まない様にとのデザインは、俺の要望にも合っているのは確かなのだが……。


「実に合理的だ。胸にポーションポケットまで付いている。版権の問題もダンジョン管理部で何とかするとの話だから心配する必要は無いぞ」

「私も東雲さんがこんなに乗り気になるとは思いませんでした」

「なぁなぁ兄さん、そうしよう? お揃いやんか」

「猟師としてはどうやろな?」

「めっちゃコスプレ感が強なってしまうなぁ……」

「何を言っているんだ? 私がこれから作るのは本物だ。それにその肩に乗る不思議生物。他の選択肢など有り得んだろう」


 真剣な東雲さんのその様子に、何故か笑いが込み上げてくる。これはもう仕方が無いという所だ。

 作業員のコスプレが風の谷のコスプレになるだけだ。そう思う事にした。


「悩ましいのはまだまだ成長の余地が有る所だな。今の体に合わせても、直ぐに手直しが必要になりそうだ」

「あー……そういう事なら、『錬金』で【サイズ自動調整】とか付けられるから、大きめに作って貰えれば何とか。大きなるのは少しだけやけど小さくなるのは結構行けるし、妹のも母に合わせて作って貰えれば何とかします」

「何!? ……『錬金』はそんな事も出来るのか?」

「ですねぇ。最初に覚えるのこそ【鑑定】と【ポーション作成】ですけれど、レベル十で【魔石加工】と【鉱石加工】、レベル二十で【生体素材加工】、レベル三十で【強化錬金】、レベル四十で【成分調整】、レベル五十で【精密加工】、レベル六十で【反応促進】、レベル七十で【修復】、レベル八十で【生体錬金】、レベル九十で【魔法刻印】、レベル百で【特殊付与】と、素材の調整とか魔法的な処理は『錬金』無いと不便そうですわ」


 因みに発電機は鉱石加工で黄石に青石を組み合わせて、【魔法刻印】で電気の流れを規定して作った物だ。素の【魔法刻印】で付与出来るのは、強化の指輪と同じ十種のステータスの強化だけだったから、それだけでは発電機は作れない。各種魔術のスキルレベル三十で覚える【魔法登録】で自作の魔法を登録するか、スキルオーブで覚えた魔法が有るのなら、刻印出来る魔法もそれだけ増えていくらしい。

 まぁ、魔術は俺の奥の手だから、暫く明かす事は無いだろう。


「スキルレベル百は凄いな、おい。言葉の響きからすると、その【特殊付与】で出来るんだな」

「ええ。他には【使用者限定】とか【色変化】とか。試してみたら、持っているスキルに応じて出来る事が変わるみたいで、服のサイズ変えるのは『裁縫』のスキル持ってないと出来んみたいですね」

「それで風牙さんは、今月分に『裁縫』を望んだのですか」

「よし、良い情報を聞いた。なら、そこは任せよう」

「序でに言うと、素材も少しの差なら着心地と仕上がり優先にして貰えれば」

「ははは、強化出来るからか。仕方無い、俺も百を目指さんとな!」


 案の定、手間取ったのはペルの装備で、今はちょっと思い付かないと保留となってしまっている。参考にと言っているのが犬の出てくる漫画というのが気になるが、その内凄い物を作ってくれるに違い無い。

 何と言っても「この犬は何が出来るのか」と問われてのペルが、ぴょんと垂直にジャンプして天井に着地して「わん!」、天井から地上に戻って再び「わんわん!」と吠えたのを見て、風雲さんもこれ以上に無いくらいに大燥ぎしていたのだから。


 その後の採寸も、メジャーで測るだけでは無くて3Dスキャンみたいな事までやる事になった。早ければ一着目は二十日後にも出来上がるそうで、今からその日が楽しみである。


 再びバンに乗ってから、動き出した車の中で、新乃木さんが口を開く。


「――風牙さん、実は言ってない事って他にも色々と有るでしょう?」

「そら有るよ? 言ったら大騒ぎになるんが見えてるから言ってない事がようさん」

「はぁ~……もう、因みにどれ位大騒ぎになる感じでしょう」

「ポーションと同じ位にインパクト有るんとちゃうかな? 新乃木さんがハンドル操作誤るかもってぐらい?」

「今聞かない方が良さそうですねぇ」

「聞かれても今は答えへんけどな。

 それはそうとして、明日か明後日の午後とかに、講習ビデオの解説版作りたいんやけど、告知とか出来るかな。会議室取れたら会議室で、――ていうか、邪魔にならへんのやったら待機場所使った方がええかも。テレビ二台でそれぞれ講習ビデオとサミットの映像と流したいんやけれど、カメラの準備含めてお願い出来へんやろか」

「え? 風牙さんに解説して貰えるなら助かりますし、明日にでもご準備致しますけれど?」

「兄さん無理やて。関西のノリは他やと分かりはらへんわ」

「え?」

「無理や無い! 為せば為る!」

「為さねば為らぬ、何事も」

「茶々を入れる口はこの口か~!!」

「……ああ、そういう解説ですか」


 帰りの車の中も、そんな感じで騒がしかった。


 次の日、早速ダンジョン入り口前の待機場所の一角に、講習ビデオ解説の特設会場が設けられていた。

 と言っても、普段はテレビを流している休憩場所に、もう一台テレビを増やして会場にした感じだ。

 其処でテレビを見ている常連の人達が若干不満気にしているが、それはそれで何を始めるつもりだろうという期待感も感じられる。

 そこにいつもの(・・・・)格好で颯爽と現れた俺に、注目が集まるのもまた当然の事だった。


「こんにちは。今日は先日発表された『錬金』講習ビデオの見方について解説をさせてもらう、講師を務めたフーガだ」

「いや、ちょっと待てや! ダンジョンから出てるんやからヘルメット取らんかい!」


 野次が飛ぶ。

 俺はじーんと胸に迫る物を感じながら、震える指先で野次を飛ばしたおっちゃんを指差した。


「合格! その突っ込みが無いが為に俺がどれだけ身悶えしたかと……。まぁ、とっとと始めよか。今日の解説はビデオに撮って公開予定やし、皆さんも気楽に正しい突っ込みの入れ方を教えたって欲しい」


 言いながら、ヘルメットを取って保護具を脱ぐ。勿論保護具の下にも保護具を着込んでいるのはお約束で、激しい突っ込みが湧き上がる。

 透かさず立ち上がった厳ついおっちゃんが、その頭に手を遣って、勢い良く(かつら)を脱ぎ去って地面へと叩き付ける。

 体を張った答礼に俺ももう一枚、保護具を地面に叩き付けた。大丈夫、残機はまだ有る。


「いや、顔出しはマジで勘弁してくれ。ちょっと無遠慮な公開のされ方やったから、顔バレして美人の暗殺者が大挙してやって来たら体が持たんわ」

「「「無い無い」」」

「はは……まぁ、この解説はやな、折角呆け倒してんのに突っ込み不在で困った末のセルフ突っ込みなんて情け無い嵌めになった俺に、救いの突っ込みを求めるもんやから、その調子で頼んますわ」


 そう言って、講習ビデオとサミットの映像を同時に回した途端に突っ込みが来た。


「おいおい、ちょっと待てや。ビデオ間違えてんぞ」

「何処の工事現場の講習ビデオやねん!」

「うわ、お偉いさん達真面目さんか!? ちょっとは突っ込んだれや!」


 怒濤の勢いで突っ込みが入る。

 時々新乃木さんや、カノンをしていた箱屋さんが乱入する。

 体を張った呆けに爆笑して、顔を真っ赤にして反論する新乃木さんにまた皆で爆笑する。

 結構な長さの講習ビデオと思っていたが、初見の人達も交えながら、あっと言う間に最後まで行き着いた。


「――ほら、物凄い英雄でも迎える様にしてるけどな、よう考えてみ? こいつ、五階層のボス突破しただけやねん」

「うわ、そうやった。俺も勢いで普通に拍手してもうたで!?」

「しかも無事に帰ってきた所に『ご安全に』て何やねん? 帰って来てんで? これから行こうって訳や有らへんのに、しかもこれ! こいつ! 何やこの保護具付けてヘルメット被って巫山戯てんのかみたいな!」

「お前が、お前がな!」

「そうや! オーマイガーやで!!」

「違う! お前や!」

「オーマイガー!!」

「しっかし、偉いさんらは拍手喝采かいな。良う分からんなぁ」

「誰も噴いてへんかったで?」

「ユーモアのセンスが無いんやろうな。解説作って指導したくなる訳や」

「まぁ、そもそも俺はポーション作りに関してはダンジョン管理部から不遇な扱いされてたのに、何でこいつらがこんな偉そうに発表してるんか分からんのやけど。でも、ここまでなら仕方無(しゃーな)いなぁで済むんやけどな、ちょっと次が問題やねん」


『静粛に。話はこれで終わりでは有りません。三つ目のビデオの中で語られた強化の指輪。その五十回強化品が此処に有ります。『錬金』を失敗した副産物としてのポーションを求めていては、『錬金』のスキルレベルも上がらないのかも知れませんが、正しく『錬金』を用いればこれだけの事が出来るという証左です。

 そしてもう一つ、これは両端からコードが飛び出た缶ジュースに見えるかも知れないが、魔石式の発電機です』


「あ、強化の指輪は大量にダンジョン管理部に納めたから、そっちを当たってや。

 問題なんは魔石式の発電機な。これ、特許をどうしたええかって相談に来たら、悪い様にはせんから言うて借りていったのんを、嬉しそうに見せびらかしてるんやわ」

「うわ、最悪の呆けやな!」

「その呆けは許されへんで!?」

「やろ? そもそも『錬金』で作ったなんて一言も言ってへんねやから、『錬金』鍛えた所で作れる様には成れへんねん。機械で大量生産出来る工業品では無うて、一つ一つ手作りの工芸品でも有るしな。それにポーションが世の中に出回っただけで大騒ぎやのに、これが量産出来るとでも思われたら本気で命を狙われそうや。ほんまに偉い事をされたもんやで。

 つー事でやな、最後はこのとんでもない呆けを晒した奴らに、相応のお仕置き突っ込みを考えて欲しいんやわ」

「と言う事は、金や無いな」

「そうそう」

「笑いも取れてそれなりにえげつないお仕置きか。難問や」

「……ちょっとええか? 思い付いてしまったんやが」

「おう、ええで。遠慮せんと言ってくれ」

「メイド服を着せる言うんはどうやろ?」

「!! ――お前信者か!?」

「いや、ちゃうちゃう! まずコスプレいうところで笑いを取ってやな、それがメイド服ならえげつなさでも相当のもんやで? 冒涜やと怒り狂った狂信者が何時現れて何をするか分からん」

「「「……天才か?」」」

「まぁ待て、お仕置き中の札を首から掛ける位は許してやろうや」

「ヘッドドレスは必須やな」

「夏服と冬服揃えなあかんな。姉ちゃん、ちょっとそこのホワイトボードに書いたって」

「はいはい♪」

「夏はあれや、長靴下に太腿がちらりと見える感じの――」

「えぐい! 俺らに被害が来るわ!」

「ええや無いか。偉いさんなんて俺らの前には殆ど顔を出さんし」

「それもそうやな」

「冬は流石にクラシカルタイプか? 期間は一年」

「「「異議無し!」」」


 お仕置きが一分そこそこで決まってしまった。


「流石やわ。速攻でえぐいお仕置き突っ込みが決まってもうたわ。相談して正解やったけれど、誰かメイド服の入手先に伝手は有りしませんか?」

「はいは~い! 私の友達が信者だから、LLサイズでも手に入るよ♪」

「なら、カノンさんにお願いします。夏服と冬服をそれぞれ三着ずつで」

「任せて~♪」

「今日の議題はこれで終了やな。皆さんどうも有り難うございました。これにて閉廷!」

「裁判なんか!? ……恐ろしい裁判やった」

「ご安全に」

「ご安全にぃ~」


 出来上がった解説ビデオは、ネットで公開されている講習ビデオの頁の片隅に、背景に紛れさせてリンクを貼り付けて貰う。古き良き手法の、何故かマウスカーソルが反応する裏サイトへの入り口だ。

 きっと誰かがリンクを踏んで、SNS上で拡散していくのだろう。俺には今一ピンと来ないが、母によるとそういう物らしかった。


 ダンジョンまで来た序でにポーションだけささっと作って、そのまま早めに家に帰った。

 パートを午前だけにした母は、新しいパソコンをスマホ経由でインターネットに繋げて情報収集中。


「はぁ~……やっとこれで一段落着いたかなぁ」

「ふーちゃん、お疲れやね」

「自分と関わり無い筈の所で遣らかされると、めっちゃ疲れるわ」

「それはお母さんも良く分かるわ。金曜日から温泉行くんやろ? ゆっくり疲れを癒して()ぃ」


 そんな事を言われながら、ごろごろする。


「あ、ふーちゃんのスマホ、これがええやん」

「え、何?」

「旅行に行くのにスマホ無いのは不便やし、明日か明後日買いに行こな」


 どうやら母は俺のスマホを何にするか調べていたらしい。


「スマホとか有っても良く分からへんで?」

「充電して持っとくだけでええねんて。最近は色々と無料の通話ツールが有るから、電話を掛ける必要も有らへんな」

「へ~」


 何だか世の中は俺の知らない所でも発展していたのだなと思いながら、俺はそのまま眠ってしまったらしかった。

 ちょっと目を閉じただけのつもりが、次に聞いたのは妹の叫び声だ。


「何寝てるんやー!」


 伸し掛かってきた妹の重さで目が覚めた。


「え? 寝てた?」

「二時間位な。やっぱふーちゃん疲れててんで」


 ペルの散歩をせがむ妹と一緒に家を出て、落ち葉を踏みつつゆっくり歩く。

 俺と一緒の朝の散歩は、体力の限界を試す超刺激的な追い駆けっこ。妹と一緒の夕方の散歩は縄張りを見回る儀式めいたもの。そんな理解でもしているのか、ロプスの指輪を全開に使った朝の激しさは鳴りを潜めて、悠々とした様子でペルも歩く。


「兄さんはええなぁ。温泉行けて」

「指名依頼の報酬にするか?」

「ううん。ペルが行けれへんし、温泉入っている間は離れ離れやん」

「もう少し早かったら、夏休みに色々遊びに行けたんやけどなぁ」

「冬にペルも入れる山小屋の温泉で一泊とか」

「それもええなぁ。残りの一回は新年会とかも有りやな」


 指名依頼の報酬をこういう形にしたのも、こうやって色々と計画を練るのが楽しそうだったからだ。

 講習ビデオの報酬が月々お好きなダンジョン産物というのも、カタログを見ながらあれがこれがと家族皆で選ぶのが楽しそうだった。

 そこに制限が付くと興醒めだし、魔法のスキルオーブを除外されたのは何だかなぁと思ってたけれど、実際に今月分を選ぶ段になって妹が魔法は無いのかと肩を落としているのを見て、寧ろいい仕事をしたと褒めたくなったのは内緒だ。

 自力で魔術を覚える事が出来ると知ってても、魔法と言うのには強く憧れる物らしい。


「来月分は何を貰うかなぁ」

「お母さんが、電源何とかなったら、次はアンテナが欲しいて言ってたで?」

「げ~。進学せぇへんのに、電磁気学とか電子回路とか専門書が積まれていくのはどうにかならんやろか」

「無理やろなぁ。でも、今のお母さんの方が楽しそうでええやん」

「それはな。

 あー、でも、アンテナやったら既に『黄魔術』が有るし、探査とか探知とか検知とかそっち方面のスキルとの組み合わせになりそうや。ちょっと調べとこか」


 母だけでは無く、俺も家族とこうしてのんびり過ごす時間を取り戻した。妹もすっかり表情から険が取れて穏やかになっている。


「このまま平和が続けばええなぁ」


 思わずそんなフラグを立てるかの様な言葉を口にしてしまったが、この時の俺は薄々感じていたのかも知れない。

 これから多分、俺の身の回りが騒がしくなるだろうという事を。


 卒業旅行へと出発する日、俺は家へ荷物を取りに帰らなくても済む様に、一度【召喚】した制服を着て学校へと向かった。一応リュックも持って来ているが、カモフラージュ用だ。

 教室の後ろにそうしたリュックやボストンバッグが積まれた状況で、先生に呆れられながらも授業は進む。

 昼になると俺を含めた進学組以外の六人が抜けていった。


「先に行ってるな」

「寄り道して遅れんといてや!」


 こういう遣り取りも何故か楽しい。


「よぉ、飯食ってこーぜ」


 そんな誘いに誘われて、ふらりと俺もラーメン屋の暖簾を潜る。


「ここはトッピング全部載せが美味いねん」

「なら、俺もそれ一つ」

「おー、そうしろそうしろ」


 そして実際に出て来たラーメンは美味かった。

 暫くは無言でラーメンを啜る音が響く。


「坂鳥ってさ、あの、何て言ったっけ? 怪獣山寺ダンジョンに行ってんねやろ? あっちってどう?」

「何か響きがちゃうけど……まぁ彼処は錬金ダンジョンやから、戦わんでもそれなりに稼げるで? と言うか、安定してポーション作れる様になったら、食いっ逸れは無いな」

「そうかー。泉川ダンジョンも結構稼ぎはええけどなぁ。何かポーションの作り方が公開されたとかで、俺にも『錬金』取っとけって親が煩いねんわ。剣持ちが『錬金』覚えても邪魔やと思うんやけど実際どうなん?」

「そら断然取っといた方がええと思うで? 回復手段の無い力押しなんて、何か有れば直ぐに崩れそうやし。逆に回復出来る戦士言うたら、ゲームで言えば聖戦士とか聖騎士やな。それや()うても、卒業までは十階層までしか行けへんねやから、レベルかて上がらへんやろ? 『錬金』使いにはアイテムボックス付きの装備も用意されてるから、折角近くに有るのに錬金ダンジョンに潜らへんのは損やで」

「え!? アイテムボックスが有るんか!?」

「探索者でも興味ないと情報広まらんもんやなぁ。まぁ、親に聞いてみて。五階層のボスをソロで手順踏んで斃せば多分手に入るし。初回でやったら少しええのんが出るんとちゃうかと思うわ」

「アイテムボックスかぁ……。それが本当なら、怪獣山寺ダンジョンは偉い事になりそうやな」


 俺としては第七十三番ダンジョンこと泉川ダンジョンにも興味は有ったのだが、既に答えは出てしまっていた。ボスが槍遣いの槍ダンジョンなのだが、錬金ダンジョンの様に手下を呼んだりしないから、【強化錬金】するのにも時間が掛かりそうなのだ。

 槍は『投擲』とも相性が良いと考えていただけに、そこは少し残念だった。尤もこんな事を考えられる様になったのは、ロプスの指輪を手に入れて少し自信が付いたからでは有るのだが。


 思いの外に時間を潰すのにも苦労せず、待ち合わせの時間がやって来る。お金も既に払っていて、纏め人から切符も既に手に入れている。

 電車に乗って暫くした頃に、持たされたスマホが震えて動揺する。


「え!? 何これ、受話器のボタン押しても何も変わらへんねんけど!?」

「それ、受話器のボタン押してから、矢印の方に指を滑らすねんで」

「え!? あ、ほんまや――」

『兄さん、ちゃんと電車乗れた~?』

「うわ、テレビ電話や。時代は進んでんねんなぁ。今電車の中や、大丈夫やで?」

『兄さん、間違えて女湯に入ったあかんで?』

「入らへんわ! ――もぉ~、見たって。うちの可愛い妹や」

『ああ! 何で女子もおんねんな! さては兄さんの事狙てるやろ!』

「あは♪ 可愛い妹さんやね。お兄さんと一緒に温泉に行ってくるなー♪」

『ぎゃー! 兄さんに引っ付くなー!!』


 妹だけでは無く、クラスの女子にもからかわれてどぎまぎする。ちょっと不意討ちはやめて欲し――くは無いな。うん、何か青春している気分になる。

 途中で何度か電車を乗り換えて、電車の中で駅弁を食べた。スマホのカメラが大活躍だ。

 城崎で夕食としないのは、頼んだ宿が大部屋二部屋しかない素泊まりの宿だからとの事。それでも温泉は流れてきていて、二十四時間流しっ放しの内風呂に何時でも入る事が出来るらしい。

 でもメインは外湯巡りで、さとの湯に色々な温泉が集まっているとの情報は得ているけれど、色んな温泉を入り比べしようと皆で案内書を捲っている。


 でも、時々始まるのが受験生らしい突発クイズ。この卒業旅行を企画した纏め人達が、通り過ぎた駅に因んだクイズの数々を繰り出してくる。


「さて、今乗り換えたばかりの福知山駅。ここに有る福知山城を建てた有名な武将は?」

「いや、分からん!? マニアック過ぎるって!」

「明智光秀!」

「正解!」


 果たして受験勉強になっているのかは、俺には全く分からない。

 特急から鈍行に乗り換えて、城崎温泉駅に着いたのは八時を半ば過ぎていて、宿へ着いた時には九時近くになっていた。


「荷物、部屋に置いたら好きに風呂に入ってぇ。部屋残ってる奴はクイズ大会な」


 大部屋二つと言いながら、真ん中の仕切りが(ふすま)だけというのはどうだろう?

 そして女子部屋の方から遠慮無しに襖が開いて、男子側が叫ぶというのもどうなんだと思いながら、俺も着替えを持って風呂へと向かう。

 二十人は入れそうな風呂場は、見た目普通の風呂屋で温泉という感じがしない。けれど温めのお湯に浸かってみれば、ちょっとぬるっとして肌がすべすべになりそうな感じが、普通のお風呂とは違っている。


「やばい――でかい風呂って気持ちええわ」

「そやなぁ。けど、坂鳥はあんまり探索者って感じがせぇへんな」

「そりゃダンジョンで薬草採取してポーション作ってるだけやしな。通学でジョギングしてるから、どっちか言ったら長距離走選手的な鍛え方なんとちゃう?」

「確かにそんな感じかも知れへんな」


 ラーメンを一緒に食べた後藤と、のんびりそんな会話をする。

 受験勉強をしている中に混じるのは、ちょっとばかり居心地が悪い。

 そんな事を思いながら、湯船の縁に顎を乗せて、体を真っ直ぐだらけさせても余裕が有る。これはいい。


「これはええわ。次造る風呂はこれぐらいでかいのにしよかな」

「儲かってんねやったら好きにすればええわ」

「やなくてな、今住んでるのが森の中にぽつんと四棟建ってる十畳の平屋なんやけどな、シャワールームとトイレが一畳無い場所に押し込められていて、普段は他の棟に住んでる爺さんが自分で建てた風呂小屋を使ってんねんわ。狭いとは言わへんけど、足は伸ばせれへん五右衛門風呂やから、こういう風呂を知ってしまうとでかいのが欲しくなるねん」

「自分らで建てんのかいな!? 偉いもんやな。まぁ出来上がったら俺も遊びに行かせてもらおか」

「はは、その内な」


 そんな風にのんびりしていても、その内体がふやけてくる。

 風呂から上がって部屋へ戻ると、完全に襖が開け放たれた中で、クイズ大会が盛り上がっていた。


「――製紙法が唐から西方に伝わった戦い」

「はいはい! タラス河畔の戦い!」

「そしてその伝わった先は?」

「アッバース朝シリア!」

「……あれ? シリアまで入るんやったか??」

「待って、教科書にはアッバース朝としか書いてない。どっからシリア出て来た!?」


 そんな遣り取りをしているのを、布団に入ってぼーっと眺める。

 更に何問か聞き流して、つい我慢出来ずに口に出してしまった。


「なぁ、身も蓋もない事、言ってもええ?」

「ん? 何か有ったか?」

「暗記物ってな、スキルの『分析』をレベル十まで上げて【記録】のアーツ覚えたらほぼ無意味にならへんかな」

「え!? 何それ、そんなスキル有るのん!?」

「そやねん。まぁ、英語の単語憶えた所で英語が話せる様になる訳でも無いやろし、常にカンニングしてたら頭も悪くなるかも知れへんけどな。頭使わんでええ所やったらスキル任せにしてもええやろし、これからの世の中どんどんそんな感じに変わっていくんとちゃうんかなぁ」

「今聞きたくは無かったかなぁ~」

「遣る気が萎えた~」

「いや、ずっと先の事やで? 言ってみればカンニングやって言うたやん。でも、社会に出てからやと滅茶苦茶役に立つやろし、そうで無くても一度はダンジョン潜って自分のステータスが見れる様にしておくだけでもええんちゃうかとは思うわ。アビリティ持ってたとしても分かるしな」

「アビリティ持ちなんて然う然うおらんて」

「――と思うかも知れんけどな、アビリティ持ちは生まれつきの感覚やからそれが当然と思って気が付かへん事も多いねん。目がいいだけとかな。でもアビリティやったらレベルを上げたら色々と出来る事が増えるねんわ。三十歳とか四十歳越えてから知って後悔するより、進路決める今の内に確かめといた方がええ気がするなぁ」

「それ、俺もそう思うな。探索者にならんでも、ダンジョン管理部に付き添いの申請出したら、一階層には潜れるわ。泉川ダンジョンは俺が付き添えるし、怪獣山寺ダンジョンは坂鳥に頼めるやろ」

「へー、そんな制度が有ったんや。まぁ、今は色々一段落着いたし、纏めて来てくれるんやったら構へんよ」


 ちょっと俺が水を差してしまったけれど、それからも気を取り直してクイズ大会は続けられた。

 そして俺は久々に大人数と会話して、気疲れから何時の間にか眠っていたらしい。

 起きた時に女子二人が俺の顔を覗き込んでいて、本気で吃驚して焦ってしまった。


「……お早う。山根さん、柳原さん」

「……お早う。風牙君」

「お早う……」


 何故か二人は少し残念そうな様子で去って行く。


「おう、坂鳥、もてもてやな。あの二人絶対キスしようとしてたで」

「んな訳無いやろ、も~。軽く顔洗って……いや、朝風呂に入ってくるわ」


 気配で起きていたらしい後藤にからかわれながらも、まだ寝ている人が多いのでそっと部屋を抜け出した。

 さて、ちょっと贅沢に朝風呂としよう。


 その日は朝から自由行動。駅前の茶屋で朝ご飯を食べて、初めの温泉はさとの湯から。

 ジャグジーの大浴場に、暑いサウナに冷たいサウナ。露天の打たせ湯にと回っているだけで時間が過ぎる。


「あかんわ、これ回れへんから次へ行こや」


 誰が言い出したかその言葉で、次から次へと外湯を巡る。

 三つ目に入った岩窟風呂の一の湯を出たら、既にお昼のいい時間になっていた。


「あ! 風牙君や!」

「い、一緒にお昼ご飯食べへん?」


 柳湯の方向からやって来たのが、何時の間にか浴衣に着替えた山根さんと柳原さん。

 「へたれ」と耳元に声を投げてから去って行く後藤達。


「あー、うん、そうやな。どっか入ろっか」


 でもちょっと待って欲しい。堰き止められていた青春が、一時(いちどき)に流れ込んで来ている様な気がするけれど、俺にそんな甲斐性は無い。中学時分からそういう諸々を切り捨ててきた俺に、そんな高度な事を要求しないで欲しい。

 本音はそんな気持ちも有ったけれど、男の哀しい(さが)なのだろうか、悪い気はしない――どころかかなり嬉しくて、そこからは女子二人と温泉街を巡る事になったのだった。


 お昼ご飯に女子二人と食事処に入るなんて、そんな展開夏休み前の俺からはお釈迦様でも分かるまい――何て事を考える。


「もう、風牙君、蟹の味噌汁じっと見てどうしたん?」

「ん? いや、蟹と味噌汁も結構合うんやなと」


 蟹の味噌汁――神のみぞ知る……いや、多くは言うまい。


「それにしても雅ちゃんも大きなってたな。中学の運動会の時はこんなんやったのに」

「そう言えば、迷子の雅を山根さんが連れて来てくれたんやったっけ?」

「そうそう、憶えてた? 凄い優しいお兄ちゃんしてるんやなって思ててん」

「うん、風牙君、凄く優しいから。いつも風牙君の周りには穏やかな空気が漂っていて……好き」


 みゃーちゃん助けて、と叫びたくなる気分を押し殺し、鈍感系主人公の様に話を逸らす。


「そら有り難いなぁ。なよなよしているとは良く言われてしまうけど、そこを褒められたのは初めてかも知れへんわ。

 それより二人とも可愛い浴衣を着てるけど、それは何処に売ってたんやろ?」

「可愛い……へへ」

「あ、あ、あっちのお店で」

「雅の話が出たから思い出したけれど、母さんと雅にもお土産に買って帰りたいし、案内してくれると助かるわ」

「う、うん!」

「やっぱり風牙君優しい……」


 浴衣屋に行って母と妹へのお土産を買った。母にはタイル地で何と無くデジタルっぽい印象を抱く絵柄、妹には狼が遠吠えしている物と、黒地に蜘蛛の巣が描かれ赤い蝶が飛んでいる物との二枚。まぁ、言ってみればペルとアビリティの『罅』だ。やけに格好いい浴衣になってしまった。

 そして俺の浴衣も無いと駄目だと言われて、今真剣な目で二人が浴衣を選んでいる。

 俺も髪飾りでもプレゼントした方がいいのかと思いながら商品の飾られた棚を見るけれど、今一つ良く分からない。(かんざし)は髪が長くないと留められないだろうから、山根さんは兎も角柳原さんには厳しそう。なら櫛かと思っても、髪を梳く櫛を髪に留めようとしても落ちてしまうのでは無いだろうか。

 指輪を嵌めるのは左手の薬指だと思い込んでいた俺には、難問過ぎる難問だった。


「風牙君! 風牙君にはこの浴衣が似合うと思うの」

「落ち着いた感じが似合うと思ったから……」

「そう? 有り難う。ほなそれも買うかな。着替えた方がええやろか?」

「「うん!」」


 選んでくれたのは、緑色でシンプルな柄に茶色の帯の浴衣。確かに落ち着いていい感じかも知れない。

 全部纏めて会計を済ませてから、試着室で着替えてしまう。脱いだ服は【召喚】した錬金王の腕輪の中へ。


「わ、凄い似合う!」

「格好いい!」

「……有り難う」


 そこからの道中、遠慮勝ちに袖を摘まんでいた二人の指先が、俺の腕に掛かる様になり、しっかり腕を組んでくるまで直ぐだった。

 二人居るから対抗意識を燃やしての結果にも思う。

 でも、この二人は大きな妹。そう心に念じながら、非日常の温泉街を歩く。最後に鴻の湯に入って、出口で待ち合わせた二人と一緒に城崎の街をゆっくり歩く。

 暗くなってから入った食事処は、壁に幾つもの古時計や古道具が飾られていて、とてもいい雰囲気の店だった。


「蟹雑炊が美味しいなぁ」

「ふふ、壁に“おあいそは有りません”て書いてあんのに、写真は撮ってくれるんや」

「うちらも撮って貰お?」


 スマホに新しい写真がまた増えた。

 でも、俺はどうすればいいんだろう。


 宿まで戻ると半分近くはもう戻って来ていて、居ない内の十人近くは既に今日の夕方の便で帰ったらしい。


「おー、お疲れ~……見せ付けるなぁ」

「俺にも良う分からんねん。言わんとって」


 何処のご飯が美味しかったとか、安い蟹は外国のやとかの情報とか、そんな事を遣り取りしながらも結構皆お疲れ気味だ。


「一日温泉入るのは体力使うわ」

「ほんまそれ。脂も全部落ちた感じで逆にかさかさしてるで」

「眠い~……」


 却ってぐったりしているのに笑いながら、薬草イン魔力回復ゼリーを取り出して置いておく。


「ふへへ~、俺にはこいつが無いとよぉ~……――え、マジ!? やっばー!?」

「どうしたん?」

「まじで一口囓っただけで全回復な感じ。こんなやばいもん食べてたんや」

「あー、温泉の余韻に浸りたかったら、食べん方がええかな?」

「うわ、何て酷いもん食わすねん!?」


 そんな事を言い合っている中で、一人スマホを持って這い寄ってくる同級生が居た。


「なぁ、これ、あれやろ? つまり、これに出てるんはやっぱ風牙なんか?」


 見せてきたスマホの画面には、ダンジョン管理部で公開されている講習ビデオのサイトページが。

 俺は少し考えて、下手に推測されて話が大きくなるよりは、ここで口止めしておくのがまだいいだろうと結論を出した。


「まぁ、クラスメートにはばれるわな。でも、他には絶対に言わんといてや。それ、本気でばれたら殺し屋か人攫いが来てもおかしくないやばいねたやから」

「え!?」

「まぁ色々有るねんわ。俺は今日最後の温泉に入ってくるけど、呉々も宜しゅうな」


 これからビデオを視るだろうクラスメートを前に、どうにも居心地が悪いので風呂場へと避難した。

 ちょっと頭がぼんやりしている。俺も温泉疲れと――それ以外にも色々と考えないといけない事が有るのは分かっているけれど、この疲れには魔力回復ゼリーを使いたくは無かった。

 いや、本当はもう答えは出ているのだ。俺にそれを伝える意気地が無い、それだけだろう。


 ゆっくり浸かって、歯も磨いて戻って来た時には、居なかった仲間も帰って来ていて、何人かがスマホを開いて講習ビデオを回し見ていた。


「なぁ坂鳥。これ見たら、お前って実は滅茶苦茶稼いでる?」

「今はな。夏休み前にはそこそこやったけど、直前にノウハウ言うてるんがカチリと噛み合ったみたいに理解出来る様になって、そこで大きく変わったな。でも、下手すると夏休みでゲームオーバーやったから、何とも言えんで」

「何やそのゲームオーバーって」

「予備役抜けるのには五階層のボス斃さなあかんやん。生産メインの探索者はその条件除外してくれ言うてもあかんくてな、戦闘力皆無やのにボス攻略せなあかんとなって思い付いたんが、ボスの手下が落とす強化の指輪をとことん強化する事やってん。それでボスの間に夏休みの間の三十日間ずっと籠もって、それで強化出来るだけ強化した指輪の力でやっとや。まぁ途中で絶対これは正規の方法や無いとは思ってたけど意地みたいなもんで最後までその方法取っただけやから、もっと早く切り上げようと思たら切り上げれたんかも知れんけど。後で謎を解いたらあっと言う間に討伐出来たんは、あれは初見では分からんわ」

「うわ、えぐい事しとるな。やばい状況やったんやん」

「ははは、山籠もりならぬボスの間籠もりで、今は何をやるにしても余裕やけどな。

 で、ボス斃して戻って来たら、そこでまたダンジョン管理部からポーション作れとか言われてな? いや、ボス突破したんやから今更ポーション作るより、もっと高くで買い取って貰えるもん作るやん? ――って所からポーションの作り方を教える事になってんやわ。後で知ったけれど、海外のポーションって、ダンジョンの中で大規模農場的に上位の薬草を刈り取って、『錬金』使いはダンジョンに入らんで薬草の提供受けて作るだけ、みたいな感じやったらしいわ。俺からしたら、態々失敗の副産物で得られる下級ポーションを有り難がってる様なもんや。世の中の常識がそれやったら、そら俺の講習ビデオが有り難がられる訳やで」

「……数年後の歴史の教科書に載りそうやな。こんな裏話知っても何にもならへんけど」

「……つーか、まさかと思うけれど、あの講習ビデオを真面目に観賞とかしてへんやろうな? それされたら流石に俺も頭抱えんねんけど。ビデオのリンクが並んでるのの背景に紛れて、解説ビデオのリンクが有るから探してみ?」


 それだけ言って、俺は寝る体制へと移行してしまう。

 山根さんと柳原さんが寄って来て、左右から布団の中に潜り込んで来る。


「いや、ちょっと待って。それはあかんやろ!?」

「夏休みで、会えなくなってたかも知れへんの?」

「うちら、また風牙君を助けられへんままやったかも知れへんの?」

「風牙君の家が大変な事になってるって、噂で聞いても何も出来へんかった」

「風牙君がぴりぴりしてて、声を掛けても言葉が届いてへん様に思えて――」

「何も出来へんかった。うちら風牙君の事が大好きやった筈やのに」


 かーくんとは違って、しっかり熱くて重い体を押し付けられて、涙が浸み込んでくるのまで感じてしまうと、もう撥ね除けるのは無理だ。

 寝る体勢で仰向けになっていたのを、両側から押さえ込まれている様な体勢だけれど、両腕で抱え込む様にしてその頭に掌を置く。


「うん、御免なぁ。俺も自分の事で一杯一杯で、心配されてた事にも気付けへんかってんわ。正直その気持ちは凄い嬉しいねんで? 青春とかそういうの切り捨てて来たつもりやったけど、寧ろど真ん中に居てんやなぁって初めて気付けたし。俺にもどうすればいいか分からんから、頭撫でる事くらいしか出来へんけどな」


 そうして頭を撫でていると、より一層抱き付く力が強くなって、涙もじわりと滲んでくる。押し殺した声をステレオで聞きながら、一時間近く撫で続けて、或る時を境にその体からふわりと力が抜ける。


「……寝た?」


 女子部屋から顔を覗かせて聞いてくるのに、撫でる手はそのまま頷きで答える。


「で、どっちを選ぶん?」

「…………」

「まさかどっちもとか言わへんよね」

「……違う意味で、どっちも、やなぁ」

「何でよ!」

「しーっ!

 ……仕方無(しゃーな)いやん。うちの家はもう直ぐ親の離婚が成立してな、母親は解放されたー、って伸び伸びしてる。そういうのを見てると俺かて慎重になるねんて。俺も吉野風牙になるしな。

 中学迄の俺のままで、それこそダンジョン探索者になんてなってへんかったら別やったかも知れへんけど、今の俺はどっちか言うたらまたぎの道に入ろうとしている様なもんやで?

 付き合うとしたら背中を任せられる様な、なんてヒロイックファンタジーの世界になってしまうから、どうしたって無理や」

「……ポーションとか物作りでやってくんと違うん?」

「妹が探索者になる前に、あんまり先へ進んでも面白無いから待ってるだけやな。昔はゲーマーやったし、攻略なんて為出したら嵌まり込むのは目に見えてるわ」

「……あんたと付き合う人は大変そうや」

「それは言えてる」

「二人を泣かせたあかんからな」

「もう遅い。びしょびしょや」


 この時の俺は、二人にまだ意識が有るとは思ってもいなかった。

 同じ部屋の中に、にやにやと怪しく笑う奴が居た事にも、全く気付いていなかった。


 次の日、クラスメートに囃されながら真っ赤な顔で起きた二人が、縮こまりながら女子部屋へと帰るのを見送って、朝から撤収の準備をする。

 布団を畳んで押し入れへと仕舞い、忘れ物が無いのを確認したら、纏め人が電話で管理人を呼んでいた。

 やって来た管理人に部屋を確認して貰ったら撤収だ。


 駅まで行って駅のロッカーに荷物を預けてから、美味しいと評判だった店で朝食を食べて、電車の時間までさとの湯で最後の温泉を堪能する。

 少し早めに上がって外の足湯を楽しんでいると、当然の如くして山根さんと柳原さんの二人に挟まれてしまう。

 でも、何も言うことは無い。時々頭を撫でるだけ。

 きっとスマホの中に撮り溜めている写真を見たら、妹は騒ぐだろうと思いつつも、またパチリ。スマホの写真がまた一枚増えた。



「で、兄さん、申し開きは有りますか」

「え~? お土産の駅弁でどうにかならへん? 浴衣も格好ええやろ?」

「旅行の写真見せてくれるんはええけど! なんで、これも、これも、女の人とべったりくっ付いてんねんな!」

「兄は実はもててたみたいやな」

「そんなん聞いたこと無い! 誰なんよこの人ら!」

「山根さんは、中学の頃の運動会で、雅が迷子になったんを連れてきてくれた人やで? 柳原さんが何か絡んだりしたかはちょっと分からへんわ」

「ふ~ん、――ふーちゃん振ってしもたんか」

「えっ!?」

「……まあなぁ。仕方無(しゃーな)いわ」

「何でそんな酷いことするんや!」

「も~、雅はどっちなんや。だから、仕方無(しゃーな)いねんて」

「そうね。仕方無いんよ」

「な、何でお母さんと兄さんは分かってる様に言うん!? 分かる様に言ってや!」

「だから、――」

「「――仕方無いの」」

「わ、分からへんやろー!!」


 家まで帰り着いた途端に、妹が騒がしくて、全く感傷に浸る暇も無い。

 しかし、この怒濤の展開もそろそろ落ち着いて、変化が有るとしても穏やかに訪れるのだろうと思っていた。

 そう思っていたのに――




 ――奴らは突然やって来たのだ。

 主人公に想いを寄せている人くらいいるやろ! とか「途中で」思ってしまったら、こんなんなってしまいました。ハーレム展開にはなりません。ノクタに番外編? ははははは……(無いです)。


 しかし、幻の様な一週間やった。ジャンル別日間ランキングで確認出来たので最高二十四位。週間でも三十位台に入ってた。PVが一週間線形に上がって、その次の週で線形に落ちた。

 こんな感じ。57→308→586→1025→1275→1655→1577→1220→859→698→423→246

 でも、ランキングに表示している間は、何日かご新規さんが百人単位で来ていたから、ランキング表示を死守しようとポイントくれくれ後書きが増えるのが理解出来てしまう。転落したらすっかり落ち着いてしまったよ。

 まぁ、まだ九話しか(w)上げてないし、ランキングに載ってても後回しって事も有るんだろうなぁ、と思いつつ、もう一作と並行して投稿続けていきますね♪


 また次回もお楽しみにして頂ければ♪

 ではでは~♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 国連で発表することを前提に翻訳するのなら、 国連の公用語であるスペイン語とアラビア語が入ってなくて、公用語ではないドイツ語が入っているのに違和感があります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ