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(13)神へと到る道

 前回、残り六話で完結かと言ったが間違いだ!

 まぁ、多分今回が数話分有るからやけど、次回が今章の終わりになりそう。

 でもって、完結にはせず、みゃーちゃんを主人公に据えたりして続けようかと思います。


 今回は掲示板回が難しかった~。

 JR奈良駅前のバス停車場をちょっと外れた旧駅舎の前、三条通に入る入り口の辺りで、一人の青年が二十人近い無法者の集団に取り囲まれていた。

 と言っても、奈良駅前だ。そういう事態にも中々危機感を持ち辛い空気が流れている。

 それでも中には「偉いこっちゃ! 警察呼ばんと!」と慌てている人も居るから、程無く警察官達がここに集まってくるだろう。

 それに何より、こんな白昼堂々と観光客も多い駅前で騒ぎを起こせば、この時代、力を手に入れた探索者によって早々に鎮圧されるのが落ちである。

 絡まれている筈の青年が落ち着き払っているのも相俟って、見ている者達は何処か日常から外れた演劇の舞台に迷い込んだ様な気持ちさえ抱いていた。


「おい、お前だよ、お前! 大人しく俺達の言う事を聞きな!」

「下手に抵抗すると痛い目に合うぜ!」

「分かったらさっさと来るんだよ!」


 奈良にあっては違和感しか無い標準語という名の何処かの方言で喋る男達に、ジャケットとジーパン姿の青年は怪訝そうに首を傾げる。


「お前に来いって言ってるんだよ!!」


 叫んだ男が青年の胸座を掴み上げると、それに合わせて初めて青年が動きを見せる。

 掴み上げてきた腕の肘を掴んで、そのまま挙手する様に上へと撥ね上げた。

 男の姿はその場から消えて、上方へと尾を引いて消えて行く悲鳴だけが降りてくる。


「む!? ……済まんな、私に話し掛けていたのか。

 思わず払い除けてしまったが、どちらにしても答えは否だ。知り合いでも無いのに恫喝してくる者には従わんよ。ナンパにしても下手過ぎる。それでは誰も付いて行きなぞするまいて」


 男達は数歩飛び退き、野次馬達は遙かな空の高みで飛ばされた男がキランと星になったのを見た。


「て、手前! 何者だっ!?」

「……それを知らずに誘ったのか」


 呆れた様に溢した青年が、徐に右手を横に伸ばしてから肘を曲げて掌を顔に当てた。

 其の手には何時の間にか銀の仮面が有り、吸い付く様に顔に装着されたのを見た野次馬達は戸惑いの声を上げる。

 銀の仮面を嵌めただけで、既に青年がどんな顔をしていたのかが分からなくなってしまったからだ。

 こっそりと録画していた人達は、巻き戻した動画を見て目を剥いた。どのシーンでも、顔がぼやけて分からない。

 更に言うならジャケットジーパン姿だった筈なのに、今の青年は明治大正の文豪を思わせる、ちょっと着崩した和装姿になっている。


「ぶ、文次の兄貴を何処へやったんだ!! あー!!」


 突っ込みが追い付かない状況にも拘わらず、声を張り上げた下っ端其の一っぽい男に寧ろ感心の視線が集まる。

 しかし、呆ける時は畳み掛けるべしとでも言う様に、状況は混迷を深めていく。


「何処へと言われても払い除けただけだ。そろそろ戻って来る頃合いだろう」


 そんな青年の言葉のままに、前触れ無く落ちてきた人影が、青年と無法者達の間に降り立った。

 払い除けられた男こと文次の兄貴だった。

 何故か鶏の着包みを着て白目を剝いていた。

 両手を振り上げて「コケー!」と鳴いた。


「あ、兄、貴……?」

「此奴は己が飛べない鳥だと思い知ったに違い無い。

 それよりも良いのか? お前達はこの私ことメイドの先生に敵対したのだぞ?

 ゴミを片付けるのはメイドの仕事。お前達はお掃除されてしまうが良い!!

 秘技! 四十八本メイドの術!!」


 メイドの先生との言葉に野次馬の何人かが反応する。

 それも気にせず、青年が言葉と共に放り投げたヘッドドレスが、空中で四十八個に分裂して、青年を中心とした円の上、無法者達の足元へと落ちた。

 するとそのヘッドドレスの影が人の形となって地面の下から湧き上がり、全身が姿を現したところで影は和装メイドの姿へと転じる。

 様々なタイプの和風美少女メイド達は、思い思いのポーズを取って「ヤー!!」と掛け声を上げた後に、両手に持つ(はた)きを無法者達へと連打した。

 一人の無法者に三から四人のメイド達。

 (はた)きで叩かれたところで何程の事かと思うのに、男達は機関銃で銃弾を浴びせられた戦争物映画の俳優の如く、軽く両手を広げた体勢で体を揺すりながら、絶叫を上げて倒れていく。

 全ての無法者達が倒れた次の瞬間、再びメイド達がポーズを決めて、成敗とでも言うかの様に「お掃除!!」と決め台詞を放った。


「待て、まだ黒幕が判明していない」


 そう言い放った青年が、ただ一人メイドのお掃除対象となっていなかった着包み文次の頭に手を掛けた。コキコキコキと文次の頭を傾けて調子を確認した後に、背後から両手をその頭に添えて「はぁー!!」と気合いを入れて何かを放つ。

 パチリと目を開けた文次の目が(まばゆ)く輝き、宙に四メートル近い巨人の立体映像を映し出した。

 白いトーガを纏い金色の帯を締めた、体は美女で顔は男臭いイタリアーノというか地中海沿岸っぽい男の顔である。

 その男女(おとこおんな)の立体映像が、焦った様子で着包み文次へと言葉を放つのだった。


「助けて! ブンジノ=アニキ。あなただけが頼りです!」


 そして辺りへさっと目を遣って、少し目を屈めて着包み文次の口へと何かを捻じ込んだ。

 そこで立体映像にノイズが走り、何度も同じ場面が再生される。


「助けて! ブンジノ=アニキ。あなただけが頼りです!」



 警察官達が辿り着いた時には、青年もメイドもその姿を消していた。

 恐怖に駆られた警察官が着包み文次の頭を叩くと、立体映像が姿を消して、着包み文次は「ピーピコピ」と電子音の様な鳴き声を上げたのだった。



 ~※~※~※~



「おお、お帰り風牙君。今回はまた大変やったなぁ」


 十二月も半ばの今日この頃、俺が我が家へと帰り着いた時、時刻は既に夜の八時を回っていた。

 犯人は現場に居ると睨んだ通り、離れた場所から観察していたイタリア顔の男を関西空港まで追い掛けて、やっと今帰って来たところだ。


「て言うか、無いわぁ~。――奈良駅前やで? ……いやいや、無い無い」

「気持ちは分かるが、他の何処やっても地元の人からしたら無いわと思うんやろうなぁ。しかしほんまに来るもんやな。風牙君の勘も侮れんわ」

「黒幕が現場に居て良かったねぇ」

「三太さんもお母さんも言うたったらええねんで? 滅茶苦茶やて」


 雅のその言葉を聞いて、三太さんと母が目を逸らした。


「いや、初めが肝心なんやで? 舐められん様にするには最初にガツンと行っとかな」

「そやかて滅茶苦茶やんか!」

「滅茶苦茶やからええんやんか。乗りで何でも出来ると思ってくれた方が手出しはされへんやん」

「兄さんは言い訳を言った」

「いや、違うから! 最初からそのつもりではったりを磨いててんやんか」


 最初に払い除けたのも、筋力の魔力で上空へ飛ばして、更に幻を被せた物だ。

 着包みは黒魔術。他も魔術を知っていれば出来そうだと思える事ばかりだろう。


 しかし、魔術を知らなければ未知の奇跡だ。おそらく技とすら思えないかも知れない。

 実際に今回の黒幕は関西空港まで一直線に逃げていったし、兎に角日本を離れたかったのか乗った便も韓国行きだった。


 実際には実力の有る探索者を相手にしたら通じなかった可能性も有るのだから、ちんぴらを使っての威力偵察をしてきた黒幕が俺を甘く見ていたという事なのだろうが。


「まぁ、関西人とは違うみたいやったから、あの乗りは分からんかったかも知れへんな」

「関西人でも突っ込みが間に合わへんし!」


 言いながらも妹は、何度も今日の出来事を母のスマホで繰り返し鑑賞している。

 撮っている人が何人も居た事には気付いていたが、それをもう見付けているとは流石である。


「しっかし、本当に狙われたりするとなると、俺らも気を付けんといかんなぁ」

「……ご面倒お掛けします」

「いやいや、別に構わんねんで? 心構えだけの問題や。それにちょっとは楽しみかも知れんしなぁ」

「何にしてもこの時期に来てくれて良かったねぇ。クリスマスとか年末年始に来られても敵わんわ」

「それは偉いこっちゃやん!?」



 そんな会話をしたそのままに、その後は何事も無く、三ヶ月後には卒業式の日を迎えることになった。


「い~ずみ~の~なが~れ~♪ き~よ~ら~か~に~♪」


 まぁ、俺の様な奴には卒業式なんて余り関係無いなんて、そんな事を言えば啜り泣いている仲間達に失礼だろうか。

 答辞は元生徒会長だったり、舞台でちょっとした出し物をするのはクラブ活動に打ち込んでいた奴らだったりと、何だか皆頑張ってたんだなとは思いはしても、共感は何処か遠い。

 いや、別に明日になったからと言って会えない訳では無いなんて思うのは、進学しない探索者組だからだろうか。

 ちょっとその辺りの感覚は良く分からない。


「や~まの~みど~りの~♪ か~げう~つし~♪」


 こうして校歌斉唱している間にも、殆ど号泣で顔を手で覆って全く歌えていないのが何人か居る。

 俺にとって高校は、つい最近になるまで心を置いてもいない場所で、夏休みが終わった頃から漸く高校生活を楽しめる様になった感じだから、哀しいと言うより勿体無かったという気持ちの方が強いかも知れない。

 でも、その分終わり近くになって三年分纏めた感じの濃い青春が来た感じだったから、俺としては悔いは無いのだが――


「じょ~な~んへ~いや~♪ み~おろ~して~♪」


 号泣している内の二人が山根さんと柳原さんで、時折物凄く力の籠もった眼差しを投げてくるのはどうしたらいいのだろうかなぁ、と、ちょっと現実逃避気味に考えていた。



 卒業式が終われば、本当にもう何も無い。卒業証書や卒業アルバム、他にも何やかんやと貰った冊子やパンフレットを紙袋に入れて、僅かに残っていた私物も鞄に詰めれば、もうこの高校へと来ることも無くなるだろう。

 遅ればせながらそんな感慨に身を任せていると、ダンジョンについての情報交換をしたり、槍ダンジョンである泉川ダンジョンを案内して貰ったりと、大分と仲良くなった後藤から声を掛けられた。


「よぉお、色男」


 気不味い思いをしながら掌の先をぴょこぴょこと動かして返事をする。それ以上は俺を押し倒した女子二人にしがみつかれていて動かせない。


「……別にええけど、記念撮影には遅れんなよ?」


 結局山根さんと柳原さんは、俺を挟んで真っ赤に泣き腫らした目で写真に写ることになったのだった。

 うん、女子二人にしがみつかれた状態で、その親御さんと挨拶する事の気不味い事と言ったら……。

 結局次の日平屋へと遊びに来た二人を前にして、俺は微妙な表情をしないではいられないのだった。



 実はその平屋周りの改造も順調に進んでいる。

 あの一帯の権利は既に俺達の物になっている。うん、元々は実茂座さんが準備していた事だけれど、平屋の仲間達全員が何かしら関わる事となったから、法人を立てる事にした。詳しい事は実茂座さんと母とで纏めていたけれど、俺は出資割合が高い分発言力も高い方らしい。


 で、皆で暮らす新家屋を建てる事にした。広くて天井も高い共用部分に繋がる様に、六つの4LDK。ダイニングとキッチンの間に壁は無いから、そこは大きな部屋として使う事も出来る。まぁ、キッチンはガスも通ってない簡易の物だ。お茶を入れたり朝食にパンを焼くくらいで、普段は今迄通り外の炊事場を使う事を考えている。

 元の平屋からは大分と広くなるけれど、二階建てにするのは少し怖くて、有っても頭を屈めないと入れない物置用の天井裏だ。その代わりに屋根の上には物干し場にも出来るバルコニーを設けている。個別の住居部分の出入り口は田畑の側にも設けているから、平屋の頃と使い勝手は変わらないだろう。外の炊事場や風呂場にトイレも新たに作る予定だから、単純に今迄の住まいをグレードアップさせた感じになる筈だ。


「でも、こっちからはちょっと畑が遠くならへん?」


 基礎固めをして漸く土台が出来上がったその建築予定地で、畑の方を見ながら妹が言う。


「言うても、一分も変わらんやん。それに田圃(たんぼ)はこっちの方が近いで?」


 去年の内に種籾を仕入れて、古い田圃の一面だけを田圃の底を割らない様に魔術で起こして、今年試しに水を入れてみた。元大家の大戸池さんも様子を見に来てくれて、実際に水が入ると感慨深いねと言っていた。

 まぁ、田圃の補修をするにも、耕すのにも、雑草を抜くのにも、スキルや魔術は大活躍するという事が分かったのが収穫だ。

 今年は誰も成功するとは思っていないけれど、ひょっとしたらもしかするかも知れないと俺は思う。


「でも、田圃に行くより畑の方が良く行くねんで?」


 妹は、新しい家から畑に向かっても、今迄と十数秒も変わらないのにそんな事を言う。

 そこには皆で体を寄せ合って頑張ってきた平屋での想い出が有るからと俺も知っていたから、妹の頭を抱きかかえて俺も言うのだった。


「新しい家でも想い出作っていけばええやんか。平屋も解体する訳や無いねんし、俺と雅の遊び部屋にしてもええねんから」

「ぶ~……兄さんはあの二人と新しい部屋で暮らし始める様な気がするわ」

「…………いや、今からそんな事言わんといて欲しいんやけど」


 妹のその言葉通り、新家屋の住居部分が六つ有るのは山根さんと柳原さんの影響が大きい。この二人が遊びに来る時は、ダンジョンに潜る以外では溜まった書類の事務処理をしたりと、普通に仕事を手伝ってくれている。何だかんだと手に入った大金やダンジョンの産物を活用しているから、自営業(さなが)らに書類仕事が結構有るのだ。

 妹曰く、外堀を埋められているとの事だが、青春初心者の俺としてはただ流れに身を任せるのみだ。抱き締めればいいのか、突き放せばいいのかも分からない。俺が二人をどう思ってるのかすら分からないままに、ただたじたじだ。


「俺の事ばっか言ってるけど、部屋の一つは雅用やで?」

「違う! 客間や! あれはお客さん用!!」

「客間は平屋を使うに決まってるやん。あれは雅用。

 あと一年使って魔術も覚えたら、高校入学する頃には最強クール美少女の出来上がりやな。イケメン共が群がってくるわ」

「そんなん湧いてこんでええ!!」


 妹は憤っているけれど、未来の事なんて誰にも分からない。仮令(たとえ)『分析』レベル百のアーツが【未来予測】だとしても。



 因みに、『分析』のカンストは母に先を越されてしまった。“『分析』の第一人者”の称号は母だけの物だ。因みに、どんな称号能力が有るのか聞いてみたら、苦笑いをして教えてくれなかった。何と無く、知っただけでも厄介事に成る様な気がして、それ以来確かめたりはしていない。

 ただ推測は出来る。母に言われて『分析』同士の通信とか出来無いかと俺でも色々試していたのだが、母が『分析』をカンストさせてから、お気軽に俺の『分析』の【記録】の中に、母作成のプログラムだとかの情報を放り込んでくる様になったからだ。きっと世界で唯一人、母だけが他者の『分析』の中身に手を出す事が出来る様になったのだろう。

 尤も魔術を駆使すれば同じ事が出来るのだろうが、一筋縄では行かないに違い無い。


 そんな母が良くない知らせを言い出したのは、卒業して二ヶ月も過ぎた五月も半ばの頃だった。


「お母さんが未来を予測した感じやと、そろそろ次が来る頃合いと違うかな?」


 母が調べた限りでは、俺が折角教えたポーションの作り方も、今の時点で物に出来ている者は限られているらしい。但しそれも俺が条件として出した様な、毎日錬金ダンジョンの中でポーション作りに勤しむというものでは無く、週に二三回のみというので有れば順当な結果だろう。

 作れる者には中級中位ポーションが作れる様になっているというのだから、俺の見積もりが甘いという訳では無さそうだ。

 実際時々しかダンジョンに潜っていない山根さんでも中級下位ポーションが作れる様になっているのだから。


 それでも潤沢なポーションが手に入る日本の追い上げには思う所が有るだろうから、怪しい動きを始める所も出てくるだろうというのが母の予測だ。

 同じ【未来予測】を持っている俺には其処迄予測が立てられない事を考えると、母にはどれだけの情報網が有るのだろうとは思うけれど、実に頼もしいばかりである。


 魔術を得て出来る事も多くはなったけれど、結局俺は皆に助けられて生きているのだ。



 ~※~※~※~



 その日、平屋を訪れようとしていた集団は、見るからに怪しかった。

 見た目はアジア系で、日本人と言われても違和感は無い。喋る言葉も日本語だ。

 しかし、関西人なら京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山と、それぞれの地域の違いまでは分からなくても、自分が暮らしている地域と同じか否かは何と無く分かるのと同じ様に、何処とは言えない僅かな差異が彼らに違和感を抱かせた。

 尤もそんな彼らが歩くのは、獣道と言っても差し支えが無い様な田舎道だ。故に、誰にもその違和感を指摘される事も無く、歩みを進める事となっている。


 そもそもそんな人が並んで歩く事も出来無い森の小径を、スーツを着た五人もの集団が歩いている事自体が怪しいと感じるだろう。森の小径を行くにはそれに似合った格好という物が有る。ビジネスマン然とした格好で山の中を彷徨(うろつ)く男達と、もしも突然出会ったならば、きっと悲鳴を上げて慄く事だろう。

 しかし、そんな事は彼ら自身にとっては些末な事だった。

 何故ならば、彼らには目撃者を残すつもりなど持ち合わせてはいなかったからである。


 事前に情報を得ていながらも、訝し気に目を細めてしまう様な寂れた道を一列になって進む男達。しかし、やがて遠目に人工物が見えてくると、そこで一旦足を止めた。


「……情報通りだな。油断はするな」


 無言で頷き、行動を再開するその眼には剣呑な輝きが秘められていた。

 彼らは諜報を主にする部隊では無く、実行部隊なのである。


 そんな彼らが数軒の平屋を囲む柵の前迄辿り着いた時、目の前の(くさむら)から、一匹の獣が現れた。


「くきゅふ~?」


 犬だ。首輪をしているからには、集落と言うのも烏滸がましいこのベースキャンプの飼い犬なのだろう。

 惚けた顔で首を傾げているが、人間よりも余程厄介なのが、この手の飼われている動物だ。実際に男達はこの犬の存在に気が付かなかった。敵に回せば対処のし辛い低い位置から翻弄し、吠え立てる声は男達の存在を住人達に(あば)くだろう。


 出来得る事なら此処で仕留めておきたいと思った男の思惑は、男がギミックで隠した銃を手に取る前に、犬が再び叢に隠れた事によって一旦外れる事となった。

 叢の中に居る事は明らかだが、気配の取れない犬である。万一外す事を考えれば、ここで撃つのは得策では無い。寧ろ静かにしているのなら構う事も無いだろう。


 そんな判断が働いて、何処か安堵する気持ちを抱いていると、犬が居るのとは反対側の繁みをカサカサと揺らす音がする。

 はっと振り返ると、繁みから首を出す犬が居た。

 犬は直ぐ様その頭を引っ込める。


「え!?」


 驚きの声を上げた時、今度は目の前の平屋の屋根から覗く犬顔。


「くあ?」

「ま、待て!?」


 屋根の上の犬も顔を引っ込め、その時男達の真ん中に樹上から雫がぽたりと落ちる。

 見上げた男の一人が息を飲んだのは、頭上に張り出した枝の上で、犬が一匹涎を垂らしながら昼寝をしていたからだ。

 同じく男の一人がプシュッと音を立てて銃弾を放つのに、犬が驚いて跳んで逃げる。

 消音器(サイレンサー)を装着した銃も用意はしているが、今撃ったのは麻酔銃だ。しかも基本的に吹き矢な麻酔銃の銃身を、切り詰めた短銃型なので、只でさえ十メートルそこそこの命中率が更に下がっている。

 下がった命中率は三連式にして補っているとは言え、素早く動く小さな標的に当てられる代物では無い。

 スーツ姿で油断させておいて、極至近距離からギミックを用いて袖口から手元に出し、不意討ちする為の物で銃撃は考えていない。

 しかし、消音器を着けていてもかなり大きな音が鳴る銃は使う訳には行かなかった。


「犬が、何匹も居るのか……?」

「厄介な!?」


 そんな事を言っている間にも、男達の一人の右肩へと犬が降り立ち、頭を乗り越えて左肩へと移っていく。

 本人は気が付いていない。ぎょっとした後ろの男が麻酔銃を撃ち放ち、その男の足元をまた犬が駆け抜けていった。

 どれも同じ犬に見える。だが同じ犬な筈が無い。


 絶えず視線を動かして、時折からかう様に現れる犬へと銃弾を放つ。三連装の麻酔銃が左右二丁の五人分。合わせて三十発の残弾が、瞬く間に消費されて行く。

 そうして目的を忘れて犬の対処に回ってしまったのには、焦りと恐怖が有ったのだろう。

 しかし、柵の内側、平屋の間から姿を現した老爺の姿を見た時に、男達は目的と現実を取り戻した。

 第一目標は標的の確保。それが敵わぬ時は殺害も仕方無し。目撃者は須く排除せよ。

 それが標的を確認する事も出来無いままに、目撃者だけを増やしてしまっている。


 愕然としたのも一瞬。不測の事態が起きた時には、凡ゆる手立てで痕跡を消して撤収するのが鉄則だ。

 男達は直ぐに頭を切り換えると、残っていた麻酔銃の残弾を牢屋に向かって撃ち放ち、続けて消音器付きの拳銃を懐から抜き放つつもりで、しかしその前に麻酔銃を手元から弾かれその衝撃に呻きを上げる。

 麻酔銃が吹き矢だからこそ分かったのは、老爺へと向かったその弾が、老爺に当たる前に弾かれ、倍する速さで男達の手に持つ麻酔銃へと打ち返されたという事だ。殆どの弾は老爺から外れていたにも拘わらず、その悉くが全て反撃に遭っていた。


「今、何かしたかのう?」


 悠然と佇む老爺は、男達の仕業を児戯と嗤う。今更ながらに老爺を見れば、その肩に軽々と担ぐのは大木の丸太だ。この老爺も普通では無い。

 痺れる手でも迷わず抜いた拳銃が照準器を用いずとも老爺へと狙いが定められ、連発する銃声が森のしじまを(おびや)かす。

 しかし結果は変わらず男達の手から拳銃は弾け飛び、大地を揺らして丸太を下ろした老爺の一睨みに敗北の文字が頭を()ぎる。

 どうした所で敵わない。勝てる筈が無い。それどころか撤退さえ叶う物だろうか。


「効かぬわ!!」


 老爺に大喝されて、男達の頭には逃げる事しか考えられない様になってしまった。


「撤収!! 撤収だ!!」


 最後まで母国語を使わなかったのは意地だろうか。

 男達はその場でさっと踵を返し、決死の表情で森の小径を疾走する。柵を開けて集落へ踏み込んでいなかった事、それが僅かに逃げるだけの余裕を作っていると希望を抱きながら。

 森の入り口に駐めていたバンに飛び込むとエンジンを掛けると同時にアクセルを踏み込む。一目散に逃げたいが、細い畦道は車を飛ばすのには適さない。


「う、うぁああああああ!!」


 叫び声にバックミラーへ視線を飛ばすと、森の梢から遥かに高く、何匹もの犬がこちらへ向かって飛び立つのを見てしまった。

 見なければ良かったと思いつつハンドルを握る男の額には、玉の様な汗と絶望が貼り付いていた。



 ~※~※~※~



「――という様な事が有ってのう――」


 と、春蔵爺さんはゆったり落ち着いた様子でお茶を啜っているけれど、聞いている俺達は少し平静では居られなかった。


「いや、そんな呑気な話や無いで。ほんま無事で良かったわ」


 それも俺の事情に巻き込んだと有っては、ここを出る事も考えてしまう程だ。

 ただ、それをしても意味が無い事は分かっている。俺が引っ越したところで、この平屋の仲間達が俺への人質になると知れてしまっているのなら、却って俺が居ない事で無防備にもなってしまうだろう。

 出来るだけ厄介事に成らない様に立ち回ったつもりだったが、現実は巻き込んでしまっている事に、項垂れる事しか出来無い。


「――そこで悪漢共が銃を取りだしての蜂の巣連射じゃ! しかし何や知らんが儂が全部撥ね返したみたいでのう、奴らの手からは拳銃が弾き飛ばされておったんじゃ。そこで儂は『効かぬわ!!』と大音声で一喝じゃ!」

「おお~!!」

「まぁ本当の所は儂には何が起きとるか分からんかったからのう。風牙君が何かをやっておったんじゃろうな。そうよな? ――む、何を呆けておるんじゃ? ……ぬぅ、しっかりせんか!」


 春蔵爺さんに一喝されて、はっと意識を取り戻す。

 しかし頭は上げられなかった。


「――結局皆を巻き込んでしもたなぁ思たらなぁ……」


 慚愧に堪えないとはこの事だろうか。

 思わず口から零れたのは、言う必要の無い言葉だとは分かっていた。それでも詫びの言葉を口にしなかったのはけじめだろうか。もしも皆の気持ちを蔑ろにするそんな言葉を口にしていたとしたら、皆の怒りも振り切れてしまっていたのかも知れない。


「ええ加減にしいや! ふーちゃん一人で何でも出来ると思たら大間違いやで」

「そやな。それはちょっと戴けんわ」


 口に出していない現状でも、こんなお叱りを受けてしまっているのだから。


「三太さんの言う通り、もう家族みたいなもんなんやから、遠慮せんでそこは甘えて欲しいなぁ」

「そうやで、俺らがここに住み始めた時分はちょっと捻くれてしまってた時でな。今やったらダンジョンで楽しみながら稼げとるし、その気になれば好きな所に住めるんや。それでも此処に住んでるんは全て織り込み済みで此処に居るんやから気にする事なんて有らへん」

「僕はちょっと怖いと思うけど、それ以上にわくわくもしてるから、踏ん張り所なんやろうなぁ」

「うちも怖いは怖いけど、兄さんが何とかしてくれるんやろ?」


 ちょっと涙が出そうだった。

 でも、肝心の春蔵爺さんの言葉が聞けてないと、春蔵爺さんへと目を向ける。すると春蔵爺さんは一つ頷いて、()()みと語り始めるのだった。


「うむ。儂が此処で暮らし始めたのは、まだダンジョンなんて知られておらん頃よ。連れ合いも居らん独り暮らしで面白いと思える事も既に無く、政治も腐りきっとったから未来にも暗雲が垂れ込めとった。現代で隠遁暮らしなんぞ出来るもんでは無いが、その隠遁暮らしをしたくてここに暮らし始めた仕様も無い(じじい)じゃよ。

 しかし時代は変わった。呪いという外圧頼りなんが情け無いが、政治にも自浄作用が働き出した。今はまだ混乱の直中に思えるが、未来は明るくなったと儂は思う。

 三太君らや九重君(実茂座)が来た時には心配もしたがの。雅ちゃんや風牙君が来てからは孫が出来た様な気分じゃったわ。

 それに最近は年甲斐も無くダンジョンにも潜ったが……。うむ、これはそれこそ誘われねば入りはせんかったろうが、正直に言えば何故入ろうとせんかったのか不思議なくらい楽しんでしまったわ。

 面白くも無い世の中と思っていたが、風牙君達が来てから随分と面白くなった。恨み言なんぞ一つも溢れやせんわい。

 まぁ、ただ惜しむらくは――」


 そこで春蔵爺さんは言葉を溜めた。

 そして実茂座さんへと視線を向けて、拗ねる様に言ったのだった。


「ここに監視カメラの一つも仕掛けてなかった事かのう。風牙君はあれだけ派手にデビューしとるのに、儂の雄姿は観客の一人も居らんとは……。今から仕掛けてももう儂の晴れ舞台は巡って来んじゃろうし、全く以て惜しいのう……」


 緊張して体に入っていた力が少し抜ける。

 春蔵爺さんの様子から、その言葉通りに本当に気にもしていない事が感じられた。本当に有り難い事だった。

 だからこそ俺は、そんな皆を守る為に、出来得る限りの事を尽くさねばならないと思いを新たにしたのである。


 そんな絆を改めて確かめた場に、可愛らしい声が響く。


「ペル、見てた」


 ペルを指差して片言を口にした猫耳幼女は、今日のメイドさんの姿である。

 因みに、同じ食卓に座って、ご飯ももりもり食べている。此処に座っているのは、既に【ドッペル召喚】で喚び出していた嘗てのメイドさんとは全く違う存在だ。

 メイドさんを喚び出した『召喚』は、アビリティのレベルがカンストした時に覚える【幻想召喚】である。アビリティもスキルも、良く分からないまま使うよりも、自力で再現出来る程に理解して行使する方が成長が早い。それまでは下位のアーツである【ドッペル召喚】でメイドさんを喚び出していたが、実体が元から無いメイドさんに関しては実質【幻想召喚】をしたのと限りなく近い状態だった。それに加えて俺自身が『召喚』を理解しようと努めながら、ほぼ召喚出来る間はずっとメイドさんを召喚し続けていたのだから、それまでの伸び悩みが嘘の様に『召喚』のレベルが上がっていったのだ。

 念願のカンストもつい最近の事で、この状態になって漸く母に言われて取ってきていた『分析』のスキルオーブをメイドさんに使って貰う事が出来る様になった。【ドッペル召喚】の状態では使って貰おうにも使えなかったのだ。

 戦闘系スキル十個での『武芸百般』も手に入れて、漸くメイドさんも万全になったのである。


 因みに、メイドさんが物を食べられる様になったのは、『召喚』レベル九十で覚えた【概念召喚】の御蔭だ。結局【幻想召喚】で喚び出しても、普通に物を食べる事は出来無かったから、【概念召喚】で“取り込んだ物を魔力に変換する魔法”を召喚して、それを【解析】して魔術で再現出来る様にした上で、メイドさんに覚えて貰ったのだ。因みにかーくんは俺とスキルを共有しているみたいだから、俺を介して同じ魔法を使えるみたいだが、どうやら自力でも再現したいらしく特訓中だ。

 どちらもご飯が食べられるのを嬉しそうにしているけれど、どうにも味覚が弱いのか、美味しいのが嬉しいと言う様には見えない。次の課題はその辺りの五感だろうか。


「うむ、ペルは見てくれていたな! 有り難うよ!」


 春蔵爺さんがペルに礼を言うのを見て、どこか不満気な雰囲気を醸し出す辺り、感情を表現する事については出来てきている様に思えるから、やっぱり感覚の点で分かり合えないのを解消するのが良さそうだ。


「メイちゃん、何かご不満? ――ん、ペルが見てたって……ああ、そういう事ね♪」


 メイドさんの事は、皆メイちゃんと呼ぶ様になっている。そうやって皆に可愛がられているけれど、時々菊美さん辺りが良いお茶を手に入れたと言い出すと、俺に再召還を強請(ねだ)ってきて、猫耳少女メイドの澄まし顔で皆にお茶を入れてくれたりする。

 完全に、平屋の皆の可愛いメイドさんになっていた。

 でも、【幻想召還】される様になってからは、それだけでは無いらしい。

 何度も俺に『召還』されていたからか、自力で自分自身を召還――と言うよりも、顕現出来る様になったメイドさんは、時折ダンジョンに現れてはポーションを作って、必要としている人に使ってあげたりしているらしい。それも国内海外問わずにだ。

 その結果メイドさんには、以前にも増して物凄く熱い思いが込められた祈りが届けられていて、それが次に顕現する時に必要な力にも成っているらしい。


 尤も、メイドさん自身が行った事の有る場所か、メイドさんが話題に出た場所しか行けないみたいだけれど。

 そんな事を始めて一週間にもならないらしいのに、既にネットの掲示板はお祭り状態だ。一時期はメイドさんを俺に奪われたと、冥土教徒達の血涙入り交じる訴えが掲示板には流れていたのに、たった一週間の出来事で掌はくるっと返されて、丸で神を讃えるかの様な書き込みが冥土教徒とそれ以外の別なく溢れる様になってしまった。

 メイドさんは神! メイドさんの先生も神! そんな感じでちょっと怖くなる流れだ。


 ただ、潜在的な敵対勢力は減ったのだろう。元々組織の力という物は個人では対抗し得ないと考えていたからこそ、得体の知れない力を匂わせてまではったりを噛ましていたのだが、そこに俺自身は関わっていないにも拘わらず、俺に与するメイドさんの信者が出来上がったのだ。

 組織は怖い。その中でも宗教は尚怖い。

 今ならまだその勢力は大きくないと打って出る者達も居るかも知れないが、時間が経つ程に敵対するリスクばかりが増えるだろう。

 それは即ち、俺達の安全が或る程度確保されるという事だ。


 とは言え、メリットばかりとも言えないだろうから、状況の推移は注意深く見守らないといけないだろう。

 ――と、そんな事を考えている間に、母がメイドさんとペルを相手にした聞き取りを終えていた。


「――ふん――ふんふん――そっかー。成る程ね」


 何にしても、犬と猫幼女を相手に会話している光景はとてもシュールだ。


「ふーちゃん、色々と分かったよ! お母さん、次は絶対に襲撃を見逃さないから、大丈夫!」


 そんな母によると、メイドさんはメイドさんに関する情報を逐次受け取っている為に、メイドさんが関わる何かの計画があればその全ての情報を手に入れる事が出来るのだとか。何故ペルが春蔵爺さんの活躍を目撃していたというのが、そんな話題に摩り替わったのか分からないが、メイドさんに情報ピックアッププログラムを渡して、今度こそ迎撃出来る様に態勢を調えると息巻いている。


「それで、じゃじゃーん! これが春蔵さんの活躍シーンね♪」


 母の【模擬投影】で空中に映し出された映像では、拳銃を構えた男達に真っ向から立ち向かい、銃弾を撥ね返して『効かぬわ!!』と一喝する春蔵爺さんの姿が映っていた。


「う……ぁああ……、あかんわこれ、春蔵爺さんが指輪嵌めてなかったらと思うと背筋が凍るで!?」


 メイドさんにお掃除されたちんぴらの様に、銃弾を受けて倒れたのは春蔵爺さんになっていたに違い無い。


「いや、そこは考え方を変えて、風牙君の道具が有ったから無事で済んだと考えんとな」

「それにしても凄いねぇ。何がどうなってんのか分からへんけど」

「そう、それよ。儂もそれが知りたかったんじゃ」


 解説を求められたので説明する事にした。


「あー、『投擲』レベル八十の【返し射ち】がレベル百の【必中】状態で発動する様な魔法を『錬金』レベル九十の魔法刻印で刻んでるねん」


 もっと細かく言うと、かーくんが持っている『罠』レベル二十での【侵入感知】が反応したら、『罠』レベル三十の【罠】で『投擲』の【返し射ち】が発動する様にしている。実はここを『誘発』レベル六十の【発動誘導】や、『操作』レベル三十の【連動】に入れ替えてみても、不要な構成を削ってスキルでは無く魔術として再現していった結果は、殆ど同じ構成になった。まぁ、【侵入感知】した対象に【返し射ち】を掛けると考えるなら、【罠】を使うのが一番素直だ。素直で有る程反応するまでの遅れは生じないから、銃弾を想定するとどうしてもシビアになる。

 それでも足りないから色々と工夫はしているのだが、恐らく春蔵爺さんがダンジョンに潜る様になっていたから間に合った所も有るのだろう。


「春蔵爺さんが無事やったのは、多分ダンジョンでステータスが上がってたからやろな。装備品の効果は着けてる人に依るみたいやし。実茂座さんやったら駄目やったかも知れへんから、実茂座さんにもそれなりにダンジョンに潜って貰った方が安心やわ」

「駄目って……どうなるんかな?」

「飛来してきた物に【返し射ち】するのが間に合わんで、蜂の巣になったかも」

「ひえっ!?」

「ははは、まぁ実茂座君もダンジョンに潜ったらええわ。黄泉平坂に潜る様な気持ち悪さは有るかも知れんけど、それを言ったらダンジョンの外かて変わらへん。アビリティ持ちが生まれとるんがその証拠やろ」

「はぁ、ちょっと考えてみますわ」

「しかし成る程のう。言葉の響きからは投げ返した物じゃったか。無限流秘剣! とか叫んでみれば良かったかのう?」

「そのネタ、頂いてもええやろか?」

「ははは、これは奇遇や。風牙君も春蔵さんも忍者漫画好きやな?」

「おお! あの理屈は書いて有るけど、そんなん出来るかー! って感じの漫画やな。うちも何かすっごい記憶に残ってるわ」

「ええよええよ、好きにせぇ」


 そんな感じで始まりは背中に氷を突っ込まれたかの様な始まりだったお茶の席も、何とか和やかに終わろうとしていた時に、菊美さんが言うのだった。


「でも、春蔵さんは却って雰囲気出てる感じやったけど、風牙君のあれはちょっとどうやろか」

「え? 何の事?」

「変身した後のは別としても、講習ビデオの時もそうやし、この前の絡まれてた時のもなぁ?」

「あ! それうちにも分かるわ。ずず汚いと言うか見窄らしいと言うか」

「え!? 嘘や!?」

「いや、確かにそうやわ。しゃきっとしたシャツも買って有るのに、何で態々縒れた服を着るんやろ?」

「そやかてまだ着れるやんか!?」

「「「「それはあかんわ~」」」」


 いや、ちょっと待って!? それ、同じ事を格好いい人がしてたら、ちょい悪ルーズ着熟しが格好いいとか言うんと違う!? イケメンが着るから格好いい服なのであって、普通の男が着るなら皆同じと違うんか?


「「「「無いわぁ~」」」」


 待って待って! 男が男の服の事ばかり考えてても気持ちが悪いし! 妹とかに着せたい服なら色々出てくるけれど、自分の服見ても仕方無いし! と言うより、男子が考える格好いい物ってカブト虫とか巨大ロボットて相場は決まっているのに、方向性が全然違うのは何かおかしいと思わないんか!?


「これは、重傷やな。女子二人の努力が足りんねんわ」

「うん。ふーちゃんの服は一掃しよか!」

「ちょっと待って!? そんな殺生な!!」


 何故か笑い声が起きて、その場は御開きになったのだった。

 うん。勿体無いお化けが出てくるよ?



 ~※~※~※~



 そして六月。

 大阪の街中を無防備に歩くのは、言わずと知れた我等が吉野風牙であった。

 既に彼に思いを寄せる女二人の協力も有って、全身ばっちりとコーディネイトされている。本人は恐らく二年後も同じ服を着て「よれよれの服を着るな」と怒られたならば、「」これでいいって言うたやんか」と返すだろう事請け合いだが、今この時点を以てすれば確かに決まっていると誰もが言うだろう姿だった。


 そんな彼が大阪の地上を歩いているのは、何も当ても無く彷徨っている訳では無い。メイドさん情報を母が分析し、今日この大阪でダンジョン管理部主催の下に行われるオークションが、襲撃者達の設定した狩り場となっている事を突き止めていたからだ。

 それを全て承知した上で、平屋に届いていた招待状を手に、態々大阪くんだりまでやって来たのだった。


 大坂だというのに地下にも潜らず地上を行くのも計算ずく。人員の配置や想定されているルートまでがこちらの手の内とは流石の相手も想像の埒外だろうし、個体識別が可能になった魔術で今も母から逐次更新されていくメイドさん情報が流されているとも思うまい。

 そんな状況下でロックンロールカフェの分厚いハンバーガーを昼食に食べ、そのまま御堂筋を北上している時に、襲撃は開始されたのである。



 最初は、ただ擦れ違うだけに見えた一組の男女だった。

 何事も無く擦れ違おうとした瞬間に、その男女は派手に空中を回転しながら舞って地面へと叩き付けられる。

 見る人が見れば分かっただろう。吉野風牙を見てない様に見えた男の手に握られていたのが、ワイヤースタンガンだという事は。

 何をしたとも見えないのに、男女を投げ飛ばした吉野風牙は、(おもむろ)に銀の仮面を身に付ける。

 そして大音声で呼ばわった。


「バレているぞ!!」


 その次の瞬間、吉野風牙を中心とした半径二十メートルの範囲内に居た、二十数人の男女の背後に黒いメイドドレスを着たメイド達が音も無く現れ、「お掃除!!」と意識を刈り取ってはまたその姿を消した。

 何も知らない一般人は目を剥いたが、彼らの仲間には分かっただろう。その悉くが襲撃者達の構成員である事は、当事者にしか分からない事実だ。

 そして、万全の態勢を調えたつもりで高みの見物をしていた襲撃者の仲間は、肝を冷やしている事だろう。

 何故ならば、吉野風牙が口にした通り、それは全てがばれているという事なのだから。


 本来ならば、そこで直ぐ様撤退していれば彼らの傷も浅く済んだのかも知れない。

 しかし彼らはそれを選択出来なかった。一つはこの作戦が複数の国家による合同作戦だったこと。そしてもう一つは彼らの構成員達が救助可能な手も無く標的の足元に倒れ伏していた事だ。

 全くの想定外に、彼らは予め定めていた継続戦闘を選択するしか無かったのだ。


 各国に広がる“呪い”に対しては、既に海外に十年の長が有った。何が出来て何が出来ないのか。

 端的に言うならば、国家の安全保障の為に、最小限度の犠牲に留めて遂行される作戦ならば、呪いから見逃される事が多いと分かっていたのである。


 しかしそれも秘密裏に遂行出来ている間だけの事。事が明るみに出た暁には、朝日に消える朝靄の様に、関係者達の命運も消え失せてしまうだろう。

 だからこそ彼らは、逃げる事も出来ず立ち向かうしか無くなってしまったのだ。

 仮令(たとえ)相手が想定を遥かに超えた異常だったとしても。


「くっ、ファイヤー!!」


 半径二十メートルの外側に居た構成員達が銃を取り出すのを見て、居合わせた一般人達は漸く事態を認識して、転げる様に逃げ惑う。

 その中でも、歩道脇のプランターの陰に転がり込んで、スマホのカメラだけを覗かせて、至近から一部始終を撮っていた者の動画が、後に大人気となる。


 この時点で既に服装が変わっていた。ウェスタンハットを被った緑色のカウボーイ姿だ。

 集中砲火に対して広口のポーション瓶を構えては、キンキンキンと銃弾を弾き返していた。


「お前は何処の緑の勇者やねん! ていうか、口でキンキン言うなや!! 銃撃と全然タイミング合ってへんやんか!」


「こらー!! 大回転斬りまで決めるな!! せめて剣やろ! 瓶で弾くなんてマニアックな!!」


「待て! 待て! 今、無限流秘剣とか言わんかったか!? それは手裏剣術やろうが!! 大先生に謝れ!!」


 どうやらプランターの後ろに転がり込んだ配信者も、忍者漫画好きらしかった。

 しかし、その場に居た襲撃者が結局銃弾を弾き返されて膝を折った時、彼らの奥の手が文字通り火を噴いたのである。


 それは五百メートルは離れたビルの屋上からの長距離狙撃だった。

 勿論それは全てお見通しだったのだが、観衆達にはそれこそ「無限流秘剣!」と叫び決め台詞を言おうとしていた謎のヒーローが、突如虹色の球体に包まれた様に見えただろう。その球体は吉野風牙をその内に納めたまま、瞬間移動する素早さで、無意味に宙を数カ所移動して、そしてまた元の場所へと移動する。

 虹色の球体が弾けてそこに姿を現したのは、股関節を苛める様に右足を曲げ左足を伸ばし深く腰を落とした状態で、にゃッと両腕を構えたポーズを決める、メタリックなカウボーイ姿の男だった。

 呆然とそれを眺める観衆達に、渋い声のナレーションが降りてくる。


『解説しよう! 世を忍ぶメイドの先生は、命の危険に晒されたその瞬間、僅かコンマ零五秒でセンセイ・ザ・ティーチャーへと変身する事が可能なのだ!!』


「待って!! 何処の宇宙刑事やと言うか、そのポーズはぱるぱんさーやろがとか、コンマ零五秒なんて過ぎとるやろがとか、命の危険って偉い遅刻やとか、うぁあああーー!! 突っ込みが追い付かへん!!」


 実はこの時、吉野風牙は突っ込みに悶える配信者の声を聞いて、じーんと感動していたりする。

 しかし、敵対勢力に立ち直る隙を与えず手早く制圧する必要も有った吉野風牙は、涙乍らに状況を進めるのであった。


「センセイ攻撃!!」


 残像を残して、まだ意識の有る襲撃者達の間を一巡りした後に、吹き飛ぶ襲撃者達。


『解説しよう! センセイ攻撃とは攻撃を宣誓した後に先制する先生の攻撃なのだ!!』


 最早何が何だか。

 メイド通信で首魁が逃亡を図ろうとしているのを察知しての巻きである。

 それでも手順を踏もうとするだけの余裕が吉野風牙にはまだ残っている。


「黄泉路へ(いざな)う使者よ! 疾く来たりて薙ぎ払え!!」


 その喚び掛けに答えて、吉野風牙扮するメタリックカウボーイの隣に、幾つもの輝く円環と何かの出現を思わせるスパークが弾ける。

 そして姿を現したのは、妖精の羽の様に背後に四枚伸ばしたバーニアを噴射し、スタイリッシュロボット格闘ゲームにそのまま登場しそうな、宙に浮いたメカメイドだった。


「システム・オールグリーン。エネルギー充填百パーセント。センセイ、プリーズギブミーアンオーダー!」

「冥土に望むは滅相のみ! 滅相、滅相だ!」

「ロジャー。アイキャリーアウトジオーダー。メッソー! メッソー! メッソー!」


 楽しげにメカメイドがメッソーと叫ぶ度に、そのボディの各所に設けられたポッドから、数多の光点が排気煙を後に残して射出されていく。


「メッソメッソメッソッソー♪」


 大量の光点が打ち上げられた後に、軌道を標的へと向けて絡み合う軌跡を宙に残す。


「メソメソメッソーメッソメソー♪」


 プランターの後ろに隠れる配信者は、気が抜ける楽しげなメカメイドの声に、これも何かのネタなのかと悩みつつも、大量に宙を飛び交う光点を見て「リアル板野サーカスや」と感動していた。

 しかし、それも実際に光点が降り注ぐまで。


「ふんぬぁああ~~~!!!!」


 既に倒れている襲撃者を含めて数多の標的に光点が降り注いだ時、流石の度胸の配信者も頭を抱えて蹲るしか無かったのだ。

 倒れている襲撃者に、這いずっていた襲撃者、偶々頭を抱えていたタイミングで、ビルの窓に飛び込む光点もばっちりと写っていた。

 意識が有る者は、轟く爆音に大気毎揺さ振られた気がしたものだが、実際にはそれらしい(・・・・・)音を響かせているだけで、光点は窓硝子を割る事も、道路を穿つ事もせず、只襲撃者の意識を刈り取り、そして有る一つの処置をするだけの物だったのである。


「掃討、完了シマシタ!」

「総統では無い。先生だ!

 しかしまだだ。肝心の奴らが残っている」

「エッ!?」

「見るがいい! 我が奥義を!

 センセイするはジャッジメントぉおお!!」


 全身に力を漲らせて叫び上げた吉野風牙の周りを取り囲む様に、丸い奇妙な紋様が幾つも現れる。魔法陣にも見えないが、何と言われても困る図案。何と無く薬草を模式図としたならばこんな形になるのかもと思える様な、そんな紋様が凡ゆる方面へと向いて展開されていた。


「センセイ・サンダー!!!!」


 大きく振り被ったスパークを纏う右腕が正面の紋様に振り下ろされると、全ての紋様がバチバチと放電しながら目を灼かんばかりに眩く輝いた。

 そして放電は収まり、その頃には紋様も消え去っている。

 見ている者には何が起こったのか分からない、ちょっと置いて行かれた様な展開だ。


『解説しよう! センセイ・サンダーとは、既に敬称である“先生”に更に“さん”を付けた二重敬称で、誤りとされている!』


 思い出したかの様に割り込んできた解説も、そうじゃ無いとの思いが募る。

 しかしそこを説明する気は無いのか、総スルーだ。


「センセイ……センセイヘ向ケラレテイタ敵意ガ……敵対勢力ガ沈黙シマシタワ!? モシヤ、今ノデ?」

「ふむ。悪党を懲らしめるには、その根元を叩かねばな。では、撤収するぞ!」

「ハイ! センセイ!」


 そこで二人は胸元をポンと叩いてキュルピンと電子音をさせた後に、「転送」と一言。

 吉野風牙とメカメイドの足元から光の柱が立ち(のぼ)り、メカメイドの姿がその場から消えた。

 吉野風牙は残されたままである。


 訝し気にしながらも姿勢を正した吉野風牙が、もう一度キュルピンと胸元を叩いて「転送!」と叫ぶ。

 光の柱は立ち上るが、吉野風牙は変わらずに其処に居るのだった。


 この状況を見守っていたのは、襲撃者達が全員気を失っている今となっては、プランターの後ろに今も隠れる配信者の様な巻き込まれた一般人か、その配信者のストリーム(ライブ)配信を偶々見付けて見守っている視聴者達だけとなっていた。

 生で見ている人も配信を見ている人も、その殆どが何が起きているのか分かっていなかった。極一部が、TNGがどうとか、セカンドチャンスがどうとか、仲間内でしか分からないキーワードで認識を深め合っている状況だった。

 つまり、良く分からないながらも人知れず社会の裏側で悪党共と戦いを繰り広げていたヒーローが居たのだと、そしてそのヒーローに何かトラブルが起きてしまっているのだとはらはらしている人達と、次はどんなネタが飛び出すのだろうとわくわくしている人達が居たのである。


「何をしている、転送だ!」


 そんな彼らが見守る中で、再びキュルピンと胸を叩いてからそう叫んだ吉野風牙は、しかしやはりその場に取り残されたまま。

 コメント欄には謎のメタリックカウボーイを心底心配するコメントと、来た来た来たと予定調和を楽しむ者と、心配するコメントに肩を震わせている様な言葉が並ぶ。


 その吉野風牙なメタリックカウボーイがする狼狽えた様な仕草は、何度も練習した物なのだろうか。銀の仮面を被っていてさえ、動揺を押し殺せていない様に見えるその有り様は、迫真の演技と言って偽りは無い。

 そんな状態で二拍待って――

 これ以上無い絶妙のタイミングで吉野風牙の周り三方に光の柱が立ち上り、三人の、全く同じ姿のメタリックカウボーイが現れる。

 現れたメタリックカウボーイ達は、吉野風牙なメタリックカウボーイを捕まえて、吉野風牙と同じ声でキュルピンと「転送」の言葉を発すると、今度こそ全ての影がその場から消え失せるのだった。


 そのままならば静寂が支配しただろうその場だったが、緊迫の時間が過ぎ去った事を察して到頭耐えられなくなったのか、プランターの後ろに隠れていた配信者の笑い声が木霊する。


「ぶはっ! ぐひひ、ひぃ~、お、お前は何処のウィリアム=ライカーやねん!!」


 この配信者、やけに造詣が深い。殆どのネタに反応して突っ込みを入れているだけに、ネタ元を知らない人にもその突っ込みがヒントとなって、調べれば何なのかが理解出来る様になっていた。それ故に、その後の吉野風牙の配信においてもこの配信者の見方が手本とされる様になってしまうのだが、吉野風牙自身にとってそれは不本意に違い無い。

 いや、これは関西の笑いでは無いと、こんなパロってごり押しするのは只の悪乗りだと、もっと()とか空気感を大切にしないと関西人の笑いにはならないと身悶える事だろう。

 ただし、それが成り立つのは相手もその間や空気感を大事にしてくれるのが前提である。そんな物を気にしない誘拐犯や殺し屋を相手にしていては、関西人の笑いが成り立たないのも仕方が無い事だった。


 それは兎も角、プランターの後ろから立ち上がった配信者は、状況を写しているスマホを片手に、現場の直中へと足を踏み出した。


「しかし、メッソーって何や? 滅相も無い? 宗教用語やろか」


 ぶつぶつ言いながら歩く配信者の足は、倒れていた襲撃者の元へ。


「――ぅおっ!? ……何で倒れてた奴んとこまでミサイル飛ぶんやと思たら、これか。えげつないな」


 配信者がスマホのカメラと共に見下ろした襲撃者には、その体一面に(わた)って彼らの素性が隈無く記されていた。

 出身地や所属している組織、今迄に着いていた任務、今回の任務に到った経緯。

 特殊任務に駆り出される諜報員なんていうのは、何処かしらに紛れ込んでいるのが暗黙の了解で、その素性を曝く事は自国がその相手に送り込んでいる諜報員をも報復に晒される事を招くから、まず行われる事の無い暴挙であると多くの作品では語られている。

 そんな言説が他国に諜報員を送り込めてそうにも思えない日本で通じるのかは分からないが、何れにしてもとんでも無い禁じ手なのには間違い無く、嘘か本当か世界の事件の裏側まで読み取れそうなスクープの嵐に、配信者の足取りも浮き足立っていた。

 騒乱の現場だったにも拘わらず、今は遠くに騒めきが有るだけの静まり返った空間になっていたのもいけなかった。死を感じる程の大事件を生き延びた反動で気が大きくなっていたのも理由になるかも知れない。

 とまれ、貪る様に次から次へと襲撃者達の姿を写していた配信者は、スマホの画面に一匹の猫が映り込んだのを見て、ふと我に返る。

 頭にレースの飾りを乗せた黒猫は、配信者を暫く見上げていたかと思うと、襲撃者へ飛び乗ってその顔や体や何かを確認し始めた。


「……猫? 飼い猫か? おいおい危ないで、そんな所に居ったら」


 言いつつ何気なく辺りを見回していると、何故か矢鱈に猫の姿が目に付いた。

 黒レースの飾りを頭に付けた白猫や、何故かエプロンを身に着けた三毛猫。でも一番多いのは目の前に居るのと同じ、白レースの飾りを頭に付けた黒猫だろう。

 その猫たちが、何か異国の匂いでもするのか倒れた襲撃者達にそれぞれ群がっている。


「おいおい、またミサイル飛んで来たら危ないで? いや、ミサイルかどうかは知らんけど……ミサイル………メッソー(Missile)か!!」


 そうだと言うかの様に、猫が「にゃー」と鳴いた。



 ~※~※~※~



【歓迎降臨】メイドさん出没情報スレ☆726【極楽冥土】



001:☆RINNE☆(jp)0613Fri 10:26(jst)

 出没スレ☆726!! 随分伸びたな。

 以下定型だ。


 メイドさんについての基礎知識 つ[リンク]

 メイドさんについて語るスレ  つ[リンク]

 メイドさん関連リンク集    つ[リンク]

 初めの奇跡          つ[動画]

 二度目の奇跡         つ[動画]

 ※本スレはメイドさんの出没情報であり、その他の話題は適切なスレへ移動する事。

  機械翻訳は実験運用中。表記の時間は各国時間に変換される事に注意。

  少女メイドを発見した者は速やかに☆RINNE☆へ連絡の事。


002:愛でる会員No.26(jp)0613Fri 10:32(jst)

 会長スレ立て乙 ミ☆


003:愛でる会員No.667(jp)0613Fri 10:33(jst)

 会長乙


004:愛でる会員No.127(jp)0613Fri 10:46(jst)

 会長ぶれないw

 注意事項3つめwww


005:とあるロッテンマイヤード(jp)0613Fri 11:03(jst)

 定型に無断追加w

 流石初期メンバーは欲望に忠実だねぇ。


006:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 11:13(jst)

 キモイ


007:メメメ総帥(jp)0613Fri 11:26(jst)

 幼気なメイド。強気なメイド。パッキンメイドに、ニグロメイド。貴男の理想のメイドがここにはきっと待っている♪ 化粧も香りも絶対領域も、全てが貴男の望みのままに♪ メイドメイドメイドはご主人様のご帰宅を、今日もお待ちしています♪


008:愛でる会員No.26(jp)0613Fri 11:27(jst)

 ブロッコリー!!


009:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 11:27(jst)

 ブロッコリー!!


010:町田パパ(jp)0613Fri 11:29(jst)

 ブロッコリー!


011:メメメ総帥(jp)0613Fri 11:34(jst)

 さあ、貴男も色取り取りのメイドさんへ、貴男のカリフラワーを食べさせてあげましょう♪


012:とあるクラシカル至上主義者(jp)0613Fri 11:37(jst)

 ブロ……くっ!?


013:とあるATA会員(jp)0613Fri 11:40(jst)

 カリ・フラ・ワーwwwww


014:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 11:42(jst)

 メイドを目指す幼気な少女が見てたらどうするつもり(`へ´#)。


015:☆RINNE☆(jp)0613Fri 11:44(jst)

 その少女は私が保護しよう。


016:愛でる会員No.127(jp)0613Fri 11:47(jst)

 会長ぉ~~~www


017:マスク仮面(jp)0613Fri 11:54(jst)

 なら此処は俺も。

 つ[画像]

 うちの新人だ。


018:とあるATA会員(jp)0613Fri 11:54(jst)

 ごくり。


019:とあるロッテンマイヤード(jp)0613Fri 11:55(jst)

 ごくり。


020:とあるATA会員(jp)0613Fri 11:56(jst)

 ゴクリ!


021:とあるクラシカル至上主義者(jp)0613Fri 11:56(jst)

 ゴラム!


022:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 12:06(jst)

 愛しいしと!


023:とあるホピメイド推し(us)0613Fri 12:17(jst)

 こちらネバダアスクワリダンジョンだ。

 凄く熱いブロンドメイドを二十六階層で確認。


024:愛でる会員No.667(jp)0613Fri 12:17(jst)

 偽者だな


025:とあるATA会員No.26(jp)0613Fri 12:18(jst)

 偽者だ。


026:メメメ総帥(jp)0613Fri 12:18(jst)

 残念、偽者でした。


027:マスク仮面(jp)0613Fri 12:19(jst)

 騙されたね。ご愁傷様。


028:とあるホピメイド推し(us)0613Fri 12:21(jst)

 神が罰する!

 私が出会ったメイドは本物だ! 毒を受けて私が動けないでいた所に、メイドが現れてデトックスポーションを私にくれたのだ! 私はメイドを捕獲して結婚を申し込もうとしたが、痺れてしまった。


029:メメメ総帥(jp)0613Fri 12:23(jst)

 Coolでは無いな。


030:☆RINNE☆(jp)0613Fri 12:27(jst)

 そのメイドさんは金髪美少女メイドかね?


031:とあるホピメイド推し(us)0613Fri 12:28(jst)

 ふわふわのブロンドで弾けそうなtitsの美女だ!


032:☆RINNE☆(jp)0613Fri 12:30(jst)

 何だ、年増か。


033:愛でる会員No.127(jp)0613Fri 12:35(jst)

 会長ぉ~w

 でも、分かる。あんな物は脂肪の塊なのですよ!


034:愛でる会員No.26(jp)0613Fri 12:42(jst)

 そんな会長にこれを……

 つ[画像]


035:☆RINNE☆(jp)0613Fri 12:44(jst)

 ふぉおおおお!!

 これは何処のお店なのかね!?


036:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 12:48(jst)

 通報!! 通報よ!!


037:愛でる会員No.26(jp)0613Fri 12:50(jst)

 ふはははは、甘い! お店の許可は取ってあるわ!!

 北九州は個人経営のレストラン、シャイニングみなもとの看板娘、ゆかりちゃん8才だ!!

 因みにゆかりちゃんがお手伝いしているのは激レア!!!!

「今日はパパのお手伝いをしているのよ?」

 とうと過ぎ!!!!


038:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 12:56(jst)

 ホピ推しはまだ居るのか?

 痺れたって、スタンガンか?


039:とあるホピメイド推し(us)0613Fri 13:06(jst)

 いや、私がメイドに抱き付いたら電撃が走った。その後メイドの姿が唐突に消えた。私が出会ったのは本物の神のメイドだ。


040:☆RINNE☆(jp)0613Fri 13:11(jst)

 まず結婚を申し込むのはメイド主義者としては正しいと認めよう。

 さて、私も飛行機の手配をせねば。


041:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 13:13(jst)

 キモイ!!!!

 そんなんだからあなた達の前にはメイドさんが来ないのよ!!

 女子連合の中には一緒に採取したりも含めて、軽く二十回近い遭遇報告が有るわ!!


042:☆RINNE☆(jp)0613Fri 13:16(jst)

 な、んだ、と……!?


043:里見ウォーレン(jp)0613Fri 13:17(jst)

<全メイドスレ緊急>

 つ[ストリーミング]


044:とあるクラシカル至上主義者(jp)0613Fri 13:17(jst)

 あれ? 代表?


045:メメメ総帥(jp)0613Fri 13:18(jst)

 里見ウォーレンがリンクだけ貼っていくのも珍しいな。


046:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 13:19(jst)

 クラシカル代表はまだ真面だけれどメイド至上主義者に変わりは無いのよね。


047:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 13:23(jst)

 あれ? もしも~し?


049:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 13:25(jst)

 あれ? 誰も居ない?


050:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 13:32(jst)

 緊急?

 ……見てくるか。


051:とある創作メイド団員(jp)0613Fri 13:35(jst)

 とぉー! 今日の足跡!!

 ふむふむ、ストリーミングとな?


052:☆RINNE☆(jp)0613Fri 13:36(jst)

 ぷはぁー!!

 27秒右から三番目!!


053:愛でる会員No.667(jp)0613Fri 13:40(jst)

 復帰!! めちゃやばい!!

 ていうか会長早過ぎ!!


054:とある創作メイド団員(jp)0613Fri 13:42(jst)

 え!? 何なに!? 何が有ったの!?!?


055:☆RINNE☆(jp)0613Fri 13:43(jst)

 見れば分かる!

 最先端メイドの祭典だ!!


056:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 13:45(jst)

 ちょっと手と声が震えるんだけど、

 最後の猫もメイド猫!?


057:とある創作メイド団員(jp)0613Fri 13:45(jst)

 滅茶苦茶気になる!?

 私も見てくる!


058:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 13:52(jst)

 俺は中央にいた青いメイド服。


059:町田パパ(jp)0613Fri 13:53(jst)

 白猫黒カチューシャ♪

 というよりも、これは新たな派閥の予感が……


060:真メイド同盟副長(jp)0613Fri 13:55(jst)

 動物枠は別腹よ!


061:メメメ総帥(jp)0613Fri 13:57(jst)

 先生に望んだメイドを呼び出し可能疑惑発生。


062:☆RINNE☆(jp)0613Fri 14:00(jst)

 うむ、先生だからな!


063:とあるロッテンマイヤード(jp)0613Fri 14:07(jst)

 ノリだからな!


064:とあるホピメイド推し(us)0613Fri 14:13(jst)

 誰か、私に動画の翻訳と解説を頼めないだろうか。


065:☆RINNE☆(jp)0613Fri 14:14(jst)

 待て。それでは先生に理想の少女メイドを依頼すれば!

 こんな過疎板では情報が入らん! 私は語るスレに移動するぞ!!


066:とあるクラシカル至上主義者(jp)0613Fri 14:16(jst)

 翻訳と解説は里見ウォーレンが交渉しているだろうね。メイドさんについて語るスレなら既にどちらもUPされているかも知れないよ?


067:愛でる会員No.26(jp)0613Fri 14:16(jst)

 まぁ、目撃情報無ければ基本ROMってるよな。

 それで会長はどちらの板に?


068:☆RINNE☆(jp)0613Fri 14:17(jst)

 当然先生について語るスレだ! メイド板はカオスだからな!


069:とあるホピメイド推し(us)0613Fri 14:18(jst)

 オー! 情報有り難うございます! 私も早速行ってみる事にします!


070:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 14:22(jst)

 機械翻訳勢って元がスラング混じりでも物凄く礼儀正しくなるのが草


071:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 14:27(jst)

 >070

 それな!


072:とある創作メイド団員(jp)0613Fri 14:30(jst)

 メカメイド! キュイーン♪♪


073:とある一般人メイド愛好者(jp)0613Fri 14:57(jst)

 めっそめっそめっそっそーwww


   ・

   ・

   ・

   


 ~※~※~※~



 俺は、妹が捲るノートパソコンの画面を後ろから見ながら、ほっと小さく溜め息を吐いた。


「……悪い方には転がってないみたいやな」


 ノートパソコンは、母が本格的にパソコンを使い始める様になってから、俺と妹の使う分として手に入れた物だ。

 前迄スマホは母の物だけだったから、スマホ経由でネットに繋げられるのも一台だけだったけれど、今は俺のスマホも有るしスマホ一台で繋げられる数も増えているらしいから、新しいノートパソコンを買ったのだ。


「まぁ、兄さんが誰も怪我をさせへんで無傷で制圧したからちゃうか? 誰か怪我したり死んでたりしたら大炎上かも知れへんわ」

「そこはいっちゃん気を付けたからなぁ……」

「そうやね。普通の人はそういうのに敏感やわ」


 隣でパソコンを弄っている母も同意している。

 色々と前準備だけは重ねに重ねた大作戦で――皆には悪いけれどかなり楽しかった。


「あ、何か先生板に集まり始めた」

「それは、まぁ、今回メイちゃんはほぼ召喚獣やったしなぁ」


 そのメイちゃんも、妹の横からノートパソコンの画面を覗き込んでいる。かーくんも一緒だ。


「配信者の人が偶々居てて良かったなぁ。私らでやってたらこんなに旨く行ったか分からんよ?」

「ええ配信者や。ちゃんと突っ込み入れてくれてはる」

「有名な人らしいで? SNS? も大騒ぎになってるし」

「あ! 雅、ちょっと頁移らんといて、戻ってや。先生板が気になるやんか」


 そう文句を言うと、ばっと顔を(いか)らせた妹が振り向いて、棘の有る声を突き付けてくる。


「そんなら自分で見たらええやんか!!」

「言わんといてや。今は操作出来へんねんて」

「見たら分かるわ!! あほー!!!!」


 見たら分かると言われた通り、俺の両腕は女子二人に押さえ込まれている。

 色々と手伝って貰っていたのも有って、結局諸々を打ち明けて巻き込んで仕舞っているから、どうにも俺の立場が弱い。

 今も俺が帰ってきてから、こうやってしがみつかれてしまって、顔も上げてくれない状況だ。


「よし。お母さんの作業は終了。後は立ち上げたサイトに春蔵さんのも合わせて上げるだけやわ。これで何とかなったらええな。

 でも、ふーちゃん、心配したんは二人だけとちゃうよ? 自分自身の分身も『召還』出来る様に成ったんやったら、分身に任せてくれたら安心やのに」

「いや、ドッペルって一瞬の判断やと鈍るし、自分で行かんと安心出来へんって言うたやん。ドッペルやと多分ライフル弾は防げへんし、今頃拙い事になってたと思うで?」

「スナイパーに狙われてるって分かってんのに、行く兄さんがおかしい!!」

「槍ダンジョンの下層やと、超電磁カタパルトで射出されたみたいな槍が飛んでくるらしいで? それと較べたら玩具みたいなもんや。安全マージンは取ってるねんて」

「それと心配するのは別ですぅ。という事で、お母さんもふーちゃんにくっ付きー!」

「ちょ!?」

「ほら、みゃーちゃんもおいで?」

「お、おいでって正面しか空いてないし!?」

「特等席やんか。()よおいで?」

「う、う~~――お、おに、兄さんはうちの兄さんやねんからな!!」


 後ろから母に抱き付かれて、腿の上には妹が座ってきて、本格的に動けない。

 しかし母からはメイドさん情報も含めて怪しい動きは沈黙していると聞いているし、体を張った甲斐は有るだろう。

 これからの生活がどう移り変わっていくのかは分からないまでも、のんびりゆったり自分の生きたい様に生きる、そんなスローライフも可能かも知れない。


 取り敢えずは私法人“平屋連合”の始動に取り掛かる事にしようか。

 そう思って、俺はじんわりと口元を緩めたのだった。



 ~※~※~※~



 さて、メイドさんことメイちゃんである。

 メイちゃんは怪しい動きは沈黙していると吉野家の面々には伝えていたが、それは少し真実では無い。


『極東に発生した特異点の確保はどうなっている?』

『は! 既に特殊部隊の選定は終わり、後は潜入させるだけです!』

『ふん、黄色い猿には過ぎた力だ。精々我々の役に立って貰おうでは無いか。冷たい檻の中で、死ぬまでな!』

『お掃除は必要でしょうか?』

『――……な、何故此処にメイドが!?!?』

『『『『『お掃除ですわ~♪ らーららーのらー♪』』』』』


 吉野風牙が襲撃者達が倒れた後にした事は、九重実茂座の案そのままに、商標登録した吉野風牙のマークを介して、それを視聴していた黒幕の本拠地に直接打撃を与えたのだ。

 『召還』レベル三十のアーツ【召喚知覚】で周囲の状況を掴んでから雷撃を散蒔いているから、無関係な者にまで手は出していない。しかし、彼らの本拠地では突然の爆発事故に大騒ぎになっている事だろう。


 誰も殺しはしていないその所業はでっかい釘を刺す為の物だったが、メイちゃんはそれをまた違う形で受け止めた。

 これまでのメイドさんなら、メイドに関する情報を受け取るだけで関わる事は出来無かった。

 メイちゃんになって、吉野美野へとそのメイド情報を渡す事が出来る様になっても、それ以上の事には思いが到らないでいた。

 ダンジョンでポーションを作って配るのは、既にメイドさんへ期待されていた事だから、それをする事には疑問が無かった。

 しかし、吉野風牙が為した事が、そのメイちゃんの認識に罅を入れたのだ。

 【顕現】出来る様になったメイちゃんなら、もっとメイちゃん自身がやりたい事、吉野家の助けになる事が色々と出来るのでは無いかと。

 吉野風牙が望む穏やかな暮らしを、メイちゃんが支える事が出来るのでは無いのかと。


『お掃除は必要ですか?』

『う……い、いや。今のは冗談に決まっているだろう? メイドの先生に手を出す事など有り得ぬよ?』

『まぁ、それは良かったですわ。でも、お掃除が必要になりましたら、勝手にお掃除させて貰いますわね♪』


 個にして全、全にして個、時空を超えて心を伝えるかは分からないが、王の名を冠した人造の神の様に、想いを共有したメイドさん達は世界中で【顕現】してその猛威を揮った。


『お掃除致しましょう♪』


 そう。“怪しい動きは沈黙している”のでは無い。“怪しい動きは沈黙させた”のだ。


 そして世界は理解する。

 メイドさんには抵抗すら叶わないのだと。

 メイドさんに慕われるメイドの先生に手を出す事は、自らの破滅を示すのだと。

 触れてはいけない(アンタッチャブルな)事柄なのだと。

 それは即ち神の如き存在であり、言い換えればメイドさんは神であり、メイドの先生もまた神だった。


 そうして世界の裏側に思い知らされたその認識は、じわじわと世界の表側へも侵食していく事となるのである。



 その想いこそが、吉野風牙を神の如き存在へ押し上げる力とも知らないで。

 うーん、次回で二章終わったら、ネット小説大賞応募タグ入れよっかな~。

 最近ちょっとイレギュラーなお仕事が入って来て更新儘ならないけど。

 という事で、次回も冒険者になろう×3ではなく、こっちの更新になりそうです。


 次回も楽しみにして頂ければ幸いです。

 ではでは~♪

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