(11)メイドの先生
明けましておめでとうございます♪
今年もよろしくお願い致します♪
ザッと音さえ立てて、並み居る冥土教徒達が姿勢を正す。
そして一斉に深く膝を折った。
(いや、其処のミニスカメイド! それは間違うてる! ミニでカーテシーするのに裾を持ち上げたりせんやろ! それは只のパンツ見せや!!)
突っ込み待ちのメイドが多数居た事で、俺は辛うじて正気を取り戻した。
そして関西人が正気を取り戻すという事は、呆けと突っ込みの精神を取り戻すという事でも有る。
何が起こっているのか全く分からないが、視界を埋め尽くす執事やメイドに傅かれる状況というのは、この上無く美味しいのでは無いだろうか。
「楽にし給え」
自然な感じで口にしていた言葉は、渋めの声色で待機場所へと響く。
遠くから「彼奴ねたに走りよった!?」との囁きが聞こえてくるが、彼らでも同じ事をするだろう。
三脚に設置された何台ものカメラ。隅から向けられるスマホのカメラ。
日本中の――いや、今や全世界に広がりつつ有る冥土教徒達への――或いはそんな枠組みさえ超えた凡ゆるお茶の間へと配信されるだろう場面でこそ、呆けなければならないという強迫観念は関西人を形作るものとなっている。
再びザッと姿勢を正した冥土教徒達の最前列には、いい歳したナイスミドルなおっさんが、紳士然とした姿を見せ付けるという体を張ったねたを披露してくれている。
相手の呆けを拾わずスルーするのは関西人にとっては手痛い仕打ちだが、それがねたと分かっていて呆けを重ねるのは或る意味洗練された様式美だ。この場合突っ込み役は観衆達。きっと大騒ぎして楽しんでくれるに違い無い。
「私は未だ状況を掴めていないのだが、誰ぞ説明してくれるのだろうね?」
幸いな事に、改札を潜る時には額当て付きの帽子を前に傾けて深く被り、帽子に組み込まれた二眼ゴーグル越しに見ている状況だったから、顔はまだバレていない筈だ。
俺への挨拶が「ご安全に」だけでは無く「良い風が吹きます様に」的な物が追加されてしまったが、俺はその状況を正直結構楽しんでいた。
そんな俺の気持ちに応えたのか、執事の一人が一歩前へと進み出る。
「クラシカルメイド至上主義代表、里見ウォーレン」
濃い! 行き成り濃い! そのウォーレンは何処から出て来たのか!?
しかし次から次へと代表達は前へ進み出てきて止まらない。
「ATA代表、丸尾隆」
「少女メイドを愛でる会代表、凛音悟」
「メイドメイドメイド代表、エロ河童五条」
「ロッテンマイヤード代表、夕暮れロビン」
「はじめてのおつかい代表、町田パパ」
「裏メイドセーラースク水代表、マスク仮面」
・・・
・・
・
更に十程団体が続いたが、痛い性癖や嗜好が名前にまで現れていて列挙するのも辛いものが有る。
そしてまさかの女性陣。
「真メイド同盟ビクトリア代表、桐崎雪華ですわ」
「ご奉仕メイド団体お帰りなさいませ代表、桃井ペチカだにゃん☆」
「創作メイド団代表、東橘美保」
☆の発音は? と言われそうだが、これは動きを含めて☆としか表せられない。きゅんと動いて、ぴっと首を傾げる、日常では有り得ない仕草を如何にも自然にやってのけた。
こんな場面で無ければ拍手を送りたい。
「ほほう。それだけの者共が雁首を揃えて何の用だ」
そう、彼らは自己紹介をしただけで、まだ理由も目的も何も口にはしていない。
しかし、その俺の問い掛けがトリガーとなったのか、彼らは一斉に右拳を胸に当てると、大音声で宣言した。
「「「「「我等の願いは唯一つ!! 我等のメイドさんにポーションの手解きを!!!!」」」」」
……もしかして、練習したのだろうか? 見事に動きの合った、素晴らしい挙動だった。
そして、彼らの言葉を聞いた俺は、その瞬間にそれまでの思い違いに気付かせられる。
何をしてくるのか分からない不気味な集団は、報復の為に来た訳でも無く、単に彼らの信じる“理想のメイドさん”にポーションというこの上無い癒し要素を追加して欲しいというものだった。
……うん? それはそれで難易度が高くないか?
少なくとも目の前にそのメイドさんが居なければ、ポーション作りを伝授する事も出来無い話だ。
「ふむ、成る程。話は分からぬでも無い。
確かに怪我をした時に、笑顔の素敵な優しいメイドさんに手当をされたなら、ぐっと来るものが有るだろう。
何事にも懸命で、健気に働くメイドの少女。うむ、その漫画のメイド少女に、完璧メイドの姉が居たとしたなら、そんなイメージだろうか」
恐らくイメージを統一する為だろう。カフェメイド主義者やエロメイド主義者までが手にしていた、十歳のメイド少女が頑張る漫画。ただ、ここでドジッ子を発揮されるのは面倒なので、少し軌道修正を掛けたのだ。
非常に危ないスキルだとは思っているが、かーくんの持っている『誘発』も重ねてみる。と言っても、アーツはまだ【関連把握】しか無いから、それで何かが出来る訳では無い。しかし何れは思考誘導等も出来そうに思えるから、『誘発』が放つ魔力の気配だけでも何かの誘導効果は有るのでは無いかと期待したのだ。
因みに、こういった付与されたスキルは鍵の様な物で、スキルが付与された品物を持っていればそのスキルを使う事が出来るが、スキルレベル自体は使っている本人に属しているらしい。『錬金』を覚えた妹と錬金術師の指輪を交換してみたが、入っている物自体は交換されなかった事から、一見道具固有の能力に見えてもそうでは無い事が明らかになっている。
錬金王の腕輪を持っている俺が錬金術師の指輪を使うと、指輪の容量を既に超過しているからか取り出し専用で入れる事が出来無いという事も分かった事の一つである。
まぁ、今は冥土教徒達の意思を統一する事に集中する事としよう。
「髪は肩より少し長めのブルネット。ストレートヘアだが柔らかくさらさらと指が通る感じだな。
目元は涼やかで何時も優しく微笑んでいる感じだろうか。
メイド服は、ほら、その漫画の通りだろう。
きっと何でも一目見れば理解してしまえる優秀さを持っているのだろうね。
穏やかに何時も見守っている感じだが、一度暴漢が現れたりしたなら、凜として立ち向かい、背負い投げ一本で投げ飛ばしてしまう勇敢さも持っている。
そんな真面目で笑顔の素敵なメイドさんなのでは無いかな?」
それは不思議な光景だった。
感じ入った様に聞いていた冥土教徒達が、恍惚とした表情を浮かべて、ぴたりと息が合った復唱をしたのだ。
「「「「「真面目で!」」」」」
「「「「「笑顔の素敵な!」」」」」
「「「「「メイドさん!!」」」」」
次の瞬間、ダンジョン管理部の待機場所に光が弾けた。
そして光が収まった時には、俺の前には同年代の、一人の清楚なメイドさんが、にっこり微笑んで頭を下げていたのである。
「先生、今日はよろしくお願い致します」
それは世界にとって二回目の奇跡。冥土教の悲願。その瞬間呼吸の音さえもが止み、何人か感極まった人の倒れる音だけが続いていく。
「ふむ、君が私の教えを受けたいというメイドさんかな。しかしどうにも教え甲斐が無さそうだ。君はきっと一目見れば遣り方を理解してしまうだろうからね。
だとしても、前提となる条件は満たしておかなければならないだろう。
魔力を自由に扱えるならば態々スキルを覚えなくても良いのかも知れないが、私に学ぶというならばそれはスキルを用いたポーションの作り方になる。という事で、まずはスキルオーブを使えるか試してみるしか無いだろうね。使えるならば必要だったという事で、使えないなら不要だという事だろうさ。
――さ、ロンド君、一通りのスキルオーブを用意してはくれないかな。費用は冥土教へと付けてくれれば良いだろう」
「はっ!? えっ!? ――あ、はい!」
「さて、スキルオーブの用意が調うまでに、スキルについて整理しておこう。とは言っても君は私達とは在り方が違う。スキルについてまずは君が知っている事を教えてくれないか?」
仄かに光っている様なメイドさんに、問い掛けてみた。あわよくばスキルの真実でも分からないかと思ったものでは有るが、然う然う旨い話は無いらしい。
「え? スキルはスキルオーブで得られる不思議な力ですよね?」
このメイドさんの答えから、幾つかの推測が出来る。
スキルやスキルオーブを知っている事から、何らかの知識は持っているという事と、それが極一般的な内容に留まる事から、恐らくはメイドさんを望んだ人達の知識を元にしている事。
そしてそれ以上の言葉が出て来ないことから、アカシックレコードの様な世界の記憶は存在しないか、こういうメイドさんの様な存在でも閲覧出来ないという事だ。
別にダンジョンの謎がどうとか、神の存在がどうとかいう事に、首を突っ込むつもりは無いが、取り敢えず覚えておこうとは思ったのである。
「一般的にはその認識で間違い無いだろうが、恐らくスキルは教本かチュートリアルの様な物だな。遣り方を知っているのなら、スキルを持っていなくても同じ事が出来るのではと私は考えている。
その意味でメイドさんにスキルオーブを使って貰うのは、実の所リスクが大きい。想念が集まって喚び出されたメイドさんに別の知識を埋め込むというのは、メイドさんの存在を不安定にするのか安定させるのかも予測不可能だ」
「え? ……何を仰っているのでしょうか?」
その答えで、メイドさんは自分が喚び出された存在で有る事自体を認識していないのではと不安を覚えたが、息をするのも忘れているらしい冥土教徒達に答えが出せる筈も無ければ、カメラの回っている状況で狼狽える姿を見せるのも興醒めだ。
ここは一つ人柱になって貰って――と言うより、元より神に近い側なのだから柱柱? いや、神か何か分からなかった物が神になると考えればランクアップしたりして、等という、逃避気味の楽観的考えを弄していると、スキルオーブを取りに行っていた新乃木さんが戻って来る。
「風牙さん、申し訳有りません。『錬金』のスキルオーブはただ今品切れとなっていまして、在庫がございません。他のオーブなら揃っているのですけれど……」
「なら、俺の手持ちを提供しよう。ふふ、教え子に初めに渡す物としては似合いだろう。他は『採取』『採掘』……『料理』は残っているのか。不思議な事だな。『投擲』もメイドさんには似合いのスキルだな。良し、今はこの五つとしておこう。
メイドさん、使ってみてくれるかな?」
「はい! ――あ、凄い……スキルってこんな風に覚えるのですね♪」
呆気無く賭けに勝った俺は、少し微妙な気持ちを抱きながらも、メイドさんを引き連れてダンジョンの入り口へと向かう。
大海が割れる様に人波が引き、現れ出でた道をただ歩く。
そうは言っても、メイドさんへと掛けている声だけは、なるべく途切れさせない様にと気を付けている。
存在自体が曖昧なメイドさんは、気を逸らしただけでも消えてしまい兼ねないと思ったからだ。
「ポーションを作る材料となる物は、特に錬金ダンジョンに拘らずとも、多くのダンジョンで何処にでも普通に存在している。ただ、ここは錬金ダンジョンだ。ここなら三階層で全ての材料が簡単に揃うから、真っ直ぐ其処へ向かう事にしよう」
「スライムが出て来たね。生きているスライムは得物を溶かしてくるから注意が必要だ。勿論生き物の肉も溶かしに来るからね。――さ、このナイフを投げて仕留めてみよう」
「スライムはポーション作りには欠かせないのだよ。スライムの体液はポーションの材料その物だし、魔石は器になるのだから。三階層になると音も無く天井から急襲してくるがね、もしかして君なら分かるのでは無いかな?」
道中で話し掛けながら、見付けたスライムを斃す為に、試しにこっそり黒属性魔術で創り上げたナイフを渡すと、それを見たメイドさんは目を丸くして驚きを顕わにした。
もしかしてと思って試してみれば、どうやら物陰に居るスライムの気配も察知しているらしい。
何だか面白くなってきたと思いながら、辿り着いた薬草の群生地で、初級ポーションを作って見せたら、予想した通りに一回でメイドさんもポーション作成に成功する。
中級ポーションを作ってみても、同じく一回で同程度のポーションを作り上げてしまった。
「くっくっくっ、やはり教え甲斐が無いな。丸で既に知っていた事をお浚いする様に習得されては」
拍手をしながらも呆れた様にそう言うと、メイドさんが少し焦った様子を見せる。
「そ、そんな!? 先生がいらっしゃらなければ、私にポーションなんて!」
ショックを受けた感じでそんな事を言っているが、どうにもちぐはぐに感じられる。譬えるならば、ずっと昔に聞き齧った人工無脳という奴だろうか。
自然な遣り取りをしている様に見えても、実の所定められたパターンに従った反応を返しているだけで、そしてその定められた膨大なパターンは、喚び出した冥土教徒達が考える理想のメイドさんの取るべき反応なのでは無いかと思えてくる。
スキルオーブでスキルを覚えさせる事がリスクに成る事を理解出来ていなかったのも、教えた初級や中級ポーション以外は恐らく作る事は出来ないのだろうと思える所も、その考えを裏付けている様に思えてくる。
「でも、ポーションを作るには、お鍋を持ち歩かないといけないのですね」
この困った様な表情で考え込んでいる様に見えるのもそう。
ちょっと前の台詞との繋がりが悪い所。
可愛くおねだりするパターン?
それが駄目でもどういう流れにでも繋げられる。
そんな諸々の要素が詰まった、気付いて見れば違和感だらけの反応だ。
「これはリュックを用意しないといけませんね! 先生! 私頑張ります!」
直ぐに反応を返さず時間をおけば、ほら、前向きな反応が選択されて出力される。
(……思ってたのとちょっとちゃうけど、これはこれで難儀なやっちゃなぁ)
思わず苦笑が漏れてしまった。
偶像のアイドルは、想定以上の事には対応出来無い仕様らしい。
しかし、それならそれで、俺もメイドさんの存在を利用するのに、胸が痛まないで済む話だった。
「ふふふ、気合い充分なのは良い事だが、遣り方さえ合っていれば鍋など無くても構わないのだよ。例えばこんな風にね」
言葉と共に、黒と筋力の魔力を用いて俺は薬草の根元を遠隔で断ち、青の魔力で宙を踊らせながら俺の頭上へと引き寄せる。
同じくスライムの核を潰してやはり青の魔力でその体液を吸い上げる。
宙に集まる薬草達は、洗浄用に選り分けたスライムの体液で洗われて、ポーション用に玉と浮かせたスライムの体液と合流する直前に、各種魔力の合わせ技で微塵切り。
薬草混じりのスライムの体液を赤の魔力で熱しつつ、回転させて掻き混ぜる。
最後に属性魔力の疑似錬金で仕上げたら、緑に光る初級ポーションの出来上がり♪
魔石で作ったポットで受ければ完成だ。
大量の薬草が宙を飛び交い、空中でポーションへと変わっていくその光景は正に魔法。
当然の如く完成品の出来は落ちる、正しく趣味の世界。
しかしダンジョン管理部に納める品質としては問題無く、自力魔力の特訓としても非常に良い鍛錬となっていた。
「ざっとこんな物だな。鍋が無くてもどうにかなるものだよ」
そう言ってにやっと笑ってメイドさんへと目を向ける。
しかし、直ぐにでも「凄いですわ」と賞讃の声を上げそうなメイドさんは、不思議な事に表情の抜け落ちた顔でぽかんと俺を見上げていた。
「……凄い、ですわ。先生は本当に、凄い御方でしたのね!」
バグったかと思ったら、数拍遅れて再起動を果たしたメイドさん。
ぎこちない所も有ったが、直ぐに普通に見える様になっている。
溜めを作った様にも思えなかったのだが……。
おや? 何故かカメラを構えているのが常連の探索者達だ。
もしかしたら、折角の冥土教徒達は、動揺の余りカメラを忘れて付いてきたのかも知れない。
「メイドさんもやってみるかい?」
「え? ――はい!」
カメラで撮られていた事は、デモンストレーションとしても良かったかもと思いつつ、メイドさんの手際を見る。
ここまで完璧だったメイドさんは、寧ろ不思議な程の手際の悪さを見せて、宙を舞う薬草は数束、浮いたスライムの体液も僅かで、出来上がったポーションは恐らく初級中位がポーション瓶二本分。
でも、しっかりと成功させたメイドさんは、少なくとも自力の魔力を扱えるという事だ。それは世界中で俺しかまだ出来ていない筈の事だったから、今更ながらに再びメイドさんの仕様に疑念が湧いてくる。
とは言え、今はメイドさんを褒め称える時だろう。
「流石だな。まさか初見で成功させてしまうとは」
再現出来なかったという事は、メイドさんの技が単なる完璧な模倣では無いという事だろう。
或いは拙い所を見せるのも、冥土教的理想のメイドさんの姿なのかも知れないが、何と無く俺はメイドさん自身が本当に頑張ったのだと信じたくなったのだ。
「頑張りました!」
その通りに目を輝かせて主張するメイドさんから褒めて欲しいという気持ちが溢れていて、俺はヘッドドレスを避けてその頭をゆっくり撫でる。
目を細めるメイドさんは確かに可愛い。
人工無脳だと結論付けた筈だったのに、不思議とその言葉はメイドさん自身の気持ちが籠もっている様に思えたのである。
ただ、直ぐに元に戻った。
その次に見せた表情は、アニメやゲームのヒロインがしそうな、ちょっと拗ねた表情だった。
「でも、先生の様には出来ませんでした」
この辺りの判別に『分析』の【観察】が効いていたりして、俺の気の所為で無ければ良いのにと思いつつ、メイドさんの不満に答えを与えていく。
「同じ様に出来なかった事を気に病んでいるのかも知れないが、私としては先生らしい部分を見せる事が出来て、ほっとしている所だよ。
何、心配する事は無い。宙に飛ばすのが苦手ならば、薬草は普通に採取して、鍋で煮込む作業だけを宙に浮かせるのも有りだからね」
「あ……」
「兎に角これで世の中に出回っている初級と中級のポーションの作り方を教えられたかな?
まぁ、他についてはまた機会を改める事としよう。
メイドさんもご苦労様。君に良き風が吹く事を祈っているよ」
「はい! 先生、有り難うございました!」
深くお辞儀をした所で、メイドさんは光の粒となって姿を消したのである。
無言で片付けをして、薬草の群生地である広間を離れる。
後ろを冥土教徒達とカメラを持った探索者が付いて来る。
ダンジョンの入り口から待機場所に出て、買い取りカウンターへと足を運び、作ったポーションを買い取りに出す。
買い取りを待っている間に、待機場所に冥土教徒達が整列していた。
カメラを持った探索者は、にやにやしながら三脚を据え付けている。
買い取りのお金は口座に入れて貰う事として、俺は改札へと足を向ける。
半ば程まで歩いた所で、冥土教徒達へと振り向いた。
初めに話し掛けて来た里見ウォーレンへと確認の言葉を投げ掛ける。
「依頼はこれで完了と思って構わんな?」
「ははっ! 期待以上の素晴らしい御技、感服致しました! ――報酬については別途ご相談と致したく……」
何かびびらせてしまったらしい。
しかし、俺もここを素通りするつもりは無く、内心ここが気合いの正念場だと思っている。
「報酬? ――いや、既に充分な物を貰っているから構わんぞ?」
「は? それはどういう……」
「それよりも! あのっ! あの凄い術は一体っ!?」
食い気味に割り込んできたのは、女性陣の一人。
思わずにやけそうになる。
いや、にやけてもいいのか。ただ、ちょっと悪そうににやけなければ。
「ん? 何だ、本当に分かっていなかったのか。あれはノリだ」
「え?」
「の、ノリ?」
「くっくくく、メイドさんの先生ならば、あの程度出来て当然。お前達はそう考えはしなかったか?」
その言葉に、代表を務めるだけ有って頭の回りも早いのか、里見ウォーレンが目を見開く。
「メイドさんの先生なら物凄い力を持っていて当然。寧ろそんな力が無いならメイドさんの先生とは認めない。――そう、思っていなかったか?
集団幻想とは凄まじいものだな。現に私はメイドさんをもあっと驚かせる力を手に入れたぞ。
くっくっくっ、自ら一年でも研鑽し、自ら『錬金』の技を身に付けて、自ら教師役を自任して事に当たれば良かった物を。
皆の者、ご苦労だった。お前達が祈りの全てを捧げて喚び出したメイドさんの、特別で恐らくは唯一の存在で有る先生という立場をこの私に差し出してくれて。
ふふふ……完璧なメイドさんにポーションの先生以外に先生は不要だろうからね。くくっ、こんな身を切る様な報酬を差し出されてしまっては、更なる報酬なぞ貰える筈は有るまい?
くくくくく、くははははは、はーはっはっはっはっはっ!!!!」
そして俺は改札へと向かう。
背後には頭を抱えて蹲る者、ムンクの様に世界の嘆きから耳を塞ごうとする者、奇声を上げてあっちょんぶりける者達が、屍の様な姿を晒している。
もしかしたら冥土教徒達の不興を買って、面倒事を招く事も有るかも知れないが、海外の特殊部隊に目を付けられていたらというぞっとしない話が付き纏う現状、少しでも牽制効果が有ればいい。
「ノリノリだなぁ、ご安全に」
彼らの元を離れる直前、カメラを構えていた探索者が親指を立てて囁くのに、下手糞なウィンクを返して返事とした。
分かる奴らには、俺の態度もねたなのだと分かるだろう。
ちょいと悪くて容易ならざる感じに出来ていれば上出来。
そして披露した魔術は全てメイドさんの先生になったからという事にしておけば、俺への追及も免れるに違い無い。
人の目を気にせずとも魔術を使えるという事は、俺にとってはかなり気の休まる報酬なのである。
そんな事を考えながら、阿鼻叫喚の待機場所を後に、俺は改札を通り抜けたのだ。
そして【ドッペル召喚】の対象に、メイドさんが追加となっていた。
偶像のアイドル。胃痛がストマックエイク的な表現だなぁ? とセルフ突っ込み。
メイドさんは妄想から飛び出た高次元の存在的なただのかわいいにする予定が、何だか妙な雰囲気が?
書くと脳内プロットからずれてしまうのは何時もの事。ちょっと後の展開練り直さな。
それにしても帰省やめたら正月の感じがしないな。
次回、どっちが更新されるかは不明! っていうか、そろそろ巡回して他の先生の作品をPDF保存とかしたい! ということで、暫く更新中断かも?(1月中には更新予定だけどね!)
ではでは~♪ 今年も宜しく~♪




