第12話 『魔力の御し方』
「魔力の制御の仕方は、普通は生きているだけで勝手に身につくものよ。……流石に、自分の魔力は感じられるわよね?」
そんなこんなで、俺は森のど真ん中で魔力の制御講座を受けている。が、その前に俺には一つ聞きたいことがあった。
「なあ、まず『魔力』って何なんだ?」
「はあっ?」
元の世界には『魔力』とかそういう類のものは無かったのだ。いや、正しくは創作物等で概念としては存在していたが、物理的には存在していなかった。
そんなものがこの世界に来て一ヶ月の俺が理解できるはずがないだろう。
彼女は俺の質問に呆気に取られた顔をした後、深いため息をついた。そんなに変なこと言ったのだろうか。
「……呆れたわ。よくそんなので今まで生きてこれたわね」
嘲笑を通り越して呆れの表情で俺にそう言い放つ。
だが、俺は知らないことはちゃんと知らないと言うスタンスなのだ。知ったかぶりをしていても、何の得にもならない。
「そう言われてもなあ……俺はこの世界について詳しくないんだ」
「…………まあ、いいわ。『魔力』というものはね、簡単に言うと『奇跡の素』となるものよ。本来は空気中に漂っているそれを生物は身体に取り込んで、身体能力を上げたり、魔法を行使したりするのよ」
ふーん。まあ、大体イメージ通りだ。分かりやすく言うと酸素みたいなものだろうか?
動力の素、という意味では大体同じようなものに思える。
そう考えるとすんなりと理解できるな。
「……こんなことはどんな家庭でも学ぶことのはずだけど、あなたはどんな環境で育ってきたのかしら?」
「あ゛ぁん? ちゃんとした一般家庭だよ」
生まれを馬鹿にされたが、俺は元の世界でしっかりとした高等教育を受けさせてもらっていた。途中までだけど。だが、如何にもアホそうなこいつに侮られるとムカつく。
そういえば、何故か元の世界と家族に未練が無いな……。何でだろう。別に嫌いでも無かったはずなんだけど。
まあいいか、俺が血も涙もないやつってことなんだろう。
「別に、見栄を張らなくてもいいわよ。親は自分で選ぶことができないもの……」
そう言って彼女は儚げな表情になった。あ、絶対信じてないわ、こいつ。
「あーはいはい、信じて貰わなくても構いませんよーだ。で、その魔力とやらはどうやれば制御できるんだ?」
「……まずは、自分が保持している魔力を感じるところからよ。できるかしら?」
随分と舐められたものだ。そんなくらい容易い。恐らく。
あの時、この刀を持った時にごっそり持っていかれたものが魔力とか言っていたな。それなら、いける気がする。
よし。こういうのは精神統一から始めるのが筋だ。
「すぅーっ」
まずは深呼吸をする。自然の澄んでいる空気が肺を満たしていく。なんとも言えない、気持ちの良い開放感を味わう。
心を落ち着かせたところで、自分の中にある『魔力』に意識を向ける。
あの、吸われた時の感覚を思い出す。
――――これか?
身体の中にある血液みたいなもの、と表現した方が良いのだろうか。
自分の身体の中に流れているぼんやりとしたナニカを感じる。
一度その片鱗を感じられると、だんだん明瞭にソレを認識できるようになった。
元から感じられなかった異物が急に己の身体の中に出現したような変な感覚。だが、嫌いではない。
確かに、今俺の中にあるソレは絶え間なく体外に放出してしまっているようだ。これが『お漏らし』というやつなんだろう。
ならば、これを堰き止めれば良いのだろうか?
集中して漏れ出ているソレを蓋をして堰き止めるイメージをする。第三の手が生えたみたいな不思議な感覚だ。
――よし、上手くできた。
「……あれ? 止まったわ……」
彼女の反応を見るに、どうやら魔力の制御は成功したらしい。ふふ、やっぱり楽勝だな。
「言われた通り魔力を制御したぞ。ははっ、どうだ?」
「私、まだ何も教えてないわよ……。あなたって、本当に常識外れよね……」
彼女は呆れた顔でそう言うが、俺は至って一般人だ。俺は特別な人間だとか思い込むイタい時期もあったが、その時期は過ぎてちゃんと現実を見てきたつもりだ。
だが、今はそれが再燃しつつある。この世界からすると俺は異質な存在なのかもしれない。
もしかして、俺天才か!?
やっぱり選ばれし者!?
……危ない危ない。調子に乗って良いことなんて一つもない。自重、自重。
こいつみたいに調子に乗って奴隷落ちみたいなことにはなりたくないからな。
俺はただの一般人。そう、ただの一般人だ。
「……まあ、これなら魔物も逃げ出さないと思うわ」
「よしよし。そういうことなら、探索再開だな」
「はあ……仕方ないわね」
とりあえず魔物が逃げてしまうという問題は解消出来たようである。これで初依頼で逃げ帰るなんてことにはならなくて済んだ。
よし。待ってろよ、ゴブリン! 今から討伐しに行くからな!




